星降る鍵を探して
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2003年08月24日(日) |
星降る鍵を探して4-1-8 |
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何か物音を聞いた気がして目が覚めた。 今自分がどういう状態になっていたのかということを、思い出すのに少し時間がかかった。辺りは真っ暗だった。そしてやけに寒かった。体の表面はやけに熱いのに、骨だけが冷たく凍り付いてしまったような底冷えのする感触、目を覚ましたことを後悔するほどに寒い。 息をひとつ吸い込んで、ゆっくりと吐くうちに、少しずつ感覚が戻ってくる。 彼は固い壁に背中を預けて、もたれるようにして座り込んでいた。肋の辺りがひどくこわばっていた。息を吸うだけで肺に亀裂が走ってばらばらに砕け散りそうな痛みが走る。不用意に息を吸い込んでしまって、思わず喘ぐようにして息を止めた。これは本当に俺の体だろうか、と彼は思った。何かの間違いじゃないだろうか。 卓は痛みを何とか押し殺そうと努力しながら、こちこちにこわばった全身を何とか動かして座り直した。どっと音を立てて全身を血が巡り始め、その感触が体中の細かな痛みを呼び覚ましていく。自分の体が思い通りにならないことにぞっとする。風邪をひいて寝込んだときだって、こんなにひどい気分の悪さを感じたことはなかった気がする。 こんなに寒いのに、汗をかいていた。体中がべっとりとして気持ちが悪い。ぶうううううん、と低い何かの稼働音がしていて、空気はよどんでなま暖かい。なのにどうしてこんなに寒いのだろう。目が慣れる余地もないような真っ暗な中、卓は体を少しずつ動かしてみた。筋肉が次第にほぐれる内に、気分がわずかずつ良くなってくる。 ――前にも、こんなことがあったな。 妙な既視感を感じて、卓はあぐらをくんでため息をついた。あれはもう一月も前だ。江戸城の中で逃げ回っていたとき、つい眠り込んでしまって、真っ暗な中で目を覚ましたことがあった。あの時傍らには、マイキの柔らかく、暖かな存在が。 ――あれ? 「マイキ……?」 暗闇の中、卓は辺りを見回した。圧迫感すら感じるような漆黒の闇の中、当然ながら辺りはほとんど見えない。マイキがいない。気配もない。卓は体の痛みを忘れた。 「マイキ!」 先ほどより数段大きな声で名前を呼んで、卓は耳を澄ませた。 沈黙だけが帰ってくる。 普段ならば、卓がマイキを呼んだら、マイキは何をしていてもすぐに飛んできた。その反応は驚くほどに素直で、あまり不用意にマイキを呼んではいけないのじゃないかと思わせられるほどだった。なのに、今は、マイキは寄り添って来てはくれず、どころかあの暖かな気配すら、今は全く感じられなかった。眠っているのだろうか? だから返事をしてくれないのだろうか? いや、マイキがすぐそばにいたなら、眠っていたって、真っ暗だって、卓はすぐにわかるだろう。 「マイキ!」 どこへ行った――? 卓は飛び起きた。肋骨がみしりと音を立てて痛んだが、ほとんど何も感じなかった。今が一体どういう状況だったのか、という情報が音を立てて脳裏を回り始め、そのひとつひとつを思い出す度に肝が冷える。ここはいわば敵陣のまっただ中で、おまけに追われている最中で。眠っていたということだけでも自分を罵倒したくなった。しかもマイキがそばを離れても、目を覚ましもしなかったなんて! ここに入ったときの記憶を頼りに、扉の方に手を伸ばす。しかし真っ暗闇の中では感覚がどうしても狂うらしく、手を伸ばしたところには何もなかった。よろめくようにして両手を前に伸ばす。しかし手には何も触れない。一体ここはどこだ、と、闇雲に手探りを続けながら卓は思った。眠っている内に追っ手に見つかって、違うところに閉じこめられたのじゃないだろうか。だからマイキがそばにいないのだろうか。としたらマイキは一体どうなったのだろう、もしマイキに何かあったら! がん! 腰のあたりに衝撃が走る。 扉はやはりすぐそばにあったようで、ドアノブで腰を強打した。 「……!」 心配のあまり我を忘れそうになっていたといっても、これはさすがに効いた。痛い。ついでに肋骨までが痛んでさらに悔しい。しかしおかげで少し冷静さを取り戻した。忌々しいドアノブを掴んでひねってみると易々と開いて、廊下のかすかな明かりが滑り込んでくる。 開いて良かったと思いながら、卓は廊下に滑り出た。 これで開かなかったら錯乱していたかも知れない。 「……マイキ……?」 しんと静まり返った廊下を窺って、卓はそっと囁いた。廊下には誰もいず、なんの気配もしなかった。マイキはどこにいったのだろうと卓は思った。敵に見つかって連れて行かれたことはないだろう。いくら熟睡していたって、そしていくら自分が抜けてるからといって、マイキを連れて行かれてぐーすか眠っていられるほど脳天気であるとは思えなかった。 きゅっ。 足を踏み出すと、スニーカーの底が甲高い音を立てて滑った。ドアの前がちょうど濡れている。
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昨日は予告もなしに休んで済みませんでした……帰ってきてから書けるかと思ったんですが、無理でした。ううう。
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