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五十嵐 薫
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エンピツユニオン

2013年01月11日(金)
DEAD FLOWERS

タクシーを呼ぼうと思って、止めた。

勝浦ぶどう郷駅までは徒歩40分と、看板に書いてあった。
南アルプスの稜線をオレンジに染める夕日を、眺めながら歩きたいと思った。



遊歩道というよりは、ぶどう畑の中をくねくねと伸びる農道。
一月の今、歩く人間は僕一人だ。

甲府盆地の向こうに幾重にも連なる山並み。一番高い稜線は白く雪を被っている。
空の青、宇宙の黒、夕日のオレンジ、雪の白。
景色の輪郭が徐々に薄れ、色彩だけになる時間が好きだ。

黄金色と蒼の複雑なグラデーションの中を飛行機が、夕日に機体を輝かせながら遠ざかっていく。



時々美しい景色を見ると、死んでしまったサイと眺めたいと思う。
死んでしまったゆいに見せたいと思う。



望んでも逢えないって意味なら。
君も、サイやゆいと一緒だ。
君のことを思い出したっていいんだけどさ。

君は生きてるだろ?
あれからいろいろな出来事を重ねて、昔の記憶なんてどんどん上書きしてると思うんだ。
時々爪でひっかいて思い出が顔を出したとしても、そこに張る絆創膏を差す出す人もいるハズだしさ。
もっと素敵な風景を見てるかもしれない人に、自分の見てる風景を見せたいなんて思うのちょっと変じゃん?



ごめん。嘘だ。
今日降りた東山梨の駅が無人駅でさ。
君と初めて会った場所に似てた。
だから言うけどさ。

本当にキレイな空だったんだよ。






大好きだよ。
死んじゃった女の子と同じくらい。


エンピツ