星降る鍵を探して
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2003年07月29日(火) 星降る鍵を探して4-1-1

4章1節

 酔いそう。
 上下に動く剛の頭にしがみつきながら、流歌は必死でこの乗り心地に耐えていた。剛は今下へ向かう階段を駆け下りているところで、それはもう大変なスピードだった。下手な原付より速いのではないかと思われた。振動はさほどでもない。しかし人は、自分の意志に反した動きとスピード感だけで充分酔えるものだ。
「し、清水さんっ」
 先ほどから何度か制止を試みているのだが、剛は聞く耳持たなかった。顔を覗き込むと剛は無表情だ。このような厳つい顔つきをした男が無表情で猛然と階段を駆け下りる様というのは、申し訳ないが、本当に申し訳ないのだが、怖い。それもすこぶるつきで。死ぬほど。やたらに。めちゃくちゃ。
「清水さんてばあっ」
 いっそのこともう飛び降りようかと思った。涙声になっているのを自覚しながら、流歌は剛の首にしがみつく手にいっそうの力を込めて、そして揺すった。
「止まって、止まってくださいってば! ちゃんと走れます! 一人で走れますって!」
「いいいいい」
「いいいいい?」
「痛いではないか!」
 剛は叫んで、そして急ブレーキをかけた。反動で空中に投げ出されそうになり、あわてて屈強な腕にしがみつく。我ながらダッコちゃんのような格好だ、と思った流歌に、剛が言った。
「首というものは鷲掴みにされると痛いのだぞ! 俺でも!」
 どうやら人とはちょっと違う肉体を持っているという自覚はあるらしい。
「気分良く走っておったのに、なぜ止めるのだ!」
「人を肩にのっけて気分良く走らないでくださいよ……」
 流歌はようやく反論して、そして、床に降り立った。ああ、硬くてしっかりした地面。なんてありがたい存在だろう。
 この人なら翼をつければきっと空でも飛べると思う。
 思わず床にへたり込んだ流歌に、剛が心配そうな声をかけた。
「大丈夫か? どうしたのだ。気分が悪いのか。一体何があった。あ、そうか、えーと、あのう、何と言ったか」
「……は?」
「女性は急に気分が悪くなることがあると聞いたことがある。今がそれか。えーと。そうだ。あれだ」
 剛は自信満々に言い放った。
「つわりだな」
「……」
 まじめな顔をして冗談を言わないで欲しいものだ。
 流歌は気分が悪いのを押し殺して、床に座り込んだまま、剛を睨み上げた。冗談にしてもその冗談は冗談としてどうだろう。すると剛は慌てたように、あわあわと手を動かした。
「ち、違うのか。じゃあ何だ。えーと、あのう、あの」
「ただ単に酔っただけです!」
 黙っていたら何を言われるかわからない。流歌は剛の的外れな思考を断ち切るように宣言して、とにかく立ち上がった。そうだ、とにかく今は座り込んでいる場合ではない。
 しかし剛は本気で不思議そうに首を傾げた。
「なぜ酔うのだ。何があった? マイキは別に平気……いや待てよ……ああそうか、だから落ちたのか!」
 何かに思い至ったように、ぽん、と剛が手を叩く。自分の他にもこの暴走列車に乗った人間がいたのかということにまず驚き、待て待て落としたのか、ということを内心で突っ込み、最後にマイキって誰だろう、と流歌は思った。どうやらこの男とはいろいろと話し合う必要があるようだ。
 でも。
 ――「先生」に会ったことで金縛りになったところを救い上げてくれたのは、清水さんだった。
 思い返して流歌は剛を見上げた。


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うっわあもうこんな時間……
ただいまです。……いやその。今日って……29日ですね? すみません。日付の感覚がっ(言い訳)。
そしてもう一つ言い訳。すみません、十日近く書いてなかったら勘を忘れておりました。は、話が進まないよう。


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