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■大晦日なのに、きよしこの夜。
2005年01月01日(土)
栃木の実家にいる。

夕飯を食べ終わってから母の動きが慌しくなった。
テレビを見ていたかと思うと電話をし、すぐさま戻って
来るとケータイでメールを打ちまくったり。太った体を
しているので余計ドタバタしている風に目に映るのだが、
やがて僕の脇にドカっと腰を下ろして

「なんで氷川きよしがレコ大じゃないのよ!」

と吼えた。どうやらレコード大賞を観ていたらしい。
氷川きよし好きである母は、今時のヨン様フリークなど
足元に及ばぬ程の猛烈なファンである。しかし如何に
熱狂的であろうと単なる一ファンに過ぎないのに

「私がこの一年でしてきたことは一体なんだったの…」

「事務所が悪いのよ事務所が」

などと電波的なことをブツブツ言っており、僕の知ってる
ママじゃないよ…と恐ろしくなってきた。

「ま、母さん、抑えて。ところで大賞は誰だったの?」

「え?何だっけ?確か、アダルトチルドレン?」

「…ミスターチルドレンだと思うよ」

氷川以外は全く目に入っていないバーサークぶりがやはり恐ろしい。
母の怒りはなかなか収まらなく、なおも吼え続ける。

「さっきもいろいろと話してたんだけどさー。 きよし君
 だって今年は凄かったんだから例えば…(以下略)」

「ちょっと待って。話したって、それってさっきの電話やメール?」

「そうよ!みんなと話してたの!お母さんの『きよ友』は
 北は栃木から南は大阪までいるのよ!」

母の言う「きよ友」とは、すべて氷川きよしのライブで
知り合った友達なんだそうだ。全国を駆け回ってライブを
見に行く剛の者もいるらしい。もはや一種のフーリガンである。

その後母は紅白歌合戦にチャンネルを移し、またもや氷川きよしが
喋ったり歌ったりしているのを観る内に、怒れるオバサンから
心ときめく乙女に変貌し、大人しくなった。時々僕がネットを
やっているのを覗き見して

「私もネットやろうかなあ」

などと言っていたが、何をおっしゃいますお母様。
あなたは既にインターネットよりも熱くて激しい
ネットワークをお持ちでございます。

母は紅白歌合戦が終わってようやく平常な状態に戻り

「これが豚になる原因なのよね」

ケーキを一つつまんで隣室に去っていった。
今、隣の部屋からマツケンサンバが聞こえる。

おそらくケーキを食べながら、紅白歌合戦を
ビデオでもう一度観ているのであろう。

紅白豚合戦…。


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