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2009年06月04日(木) 時代錯誤のキリン杯

6日、サッカーW杯アジア地区最終予選、日本対ウズベキスタン戦がウズベキスタンホームで行われる。前哨戦2試合(キリン杯)では、日本がチリ、ベルギーを相手に共に4−0でくだして優勝を飾った。サッカージャーナリズムは、“岡田ジャパン絶好調”と報道し、これにより、日本のサッカーファンのみならず、サッカーに多少なりとも関心を寄せる日本国民の多くは、日本が世界で一番早く南アフリカ行きを決めるものと確信を抱いているに違いない。

日本がキリン杯でチリ、ベルギーに圧勝したことは事実であり、そのことを否定しようもない。だが、筆者には疑問が残っている。というのは、日本の2つの勝利が日本の実力を証するものなのかどうかについてである。

日本のスポーツジャーナリズムは伝統的に、日本の対戦相手に関する情報を正しく伝えない。その特徴を最も顕著に表したのが、亀田兄弟のマッチメークであった。亀田兄弟が倒してきた相手ボクサーというのは、その実力に大いに疑問のある者であった。亀田兄弟がそのような相手を早いラウンドにてKOするたびごとに、スポーツジャーナリズムは“秒殺”と称して、亀田兄弟の“実力”を賞賛してきた。そして、その延長線上に内藤戦の不始末が生じたことは記憶に新しい。

筆者は、世界各国のサッカー事情に疎く、チリ、ベルギーの代表選手の常連の顔と名前を知らない。だから、キリン杯に来日した両国の代表選手がどれほどのレベルであるのかを判断できない。しかるに、今回来日した両国の代表選手は、チリ、ベルギーの国籍を有したサッカー選手という程度にしか了解し得ないのである。

もしかしたら、彼らの多くに潜在能力があり、いずれ、南米、欧州の一流クラブでプレーする可能性があるのかもしれない・・・いや、潜在能力どころではない、来日した選手は正真正銘の代表であり、今回はチームとして、調子が上がらなかった結果なのかもしれない・・・筆者にとって重要なのは、チリ代表、ベルギー代表の実態である。南米予選、欧州予選に出場している選手のうち、だれとだれが来日し、だれとだれが来日しなかったのか。今回、初めて代表入りしたのはだれとだれなのか。来日した選手がどこのクラブに所属し、どのような成績を残しているか等々が知りたいのである。

日本サッカー協会が亀田式のマッチメークで圧勝を演出し、日本代表の“実力”を日本のサッカーファンに印象付けるような興行を催したのならば、そのことは自殺行為である。自殺行為をもって、日本がW杯4強という目標があたかも、喫緊の課題であるかのような錯誤をサッカーファンに与えることは、それは犯罪行為である。

日本代表が圧勝して喜ばぬサッカーファンはいない。スポンサーも大満足であろう。しかし、このような公式試合を何百回催しても、日本の実力は上がらない。日本代表の実力を上げる方法は、厳しいスケジュールの中、アウエーで、日本より実力の上の相手と戦うこと以外にない。

ホームの満員のスタジアムでチリもしくはベルギーの国籍を有した選手で構成された2チームと日本代表が試合をして勝利しても、日本代表の実力は上がらない。反対に、0−4で負けた両国の来日選手たちは、完敗という経験をもちかえり、今後の精進の糧とするかもしれないし、自らのキャリアからの清算を願うかどうかはわからないものの。

話は飛躍するが、キリン杯、キリンチャレンジ杯の役割は終わったように思う。日本のプロ野球界でも、シーズン終了後、米国のメージャーリーグ(MLB)チームもしくはMLB選抜を日本に呼ぶ興行があった。それは、日本のプロ野球の実力がMLBに遠く及ばない時代、読売が率いる巨人軍が全盛の時代の慣例だった。しかし、時代が変わり、日本人選手がMLBに進出し、毎日、TVでMLBの試合が見られるようになり、WBC大会で日本が連続優勝するような時代になってしまえば、MLBとのオープン戦には何の意味もない。顔見世興行で日本がMLBに勝とうが負けようが、ファンは関心を示さない。日本人選手がヤンキースの4番に座り、日本人投手がレッドソックスのエースの時代である。日本のMLBファンは、シアトル、ニューヨーク、ボストン・・・へ、と、MLBの試合を見に出かけていく時代である。

筆者の子供のころ、プロレスにおいてもWリーグと銘打たれた興行があった。筆者の子供のころといえば、外国人プロレスラーすべてが奇怪な存在であり、それが世界各国の衣装をつけて現れただけで驚異だった。いまのキリン杯は、昔のプロレス興行を引きずった、誠に陳腐な「公式戦」である。

キリン杯はサッカーにおける、時代錯誤の興行である。熱心なサッカーファンならば、世界のW杯予選の試合の様子はわかっている。チリやベルギーが本番の予選であんな無様な負け方はしない。プレスをかけない守備で勝てる試合は、W杯予選では皆無である。

無論、こんどのウズベキスタン戦で日本が勝つか負けるかは、このことと無関係である。勝てば、キリン杯の役割が認められ、負ければ、それが貶められるという性格のものではない。重要なのは、日本サッカーの国際試合のあり方なのである。日本がウズベキスタンに勝とうが負けようが、キリン杯が時代錯誤の国際試合興行であることに変わりない。


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