2015年03月03日(火) |
読売の「新成」は失敗に |
またまた読売批判である。読売球団に恨みがあるわけではない。日本のスポーツメディアが人気球団の読売(巨人)の現状批判を行わないから、スポーツ評論の現状についてバランスをとろうというのが筆者の読売批判の趣旨である。
◎「新成」というスローガンは間違いではない。
今季、読売の原監督が掲げたスローガンは「新成」――造語である。チームを一度解体し、選手全員が同じスタートラインに立ち、公正な競争を経てレギュラーを決めようという意図が込められている。
新キャプテンに坂本勇人が指名され、捕手阿部慎之助を一塁にコンバート、昨シーズン末から四番候補に大田泰示を抜擢するなど、キャンプ、紅白戦、練習試合を通じて「新成」に相応しい手を打ってみせた。
原監督の構想及びチーム改造計画については賛成である。筆者は常々、読売の選手の高齢化や、FAによるチーム編成の歪みを指摘してきた。セントラルリーグでは、広島、DeNA、ヤクルトが早々と選手の若返りに着手し、なかで広島は今シーズン、その努力が実りそうな気配が感じられる。広島には「カープ女子」と呼ばれる若い女性ファンがつき、セの人気球団に成長しつつある。
一方の読売は相変わらず、V9時代前後の高齢者ファン中心で、若い新しいファン層の獲得に失敗している。読売の場合、主軸はFA中心で、若い生え抜き選手は坂本勇人ただ一人。エースの菅野智之は「ドラフト破り」の暗いイメージを背負っていて、若いファンの支持を得る魅力に乏しい。
◎「新成」の象徴、「四番太田」は無理筋
原監督のチーム解体の方針は言葉として正しいのだが、それを裏付ける選手編成が手遅れであった。まず、「四番大田」の構想はキャンプ、練習試合までは実績を残したものの、オープン戦に入るとあたかもメッキが剥がれた如く、頓挫しようとしている。大田泰示の打撃はどうみてもせいぜい2割5分程度の実力。彼の打撃の欠陥は、打者の根本にかかわるバッティング・アイにある。先天的反応力と換言できる。説明しにくいが、センスとも言えるし、打者が球筋を先天的に気極める能力とでも別言できるだろう。
大田泰示のウイークポイントは、右投手のスライダー。自分の視線から遠ざかる球筋を見極める「視力」が弱い。ここで言う「視力」とは検眼で測定する視力とは異なる。
わかりやすい対比の例を出すならば、大田泰示の対極に位置する打者がイチローである。イチローは先天的に球筋の変化に反応する感覚が備わっていて、それがバッティング(球をとらえて振り抜く動作)に連動できる。イチローの反応力を「レベル5」とすれば大田は「レベル3」程度。練習すれば向上するというものではない。
◎昨年と同様、「日替わり四番」に逆戻りか
となると、阿部慎之介が4番を打つしかない。阿部慎之介は一塁コンバートで復活できるのかどうか。筆者は2013シーズン後半から「阿部限界説」を唱えているので、昨シーズンよりは率が上がることはあるだろうが、完全復活は難しいとみる。つまり今シーズンも、読売の4番は、阿部慎之介、村田修一、フレデリックセペタ、レスリーアンダーソン・・・のうち調子のいい者を充てるしかない。つまり、昨シーズンと変わらない。打撃について「新成」は果たされないだろう。
◎捕手が読売の弱点に
読売のアキレス腱ともいえる捕手は深刻である。「新成」の象徴である小林誠司はリードについては向上しているだろうが、打率2割5分はおそらく無理。ベテラン相川亮二(FA入団)との併用だから、捕手も「新成」にならない。
◎内野は先発と控えに実力差
内野については、1塁:阿部慎之助(故障中)〜レスリーアンダーソン(故障中)、亀井善行、井端浩和、堂上剛裕(故障中)で競争、2塁:片岡治大〜井端浩和、寺内崇幸で競争、3塁:村田修一〜中井大介、井端浩和、寺内崇幸で競争、遊撃:坂本勇人〜井端浩和、寺内崇幸で競争――となるから、昨年と変わらない。どこが「新成」なのか。
