星降る鍵を探して
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2003年08月19日(火) |
星降る鍵を探して4-1-4 |
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その頃の須藤圭太。 新名兄と別れた後、圭太はしばらく追っ手から逃げた。追っ手の数はそれほど多くなく、怪盗にとっては逃げるのは本当にたやすいことだった。桜井を相手にするといつも思う。桜井は得体の知れない存在で、目的のためならどんな手段でも眉も動かさずにやってのけるというおそるべき敵なのだが――それでも圭太が易々と桜井の、もしくは同業者の、鼻先からお宝をかすめ取ることが出来るのは、人手不足であるためだ。いつも。 『人に言えないような財産』を守るという桜井の仕事の性質上、大っぴらに人手をかり集めることが出来ないということなのだろう。そう考えるとこの国もまだまだ捨てたものではないと思う。 ともあれ圭太は暗がりにその怪盗姿をとけ込ませながら、先ほど手に入れたばかりのものを点検していた。いや、手に入れたと言うよりは、取り返したと言った方が正しい。というのは、今圭太の手の中でひねくり回されているいくつかのものは、全て妹の流歌の持ち物であるからだ。 折り畳み式の、シルバーピンクの、携帯電話。 くしゃくしゃになったオレンジと白のチェックのハンカチ。 革製のキーホルダー。 その三つのものは全て流歌がいつもポケットに入れて持ち歩いているものだった。あとスニーカーもあったのだが、それはさすがにポケットには入らなかった。これらのものを流歌から取り上げたのは桜井だろうか、と、圭太は何気なくそう思って、胸の奥にわだかまる、暗く、重苦しく、熱いようで冷えた気分が更にその冷たさを増すのを感じた。桜井の前で流歌がどうなるか圭太は良く知っていた。ああいう状態になった流歌のポケットから、これらのものを抜き取ったのだろうか。――靴まで。 流歌は七年前からちっとも変わっていない。 そして俺も、と、仮面の裏で圭太は目をわずかに細めた。俺もだ。 と。 ぶるるるるるる、と、手の中でいきなり振動が生じて圭太は細めた目を見開いた。暗がりの中で流歌の可愛らしい携帯電話が色とりどりの光を放って震えていた。着信だ、と、一瞬だけ呆然としてから圭太はそう思った。誰だろうか。 ややためらってから、ぱちりと音を立てて開くと、見覚えのない11桁の数字が踊っていた。流歌の電話帳にも登録されていないらしく、名前は出ていない。梨花ならば登録されているだろうから名前が出るだろうし、剛が流歌の番号を知っているとは思えないし、卓とマイキはなおさらだ。悪質なセールス電話かと思ったがワンコールを遙かに過ぎても鳴り続けている。かろうじて可能性のありそうなのは克だが――あの人なら流歌の番号を調べていたっておかしくない――と思いながら通話ボタンを押す、と、向こうから聞こえてきたのは、男にしてはやや高めの、かすれた、しかし耳に快いあの声だった。 『……もしもし? 圭太か』 呼び捨てにするなよ、と圭太は思った。
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