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2005年10月21日(金) 田中達の負傷について

先日の当コラムで、土屋(柏)にレッドカードが出ていると勘違いして、「出場停止処分が解けても謹慎してほしい」という意味のことを書いてしまった。土屋にイエロー、レッドは出ていなかったので訂正する。
さて、その「タックル事件」が尾を引いている。田中(浦和)はかなり重症のようだ。川渕キャプテンがこの事件について、当事者である土屋を擁護した。負傷した田中も、土屋に気を使って、「恨んでいない」という意味のコメントを出した。土屋は、事の重大さに気づいて、相当落ち込んでいるともいう。
浦和サポーターの怒りをこのまま放置しておけば、次回の浦和vs柏は遺恨試合になる可能性がある。選手同士、最初は自制が利いていても、スタジアムのムードに煽られて、試合中の一発のタックルをきっかけにして暴力の連鎖がピッチ内外に拡大するかもしれない。最悪の事態を回避するため、「サッカーは危険なスポーツ、だから、ゲーム中の負傷もあり得る」という「大人の解決」に向かっているように見える。
結果論で恐縮だが、事件のあったシーンをビデオで見ると、田中がゴール(向かって)左でトラップしたとき、田中の周囲にはかなりのスペースがあった。土屋はタッチライン沿いにいて、田中のマークを外していた。そのため、土屋はほぼフリーの田中めがけて一直線にタックルに走った。田中はトラップ後、ゴール正面に走りながら右足シュートを狙う態勢をとろうとした瞬間かもしれない。田中が土屋の動きを認識(予見)していなかった可能性が高く、それが重症につながったという想像は可能だ。
土屋のタックルで田中は一瞬にして倒れた。田中が体ごともっていかれた映像ではなく、田中の体は植物のようにピッチに立ちながら、根元から折れたようにも見えた。
田中が倒れたときのテレビ放送の映像は、カメラが俯瞰気味なので、二人の足の位置関係がまったく見えない。ピッチレベルのカメラアングルならば、田中の足に対して、土屋の足がどのような角度でぶつかったのか、あるいは、ぶつからなかったのかがわかるのだが、そのような映像は管見の限り存在していない。
川渕キャプテンの「裁定」では、土屋のタックルはボールに行っていた、とコメントされている。それが事実ならば、土屋のタックルは、田中の後からボールをまっすぐ蹴りだす直線方向ではなく、ボールをタッチライン側に角度をつけて蹴りだそうとした可能性があり、そのとき、土屋のどちらかの足が田中の足首を襲った、という想像が可能だし、タックルに行った足ではなく、残ったほうの足が田中の足首を襲った可能性もある。
う〜む。こう書いていて空しさが残る。こんな想像をしてもはじまらない。結果としては、田中というプレーヤーの商売道具の足が、土屋のタックルで骨折したという事実以外は残っていないのだが、冒頭に書いたとおり、主審は土屋のプレーに対してカードはもちろん、ファウルもとっていない。土屋のタックルはボールに行っているという「判定」にもかかわらず、田中の足首は骨折した。審判の「判定」及び川渕キャプテンの「裁定」は、満員のスタジアム、衆人環視の中、超常現象が起きたことを意味するかのようだ。
土屋のタックルで田中の体が飛ばされ、着地のときに足首を捻ったということも考えられるが、前述したようにテレビ映像では、田中が飛ばされたという印象はない。ドーンというよりも、グッシャと田中が崩れ落ちたように見えた。
土屋のプレーがラフであるために田中にケガを負わせたのか、悪い偶然が重なり合って事故が起きたのか、このあたりは素人で部外者、中継映像だけしか情報がない筆者にはわかりにくい。けれども、試合中のサッカー選手同士ならわかるのではないか。田中の近くにいたマリッチ、長谷部が頭を抱えたポーズから想像すると、“あってはならないプレー”だった確率が高い。だが、「土屋の処分」はもちろん、あり得ない。主審がファウルとさえ判定していないプレーで、選手が処分されることはない。
この事件の背後には、まず1つとして、筆者がたびたび当コラムで指摘してきたように、Jリーグの審判レベルの低さがあるかもしれない。事件が起こる予兆として、柏の選手の退場処分があった。主審がたびたび柏に「不公平」と思われる判定を行った、という声もあった。その結果、入れ込んだ柏の選手が深いタックルをした可能性もある。そうだとするならば、主審のジャッジが事件を呼び込んだ可能性がある。川渕キャプテンはJリーグの審判問題の重大さがわかっていない。Jリーグチェアマンも審判問題について積極的な手を打っていない。両者とも、審判ばかりを擁護するかのようであり、試合中カードが多いのは選手の技術が低いかのような態度だ。
事件の背景の2つ目は、柏のチームコンセプトの不在だ。
話は飛躍するが、スイス代表は、W杯欧州予選でグループ2位通過で、惜しくもプレーオフにまわった。下馬評ではフランス、アイルランドが二強といわれたグループだったが、スイス、イスラエルが健闘し、なかでもスイスは強豪2国に割って入った。もちろんこの先のプレーオフで敗退する可能性もあるけれど、スイス代表は、筆者が好きなチームの1つである。このチームはフランス、アイルランド、イスラエル・・・とよく噛み合うし、ファウル、とりわけ汚いプレーが少ない。スピードがあり組織的な守備をする。決定力に欠けるところが弱点かもしれないが、欧州の小国としては立派なチームをつくってきたといえる。
筆者が日本のクラブチームに求める理想は、スイスのようなチームだ。規律が高く攻守の切り替えが早い。スピード、パワー、運動量が試合終了まで落ちない。そして、ファウルをしない守備力が相手にフリーキックを与えない結果につながり、セットプレーからの失点を防いでいる。
土屋の所属する柏がどのようなチームを理想としているのか、シーズンを通してわからないままだが、闘志や闘争心だけではサッカーは勝てない。一対一や玉際に強いという意味は、相手選手を壊すようなプレーをしてもいい、という意味ではない。柏の指導者は、技術とパワーとハートの三位一体の指導をこの先、選手にしていくことが求められている。土屋一人の責任で済まされる問題ではない。


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