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2005年10月08日(土) 上場すべきか

阪神球団の株式上場が話題になっている。村上ファンドが球団の親会社・阪神電鉄の筆頭株主になり、子会社の球団株の上場について、現経営陣と協議を開始したらしい。
球団株の上場の是非については、一般企業が株を上場することにメリットとデメリットがあるのまったく同じことで、どちらがいいとは言えない。上場すれば大量の資金調達が可能な反面、このたびの阪神電鉄のように、株の買占めの対象となる。このことはもちろん、球団株の上場に限ったことではなく、すべての企業に共通している。欧州のサッカークラブが上場して、失敗したという情報も聞いている。勝敗次第で球団株が上下するとなると、選手・監督には相当なプレッシャーがかかるだろう。けれど、それがエネルギーになって、選手はより真剣に試合に臨むかもしれない。ファンとの一体感も増すから、選手の技術向上につながる可能性が高い。グッズの売上拡大も重要だから、商品開発が真剣になる。ファンはいままでより、適正価格で良い商品を入手できるかもしれない。もちろん、企業が資金調達を図る手段は株式上場だけではない。新たなスキームを模索する道もある。たとえば、SPC(特定目的会社)を使った、球団資産の証券化が思い浮かぶ。株式上場以外の手法については、専門家の提案を待ちたい。
ところで、野球協約には球団株上場についての明確な規定はないが、持ち株名義に変更があったとき、届出の義務があるという規定が事実上というか運用上、上場禁止に該当する。さらに、れいの「公共財」の規定を、上場禁止として読めるかどうかの議論になっているようだ。
上場が良いか悪いか――への回答は、良い面も悪い面もある、という以外ない。すべての企業と同様、株式上場が成功することもあるし失敗することもある。つまり、経済人には、株式上場を選択をする自由、さらに、語弊はあるものの、その結果失敗する自由も保障されている。試みる前から、やらせない、認めない、できない・・・となると、経済人の自由が奪われていることになる。現行の協約が球団経営の選択肢を制限しているとしたら、そのことを規制と呼ぶ。規制が拠って立っている構造を改革することを「構造改革」と呼ぶ。
上場反対の急先鋒は読売らしい。日本プロ野球をつくったのは読売だから、読売のやり方しかやらせない、という論理が上場禁止の趨勢に反映している。読売が目指したプロ野球のあり方は、何度も当コラムで書いたとおり、「プロレス野球」だった。「巨人」を頂点にしたプロ野球を理想としながら、もちろん、野球は1球団では成立しないから、「巨人」と「その他球団」という図式をつくった。その体質は半世紀以上経過したにもかかわらず、変わらないままだ。だから、読売のW氏が、自分の流儀に合わない球団経営を目指す「株式上場」を阻もうとしているというわけだ。
さて、日本における野球組織でリーグ戦を運営しているのは、アマチュアの東京六大学、関西六大学などの大学野球組織があるくらい。都市対抗は大会方式(カップ戦)で、大企業のスポーツサークルが肥大化したもの。強大な高校野球もカップ戦だ。東京六大学リーグは「早慶戦」が売り物で、残り4大学(球団)はおまけみたいな存在で、なんとなく「プロレス野球」に近い。しかも、春夏年2回の開催で、リーグ期間も短い。一方、プロリーグとしては、今年から四国独立リーグが発足したが、消滅は時間の問題とも思える。
つまり、読売が創設した日本「プロ野球機構」に対抗できるプロリーグ組織は存在しない。唯一の機構に自浄作用があるかといえば、もちろんない。だから、構造改革は期待できないので、空しい議論が交わされつつ、新しい試みを放棄したまま、時が過ぎていく。このまま時代に取り残されれば、行き着く先は「自然死」だ。読売がつくった日本プロ野球はいずれ、消滅する、というか、消滅したほうがいい。


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