2003年11月03日(月) |
おかえりなさいと言われたいのは |
秋晴れの次の日は、もう雨模様。 雨の日には街もどこか懐かしい匂いになる。 舗装された道路の脇の土が、整えられた並木が、生き物に還ろうとしている。 水の匂い。 変えるべき場所の匂い。 呼ばれてしまう。
体調を崩して入院していた父が、この連休の始まりに、3ヶ月ぶりに帰って来た。 まだ真夏だったのに、今はもう、冬もすぐそこだ。 入院中に母と多くの時間を共有したおかげで、新婚のように仲良くなっていた。 昨日出掛けに、母が、「お父さん、髪染めるのよう」とはしゃいで言ってきて、 帰宅したらやっぱり白髪のままだった。 うっすらと茶色が混じってはいるけれど。 「二つの液を混ぜなきゃいけないのに、片方が出てこなかった」のだそうで、 それじゃあ染まらないよ、と思う。 「まったくお母さんはだめなんだからなあ」と、父は呆れたのとがっかりしたのとでもどこかうれしいのとが配合された顔で、ぼやいている。 今日は二人で妹の学園祭にいってきたらしい。 父親は平日が休みだったので、娘の学校のイベントに行くのは本当に初めてだ。 私も誘われたけれど、なんとなく、行くと言えなかった。 かわりに、渋谷でやっていた文学フリマで、ポストカードのセットを4種類買った。 頼まれていた友人の分と2セットずつ。 切り絵の緩やかな曲線が、何か遠い昔わたしの一部だったものに優しく撫でられているようで、泣きそうになった。 木版画の色が優しかった。 愛を織り込まれた言葉と、そこに重ねられた絵の、力強い温かさにほっとした。
両親も、妹の学園祭を楽しめたようで、よかったと思う。 私はこのひとたちの幸せに、どうやって貢献できるだろうか。 3ヶ月、途切れ途切れにそんなことを考えていた。 考えるたびに、なんておこがましいことを考えているのだろうと思った。 貢献だなんて。 醜悪な思い込みだと。 それでも、何度でもそこに戻ってきてしまう。 そこへ戻らない自分がどこへ行き着くのかを知らないし、知らない先を見据える強さを、どうすれば手に入れられるのだろう。
うすぼんやりとした光を見つけては、そちらへふらふらと飛んでいきたくなる。 近づいたときにわかる眩しさは、まだ、似合わないと思う。
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