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2012年08月08日(水) 敗因はGK権田の軽率なプレー

準決勝まで進んだサッカー日本五輪代表はメキシコに3−1で敗退、決勝進出はならなかった。日本は宿敵韓国と、銅メダルを争うことになる。予選リーグ及びベスト4をかけたエジプト戦までは順調に進んだ日本五輪代表だったが、命運尽きた。

●敗因はGK権田の凡プレー

ゲームは、日本が前半12分に大津のゴールで先制。幸先の良いものだった。ところが、31分、メキシコのコーナーキックから失点し、同点に追いつかれてしまった。でも、この失点は仕方がない。メキシコのセットプレーがうまくはまったもの。とにかく、前半はイーブンで終わったのだから、“良し”としなければならなかった。

勝敗を決定づけたのは、後半20分、メキシコのシュートをセーブしたGK権田が、扇原に下手投げのゴロでスローインしたプレーだった。これを受けた扇原がプレスをかけてきた相手選手にボールを奪われ、近くにいたペラルタにゴールを決められ、勝ち越された。

問題のこのシーン、ボールを奪われた扇原に責任はない。扇原はボールを受けるために自陣ゴールに向いていたので、相手の攻撃的選手の動きを視野に入れることは難しい。相手攻撃選手の動きを最も視野に入れやすいのはGKである。GKは、相手選手の動きを見て、この場合であれば、味方の前線の選手に長いボールを入れるか、プレスのかかっていないサイドの選手にフィードするのが筋であった。大きなプレーだった。この失点を境に、日本選手の動きが委縮したかのように、みるみる小さくなった。GK権田の凡プレー、軽率なプレーを境に、日本の全選手が同点に追いつくだけの気力・体力を無くしたようにさえ見えた。

●日本快進撃の「謎」を解く

(1)調整試合2試合勝利でチームに変化

試合の流れを決定づけたのは、GK権田のミスだったけれど、実力を計れば相手メキシコのほうが数段上回っている。フィジカル、規律、技術、スタミナ・・・どれをとっても、日本はメキシコより格下である。そんな日本が予選リーグを勝ち上がり、ベスト4をかけたエジプト戦に勝てたのは、それなりの理由があった。

筆者は、日本での壮行試合=ニュージーランド戦で引き分けた後、当該コラムにて、日本五輪代表はチームになっていないと酷評した。ところが、OA枠で入ったDF吉田が起用されたベラルーシ戦(7・19/英国ノッティンガム)に1−0、メキシコ戦(7・21/同)に2−1で勝利し、チームが安定度を増した。

筆者の推測にすぎないが、外地で勝利したことにより、五輪代表選手たちに自信が芽生えたのではないか。代表チームを強化するには、ホームの甘い親善試合ではなく、アウエーもしくは外地での戦いの経験に負うところが大きいことが傍証される結果となった。とにかく、外地での2つの勝利が、日本五輪代表のチームを変えた。劇的変化が内部に起こった。

(2)先制されたスペイン、エジプトの混乱

さて、予選リーグ第1戦、優勝候補のスペインに日本が勝利したのは、幸運だったという以外にない。試合展開の詳細は書かないけれど、スペインには想定外の永井のスピードが、彼らの焦りを生んだ。大津の先制点により焦りは極限に達し、一発レッドという深刻なファウルでスペインに退場者を出したことが日本に幸いした。エジプト戦も似たような展開だった。

おそらく、スペイン、エジプトの選手たちは格下日本に負けるはずがない、という思いで試合に臨んだのだと思う。ところが、実際の本番の試合で日本に先制されると、この2チームの選手は等しく混乱したのだと思う。焦って退場者を出したのだと思う。

一方のメキシコは調整試合(=7・21)で日本に負けている。日本より実力が上であるスペイン、エジプト、メキシコの3チームのうち、メキシコだけが日本に勝ち、スペイン、エジプトが日本に苦杯を喫したのは、メキシコが7・21で日本に負けた経験に基づいて試合を進めたからだと思う。メキシコは7・21の敗戦で、日本の“力”を十分認識したのだと思う。それは日本を“リスペクト”したという意味とはやや異なる。日本の力ならば、先制されても慌てる必要はない、90分、普通にやれば勝てる、とメキシコは確信していたのだと思う。そこが、メキシコと、スペイン・エジプトの違いだった。

日本は7・21の勝利により自信を深め、予選リーグを突破し、さらにベスト4にまで進出した。一方のメキシコは7・21で敗戦したことにより、セミファイナルで日本に先制されても冷静な試合運びをし、逆転勝ちし、ファイナルに進んだ。調整試合が本大会の展開にかくも大きな影響を及ぼしたということは、サッカーというスポーツの神秘性を改めて認識させるものであった。

●「OA枠」について

(1)やはり「OA枠」は使用すべきではない

筆者は、当該コラムで「OA(=オーバーエイジ)枠」は使うなと強調してきた。しかし実際には、先述したとおり、「OA枠」でチームに合流したDF吉田、DF徳永の2選手の活躍が日本五輪代表快進撃の原動力の1つだともいえる。ならば、筆者の見方は見当違いだと指摘されるかもしれない。

(2)五輪代表は世代別の実力のメルクマール

しかし、筆者はいまでも、「OA枠」は使うべきでないと確信する。なぜならば、五輪代表とは、その時代の世代別の実力のメルクマールだからである。▽96年のアトランタ五輪における「マイアミの奇跡」と98年フランスW杯、▽2000年シドニー五輪と02年日韓W杯、▽04年アテネ五輪と06年ドイツW杯、▽08年北京五輪と10年南アフリカW杯――といった関係をもっとも明確に示すのは、「OA枠」を使用しないことなのである。たとえば、OA枠を使用しなかった北京五輪は予選リーグで敗退したが、そのうちの本田、岡崎、長友、内田が南アフリカ大会で活躍をしている。

そればかりではない。五輪代表に選出されながら、W杯代表に選出されなかった選手もいる。世代別の選手の浮沈を明確にするには、「OA枠」を使用しないほうがわかりやすいのである。

日本サッカー界において重要なのは、ブラジルW杯予選突破であり、さらにW杯ベスト8以上である。そのためにも、若手の台頭が望まれる。現A代表には年齢的にというよりも活力という意味で、すでに下り坂に入った選手が何人かいる。旬の選手が彼らを追い越すことが代表強化に直結する。

ロンドン五輪サッカーにおいて、日・韓・ブラジル・メキシコがベスト4に残ったからといって、欧州・アフリカの力が落ちてアジアが強くなったとはだれも思わないだろう。世界のサッカー界においては、五輪はあくまでも通過点にすぎない。メダルよりも大事なのは、U23世代の経験なのである。


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