星降る鍵を探して
目次|前頁|次頁
人気投票(連載終了まで受付中)
2003年08月21日(木) |
星降る鍵を探して4-1-6 |
* * *
はあ、はあ、はあ。 静まり返った廊下に自分の息づかいが響いている。その息づかいには、もうずいぶん前から、喉の奥でひゅうひゅう鳴る厭な音が混じり始めていた。息が上がっている。足も重い。今は誰にも追われているわけではないのだから、ゆっくり進めば良さそうなものなのに、一度足を緩めると二度と走り出せなくなりそうで、梨花は熱に浮かされたかのように両足を動かし続けていた。一歩。一歩。心臓が破裂しそうだ。 卓とマイキと別れてから、ずいぶん経っていた。 建物の中は、恐ろしく静まり返っている。梨花は先ほど高津と一緒に下ったのとは別の階段を使って、階上を目指していた。もうだいぶ長い間、誰にも会っていない気がする。気ばかりが焦って足が上手く進まない。まるで悪夢の中にいるみたいだ。 どうしてこんなに、静かなんだろう。 流歌や圭太はもちろん、この所内にまだ大勢残っているはずの職員たちの姿すら、全く見かけていなかった。この建物の中にいるのはもしかしたらあたし一人なんじゃないか、そう思うと、先ほど聞いたあのリィリィいう厭な音が耳の底で鳴り渡っているような気分になってくる。さっきは高津が呼び戻してくれたから良かったけれど、今ここで、あの音が、再び聞こえてきたら? ――それから。 あの、マイキちゃんの悲鳴。 思い返すと左の脇腹、肋骨の辺りがずきりと痛む。 暗闇が落ちた直後にマイキが悲鳴を上げた。悲鳴は梨花の脳の中を引っかき回すように鳴り響いて、引きずられてバランスを崩した梨花は、思わず地面に倒れ込んだ。左の脇腹が時折痛いのは、あの時ドアノブにぶつけたせいだ。そう思い出すと痛みは更にひどくなる。 マイキの中に『降って』くる情景は本当に無差別なものだ、と聞いた。 でも梨花には、どうしても、マイキの『見た』ものがここの研究所に関わるものだと思わずにはいられなかった。一体何を見たのか、と、聞けるのなら聞きたかった。 ――星が、落ちて。 あの時聞こえたのはその言葉。 ――星が。 星が、落ちてくるなんて。 なんて不吉なフレーズだろう。 いつしか梨花は立ち止まっていた。痛む左の脇腹を無意識のうちに庇っていたからか、いつもより息が上がっている。喘ぎながら階段の途中に座り込んで見上げると、踊り場の上に掲げられた階数表示が見える。 『16/15』 「どこにいるのかしら……」 座り込んで呼吸を整えながら、頭の中を整理するために呟いた。早いところ流歌と合流して、こんなところから早く出たい。でも一体どこに行けば会えるんだろう。ただ闇雲に走り回ったって…… どうしよう。これからどうしたらいいんだろう。疲れてしゃがみ込んで、膝に額をつけてうずくまった格好になる。少しだけ休んでいこう、と、大きくため息をついた矢先だった。 唐突に、ジーンズの後ろポケットで、携帯電話が震えた。
-----------------------
み、短くなってきた……! すみません、今から出かけてきます。あうあう。
|