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■やだねったら、やだよ。
2005年01月04日(火)
故郷の栃木での買い物の帰り道、

「ちょっとCD屋さんに寄っていいけ?」

ソワソワとした母が言った。母が聴く音楽といえば

「きよし、だね?氷川きよしなんでしょう?」

「うん。お店の人からポスター貰う約束してるのよ!」

「母さん、アイドルオタクだよそれじゃ…」

しかし還暦を過ぎた母の数少ない楽しみに水を差す訳には
いかない。母が店から出てくるのをじっと車の中で待っていた。
5分後、まるで熊を仕留めた猟師のような勇ましい足取りで
きよしポスターを手にした母が戻って来た。

実家には氷川きよしポスターが至るところに貼られている。
居間・応接間・台所と、どこにいてもきよしの熱い視線と
ぶつかるよう配置されている。

僕は初め、あまりの実家の変わりように驚き、

「ここにもきよしかよ!」

次いで呆れ果てたが、今はもう慣れつつある。
母はああやってきよしポスターを収集し、
やがてもっと増えて行くのだろう。
やれやれ、とトイレに入ったところ…

いきなり瀬戸内寂聴のでかい顔があってギャース!

これも母の仕業だ。母が瀬戸内寂聴のポスターを
いつの間にか貼っていたのだ。何故寂聴!?
とにかくあわや漏らしそうになるほど驚いた。

便器の中から青白い手が出て来て「赤い紙いるかーい」
などと聞かれてもこれほどは驚かないだろう。
それだけ怖かった。母も女である。トイレの中の姿を
きよしに見られたくないのだろうが…だからって、だからって。

思えば亡き父も、僕が小さい頃、縁日の夜店だか
どこかで買った山口百恵のばかでかいポスターを
いきなり僕の部屋に貼り、困ったことがあった。
どうして父の部屋に貼らなかったのか、とうとう
聞かず仕舞いであったが…。

そう考えると、あの父にしてこの母なのかもしれないなあ、
などと過去を懐かしんでみたりするのであった。

これをポスタルジーといいます。


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