星降る鍵を探して
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2003年05月28日(水) |
星降る鍵を探して1-2-4 |
「お前は誰だ。研究所内では電源を切れと注意されただろうが!」 そしてさっと腕を伸ばして、携帯電話を握ったままの流歌の左手を掴みあげた。容赦のない握り方に手首が悲鳴を上げた。ゆるんだ手のひらから男は携帯電話を奪い取り、ぱちりと開いて通話ボタンを押し、そして、 「やかましいぞ、馬鹿者!」 怒鳴りつけた。うわあ、と流歌は思った。確かにうるさかったには違いないが、あまりにも過剰な反応だった。彼はまだ流歌の手を掴んだままだった。彼の方が背が高く、おまけに階段の段差のせいで、腕をつかみあげられた流歌の足はほとんど床を離れそうになっている。その体勢のままで、男は憎々しげに電話に向かって続けている。 「お前は誰だ。ここがどこだか知らんのか。こいつの――」 『その声は、もしかして、梶ヶ谷先生ですか?』 電話の向こうから聞こえてきた、低い、落ち着いた声音は、紛れもなくあの「先生」のものだった。七年前とあまり変わらない、どことなく皮肉げな声音。かすかだったが、間違えようがなかった。 息を詰めた流歌の前で、梶ヶ谷先生と呼ばれた男は、虚を突かれたようにこちらを見た。 「……お前は……」 『高津がそこにいるんですか? 代わってくれませんかね、あそこから動くなと言っておいたのに――』 「いや、待て。それじゃ、この子は……」 ――最悪。 流歌は目を閉じた。決心するのにいつも一瞬かかる。けど、やるしかない。目を開いたときには覚悟が決まっていた。 梶ヶ谷が掴んでいる手を、逆に握り返す。ほとんど浮きかけていたつま先を伸ばし、床を蹴る。同時に梶ヶ谷の腕にぶら下がるようにして足を浮かせ、 ――ごめんなさい! 渾身の力を込めて蹴りを放った。 「……ごふっ!」 ひどく痛そうな悲鳴が聞こえる。 蹴りは図らずも見事に鳩尾に決まってしまったようで、梶ヶ谷はたまらず流歌の手を離した。くずおれる彼の手のひらから飛んだ携帯電話を奪い取り、着地したところは数段下の踊り場だった。視界の上の方に「20/19」の表示がぶれて見える。宮前さんの悲鳴が聞こえる。電話の中で「先生」が、「どうしたんです」とか聞いている声が、心臓に直接響いてくる。流歌はその全てを振り払うようにして、十九階に向けて階段を駆け下りた。
---------- 昨日変なところで切ってしまったので今日は短くなってしまいました。 これで2節終了です〜(多分)。 木曜日、金曜日はお休みです。土曜日のおいでをお待ちしております。
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