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五十嵐 薫
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頑張ろう東北!
エンピツユニオン

2012年02月05日(日)
Pearl

窓際のテーブルがいっぱいだと言われて案内された席だったが、海岸を眺めることはできた。
冬型の気圧配置が作る不安定な大気。荒天を予感させる雲の色。
それでも、日曜の午後らしく、海辺にはそれなりの人影がある。
砂浜に置かれたウィンドサーフィンのセール。
行き交うノースフェイスやパタゴニアのウィンドブレイカー。犬を連れたダウンジャケットの家族。
濡れた砂に点在するそれらの色彩は、遠目からはまるでビーズをばら撒いたかのようだ。

運ばれてきたコーヒーのカップで、かじかんだ指先を温める。
一口口に含み、鼻を啜る。
あわててペーパーナフキンに手を伸ばす。
さすがに、バイク向きの陽気じゃなかった。

リュックから取り出した文庫本をめくっていると、テーブルの上の携帯が震えた。
ディスプレイに表示された名前を見て、脱いであったダウンを掴んだ。
袖を通しながら、テラス席につながるドアに向かって歩く。

テラス席には人がいなかった。
夏なら真っ先に埋まる特等席だが、二月の今じゃ仕方ない、

他愛のない会話を重ねながら景色を眺める。
西の空に広がる雲。そのしっとりとした重さを感じさせる黒がいい。
夕凪の海は、まるで大河のように、穏やかに水面をたゆらせている。

携帯をポケットにしまいながら、席に戻る。
凍えた指先を温めようとカップに手を伸ばす。
ほんの数分でコーヒーはすっかり冷めていた。



134を西に向けて走る。
対向車線の混雑と裏腹に、江ノ島方面に向かう車はない。
重たい雲の隙間から時折降り注ぐ、光の筋が美しい。
一瞬輝く空は、金糸、銀糸をふんだんに使った重厚なタペストリーのようだ。



漆黒の雲の後ろに透けて見える太陽。
その輪郭が真珠のように、滑らかに輝いている。


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