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2016年09月09日(金) タイ戦「勝利の方程式」はこの先、通用せず

W杯アジア最終予選第戦、日本はアウエーでタイに2−0で勝った。初戦、UAEにホームで黒星発進した日本であったが、タイから勝ち点3を奪い、星を五分に戻した。

ハリルの選手起用(ボランチ、左サイド、ワントップ)が成功?

先発メンバーは以下のとおり。
GK西川周作(浦和レッズ)、DF酒井宏樹(マルセイユ/フランス)、吉田麻也(サウサンプトン/イングランド)、森重真人(FC東京)、酒井高徳(ハンブルガーSV/ドイツ)、MF長谷部誠(フランクフルト/ドイツ)、山口蛍(セレッソ大阪)、香川真司(ドルトムント/ドイツ)、本田圭佑(ミラン/イタリア)、原口元気(ヘルタ)、FW浅野拓磨(シュツットガルド/ドイツ)

ワントップ(Cf)には、岡崎に代え浅野を起用。左サイド(Ls)に原口、ボランチ(Dm)には、UAE戦、不完全燃焼に終わった大島に代えてJ2の山口を入れた。原口と浅野がゴールを奪い、山口の守備力が光ったわけだから、ハリルの選手起用は結果的に成功した。

しかし試合後のハリルホジッチ監督のコメントは、「2人ともゴールというのは偶然だと思うが、それにしてもよい雰囲気をもたらしてくれた」というもの。このコメントからうかがえるのは、勝利をもたらした2得点とも、意図した結果ではないということを図らずも吐露したように聞こえる。監督が代役2人の殊勲者を絶賛していない。監督自身、勝つには勝ったが、チームは本調子でない、と思っている。

攻撃陣形のバランスを崩し続ける本田

この試合のあと、日本のネットにおいて、「本田、長谷部が戦犯」という記事が目に留まった。また、日本の攻撃の主軸といわれる、本田、香川、岡崎に対する辛口のコメントが散見された。それらの批判は大手メディアにではなく、ネットのサッカー専門サイトに掲載されたものだが、それらを再掲載したポータルサイトもあった。ようやく、本田、香川、長谷部ら海外組批判のタブーが破られつつあるのか。筆者はこうした傾向を歓迎する。

辛口コメンテーターが指摘しているように、アジア予選のスタート2試合の日本の状態は悪かった。日本の攻撃のかたちを見ると、Rsの本田が中央に入り込む形が多くなり、サイド攻撃の機会が減っている。窮地の日本を救ったともいえる先取点は、前出のとおり本田が中央に入り込んでそれにつられてタイのDFが真ん中によったため、日本の右サイドががら空きになり、Rsbの酒井宏がまったくのフリーで狙いすましてクロスを上げられたことに起因する。そのクロスがゴール前をスルーしてLsの原口がほぼフリーとなり頭で決めることができた。

この得点シーンについて、Rsb酒井宏の好判断と評価するか、得点者、Ls原口の決定力というべきか・・・まあ、何といおうとすべてが結果論。それがゴールというものだ。野球でいえば、ホームランを打った打者を褒めるのか、失投した投手、サインを出した捕手を責めるのか・・・というのと同じようなもの。

クロスを放った酒井宏、ゴールを決めた原口を評価しつつも、筆者はこの得点は日本代表の狙いではないと確信する。なぜならば、ある程度のレベルのチームのDF陣ならば、Rsbの前のスペースを自由に使わせるような守備はしない。タイのように、まったくのフリースペースをつくらせることはない。タイのDF陣が本田につられたのだから、本田が囮になったというべきだろうが、それはけがの功名というやつだ。

本田がRsを「職場放棄」し続けるため、日本は相手ゴール前中央にCfの浅野、Om(トップ下)の香川、本田の3人が塊となり、チャンスをつくれない時間が続いた。ただ、救いは、とにかく日本が先取点をとれたこと、タイのチャージが甘く、日本が自由にボールを奪えたこと――タイは日本にとって与しやすい相手だったこと――だ。先取点がとれずに時間が経過したら、日本はタイとスコアレスドローを演じたかもしれない。

この試合、その本田及び香川が決定機を外したため、日本はさらに試合を難しくした。救いは山口はじめ(本田と香川を除いた)各選手が、積極的に守備をしたこと。繰り返すが、タイは体格で日本を下回り、しかも、フィジカルが弱い。日本の圧力に抗しきれなかったことが救いだった。

日本は後半30分、長谷部のロングパスに浅野が反応して裏に飛び出し、ゴールを決めた。この得点は、Cfがその仕事をまっとうした結果である。敢えてシニカルに表現するならば、後半、極端に足が止まった本田がゴール前にいなかったから、浅野が自由にプレーできたともいえなくはない。それくらい、本田のポジショニング、ランニング、判断、フィニッシュの精度は悪かった。

香川も2試合とも不調、不発

本田に負けず劣らず、香川も悪かった。決定機を外したことももちろんだが、彼はOmとして機能していなかった。コンディションの問題なのか、ドルトムントで活躍していた香川の姿とは全く別人のようである。

海外組は下り坂か?

かくして、攻撃陣の軸といわれる、▽本田がUAE戦、タイ戦を通じて攻撃陣のバランスを崩し続け、▽香川も2試合とも生気がみられず、不調かつ不発、▽岡崎はUAE戦で不調、タイ戦がベンチ。▽その岡崎の代わりにタイ戦でCfに入った浅野が得点を上げ、▽同じく、本田の反対側のポジション(Ls)の原口が貴重な先取点を上げた。守備陣では、キャプテン長谷部にミスがめだつありさま。最終予選の2試合を通じて、日本代表の海外組、主軸といわれる選手たちが年齢的、体力的に下り坂に来たことの前兆とみられなくもない。

タイ戦の「勝利の方程式」はこの先、通用しない

タイ代表は成長著しいチームだが、日本代表にはやりやすい相手だ。日本の五輪代表をダウンサイジングした感じ。だから、日本がセカンドボールを支配できたし、相手ゾーンでボールを奪えた。

しかし、このような試合展開が残り7試合=オーストラリア(A・H)、イラク(H・A)、サウジアラビア(H・A)、もちろんUAE(A)との対戦でできるはずもない。欧州リーグが進展する来月以降、海外組といわれる本田、香川、岡崎、清武、長谷部らが調子を上げられだろうか。

筆者は、本田が最も難しい存在だと思っている。彼が16-17シーズン、ACミランで出場機会を得ることは難しいと感じているからだ。代表戦以外の公式戦に1年以上出場しない選手を主力と表現できない。試合勘、フィジカル等が劣化することは間違いない。本田に代わる選手はいるのだろうか。国内組の台頭は期待できるのか。この期に及んで新戦力をテストすることは困難であるし、さらに、日本の救世主が彗星のごとく出現するとも考えにくい。この先のアジア最終予選の各試合は、日本代表及びそのサポーターにとって、苦難の連続となりそうだ。


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