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2012年10月13日(土) サンドニの奇跡か

◇国際親善試合.フランス0―日本1.12日.フランス・パリ近郊サンドニ

◎フランスのミスに救われる

へへへ。日本がアウエーでフランスに勝ってしまった。筆者はこれまで、“アウエーで弱い日本代表と”非難していた関係上、日本の想定外の勝利に言葉を失ってしまう。

試合内容はご覧のとおり、前半、日本はまったくフランスに歯が立たなかった。それでも、奇跡的に無失点で前半を切り抜け、後半、動きの悪くなったフランスからカウンターで決勝点をあげた。日本は文字どおりワンチャンスをものにして勝利をつかんだ。

フランスはベテランのリベリ、エブラを先発から外し、どちらかといえば、若手中心の布陣。それでも、個の力量ではスピード、パワーとも、日本を大きく上回っていた。ただ、欠けていたのは、フィニッシュを決めきる心身両面の技量であった。フランスの若手代表選手は、国際試合の経験不足、俗な表現を使えば、「場数」を踏んでいないということ。後半23分、フランスは切り札リベリを投入して局面の打開を図ったが、リベリのプレーは独善的で個人プレーに走るばかり。周囲とのコンビネーションを深めようという意識は見られなかった。

◎難題を抱えたフランス代表

日本はそんなフランスに救われ、とにもかくにも、前半を無失点で切り抜けたのが勝因だ。それ以外にはない。そんなフランス代表はといえば、1998年の自国W杯優勝後、2002年(日韓で予選敗退)、2006年(ドイツで準優勝)、2010年(南アフリカで予選敗退)とW杯には出場し続けているものの、最近の成績は芳しくない。2008年ユーロでは予選敗退、2010年の南アフリカ大会では、大会開催中に代表監督と主力選手が衝突し、チームは空中分解。予選リーグで敗退してしまった。2012年ユーロ大会もベスト8にとどまった。現監督のデシャンは、2014年のW杯予選突破はもちろんのこと、本戦でも好成績を期待される――老舗再建を託される――切り札的存在の指揮官だ。

彼は1998年のW杯優勝チームの主将であるが、指揮官として彼が描くフランス代表の課題は、過去の栄光を捨て去ることにあるようにみえる。98年当時の史上最強のフランス代表には、ジダン、アンリ、トレゼゲ、ビエラ、デサイー、リザラズとずらりとスター選手が揃っていた。ここまでのタレントが揃うのは50年に一回あるかないかのこと。過去の栄光の再現は難しい。そこで、監督デシャンに課せられた使命は、ある程度のスピード、パワー、技術をもった選手を鍛え、コンビネーションと組織力で勝てるチームをつくること。そういう意味で、いま現在のフランス代表は発展途上、チームづくりの段階だとみられる。

◎負けたフランスにとっては“サンドニの悲劇”

そればかりではない。フランス代表が直面する最重要試合は、16日のアウエーでのW杯予選スペイン戦。デシャンはベテラン(リベリ、エブラ)を温存し、若手の底上げ、経験を積ませる試合として日本戦を位置づけたのではないか。そんなフランスに日本は勝った。実力で言えば、日本はフランスと5回試合をして1回勝てるかどうかの力量である。その1回が今回だったと筆者は考える。

2001年3月、フランス人トルシエに率いられた日本代表は、当地において0−5で大敗した。この試合は、“サンドニの虐殺”と呼ばれ、日本と世界の力の差を示したものとして、日本のサッカーファンの心に深く刻み込まれた。しかし、先述のとおり、フランスはその後、凋落を続け、直近のW杯南アフリカ大会で予選敗退した。一方の日本は同大会で予選突破を果たしている。日本が力をつけ、フランスが力を落としているとはいえ、前出のとおり、日本がフランスに勝つのは5回に1回程度だと思われる。勝ったには勝ったが、日本が攻撃の形をつくれていたわけではない。

そんな日本にフランスは負けた。スペイン戦に尾を引くいやな負けである。スペイン戦に悪い影響を与えれば、フランスにとってこの敗戦は“サンドニの悲劇”と評してもおかしくない。一方、日本の力量が判明するのは、16日のブラジル戦である。


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