2010年02月16日(火) |
岡田ジャパンはどうすべきか |
(1)監督のクビをかけた試合――恐怖のギロチン・マッチ
日韓ギロチン・マッチは、韓国が3−1で日本を圧倒し、岡田監督のクビはもはや皮一枚程度でつながっている状態にまで陥った。筆者はかねがね当コラムにおいて、岡田が代表監督としての資質に欠け、指導力における不適格性を主張してきたので、“なにをいまさら”の感を抱かないでもない。怒れる代表サポーター諸氏、気がつくのが遅すぎたのではありますまいか・・・とも思うけれど、ギロチンを決断できない協会幹部の及び腰には怒りよりも呆れてしまうばかり。
今年がワールド杯イヤーでなければ、Jリーグのシーズン設定からみて今の時期、中国と引分、宿敵韓国に大敗といってもあまり心配することはないかもしれないが、岡田監督はW杯ベスト4を目標に掲げている。それを成し遂げるためには、グループリーグの相手3国・カメルーン、オランダ、デンマークのいずれかに最低でも1勝を上げなければ目標達成の可能性がない。ベスト4が目標となれば、今回の東アジア選手権は、公式戦しかもホーム開催である以上、軽くアジア勢を退け、ぶっちぎりで優勝することが目標であり求められる結果であった。
チーム編成は宿敵韓国と日本の条件は同じ。どちらも国内組中心。ホーム開催の分、日本のほうが有利なはず。さは、さりながら、日本代表選手にとって、この時期の調整は難しい。できれば、故障やケガを回避したいところ。東アジアの3ヵ国は日本に対して強いライバル意識をもっているから、玉際も厳しいしスライディングも深い。アフタータックル、後ろからのタックルもある。韓国戦はまさに、そのとおりの展開となった。しかし、サッカーの国際試合(公式戦)ではこれが当たり前なのであって、W杯イヤーであろうとなかろうと、手加減することはない。ともかく、日韓戦で最初に退場者が出たのは韓国にではなく、日本(一発レッドが闘莉王に出された。)にであった。後半、韓国選手に2枚目のイエローが出て退場者が出たので、反則に関しては五分五分というところか。
(2)W杯に行くことが目的ではない――甘えと油断
日本の代表選手は考え違いをしている。とりわけレギュラーだと思われている選手の心の中には“W杯に行くこと”が目的になってしまっているのではないか。それが名誉なのか、引退後のキャリアの証明なのかはわからないが、ある種の「甘え」だ。
筆者の想像にすぎないが、サッカー市場辺境地域のアフリカ、東欧、中南米等の選手がワールド杯の代表選手に選ばれることは、サッカー市場における中心すなわち欧州クラブのスカウトの目に留まる最大のチャンスとなり、その先には、ビッグクラブとの契約=巨額の富が見えていることを意味する。だから、モチベーションはすこぶる高い。彼らが、国家の代表というモチベーションだけで戦うW杯出場経験者を凌ぐ活躍をみせることもある。代表監督は、初出場選手の意欲を上手に使うことも求められる。その結果、W杯における新星が毎回登場する。
(3)ジーコの失敗――代表にはクラブチームとは異なるノウハウ必要
岡田ジャパンは、この時期、レギュラーを固定して、代表チームをクラブチームのように練成し、戦い方の共通した考え方(俗にしばしば「チームコンセプト」と呼ばれる。)の徹底を図ろうと試みているようだ。このやり方は、ドイツ大会で失敗したジーコ方式に似ている。ジーコジャパンのように、代表チームをクラブチーム化する練成方式もなくはない、成功事例もある。サッカー後進国の場合、たとえば、「ドーハの悲劇」を経験したときの日本代表や、リーグが発展していない時代の韓国代表、そして実際に国内リーグが機能していない北朝鮮代表などがこの形だ。ジーコジャパンは、当時の日本の主力選手――ヒデ(ボルトン)、稲本(ウエスト・プロムウイッチ)、俊輔(セルティック)、高原(ハンブルガーSV)、大黒(グルノーブル)が海外に出ていて、チームとして練成する方針は、実際には失敗に終わった。
(4)日本代表のアポリア――ドメステッィクなJリーグ日程
