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2005年01月02日(日) 磐田、重症か

元旦の天皇杯は、1人少ない東京Vを磐田が攻めきれず、東京Vが優勝したことは既に書いた。数的優位に立った磐田が、終盤は一方的に押し込みながら、攻めの形が整わず、1点を返したにとどまった。もちろん東京VのGKの奇跡的と思える堅守はあったものの、磐田の攻めはどこか単調だった。というよりも、攻め手に迷いというか戸惑いが感じられた。
この試合後、磐田の新監督は「ゴール前を固める相手を崩すのは難しい。シュートまでもっていけたが、決められなかった」と話した。
一方、交代出場した藤田は「ポジションがばらばらだった。慌てる時間ではなかった。もっといろいろな崩し方があったと思う」とコメントした。
指揮官と、磐田の主力でリーダー格の藤田とで、試合後のコメント内容は分裂していた。もちろん、負けた監督が試合後のインタビューで本音を語るはずがないから、コメントの内容が180度違っているからと言って、驚くには当たらない。
新監督と藤田のコメントの背景を分析してみよう。新監督は一人少ない東京Vがワントップ・平本を除いて自陣ゴール前に引く作戦を見て、選手交代とポジションチェンジを敢行した。20分すぎからのシステムは、FWに中山(前田に交代)、藤田(グラウ同)を入れ、福西をトップ下、川口(菊地同)を前目の左SBに入れ、実質2バックをとった。戦法は、引いた東京Vからプレスがかからない、ほぼフリーの名波らが前線の選手の頭めがけてクロスボール、ロングボールをいれ、左サイドから自由ポジションとなった西らがこぼれ球を拾ったり、福西、中山らが折り返したりして決定的チャンスを狙う作戦だった。数的優位にあるチームがとる作戦としては悪くない。けれど、攻めが単調となり、バランスを失うこともある。両刃の剣だ。
ここで先述の新監督と藤田のコメントに戻ろう。新監督の「シュートまでもっていったが、決められなかった」というのは、自分の作戦は正しかったが、選手が決められなかった、という意味だ。
一方の藤田の「もっといろいろな崩し方があったと思う」というコメントは、「個々の選手の基本的役割を重視し、きっちり組み立て、たとえば、サイドからなどの多彩な選択すれば勝てた」ということを意味している。前段の「ポジションがばらばらだった。慌てる時間ではなかった」というのは、監督が指示した作戦のタイミングが早すぎたこと、得意のポジションを外されて不本意なポジションでプレーさせられたこと、への不満だ。藤田のコメントは、新監督の采配批判にほかならない。
新監督が自分の作戦を自画自賛して、負けは選手の責任だと言い、主力選手は監督の作戦と起用法を批判する。天皇杯決勝の磐田の「負け」は、もしかしたら、このクラブが深刻な問題を抱えていることを明らかにしているのかもしれない。
さて、新監督はなぜ、ポジションを無視した大胆な選手交代を伴った作戦を行ったのか――答えは簡単、新監督の経験の浅さからだ。焦りである。“数的優位に立った、相手は引いているし、DFに高さはないし、若い、ゴール前に放り込んでおけば相手は慌ててミスをする・・・早いとこ追いつけば・・・”と思ったかどうかは別として、それに近いゲーム観が感じられた。
結果としては、新監督の作戦は失敗した。この結果は、監督のイメージと選手のそれとが乖離していたことからきたものだ。
藤田を筆頭に、磐田の選手たちは、これまでやってきた自分達のサッカーをやれば、一人少ない東京Vには勝ち越せると思っていたに違いない。ところが、2点リードされた後の後半20分過ぎ、監督の理解できない選手交代が始まって、磐田の攻めは単調になった。後半1点を返したけれど、そこまでだった。
私の観察では、磐田がいいサッカーをした時間帯は、前半1点を先行された直後だった。残念ながら、前半は時間がなくなり追いつけなかったけれど、あの時間帯で選手はやれる、という実感を掴んだに違いない。磐田の混乱は皮肉にも、後半8分、東京Vの小林が退場させられてから起こった。0−1のビハインドで相手が一人少なくなった、時間はたっぷりある、さあ・・・というところで、磐田に異変が起きたのだ。新監督の心の中に、功を急ぐあまり、焦りと試合の流れの読み違いが生じたのだ。しかも、アドバンテージをとったはずの磐田が、平本の強烈なカウンターを食らって差は2点に広がってしまった。そうなると泥沼状態で、焦りはバラバラの攻めの形となり・・・というわけで、詳しい展開は前述の通りなので、繰り返さない。
サッカーはわからない、指揮官の判断ミスで、勝てるゲームを失うこともある。指揮官のゲームプランと選手の抱く戦いのイメージにズレが生ずれば、選手の集中力もなくなる。そして、運からも見放される。
天皇杯決勝から学ぶべき教訓――サッカーの栄光は監督次第。


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