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2009年03月29日(日) 2009年 暗い旅(第4章)

サッカーW杯アジア最終予選、日本はホームでバーレーンに1−0で辛勝した。唯一の日本の得点は、中村俊輔が蹴ったFKがバーレーンの壁に当たってゴールに入ったもの。バーレーンには不運だった。とはいえ、日本が貴重な勝ち点3を手に入れたことは紛れもない事実。日本が南アフリカ行きを“ぐぐぐっと”、近づけた勝利だった。

日本がアジア各国と戦う公式戦は、概ねこのような試合展開になる。ポゼッションは、日本のほうが相手国を圧倒する。がしかし、日本は得点を入れられない。試合を通して目立つのは日本選手全員の献身的で果敢な守備。前線の選手も相手にプレッシャーをかけ、高い位置でボールを奪い、攻撃に転じる。左右のSBも長い距離を走り、サイド攻撃を仕掛ける。サイドが基点となり、ワンツーを使って相手ペナルティーエリアに入ろうとする。悪くない戦術である。気迫でも運動量でも相手を上回っている。

それでも、この試合のように、得点シーンといえばFK、CK。バーレーンの守備陣は長身選手が揃っているため、CKからの得点にはなりにくい。前出のとおり、この試合では、壁に立ったバーレーン選手のクリアのヘッディングがゴール側に高い角度を描き得点に至ったもの。日本にとって、幸運以外の何ものでもない。

バーレーンは、左サイドからの攻撃パターンが目立つ程度で、日本が決定的ピンチに陥るシーンは見当たらなかった。守備は堅いが攻撃力がない。バーレーンのサッカーを将棋に喩えれば「受け将棋」で、相手が指しきりで終われば勝ち点1をかたく手に入れることができる。もちろん、隙をついた速攻で得点を上げられることもあろうが、その確率は低い。マチャラ監督はグループ2位を諦め、3位でプレーオフ狙いに切り替えた、という報道もあった。いかにも本当らしい報道で、いまのバーレーンの実力ではオーストラリア、日本には届かないという思いがあるのかもしれない。「3位狙い」ならば、アウエーは「攻め将棋」よりは「受け将棋」というわけか。

マチャラ監督を批判するのは簡単だけれど、世界の潮流としては、プロの監督が玉砕覚悟の「攻め将棋」を選択することはない。昨年行われた、クラブW杯で西野監督率いるG大阪が、マンチェスターユナイテッド(MU)を相手に、乱戦で負けたことを日本のサッカー関係者及びサッカージャーナリズムが絶賛したことは、筆者にとって驚きだった。玉砕は真剣勝負において、「禁じ手」である、というのが筆者の基本的思考方法だからだ。筆者の思考回路では、玉砕は勝利に向かう最善手ではない、プロは勝つことが義務である、勝つ確率の高い戦術を選択するのがプロの(監督の)義務であるはずだ・・・決勝でMUと対戦したリガ・デ・キトは、徹底した守りでMUを苦しめたものの、ルーニーにゴールを割られて敗れたが、戦力に劣るキトが勝利を実現するため、彼らなりの最善手を尽くしたことは理解できる。キトの敗戦とG大阪の敗戦を比較すれば、キトのほうがプロとしての義務を果たしたのであって、G大阪を評価しない――というのが筆者の基本である。ことほどさように、筆者の思考回路は、日本のサッカー風土とは相容れない。

さて、話が横道にそれてしまったので本題に戻す。いずれにしても、昨日の勝利で、岡田ジャパンが南アフリカ行きをほぼ決定した。病気で倒れたオシムの後を受けた岡田が、課せられたノルマ(予選突破)を果たすことは確実となった。しかし、岡田と日本サッカー協会が交わした契約を岡田が履行し、岡田がそれなりの報酬を受けることはどうでもいいことで、日本のサッカーがいまのままでいい、というわけにはいかない。

今回の予選突破の主因は、日本がアジア最終予選のグループ分けにおいて、W杯出場経験国――北朝鮮、韓国、サウジアラビア、イラン、オーストラリアの5カ国のうち、オーストラリアだけが日本と同組になるという幸運に恵まれたことだ。このような幸運が毎回続くわけではない。日本に勝てない中東諸国も、経験を積めば、今以上に日本の難敵となる。ただいまのサッカーアジア勢力図の使用期限は、おそらく、2010年までだろう。

現状を冷静に見てみよう。Jリーグには、いい外国人選手が集まらない。若手のストライカーが育たない。90分間を走りきるスタミナがない。闘莉王、中澤頼りのCB、中村俊輔以外には、海外リーグでレギュラーがとれない・・・

素人が考えたって、日本のサッカーレベルが落ちていることは、歴然としている。そればかりではない。指導者の質を見ても、シャムスカ(大分監督)、ストイコビッチ(名古屋監督)以外、これといった指導者がJリーグに現れていない。とりわけ、日本人指導者は全滅だ。岡田(代表監督)よりは実績で秀でる西野(G大阪監督)だが、それでも、前出のとおり、サッカーの基本的な思考方法において、海外とは隔たりがある。

ではどうしたらいいのか。答えは簡単だ。いまの日本のサッカー界の常識をすべて否定すればいい。サッカー協会の人事を入れ替える。代表監督は、岡田ではだめ。Jリーグには優秀な海外選手、海外指導者を積極的に導入する、サッカージャーナリズムは、試合ごと、厳しく選手・監督を批判・批評すること。なんでも応援の代表サポーターは解散すること・・・ざっと思いつくままに挙げたまでだが、実現性に乏しいとは言っていられまい。たとえば、中田ヒデを協会のアドバイザーに加えるだけで、日本サッカーは変わる可能性が高い。ヒデには、少なくとも、学閥に頼るスポーツ官僚的根性はないはずだ。しがらみのない人間でなければ、新しい波は起こらない。


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