Sports Enthusiast_1

2005年11月06日(日) 努力は報われる

千葉がナビスコ杯で優勝した。感激した。サポーター、優勝した千葉の選手、そして負けたG大阪の選手も泣いた。とりわけ、敗れた側のフェルナンジーニョ(G大阪)の泣き顔が印象的だった。アップで映し出された童顔の彼の泣き顔は、悪戯をして母親にしかられた幼児の表情のようだった。この「幼児」は母親にではなく、老獪オシムにお灸をすえられたのだった。それくらい、この試合におけるオシム采配はすごかった。「良かった」「うまかった」を通り越した「すごみ」を感じた。何かがのりうつったのだろう。神?悪魔?どちらでもいい。先が見えたのだ。ただ、報道によると、PK合戦はさすがのオシム監督も見られず、ベンチ奥・ロッカールームに一人引きこもっていたというから、カリスマもこのときばかりは、神に祈っていたのかもしれない。
オシム監督に弱気をもたらせたものは、ピッチにいた妖精(主審)の悪戯だった。残り3分をきったとき、千葉の巻がゴールネットを揺らした。あざやかな決勝ゴールとは言えないけれど、彼らしい泥臭いゴールだった。試合は90分(+ロスタイム)で終わるはずだった。にもかかわらず、巻のゴールは取り消されてしまった。おそらく、あざやかではないシュートであるがゆえに・・・
Jリーグのピッチ上で、ちょろちょろ動き回る妖精は、いろいろな悪さを仕掛けることで有名だ。ハンドゴールを見落としたり、選手を傷つける悪質タックルにカードを出さなかったり、ルールを間違えたりなのだが、とりわけ、魔法(カード)を使ってピッチから選手を消すことが得意なので困る。
ビデオが妖精の悪さを記録しているものだから、最近は少し慎重になってきたけれど、事件は途絶えることがない。この試合の妖精は、選手達が恐れるSR(スペシャルレフリー)の肩書きがついていた。SR妖精はとわけ凶暴なのだ。
この日、神?が憑依したカリスマ・オシムでさえも、獰猛なSR妖精の被害から逃れられなかった。だから、試合がPK戦にもつれたとき、オシム監督はロッカールームで祈ったに違いない。“妖精に勝利を奪われませぬように・・・”と。
さて、千葉の勝利については、多くのメディアの報道の通りだと思う。「走るサッカー」が有名だが、調子のいい選手を使う、規律(約束事)をつくる、その規律を選手に守らせる、規律を守る選手を使う――選手の「名前」や「キャリア」にこだわらず、監督が課した役割を実行できる選手を試合に出す方針がなによりも徹底していた。おそらく、オシム監督が日本代表監督ならば、ジーコ監督のように、海外のクラブに「所属する」だけの選手を、優先的に試合に出したりはしないだろう。
千葉のサッカーは「走れなくなったところで終わり」だといわれた。リーグ戦では後半75分近くで運動量が落ち、リードを守れなくなった試合も多い。ところが、この試合では延長30分間中も運動量が落ちなかった。足をつった選手の数は、G大阪の方が圧倒的に多かった。鍛え方の違いが歴然としていた。
サッカーでは、選手を鍛えてうまくするのはクラブの仕事だと言われる。南米では若い才能のある選手を育て上げて欧州に輸出する。そこで得られた収入が、クラブ運営を支える。今季、(金満)磐田に元五輪代表監督が新任し、千葉から村井、茶野、チェ(京都にレンタル)という代表選手を引き抜いた。それでなくとも選手層の薄い千葉だから、絶対ピンチ、降格候補ナンバーワンと言われたものだが、リーグ戦が始まると、直接対決で千葉は磐田を圧倒したばかりか、現在、磐田より上の順位にいる。ご承知のように、磐田には代表、元代表、若手の有力選手が掃いて捨てるほどいる、にもかかわらずだ。
磐田の選手に努力が足りないとは言わない。サッカーに限らず、監督、選手、クラブ・・・は、1日24時間という同じ長さの時間が与えられている。その時間をうまく使えば成果が上がるし、下手にすごせばそれまでだ。オシム千葉と元五輪監督率いる磐田は、その意味で今シーズン、対照的な結果に終わりそうだ。
カップ戦ではあるけれど、千葉がサッカー日本一に輝いたことは、日本サッカーの新しい地平を開いたと考えていい。新しい地平とは、指導者の重要性(見直し)ということだ。指導者次第で、選手はうまくなれる。Jリーグ、日本代表を問わず、いい指導者を探す努力をしてほしい。「オシムを発見」した千葉のクラブ関係者の慧眼に敬服するばかりだ。だがまてよ、千葉といえば、川渕キャプテンの出身クラブ・古川電工ではないか。川渕キャプテンは、日本代表監督にジーコ氏を選んだ。いまの日本代表には、千葉がもっている「良さ」がまるでない。千葉(オシム監督)の何もかもが良いとは言わないけれど、世界の一流と比べて戦力に劣る日本代表がW杯で勝つためには、千葉のようなひたむきさ(豊富な運動量、スピード)が必要ではないか。オシムイズムにあって、ジーコイズムにないもの――それが日本代表に絶対に必要なもののように思える。
蛇足ながら、千葉がトップを極めたことで、サッカーにおける[組織・規律]と[個人・創造性]の議論は完全に決着がついた。戦力的に下回る千葉がG大阪に勝てたのは、選手がオシム監督の意を受けたからだ。そのことはトルシエの意を受けた日本代表がW杯日韓大会で結果を出したことと等しい。オシムイズムを認識する際に最も重要なことは、千葉の優勝が、日本サッカー界を蝕む[個人・創造性]信仰・幻想を唾棄したことにある。


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