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2010年07月09日(金) 萎縮したドイツ――スペイン決勝進出

準決勝のドイツ−スペイン戦は結果を説明しにくい試合だった。これまで、抜群の攻撃力を誇る相手に対して――ラウンド16でイングランドから、そして、準々決勝でアルゼンチンから――4点を上げたドイツが、スペイン相手に沈黙した。

この試合は、スペイン、ドイツともに、先発した選手のすべてが、自国リーグに属していることも大きな特徴だった。このような「純粋主義」は、グローバル化の進行するサッカー市場において、スペイン、ドイツという上質のリーグを擁する代表チームにしか実現し得ない現象である。

両者の公式対戦は、2008年の欧州選手権の決勝で、そのときはスペインが勝っている。ドイツは当然、リベンジを誓っているだろうし、W杯で勝てば、欧州選手権の敗北を補ってあまりある。また一方のスペインにしてみれば、大きな大会で勝ったことのある相手、自信があったかもしれない。

W杯のここまでの状態は、ドイツのほうが良かったように思う。少なくとも勢いがあった。若手とベテランが融合し、躍動感が生まれていた。早いカウンターの形ができていて、締めはクローゼがほぼ完璧にやってみせていた。一方のスペインは、ポゼッションを維持する特性を発揮できてはいても、得点力がなかった。エースのFトーレスは故障から完治していない。

ドイツのほうが優位にあると考えるのが普通だろう――試合中のある瞬間、スペインがボール回しに失敗し、ドイツがボールを奪う、そこから早いスルーパスが放たれ、FWのクローゼが得点をあげる。そんな展開でおそらく、ドイツが勝つと。

さて、試合に臨む選手たちの心理状態がどのようなものなのか。両チームが睨み合った瞬間、選手一人ひとりの胸のうちにどのような思いがわきあがるのか・・・さらに、試合開始の笛が鳴り、互いがピッチ上でボールを奪い合ったとき、ある程度の時間が経過したとき・・・両軍の選手たちの心理状態がいかに変化するのかしないのか――を知る由もない。

加えて、この試合を迎える選手たちのコンディションはどうなのか。決勝トーナメント突入後、ドイツは優勝候補といわれたイングランド、メッシを擁するアルゼンチンと、タフな戦いを続けた。その疲労が蓄積しているのかいないのか。スペインだって、けして楽でない相手、ポルトガル、パラグアイと戦ってきた。どちらも、コンディションは万全ではないだろう。

結果から見れば、スペインはその自信が最後まで揺るがず、一方のドイツは時間の経過とともにネガティブな気分を増幅させてしまった(と推測するしかない)。このまま行けばなんとかなるというスペイン、うまくいかない、ボールが奪えない、という思いのドイツ。ドイツが行き詰まった原因は、ボールが奪えない苛立ちからかもしれない。スペインはサッカーが上手いなと。

スペインは、空間として考えれば、ドイツ選手が走りこむスペースを消し、スプリントの機会を与えず、スペースへのパスを出させなかった。しかも、自らは中央からの攻撃を避けた。とにかく、スペインがドイツ得意の速攻を封じたのである。

だが、なぜ、スペインは自分たちの持ち味を失わずに試合に集中できたのか。バルセロナというクラブで日々、プレッシャーを受けつつ試合をしてきた6人の選手が精神的支柱となったのでは、という推測も成り立つかもしれない。

では、なぜ、ドイツはスペインが張り巡らせた防御網を突破できなかったのか――ドイツの選手に、彼らの躍動を阻害するような心理的圧迫があったのか。ドイツリーグ(ブンデスリーガ)は、スペインリーグ(リーガ・エスパニョーラ)より、やわいのか。問いと推測が循環するばかり。

よくわからないのがサッカー。試合はやってみなければわからない。終わってみれば、“ここ一番で力が出せなかったドイツ”という常套句で締め括るほかない。それが「若さ」「経験不足」なのか。筆者は念仏のように何度も呟く。「強いほうが勝つ」のではなく、「勝ったほうが強い」と。


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tram