冒険記録日誌
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2013年03月17日(日) レシュカの伝説(アレン・シャープ/マガジンハウス)

 久しぶりのゲームブックの紹介はやっぱりマイナー作品です。
 別にマニアっぽさを狙っているわけじゃないけど、この手のマイナー作品はゲームブックとしてシンプルなものが多く、じっくり遊ぶ時間が減っているときには最適なのです。
 とはいえ、本書はさすがにシンプルすぎかな。

 このレシュカの伝説はシンプルな単純分岐小説タイプの作品。そしてパラグラフ数はわずか37しかありません。1パラグラフ数の文章量もそう多くないので、あっという間に読み終わってしまいます。
 以前この日記で紹介した近代映画社の「騎士と魔法使い 君はどちらを選ぶか」シリーズや白馬出版の「オペレーションコニー グリーンベレー特殊作戦」を読んだ時も、このボリュームじゃコストパフォーマンス悪すぎ、と思ったものですが、本書はその半分くらいのボリュームですからね。よく一冊の本に仕上げられたものだと逆に感心してしまいました。
 ページを開けば、本文は大きめのフォントによる横書きでページの上下の余白部分が広いという、上げ底感をたっぷり感じる方法を使っています。そうゆうのは詩集とか「あなたを元気つける100の言葉」のような本のみに許されるテクニックと思いますがね。
 そのうえ気になるのは表紙。一本のナイフの絵が中央に描かれている他は、字ばかりで、学習参考書のように地味。売る気があるのかと、当時の出版社に問い詰めたくなります。
 ちなみに発売当時のお値段は570円也。

 ついついケチをつけまくってしまいましたが、ここらで物語自体の内容を紹介します。
 主人公の“僕”が住んでいるレシュカの谷は悪魔の呪いのようなものによって長い冬におおわれていた。“僕”はレシュカに春を呼び込むために、友達のカラスの“カー”とともに、黄泉の国に冒険に行くというもの。
 春のこない故郷から黄泉の国に向かう展開上からも、全体的に寒々しく寂しげな雰囲気で統一されています。
 登場人物が少なく普通の住民が一切登場しないので、夢の冒険のように現実感に欠けるような気がしなくもありません。ここはプロローグあたりで、レシュカの谷の村人達の生活ぶりを少しでも描写して欲しかったところです。
 ただ、表紙は文句をつけましたが、挿絵の方はそれなりに雰囲気のある鉛筆画のようなタッチのもので悪くないかも。
 また黄泉の国を冒険するゲームブックというと、富士見のブラッドソード4巻「死者の国から還れ!」や、社会思想社のギリシャ神話アドベンチャー3巻「冒険者の帰還」などがあり、それぞれ一味違う世界になっていますが、本書の黄泉の国も独特のルールがあります。
 まず死者はいくら傷つけても肉体がすぐに再生します。このため黄泉の国の住民と正面から戦ってもいずれ負けてしまいます。主人公も死ねば正式に黄泉の国の住民となるので互角の戦いはできますが、これはもちろんバッドエンドです。
 次に死者の国の住民は、自分が何か想像をしただけでそれを実在化することができます。ただし、それは本人にしか見えません。物語中に元盗賊の死者が「死者は食う必要はないんだが習慣でな」と言いつつ、熊の肉を呼び出してむしゃぶり食うシーンを読んで、子どもの頃に読んだ地獄と極楽を描いた仏教マンガで、極楽の住民は欲しいと念じただけで食べ物が出るという一コマを思い出しましたよ。主人公にはさびしい黄泉の国も住民になってしまえば妄想次第で極楽と同じかも。
 ちなみにこの後の選択肢により、主人公が獰猛な犬を従えてるかのようなハッタリをかまして、死者を勝手に見えない何かと戦わせ、自滅させる展開がいいですね。この作品中で唯一面白いと思った箇所です。

 まあ、どうこの作品を評価しても、すぐにクリアできるどころか全パラグラフをすぐに読み終わることが出来るボリューム感のなさといい、ゲーム的にもストーリー的にもまったく物足りない作品には変わりないです。
 そんな中であえて良いところをあげてみると、大弓をかまえた双子の石像の門番とか、黄泉の国の王子との戦いのあとで突然登場したテーブルいっぱいの怪しげなごちそうとか、いかにも洋物製ファンタジー的な仕掛けは、創元推理文庫のゴールデンドラゴンファンタジーシリーズあたりを思い出して悪くないですよ。


山口プリン |HomePage

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