妄言読書日記
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2003年08月29日(金) 『砂の女』(小)

【安部公房 新潮文庫】

サスペンス、という感じでした。
読んでいる間ずっと、口の中がじゃりじゃりするような落ち着かなさがありました。
とにかくずっと、砂、砂、砂。
怖いというか嫌な感触の話。
主人公に感情移入できないけれど、かといって全く客観的な立場で読むという事もできない、中途半端な距離が不安感を増幅させたような気がします。

非現実的な設定なのですが、砂の牢獄という焦燥感から来る恐怖はとても現実的。
そして本当に怖いのは、男の今までの生活が反復ならば、砂の部落の生活もまた反復で何も変わらないと気がついてしまうこと。

「このまま暮らしていって、それで何うなるんだと思うのが、一番たまらないんだな・・・どの生活だろうと、そんなこと、分かりっこないに決まっているんだけどね・・・まあ、すこしでも、気をまぎらわせてくれるものの多い方が、なんとなく、いいような気がしてしまうんだ・・・」

なんだか読み終わると、人生ってのが諦めの連続のような気がしてなりませんでした。
なかなか沈みますよ。

しかし40年前の小説なのですが、まったく色褪せてませんね。
外界から遮断されている設定なので、ことさら40年前の小説であることを感じません。
文学小説というのはだからこそ文学なのかもしれませんが。



蒼子 |MAILHomePage

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