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2009年07月01日(水) |
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トロイメライメルトダウン |
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車窓を落ちる水滴がふいに斜めに流れ、僕は電車が動き出したことを知る。 動き出した車軸は僅かに微熱を帯び、世界の湿度をさらに上げる。
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ベッドの上に座っていた君が不意に顔を上げる。 発光する液晶に照らされた横顔の白、闇と同化した漆黒の髪、腕に走る幾筋かの赤。 カーテンの向こうの雨の匂いに鼻をひくひくさせた君は、すぐに自嘲気味な小さい笑いを口に滲ませた。
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動き出した列車の、窓を流れる水滴越しの世界を眺めながら、僕はアインシュタインのことを考える。 考えるけれども、すぐに飽きる。 この世界の形とか、この列車の行き先とか、止まないこの雨のこととか。 浮かんでは消える取り留めない思考は、窓を流れる水滴に似てるとぼんやり思う。
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何度目かの決意。 同じ数の諦観。 降っては止む雨のようだと君は思う。
永遠に雨の止まない熱帯雨林なんてどうだろう? 何もかも腐敗した森に立ち暗い空を見上げる自分。 自分、なのだろうか。 腐敗した肉を滴らせたこの骸骨を、私と呼んでいいのだろうか?
君は死んだ後の世界を思いながら、回り始めた睡眠薬が意識の底でゆっくりと熔解していくのに気付く。
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雨音。 暗転。
トロイメライ。
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