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2012年08月23日(木) 甲子園が若い投手を壊す

このコラムに何度も書くように、筆者は甲子園高校野球大会を嫌悪している。早く無くなって欲しいといつも思っているので、この季節は憂鬱だ。

とはいうものの、甲子園があるからこそ、日本のベースボールの水準は高く維持されているのも事実。甲子園出場を目指す野球名門校といわれるプロ(高校球団)が全国に散在する野球中学生を調査し、スカウトし、彼らを高校野球部にぶち込んで、高校生活のすべてを野球の練習に注力させ、予選を勝ち抜かせ、甲子園出場を果たさせる。グローバルにみて、高校が野球選手を育成するシステムをもった地域はない。

しかしながら、こうした日本独特の野球システムはさまざまな弊害を誘発している。投手の投球数の問題だ。

今年の夏の逸材は、桐光学園・松井裕樹投手と大阪桐蔭・藤浪晋太郎投手だろう。二人の場合を例にとると、松井裕樹は2年生だが、12日間、4試合で投げた球数は577(9日・139、16日・142、19日・142、20日・154)。19・20日の連投で合計296球は過酷だ。甲子園大会だけでこの球数だ。予選において、何日間隔でどのくらいの球数を投げたかその詳細は不明だが、おそらく甲子園大会以上に過酷な使われ方をされたのではないかと推測される。来年もこの調子ならば、彼の肘、肩は相当な摩耗が予測される。

優勝した大阪桐蔭の藤浪晋太郎の球数は、▽13日・木更津総合戦138、▽20日・天理戦118、▽22日明徳義塾戦133、▽23日・光星学院戦127で、13日の初戦から23日の優勝決定戦まで合計516球を投じている。20日、22日、23日の4日間で378球というのは、いくらなんでも異常な球数で、肘、肩等にかかる負担はたいへんなものだ。このような高校生投手の酷使は、米国では考えられない。米国の最高峰のプロ野球、すなわち、メジャーリーグ(MLB)でも100球、なか4日というのが常識。いわんや、身体の発展途上にある高校生が1試合に120〜150球、なか1日もしくは連投というのはあり得ない。

日本の甲子園出場投手の多くがプロ野球の道に進むのだろうが、できるだけ長くプロ野球の投手として生活をしていくつもりならば、甲子園における過酷な登板は控えたほうがいい。日本の投手は優秀だといわれながら、MLBで長く投げ続けた投手は少ない。日本プロ野球(NPB)で過ごした年数、プロになった年齢等にばらつきがあるので、投手生命を正確に表すものではないが、いまのところ、野茂英雄のMLB12年というのが最高だ。甲子園で活躍した松坂大輔もMLBに移籍して5年で故障した。クローザーの佐々木主浩で4年しかもたなかった。NPBからMLBに移籍した多くの先発、中継ぎ、抑えの投手たちが5年程度しかもたない。米国は広く移動距離も長く、気候風土も多様だから、日本人には負担が多いが、それよりも、日本人投手の肩、肘等が高校生時代の酷使により、摩耗している可能性が高い。その意味で注目されるのが、ダルビッシュの今後ということになる。

いずれにしても、高野連が高校生の健康に真に配慮する気があるのならば、甲子園大会のみならず予選を含め、高校生投手の登板間隔、投球数に係る上限を設けるべきだ。一人の「エース」に依存した甲子園型の投手起用は、潜在能力の高い優秀な投手の投手生命を損なう危険性が高い。高校野球部において、複数の投手を育てる方針を徹底すべきだ。小学、中学、高校を問わず、ベースボールにおいては、チーム内に複数の投手ローテーション制度を確立することが望まれる。


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