10球団・1リーグ制にメリットがないわけではない。球団がなくなればその分、登録選手が他球団に流れ、レベルの低い選手が登録から外れる。そこで、プロ野球のレベルは一時的に上がる。レギュラー選手の数が減るのだから当然のことだ。ただし、これはあくまでも、一時的現象にすぎない。 10球団・1リーグ制でプロ野球のレベルを恒久的に維持することは難しい。球界のレベルを向上し続けるには、なによりも、球界が流動性を持たなければいけない。 流動性の1つは、上下の関係だ。米国のプロ野球がメジャー⇒マイナー(3A→2A→1A)というシステムをもっていることはよく、知られている。選手は各リーグでふるいにかけられ、優れた選手が上がる。選手をふるいにかけるのは、試合を通じた実績だけだ。主観主義は通じない。加えて、独立リーグ、メキシコリーグ等の周辺リーグが存在し、選手はそこに属しながらチャンスをうかがう。いってみれば自由市場があり、市場原理が貫徹しているというわけだ。 一方、日本のプロ野球は、一軍→二軍という、貧困なシステムしかない。二軍もウエスタン、イースタンというリーグ戦を戦っているが、米国のマイナーリーグのような独立性に乏しい。一軍の調整機能としての役割が強い。つまり、上下の流動性は極めて弱い。 もう1つの流動性は左右の関係だ。日本では、トレードは極めて低調で、それをリストラの手段にしている球団もある。 ルーキーの採用も不公平で、ドラフト制度は形骸化している。逆指名というわけのわからぬ制度があり、高校生以外は自由枠が設けられている。これでは戦力の不均等が避けられない。ドラフトが形骸化していて、FA制度があるとなると、人気球団に有名選手が集中化する。セリーグの読売、阪神がFA制度導入以降、大幅に戦力アップを図った。 これまで、パリーグは、セリーグと米国(メジャー)に有力選手を供給してきた。パリーグは、マイナーリーグの役割を果たしてきたのだが、これは悪いことではない。パリーグで実戦経験を積むことで、優秀な選手が才能を伸ばすことが可能だった。たとえば、野茂、イチロー、大塚、松井(稼)、田口、※伊良部はパリーグで育ったメジャーリーガーだ。一方、セリーグ出身のメジャーリーガーといえば、松井(秀)、石井、高津、※佐々木、※新庄といったところか。※印はいうまでもなく、元メジャーリーガーだ。大家、※マックは日本球団の在籍が短かく、彼らはメジャーで育った選手だ。 こうしてみると、パリーグは、人気はないが、才能のある選手が集まっていたことがわかる。米国に行かずにセに移った清原、片岡、ローズ、小久保、工藤といったパリーグ出身者を含めると、パリーグはタレントの宝庫だったことがわかる。野球の質が粗っぽいとか、田舎くさいとか言われながらも、「実力のパ、人気のセ」という評価は、間違いではなかった。 セリーグというのは「巨人」中心で、「巨人」が勝つことで客は喜ぶ。球場に行けば、「巨人」以外の選手は、刺身のツマのような存在だ。プロレスで言えば、ヒールだ。そんな雰囲気の中、「巨人」を倒すことに情熱を燃やした選手もいることはいるが、勝って喜ばれない雰囲気よりは、パリーグのような自由な雰囲気で伸び伸びプレーをしたほうが、選手の技術向上につながりやすい。こうして、パリーグはセリーグにない豪快・奔放なベースボール風土が形成された、と私は想像している。 さて、パリーグがなくなって1リーグ制になるということは、日本のプロ野球が、セリーグに一本化されたと換言できる。これまで、才能を伸ばしサムライを育ててきたリーグがなくなったことを意味する。これは日本のプロ野球レベルの向上という観点から見れば、きわめて危険なことだ。「巨人」以外の9球団の選手は引き立て役、せいぜいヒールにとどまる。狭い東京ドームを舞台に、怪しい「飛ぶボール」でホームランが量産される。元パリーグのロッテ、西武、日ハム、ブルーウエーブの選手は、千葉、所沢、札幌、大阪ドームに戻っても、ホームなのに、全国展開のノーテンキな「巨人ファン」に囲まれ、ホームの気分に浸ることができない。球団は「巨人」人気で集客力がアップするから、ますます本気で球団経営を考えない。ダラダラとした、これまで70年も続いたセントラルリーグのありようが、この先も縮小再生産されるというわけだ。 こんな「セリーグ野球」を、この先、だれが支持するのだろうか。少年時代、巨人ファンだった「私」は、10年以上も前に野球ファンであることをやめた。野球を見ることが苦痛になり、サッカーを楽しんでいる。しかしながら、野球からサッカーに鞍替えした「私」は極めて少数派だ。日本では野球はメジャースポーツとしていまなお、君臨している。野球を志す若者が絶えない。ならば、プロ野球を健全なスポーツに改善していくしかない。「巨人」(ハンサム)とそれ以外の球団(ヒール)が戦い、常にハンサムが勝つという「プロレス野球」に終止符を打たなければいけない。このたびの、「近鉄騒動」は、それに向けた絶好の機会なのだ。不況が外圧となって、日本プロ野球に改善を迫ったのだ。 だから、先述したように、10球団1リーグ制という、一見斬新なスタイル変更にとどまってしまってはだめだ。先述したように、選手の流動性を立体的に高め、戦力を均衡化させ、市場原理が貫徹するインフラを整備しなければいけない。そのうえで、各球団が投資をすることは自由なのだから、できる限りの企業努力をすればいい。 インフラ整備、ドラフト制度、FA制度、トレードのあり方を含めた、総合的な見直しがなされるという条件付きで10球団が覇権を争うならば、1リーグ制プロ野球も捨てたものではないかもしれない。
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