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2005年11月15日(火) スイスの勝利が意味するもの

世界各地で、W杯ドイツ大会に向けた、プレーオフ(PO)が始まった。筆者が注目する試合は、当コラムで絶賛したスイスが出場した、対トルコ戦だ。スイスは、フランス、アイルランドの二強といわれたグループにおいて、アイルランドを最下位に蹴落として、POに進出した。一方のトルコは、日韓W杯で日本のベスト8入りを拒んだばかりか、ブラジル、ドイツに次いで、大会3位の好成績をおさめた強豪だ。格という意味では、トルコの方が数枚も上だ。代表選手が活躍するリーグ、クラブを比較してみても、トルコの選手の方が強豪に属している。
さて、試合はホームのスイスが2−0でトルコに勝った。筆者が欧州予選でもっとも「良い」チームとまで断言したスイスが、あと1戦の結果次第でドイツに行ける。
試合展開は省略するが、この試合の見所は、TV解説者・K氏が指摘されたとおり、「トルコの個の守備に対して、スイスの組織的攻撃が通じるか」にあった。トルコ代表のDFには、Jリーグ浦和に在籍したアルパイが復帰していた。だからというわけではないが、Jリーグにたとえれば、浦和(トルコ)−千葉(スイス)の戦いに似ている。そして、結果は組織のスイスが、個のトルコから点を奪い、守備でもトルコを完璧に封じたのだ。
反論はあるだろう。スイスがホーム、トルコの主力の多くが、ケガと出場停止で出場していない・・・云々。だが、そんなことより、遠い欧州の小国で行われていたPOの大一番を見ながら、筆者はまったく別のことを考えていた。
話は2002年に遡る。冒頭に記したとおり、日本代表は雨の仙台で、トルコに敗れ、W杯日韓大会における決勝トーナメントから姿を消した。この一戦をもって、日本の挑戦は終わった。
敗戦から数日後、日本サッカー協会の一機関が、この敗戦に関する1通のリポートを作成したといわれている、と同時に、トルコ戦を観戦したジーコ氏が、トルシエ監督に対する強い批判を開始した、ともいわれている。リポートの内容は、日本の組織依存は限界、個の強化に入らなければ、世界の壁は破れない、というような内容だといわれているし、ジーコ氏のトルシエ批判の内容も、当時の代表選手は「トルシエのロボットだ」というような意味だったといわれている。そして、リポートとジーコ氏の怒りは一本の流れにまとまり、「ジーコジャパン」が誕生したという。ここまでの経緯は、当コラムで書いたことがある。ジーコ氏のトルシエ批判を受けた日本のスポーツジャーナリズムは、「個人崇拝と創造性」の大キャンペーンを展開し、今日に至っている。
さて、02年、日本に引導を渡したトルコが、06年W杯予選POで、スイスに負けた。まだ、完全に負けたわけではないが、POで1敗した。しかも、TV解説者のK氏の慧眼が見通されたように、スイスがトルコに組織で勝利した。再三再四、繰り返すことだけれども、組織は規律に通じるのであって、けして創造性や個人に通じるものではない。
02年のトルコ戦で日本が敗けたのは、[組織]が[個人]に負けたのではなく、不十分な[組織]が優秀な[個人]に敗けたのだ。だから、トルシエの仕事は「やりかけ」だったのにすぎない、とも換言できる。
スイスは欧州の小国だ。W杯出場回数は多いが、ベスト8に入ったことはない。国内リーグの規模も小さいし、傑出した選手もいない。せいぜい、イングランド・プレミア、ブンデスリーグでレギュラーの選手が数人いるにすぎない。個の力を見れば、日本と似ていなくもない。もちろん、トルコの力が02年当時をピークとして下降気味だという評価もあるかもしれない。それでも、小国スイスがトルコに勝ったことは、組織強化次第で、小国が強豪国に勝てる可能性を示している。
結論は繰り返しになる。02年、ジーコ氏の代表監督就任をもって、日本(代表)サッカーが、とんでもないジグザグ路線を歩まざるを得なかったことが残念でならない。失われた時間は戻らない。日本の身の丈を計り損ねたのだ。
02年のトルコ戦のあと、トルシエジャパンを批判するリポートが実際に存在したのかどうかは、筆者にはわからない。だからもちろん、それをまとめた責任者がだれかもわからない。かりにリポートをまとめた人物が日本サッカー界の関係者として現存しているのならば、数日前行われたPO・スイスvsトルコのビデオを見てほしい。できれば、K氏が解説したもののほうが良いだろう。
日本サッカー協会は、スイスがどうやっていまの代表チームを強化してきたかをリポートにまとめたほうが良い。スイスに日本が学ぶことは、かなり多いと筆者は考えている。筆者は06年ドイツ大会に期待することがない、と当コラムで書いた。いまの日本代表の路線から、06年以降の展望は見出せない。だから、一度リセットすることが必要なのだ。PO開催時は、06年以降のビジョンをつくるに絶好の機会だ。サッカー関係者は、各地で行われる(た)POを、一戦たりとも見逃してはならない。


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