◎人材豊富な外野陣だが出られるのは3人
外野も同様で、拙コラムで何度も書いた通り、ほぼ3球団分の有り余る戦力のうち、結局は左翼:フレデリックセペタ、中堅:長野久義(故障中)、右翼:亀井善行がレギュラーで、補欠が橋本至、高橋由伸、レスリーアンダーソン・・・と続くことになるのだが、前出のとおり、「新成」の象徴的存在である大田泰示がベテラン勢を追い抜く余地はないだろう。
キャンプ、紅白戦、練習試合、オープン戦序盤を見る限り、今年ブレークしそうな「新成」=新戦力=若手は育っていない。
◎戸根、高木勇は即戦力投手
投手陣には多少、変化の予兆が見える。戸根千明、高木勇人、アーロンボレダの新人及び新加入外国人3人が即戦力として期待できる。
◎それ以外の若手投手陣は伸び悩み
とは言え、戦力がアップしたとは言えない、なぜならば、先発はいまのところ、杉内俊哉、菅野智之、内海哲也、大竹寛の4本柱が確定的だが、5人目の小山雄輝はプレシーズン調子が出ず、宮国椋丞、田原誠次、今村信貴、江柄子裕樹、笠原将生が伸び悩み状態。抑えから先発にまわった西村健太郎もはっきりしない。中継ぎ抑えは、福田聡志、高木高広、久保裕也、マイルズマイコラスが不安定。香月良太、青木高広、山口鉄也、スコットマシソンは勤続疲労からの回復は難しい。先発から回った沢村拓一ただ1人が好調である。
◎菅野はシーズン中に手術か
昨シーズン終了間際に肘を痛めた菅野智弘は、プレシーズン、なお故障から癒えていないような投球が続いている。前から下がり気味の肘の位置がさらに下がり、球に体重が乗らない手投げ状態である。菅野智弘の投球フォームの欠陥については拙コラムで書き続けてことだが、こんなに早く肘を悪化させるとは思っていなかった。今シーズン中に手術に踏み切る可能性も否定できない。
前出の新戦力3枚が加わったところで焼け石に水、マイナスの幅が大きすぎて埋め合わせ不能である。先発4投手の「確定的」という意味は、OKを意味しない。ほかに代替戦力が見当たらない、すなわち、仕方なしの「確定」である。
◎いわゆるキレキレのアスリートがいない
こうして読売の戦力を概観してみると、投打に軸となる選手の不在が見て取れる。体力、気力が充実したリーダー格、伸び盛りの若手、閃きを感じる異能選手といいた、キレキレのアスリートが見当たらない。セリーグの他球団を見ると、広島ならば、MLBから復帰した黒田博樹及び前田健太は投手の軸というにふさわしいし、野手ならば菊池涼介(内野手)、丸佳浩(外野手)は才能あふれる伸び盛りの選手。ヤクルトならばウラディミールバレンティン(外野手)、山田哲人(内野手)、川端慎吾(内野手)が絶対的存在感をもっている。阪神にも藤波晋太郎(投手)、ランディメッセンジャー(投手)、鳥谷敬(内野手)、マウロゴメス(内野手)に安定感がある。
◎解体したまま戻らなくなった「新成」読売
読売はチームを解体してみたものの、改めて組み立てようとしたら前の材料を使うしかなかった、という惨状。けっきょく再度組立てみたら、もとにもどってしまったというわけである。これも正確に言うならば、もとにもどらず、前より悪くなった――ということ。「新成」とは名ばかりで、旧態依然のチーム状況に変化なしである。
◎一回キャンプをはったくらいで新しいチームはつくれない
筆者の感想としては、読売が「新成」という内容の伴わないスローガンを掲げたのが間違い。開き直って、戦力はカネで買える――を貫徹すればよかった。戦略なきドラフト指名、FA頼みの補強、育成システム整備を怠ってきたツケが、いままわってきたことに気が付いたことは評価できるが、「ローマは一日にしてならず」。一回キャンプをはったくらいで「新成」が成就できるほどスポーツは甘くない。スローガンとかけ声だけでは新しいチームはつくれない。
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