私が通っているスポーツクラブのインストラクターのK君がプロボクシングのライセンスを取ったとインストラクター仲間が教えてくれたのは、3月のはじめころだった。なんと、デビュー戦が今月中にあるという。K君は26歳、「なんとか会館」という空手系の総合格闘技道場にいたのだが、膝を痛めてボクシングに転向したのだ。それもミドル級という重いクラス。その後、私が風邪をひいたりでクラブを休むことが多くK君と会えず、結果が気になっていた。 今日、クラブに顔を出したのだが、やはり、K君は来ていない。仕方がないので、たまたま通りかかったS君に、K君の試合のことを聞いてみた。結果はなんと、KO負けだったという。 「試合、見に行ったの?」と聞いたら、「内緒で見に行きましたよ」とS君。「どんな感じだった」と聞いたら困ったような表情で、「全然・・・」。かなり一方的な敗戦だったらしい。S君の説明だと、まわりは勝ち目はないと見ていたというのである。いくら格闘技をやっていたといっても、グローブをつけてボクシングのルールでやれば、空手とボクシングはまったく異質のスポーツらしい。S君の説明では両者の違いはスピード、そして「感性」だというのである。おもしろい言葉が出てきたものだ。 というのも、実はこのS君、ボクシングの経験者なのだ。何ヶ月も前、たまたま、彼とボクシングのことを話したことがあった。そのとき、「華麗、センス、スピード・・・」とボクシングを礼賛していたっけ。K君のことを「まわりは勝ち目はないとみていた」と私に説明したけれど、実はS君自身が勝ち目がないと思っていたのかもしれない。 スピードと感性――誠にいい表現ではないか。これぞ、すべてのスポーツに共通する真髄というものだ。
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