「11月のはさみ」
おかえりなさいを言う間もなく 痩せ細っていく男の背中 銀色のいなびかりが 目の端をずっと走りつづけている さいごに手をつないだのは いつだったろうね うまれるまえ だったかもしれない うまれるまえには もういちど 触れ合えるだろうか あなたに含まれていたころのように あなたがわたしのいちぶとなる日に この秋は まだ 嵐がこない 空を打ちくだく怒声が 聞こえない 街中に破片が降り注げば みんな からだじゅう 刻まれて ちいさな傷も おおきな傷も 見分けがつかなくなって そしたらわたしも 汚れた両手でほそい首を 抱きしめられるかもしれない なんて 言い訳だ けれど 痩せ細ったひとを 目の前にして わたしはまだ分断しつづけている 目の端に ぎんのひかり 冷たくのどを凍らせて もう 残像なのかも しれない のに
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某掲示板に投稿しそびれた詩。 結構気に入っています。 台風の夜にはふとんをかぶって泣いている、つまらない子どもでした。
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