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2007年10月17日(水) |
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秋 |
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女は不意に屈み、地面に手を伸ばした。 はい、と目の前にさしだされたのはドングリだった。
「くぬぎの木のかな?これ。」
僕の答えを待たず、女は目の前の大きな木を見上げる。 女は木の幹に身体を預け、まるで愛おしむようにその太い幹に両手を回す。
「あはは。腕、回らないよ。」
振り返った女は愉しそうに笑い、そのままクルリと身体を反転させた。
「ここでしよう。」
女はくぬぎの幹に手を突いたまま座り込んでる。 膝に引っかかったままの下着。 ブーツのヒールには腐葉土。
女はまだ収まらない呼吸を無理やり押さえつけて言う。
「スカートに飛んでないよね?」
うなじに張り付いた髪の毛。 くぬぎの幹に添えられた女の指は、イったときのまま広がってる。
「君は蝉みたいだね。」
「セミ?」
「木に止まり、大きな声を出す。」
「あはは。」
女は声をあげて笑った。
蝉は、来年の夏もこの森で鳴く。
でもそこに、 今年鳴いた蝉は、いない。
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