職業婦人通信
DiaryINDEXpastwill


2004年08月20日(金) 脂汗の夏 (立山・黒部死の行軍編)

(ここまでのあらすじ)

黒部ダム旅行の前々日、腰を痛めてしまった千代子。
イマイチ気が進まなかったとはいえ、恒例の相方との旅行を目前に控え
満足に直立歩行すらできない状態に。

しかし、容赦なく時間は過ぎ、出発はその日の夜に迫っていた・・・

----

出発の日の晩。

会社も終わり、着替えて帰ろうとした千代子は
靴下を履き替えようと屈んだ瞬間に

「・・・!!」(声もなく固まる)

ギックリ腰を再発させ、靴下を片足履きかけたままで
立ちあがれなくなってしまった。

ギックリ腰の苦しみというのは経験者にしかわかるまい。
腰の神経に唐辛子を塗って電気を通したような、
脳天まで一気に駆け上るタイプの強烈な痛みなのだ。

四つん這いになった状態でその場から動けなくなった千代子は
その2分後、靴下を履きかけた状態のままで
「ちょ、ちょっとぉ、千代子ちゃん!大丈夫??」
と、同僚に発見され、女として一世一代の恥をかいた。

とてもじゃないけど電車で帰宅はできないので、
相方リョウスケに会社まで車で迎えに来てもらった。
腰が曲がったまま苦悶の表情を浮かべる彼女を見たリョウスケは仰天し、
「・・・行くの・・・やめるか?」
と言ってくれたが
「大丈夫よ、ダムに行きゃ治るって」(無根拠)
と意地を張り、千代子はついに旅路についたのである。

相方リョウスケの車で夜中の12時に東京を出発。
第一の目的地・立山までは車で5時間〜6時間はかかるという。

その間、サスの固い相方の車でゴツゴツと揺られて脂汗をかきながら
千代子はひたすらビールと酒を飲み、
自らに睡眠が訪れて楽になれることだけを念じていた・・・。

酒がもたらす浅い眠りに身を委ねること数時間。
立山に到着した頃には
私の目の下にくっきりと黒い隈ができ、
飲みすぎたビールのために頻尿となり、
しかしトイレでしゃがむのも限りない苦行となるため、
半死半生の体たらくであった。

トイレからよろよろと出てきた千代子が見たのは
朝もやの中にいるハンパない数のおじさんおばさん。
しかも皆、本気系山登りにぴったりの服装と靴ではないか。

「なんでみんな、あんなに本気系のカッコウなのさ?」

と、相方に聞くと、

「うん、まぁ、行き先が山だからねぇ・・・
 だからみんな一応、山っぽい格好してきてんじゃないの」

と言う。

千代 「・・・や、山ぁ??ここってダムじゃないの?」

相方 「あれ?話してなかったっけ?車じゃダムまでは行けないの。
    ダムまで行くにはケーブルカーとかバスとかロープウェーを
    何回も乗り継がないと行けないんだよね・・・
    あのおじさんおばさん達はみんな、周辺の山登ったりとか
    トレッキングする人達なんだろうけど・・・オレらはまぁ、
    そこまでしなくてもいいかなと。
    ここからダムまで行くのにも3時間くらいかかるし」

・・・・。マジですか・・・。

こうして私は本気系トレッキングスタイルのおじさんおばさんに囲まれ、
立山から黒部ダムに向かったのだが
腰の痛みは容赦なく、
・漬物石を腰にぶらさげているかのような重さ
・時々脳天に駆け登る刺激的な痛み
・常に腰にのしかかる鈍痛
に交互に悩まされ、ロクに景色も覚えちゃいない。

立山から黒部までのルートは

立山
↓ケーブルカー
↓バス
↓トロリーバス
↓ロープウェイ
↓ケーブルカー再び
↓徒歩
黒部

という、交通機関を果てしなく乗り継がないと到着せず、
その間、乗換え時間を含めて3時間もの間、
千代子はタラタラと汗を垂らしながら
痛みと闘いつづけたのであった。

苦痛の末、たどり着いた黒部ダムはたしかに美しく、
そして何より、途方もなくデカかった。

デカいダムから迸る水流には虹がかかり、
上から覗き込んだだけで吸いこまれそうに深い。

相方は大感動のあまり、下手なカメラを振りまわしては
写真を撮り、浮かれてそのへんをほっつき歩いていたのだが
時々
「オレの勝手でこんな腰痛の女をここまで連れてきちゃってごめん」
みたいなことを言うので
「来てよかったよー、アンタのおかげでいいもん見たよ」
と、相方のこれまでの段取りを褒め称えたところ

相方は元気づき、
「じゃ、上の展望台に行ってみようぜ!」
と言い出した。

ああいいよ、展望台ね・・展望台ってエレベーター?

と思ったのに、標識を見たら
「地中階段220段 徒歩20分」とある。

220段・・・20分・・・。

激しく脱力し、へたり込みそうになっている
千代子を見た相方は
「そ、そうだよな、ムリだよね」
と、あわてて言い出したので

また千代子の意地っ張りの血が騒ぎ出し
「ううん、大分よくなったみたいだし、行ってみようよ」
と言ってしまったのである。

ここからはまさに死の行軍であった。
脂汗が額から噴出し、
1歩進むごとに針を差し込んだような痛みが走る。
視界は狭くなり、暗くなり、
時折脳天にひびく鋭い痛みに顔をひきつらせながら
千代子は登った・・・。

展望台から見えるダムの水は青く、
壮大なスケールで不思議に自然と調和し、
感動的であった。

苦しみの後だけに、またその感動もひとしお。
いやーよかった!苦労して登ってきてよかった!

----

・・・が、

その感動も束の間、
帰りに再び同じ階段を下ることになり、
「腰痛には下りのほうがキツイ」という事実を思い知らされたあげく
道のりの途中で動けなくなり、
相方におぶわれて階段を降りるハメになるのを
その瞬間の千代子はまだ知らない・・・。


千代子 |MAIL
ご感想をどうぞ。





My追加