星降る鍵を探して
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2003年08月22日(金) |
星降る鍵を探して4-1-7 |
息が上がっていたからか、それともあんまり驚いたためか、慌てて電話を取り出したら手元が狂った。鮮やかに明滅する携帯電話は階段を二段ほど転げ落ち、そこでけなげにもゴゴゴゴゴと振動音を響かせながら着信を知らせている。この長さはメールではない。焦るあまり自分も転げ落ちそうになりながら、何とか拾い上げてぱちりと開くと、液晶画面に浮かび上がっているのは流歌の名前だった。 ――流歌……! 「も、もしもしっ!?」 通話ボタンを押すのももどかしく、噛みつくように電話に出る。流歌と別れてからずいぶん長い時間が経ったような気がしていた。もうひと月もふた月も、あっていなかったような気がする。 しかし受話器から流れ出てきたのは、流歌の声よりも数段低かった。 『……梨花ちゃん?』 一瞬、誰の声だか分からなかった。 圭太の声は、あの自信満々な姿を目で見ていないからだろうか、いつもよりも遙かに、不安そうに響いた。その声があまりにも普段の圭太と違っていて、何と返事をして言いものかわからなくなる。 確かに流歌からかかってきたはずなのに、どうして圭太の声が聞こえるのだろう、という疑問はもちろん、圭太の普段に似合わない不安そうな声音も気にかかり、おまけに圭太の声は流歌の声にとてもよく似ていた。流歌の声を、その声質は変えないまま、低さと深みを加えたら、きっと圭太の声になる。双子だと言うことは知っていたが、今まで、圭太と流歌が似ていると思ったことはなかった。顔立ちはよく似ていても、性質が全く違うからだ。 梨花はわけもなく不安になった。 圭太が、いつもと全く違ってしまったように思えた。あの、いかにも怪盗! と言った強気で不敵で平然とした様子が抜け落ちているように思えて、何が起こったのだろうかと、心臓が、冷える。 『梨花ちゃん? 大丈夫か』 圭太の声が聞こえてくる。梨花は息を吸い、そして吐き、ややしてから頷いた。 「大丈夫です。須藤さん、今どこ――?」 『捕まってないか? ひとり? 近くに誰かいないか』 圭太は梨花の言葉には応えず、やや性急な口調でそう言った。梨花はためらいながらも、頷いた。 「捕まってない。ひとりです。近くには、誰もいないわ」 『そ……か』 電話の向こうで息を吐いたような音がする。梨花はいよいよ不安になった。 「須藤さん? どうしたの」 『さっき、桜井さん――ああ、えっと。流歌をさらった黒幕から電話があって』 「電話――?」 梨花は目を瞬いた。どうして黒幕から、圭太のところへ電話が来るのだ。 『ひとり見つけたって言うから、梨花ちゃんのことかと思ったんだ』 「……」 息を詰めて、梨花は周囲をそっと窺った。しかし周囲には誰の気配もしなかった。見渡す限り、ここには監視カメラのようなものも見あたらない。 「見つかってない、と思います。清水さんのことじゃないの?」 無意識に卓とマイキを思い浮かべなかったのは、『ひとり』という単語を聞いたからだ。卓とマイキは今一緒にいるはずで、見つかったのなら『ひとり』とは言わないだろう。 「清水さんには電話をかけましたか」 訊ねると圭太が鼻を鳴らすのが聞こえた。 『男の心配をする趣味はないんだ』 「……そうですか」 何と言おうかしばらく迷ってから、梨花は結局相づちを打つだけにして置いた。他にどうせよと言うのだ。 しかし、普段のあの怪盗が少し戻ってきたようだと思うと少し気が軽くなる。 『とにかく、梨花ちゃん、今どこにいる?』
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