WBCで「世界一」になった日本プロ野球。その興奮も冷めないまま、日本プロ野球が開幕した。「世界一」監督の原が率いる読売はホームで広島に負けた。WBCに選手を送らなかった中日が、開幕戦を飾った。開幕戦の勝ち負けだけで優勝を云々することはもちろん、できない。とにかく、リーグ戦は長い。
しかし、リーグ戦序盤は、各チームまちがいなく、WBCの影響を多少とも受けるだろう。MLBでは、イチローが胃潰瘍で故障者リストに入り、開幕戦不出場が決まった。MLBの各チームは、“だからいわんこっちゃない、WBCがチームの財産(選手)を毀損したではないか”と怒っているのではないか。
世の中というものは、すべてうまくいくことはない。「プラス」を得れば、ほかのところで「マイナス」を被る。WBCで「得たもの」の代わりに、リーグ戦では「失うもの」がある。イチローはWBCを通じて不調だったものの、決勝戦で勝ち越しヒットを打って面目を保った。今思えば、不調のプレッシャーが彼の胃を破壊していたというわけだ。
WBCで日本が優勝したことで「得たもの」とはなにか――日本人選手の場合、MLBのスカウトの目に留まり、大金を得るチャンスを引き寄せたことだ。活躍したダルビッシュ、岩隈、杉内らの日本人の投手陣は、来シーズン、MLBに入団する可能性が高い。選手以外では、なんといっても原代表監督である。原は王に次ぐ世界的実績をつくった。なんといっても、世界一の監督は広い世界を探しても、王、原の2人しかいないのだから。これで、野村、星野の評価は地に落ちた。選手、監督以外では、視聴率を稼いだテレビ局だろうか。
「得たもの」「失ったもの」はさまざまだが、しかし、最大の問題は、日本のプロ野球界がWBCを適正に評価することが出来ていない点だ。日本球界、そして、日本の野球ジャーナリズムは、場当たり的にしか、WBCを評価しない。あるときは、米国民の無関心さ、MLBの非協力ぶりから、WBCはおかしな大会だといい、日本代表が優勝に絡み始めテレビ視聴率が上がると、「世界一」と騒ぎ出す。WBCの本質を見極め、普遍的に評価しないから、損益を確定することもできない。
そのような日本球界にあって、唯一、WBCを否定的に位置づけ、揺るがなかった球団が中日ドラゴンズ(落合監督)だ。中日の姿勢は、MLBの球団と概ね等しく、代表に選手を送らず、リーグ戦に向けて例年通りの準備をしてきた。筆者は、中日の球団としての姿勢を評価するし、中日と筆者は、WBCに対する評価を共有する。
次回のWBC開催が、どのようなかたちで開催されるかはわからない。開催時期が変わり、MLBが全面的に協力するかもしれない。サッカーW杯のように、世界中からのコンセンサスを得た大会に向かう可能性がないわけではない。だが、今回のような大会が再現されるのであれば、日本は、イースタン、ウエスタンレベルの選手を送り込んだほうがよい。サッカーのU23のような年齢制限による選手選考でもよい。ドリームチームは今回の優勝で最後にしたほうが、代表監督の人選における混乱や、リーグ戦へのマイナスの影響を回避できる。
さて、これから続く日本プロ野球のリーグ戦、順位はどうなるのか。筆者はプロ野球をあまり見ていないのでわからないが、セリーグにおいては、WBCに選手を送らなかった、中日に是が非でも優勝してもらいたいものだ。
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