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2005年12月28日(水) 俊輔の活躍は報道に値しない

日本のスポーツジャーナリズムは、日本代表・中村俊輔選手のスコットランド・リーグでの「活躍」を日々、大々的に報じている。スコットランドというと、いまは英国の一地域だけれど、民族的・文化的には英国から独立した存在だ。だから、FIFAは、スコットランド、英国それぞれにサッカー協会を設立する自由を認めている。
極東の日本人には、スコットランドと英国はほぼ一体に見えるけれど、それぞれのサッカーのリーグの実力については、大変な開きがある。直近のFIFAランキングでは、英国9位、スコットランド60位。スコットランドより上位には、バーレーン52位、ジンバブエ53位、イラク54位、ベルギー 55位、トーゴ56位、グアテマラ56位、ザンビア58位、ウズベキスタン59位が列挙される。
筆者は、FIFAランキンの精度については、常々疑問視している、と当コラムで何度も書いてきた。とりわけ、日本の15位はバブルであり、FIFAランキングは参考にならないのだが、では、スコットランド60位は低すぎるかといえば低すぎとしても、40位以上は難しい。
日本のスポーツジャーナリズムは、倒錯している。もし俊輔がウズベキスタンやバーレーンのリーグで活躍したとしたら、こんなにも大きな記事で伝えるのかどうか。俊輔が活躍して当たり前、と感じるのではないか。日本のスポーツジャーナリズムは、スコットランドと英国の実力の開きをまったく理解していないと疑われても仕方がない。
さて、このたび、俊輔が所属するセルティック(グラスゴー)に元アイルランド代表キャプテン、ロイ・キーンが入団する。ロイ・キーンは英国プレミアで大活躍した実績のある超大物(34歳という高齢だけれど)だ。その彼があまたの欧州強豪クラブのオファーを断り、サッカー人生晩年の舞台としてスコットランドを選んだのか。
ロイ・キーンはアイルランド人(アイリッシュケルト)で、スコットランド人(スコティッシュケルト)と同じケルト系に属す。ケルト系住民はアイルランド、スコットランドを問わず、住民の多くがカトリックを信仰する。その結果、ケルト系住民は、プロテスタント(新教)・英国から差別と大弾圧を受けた歴史を持っている。
俊輔、ロイ・キーンが属するセルティックのホーム=グラスゴーには、プロテスタント系のクラブチームである、レンジャースが存在する。グラスゴーを舞台に繰り広げられる、カトリック(セルティック)とプロテスタント(レンジャース)の戦いは「オールドファーム・ダービー」と呼ばれ、宗教的要素を土台として、その熱狂振りは凄まじい。
アイリッシュケルトであるロイ・キーンは幼いころから、「オールドファームダービー」で戦うことを夢見ていたといわれる。つまり、ロイ・キーンは、敢えて危険な表現を使うならば、スコットランドの“宗教ダービー”に参戦したのだ。
とはいえ、英国とスコットランドの対立の歴史的背景は別として、サッカーのレベルでいえば、俊輔がイタリアセリエA、Jリーグで活躍した選手である以上、FIFAランキング60位の国内リーグで活躍したからといって、手厚く報道する意味はなかろう。


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