各国主力選手が欧州に集中している今日、各国代表選手の多くがW杯に臨むまでのスケジュールは、欧州各国リーグが終幕するまでクラブに拘束され、終幕後の4〜5月にかけて代表合宿に参加しW杯本番に臨む。その間、長ければ2月間が休養と代表チームとしての練成期間になる。岡田ジャパンの場合、海外組はほぼ上記の通りのスケジュールで進み、国内組の場合、Jリーグが3月に開幕し5月中旬まで続き、Jリーグ中断後代表チームに参加する。代表チームの練成期間はおよそ1月間だ。ジーコジャパンと変わらない。先述の通り、ジーコ方式はドイツ大会で失敗している。国内組はJリーグの序盤のパフォーマンスで評価されるが、これは過酷このうえない。欧州の選手のように、シーズンを通した評価がくだされないからだ。
(5)代表のチームとしての練成は1月間――選手選考はそれまで白紙
ではどうすればよかったのか。Jリーグのスケジュールを変更することは不可能であるし、欧州リーグも無理、いわんやW杯ももちろん無理。日本代表はこうした所与の条件でW杯に臨まなければならないのだ。
筆者ならば、代表チームの練成期間を代表選手決定後以降の1月間弱に定め、それまで、選手を完全競争状態に置く。このやり方は、練成期間が短いという弱点をもっているが、代表選手を固定してしまうことによる代表有力選手の「油断」を回避できる。
たとえば、東アジア選手権で一発レッドを出された闘莉王だが、彼は内心“自分のスペアは日本にはいない”と思っているのではないか。彼が、生まれ故郷であるブラジル国籍を放棄して日本国籍を取得した理由は、彼の実力では絶対にセレソンになれないからだろう。日本国籍ならば、彼は悠々W杯に行かれる。そこで認められれば、Jリーグよりはギャラの良い欧州クラブに移籍できる可能性が開ける。彼がブラジルに戻れば、国内の平凡な選手で終わる。
岡田監督は、最終ライン(CB)を固定し、中澤・闘莉王の2人を競争状態に置かなかった。日本人のCBはレベルが低く、この2人を追い越す人材が少ないことも確かだが、それでも、2人のうちどちらか、または、いずれもが、明らかに代表チームにとってマイナス戦力であると断定できるのであれば、選ばない選択肢があった。そのためには、岩政や山口らのCBを代表に呼んだとき、試合に使えばよかった。
いずれにしても、闘莉王を切る決断は、いまからでもできる。彼がチームに与える影響がマイナスであれば、浦和が彼の契約を更新しなかったように、あるいは、日韓大会でトルシエが当時、国民的アイドルであった中村俊輔を切ったように、また、フランス大会直前、岡田監督がカズと北沢を切ったように・・・海外では、日韓大会直前、アイルランド代表監督のミック・マッカーシーが、当時、主力中の主力であったロイ・キーンを代表から放逐したように・・・
主力選手を代表から外す理由は、上記のケースにおいてもそれぞれ異なっている。だが、外すことでチームが浮上することを監督が確信するならば、理由の如何を問わず、「正しい」。
(6)W杯までに日本代表は「何をなすべきか」
端的に言って、最も簡単な方策は、代表監督を代えることだ。ところが、協会はそう決断しなかった。ならば、日本代表を現象学的に還元するしかない。第一に、岡田監督自らが、現在のチームの解散・解体を宣言することだ。そのうえで、グループリーグ突破に目標を定め、突破のための具体策を論理的に構築し、それに基づく選手選考を行うことだ。たとえば、予選突破の絶対条件を初戦のカメルーン戦勝利と定め、カメルーンの弱点を具体的に示し、カメルーンに勝利するためのチーム(選手起用、戦略・戦術)を構築するしかない。アフリカ選手権のビデオを見る限り、カメルーンはCBとGKの連携が悪く、ベテランDFのソングのスピードが落ちているから、その間で勝負できるFW(例えば佐藤)を選ぶとか、攻撃の中心エトーを抑えるためには、密着マークを得意とする稲本を起用するとかである。そのようなロジックの下で日本代表をリストラクチャリング(再構築)できれば、日本代表の再生の道は開ける。
いま、日本代表に必要なものは、ベスト4という抽象的目標ではない。さらに、これまでレギュラーとして扱ってきた選手に対する予見を外すことだ。W杯の1試合、1試合(実際には予選リーグ3試合)に臨む作戦と選手起用に基づき、そこに勝利をもたらす可能性を探ることだ。そして、その探求の下で、テストマッチにおける個々の選手のパフォーマンスを検証することだ。そのような認識で予定されたテストマッチに臨むのであれば、東アジア選手権のような無様な試合を選手がすることもない。時間と試合数は、きわめてわずかではあるが。
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