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2012年08月31日(金) 原監督の犠牲バント作戦はプロ野球の自壊行為

晩夏の「みちのくシリーズ」、首位読売が2位中日に1勝2敗で乗り切り、2012シーズンのペナントをほぼ手中に収めたように思える。ここまでのところ、読売・原監督の手堅い野球が高評価を得ているようだが、筆者には、とてもそうは思えない。

まずもっと、目に余るのが、初回先頭打者出塁後の2番バッターによる犠牲バント作戦だ。信じられないのが、先頭打者2塁打(すなわちノーアウトランナー2塁)の場面で、2番打者に犠牲バントを命じて、ワンアウトランナー3塁を目指すことだ。

原監督の犠牲バント作戦の成功率についての具体的データがほしいところだが、実施後の得点及び勝率確率に若干差異があっても、この作戦は愚策だと断言できる。なぜなら、先発投手の第一の難関は立ち上がりにあるからだ。先発投手が立ち上がりにつまずく理由はいろいろある。自分の調子を見極められない精神的不安が最大のものだろうが、ほかにも、たとえば、緊張感、気温湿度等によるボールと指のかかり具合、主審のストライクゾーンの見極めの困難さ等がある。

調子については、スポーツをやった経験のある者であれば説明は不要だろう。その“良し悪し”は、日によってマチマチ。バスケならシュートが面白いように決まる日と、微妙に外れる日がある。サッカーならば、動きのキレ、パス、トラップ、シュートの感覚だ。野球の投手も同じこと。しかも、微妙なコントロールが要求されるプロの投手の場合、プレーボールがかかって、複数の打者に何球か投げて初めて自分の調子がつかめるものだ。そのことを前提とするならば、初回、先頭打者に出塁されたということは、投手の不安をいっそう強くする。その場合に投手が一番欲しいのは1つのアウト。まず、アウトをとることで精神的に楽になる。

MLBにおいては、クォリティースタート(QS)がスターター(先発投手)における貢献度のメルクマールになっている。スターターが6回(100球程度)までを3点以内に抑えれば、QSを獲得したことになる。つまり、初回の1〜2点は仕方がないという思想だ。初回をそれで乗り切って、とにかくゲームをつくればあとは攻撃陣の責任だ。

数値でみると、スターターの防御率2点台は優秀な部類。3点台でも合格ラインを上回っている。ちなみに、MLB2012シーズン(8月30日現在)、ダルビッシュの防御率が4.31(投球回数153回2/3)、黒田が2.98(同175回)。勝ち星はダルビッシュが13勝、黒田が12勝だが、MLB、2012シーズンにおける日本人投手の評価としては、いまのところ、イニング数が多く、防御率の低い黒田の方が、ダルビッシュを上回っているという。

逆に見れば、攻撃陣は、先発投手の立ち上がりをいかに責めるかが試合を決する最重要課題となる。読売の場合、初回、ノーアウト、1・2塁で3番坂本に送りバントが定石になっている。最悪だ。ここは立ち上がりの先発投手の不安定さに乗じて、3番(ポイントゲッター)坂本に打者を返す打撃を期待するのが筋だ。ゲッツーもあるだろう、それは結果だから仕方がない。ファンが絶対に見たくないのは、攻めてゲッツーを屈することではなく、バント失敗・3塁フォースアウト、もしくは、バント失敗・内野小フライアウト等々だ。ようするに、バント失敗によりチャンスを縮小することだ。たとえ、バントが成功しても、アウト1つを敵に献上することになる。それが相手先発投手を安定化へと向かわせてしまう。ポイントゲッター・3番打者を信頼せず・期待せず、でプロの監督といえるだろうか。サッカーでFWを守備に専心させるようなものだ。

なぜ、原采配が犠牲バント偏重となるのかといえば、金満読売の戦力過剰状態のためだ。今シーズン、読売は、打撃成績トップに阿部(打率319)、同3位坂本(303)、同7位長野(296)と、ベスト10に3人が入るほどの強力な攻撃陣をもっている。さらに、FAで長距離砲村田を獲得し、常時出場は無理であるものの天才高橋もいる。読売以外ならば、クリーンアップを打てる打者が、阿部、坂本、長野、村田、高橋と5打者いる。さらに、外国人助っ人にボウカー、エドガーがいる。2人ともいい成績ではないが、誠に贅沢な布陣だ。本来3番でポイントゲッターとなる坂本に送りバントをさせても、阿部、村田、高橋・・・でなんとかなるという考え方だ。

これが堕落の始まりでなくてなんであろう。まず、3番坂本は、得点圏打率が高いこと、次に、阿部、村田、高橋の選手生命はこの先、それほど長くないこと。読売の近い将来における打撃の中心選手は、坂本、長野の2選手以外考えにくい。ならば、坂本にはいまからプレッシャーを与えるべきなのだ。得点圏でいい仕事ができるよう、精神的訓練を重ねるべきなのだ。送りバントはこのような責任の免除に該当する。犠牲バントの成功は、一見、チームに貢献したようにみえるものだが、ポイントゲッターの重責を果たしたわけではない。才能のある坂本には軽すぎるミッションなのだ。

さて、問題の2番バッターのミッションについて考えてみよう。日本のプロ野球では、2番バッターは小技が効いて、とりわけ送りバントが上手な選手という考え方が定着している。読売V9時代の2番打者・土井正三のイメージを引きずっている。これも改めたほうがいい。先頭打者が出塁したら、ツーアウト以外は送りバントで得点圏へ進めるという作戦は、回が迫って相手にプレッシャーをかけるような場面以外は先述したように、やるべきではない。強調したいのは、V9時代の読売野球は理想ではないということ。プロ野球の世界でV9ということがそもそも異常事態であり、特殊な時代の特殊な日本野球の極度化現象にすぎない。読売のV9の再現はもちろんあり得ないし、そこに立ち止まっている限り、日本野球の進歩・発展はない。

いま現在の読売の弱点は、2番バッターだといわれる。たまたま、いまは松本が好調を維持しているが、長続きはしない。というのは、松本はバントがそれほど上手ではないからだ。せっかく打撃好調にあっても、立ち上がり不安な投手に犠牲バントを強いられるため、彼の打撃眼に狂いが出始めてきた。しかも、バント失敗が松本を委縮させている。彼がつぶれるのは時間の問題だ。彼の打撃は、1〜2塁間が大きく空いた、走者1塁の状態こそ生きる。左打者なのだから、強く引っ張ればいい。

そんなこんなで、読売の2番打者はこれまで、ことごとくつぶれてきた。ボウカー、谷、藤村、寺内、亀井、古城らである。そして、松本か。古城は下位打線で復活しているものの、2番打者としては失格だ。理想はボウカーのようなタイプのパワーヒッターだが、ボウカーが日本野球にフィットする可能性は極めて低い。現有戦力ならば、松本が2番に定着することがベスト。そのためには、彼に自由に打たせて、大きく育てることだ。松本が自由に打てば、読売の勝率はもっと上がる。


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