星降る鍵を探して
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2003年06月28日(土) |
星降る鍵を探して3-3-2 |
「罠って、どういうのかな」 卓は辺りを見回した。真っ暗で何も見えない。 真っ先に思い浮かぶのは吊り天井だとか、落とし穴だとか、矢が飛んでくるだとか、そういった物騒なものばかりだった。しかしまさかこんな近代的な研究所の中にそんなものがあるとも思えなかった。やはりここは、どこかに触れると警報機が鳴って警備員が飛んでくるというようなものなのだろう。卓は心を引き締めた。再びマイキと会うまでは、捕まるわけには行かない。 「あ、卓。……そこは」 「え」 兄の声に反応しかけたが、踏み出した足は止まらなかった。押しつけた足の下で、がちり、と厭な感触。 「あ」 と思った時には体が宙に浮いていた。足下にぱっくりと漆黒の闇が口を開けている。落とし穴だ。……そんな馬鹿な。 「死ぬなよー」 「先に行くぞー」 薄情な二人の声が頭上で聞こえ、卓は黒い闇に吸い込まれるようにして穴の中に落ちていった。
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「悪趣味な奴だな」 克は弟を飲み込んだ穴が音もなく閉まるのを見て呟いた。先へ行っていた圭太が振り返った。怪盗の衣装を着た圭太の姿は闇の中にほとんどとけ込んでしまったようで、気配だけが怪盗の存在を示している。 「……それ、どうしたんですか」 呆れたような圭太の声に、克は顔に手を当てた。この闇の中だというのに、圭太には克が今何を付けているのかが見えるのだろうか。怪盗の目の良さに感嘆しつつも、克は簡単に答えた。 「赤外線ゴーグル」 「……どこで手に入れたんです、そんなもの」 「こんなもん、今時おもちゃ売場で売ってる」 「……そーですか?」 いぶかしげな答えが返ってきたが、圭太はそれいじょうは何も言わずに肩をすくめた。見えないが気配でわかる。深く追求しないところがこいつらしい、と克は思った。克の目にはぽつぽつと張り巡らされた赤外線の筋がうっすらと見えている。しかし先を進む圭太の動きを見ていると、それを全て避けているようなのが不思議だった。 「……怪盗ってのは赤外線まで見えるのか」 「見えるわけないでしょう」 「じゃあ超音波で」 「蝙蝠じゃあるまいし」 「どうやってるんだ」 克の問いに、圭太はうーん、と言った。首をひねったようである。しかしそうしながらも、マントの裾が赤外線に触れそうになった時、寸前でその裾を持ち上げた。これで見えてないと言われても到底信じられない。 「……勘、かな?」 冗談はよせ。 「じゃなきゃ運がいいんだ」 運の問題か。 克は呆れてしまった。超音波を出してると言われた方がまだ信じられそうだ。しかし結局、克も先ほどの圭太の真似をして肩をすくめた。ここで追求しても仕方がない。
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何度か悲鳴を上げようかと思った。 しかし悲鳴というのは一度出すタイミングを逃すとなかなか出てこないものである。 卓は今はつるつる滑るチューブの中を滑り落ちている真っ最中だった。先ほどから何度か壁に手を突いてスピードを緩めようとしているのだが、あんまりつるつるなので手のひらが火傷しそうになった割にはあまり効果はなかった。スニーカーの底を強く押し当てるとやや速度が緩んだが、それもあまり功を奏したとは言えない。卓は猛スピードで滑り落ちていきながら、終点に槍ぶすまでもおかれていたらどうしようかと考えていた。以前映画か漫画で見たことがある。闇の中できらきら光る槍がこちらを向いていて、白骨死体が突き刺さっていたりとかして。 ――あれ、どうして片づけないんだろうな。 白骨化するまで放っておくなと言いたい。 チューブはどうやら螺旋を描いて地下に向かっているようだった。ずいぶん長い間落ちているような気がするが、研究所の地下にこんなに広い空間があったなんて驚きだった。圭太の妹、確か流歌と言ったような気がするが、彼女はどこに捕まっているのだろう。それに、梨花は? 梨花は一体何をしてるんだろう。 考えていると唐突にチューブが終わった。卓は再び虚空に投げ出された。
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