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2007年11月17日(土) |
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パズル |
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女は背中を丸めて何かに熱中していた。 肩越しに覗き込むとスパイダーソリティアだった。
「こういう単純なゲームって止まらないよね。」 スペードの8をどこのラインにつけるか迷いながら呟く。 「ローカルルールつけようか。」 「え?」 僕の提案に女は振り返る。 「ルールをひとつ追加。カードの移動は右方向のみ。ただし一番右のラインだけは全てのラインに移動可。どう?」 「やってみる。」 女はしばらくあれこれマウスを動かしていたがすぐに諦めた。 「ダメ。全然上手くいかない。」 口を尖らせた女はそのままPCの前から離れた。
僕は笑いながら女が座っていた椅子越にマウスを動かす。 メールが一通。 ざっと目を通す。 女が横から覗き込む。
「お詫びのメール?」 「そうみたいだね。」 「どうしたの?」 「貸してあげた資料の文面そのまま雑誌に使っちゃったんだよ。」 「資料?」 「昔、取材したヤツ。」 「取材?新聞記者だったとか?」 「まさか。」
PCの電源を落とす。 それを見た女はいそいそと出かける準備を始める。 食事に行く約束をしているのだ。
「さっきのソリティア。」 マスカラを塗りながら女は訊いた。 「いつもあんなルールでやってるの?」 「思いつき。ゲーム自体しない。」
簡単なルールをひとつ追加するだけで単純なパズルが難攻不落のゲームに変わる。 だが、そこにもレトリックはある。 幾らルールが追加されようとそのパズルの、構造自体は結局単純なままなのだ。
短い文面から察知しての素早いレスポンス。 優秀なエディターはそうじゃなきゃいけない。 資料は返さなくてもいいから今度飲みに行こう。
追加したいルールは大したことじゃない。 文面から僕が特定されなきゃいい。 ソースとはまだ切れてないんだ。
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