酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2007年02月26日(月) 『ふたつの名前』 松村比呂美

 保奈美が勤めるサードライフと言う会社は熟年、老世代の出会いを提供している。会社の社長に見込まれ、家族は母と優しい義理の父。幸せで恵まれた毎日であるはずなのに、ふとした不安に苛まれてしまう。それは自分のルーツだった・・・

 物語を読む時、作者の人となりを強く感じることがあります。それが作者のカラーとなったかと思うと次の作品で良い意味で裏切られたりする。そんなふうに作者を意識して作品を読めることが出来るって幸運だなぁと思います。実はこの作者の松村比呂美さんとはご縁があって知り合いの仲間に加えていただいています。すごく素敵な方でかわす言葉に人柄が伝わってきます。そんな方が描かれた今回の長編小説『ふたつの名前』は、ミステリー要素もたっぷり、しかもヒロインの成長物語となっていて読んでいて清々しく思えました。タイトルの意味がわかった時にはそっちだったのかーとやられた気分でした。そうであるならば、主人公もまた・・・という無限∞ループ落ちで混沌とするもありかもしれない、ナンテ勝手なことも思いましたが、読了感を考えるとこの結末が一番だったなぁと思います。物語はただ面白いだけでなく希望を与えてくれると自分も頑張ろうと言う気になれます。ヒロインの保奈美がひとつの大きな壁を乗り越えてより素敵な女性になろうとしているところに何より作者の松村比呂美さんを見た気がしました。オススメですv

 ならば、その言葉に責任を持とう。

『ふたつの名前』 2007.2.15. 松村比呂美 新風舎 



2007年02月14日(水) 『危険なふたり』 吉村達也

 豪太はハードな仕事にくたびれ、行きつけの店の店員の桃子の素朴さに惹かれた。思い切って告白メモを渡し、デートすることになった。しかし、桃子は豪太が勝手にイメージした田舎出身の年下の女の子ではなく、都会育ちでいいとこのお嬢さんで年上だった。桃子のためにも仕事を頑張ろうと転職した豪太は、出版社のエリートに目をかけられ、有頂天になったのだが、そのエリートの目的は・・・!?

 つるりと読めるものを・・・と思い、吉村達也さんの文庫ホラー(になるのかなぁ)を読みました。吉村さんの物語は読みやすくて頭の中で映像化しやすくて、そのくせ着地点が読めません。へーこういう落ちなのかぁとちょっと吃驚。こういう妙な落とし方が書いてる当人にはしてやったりなんだろうなぁ(笑)。欲を言えばラストあたりをもっともっとグチャグチャにして欲しかったですね。ドロドロのグチャグチャに! こんがらがってほぐすようがないくらいにして欲しかったー。

『危険なふたり』 2007.1.25. 吉村達也 集英社



2007年02月09日(金) 『月の夜に洪水が』 川口晴

 あきは風俗での衣装のまま屋上に行く。あきは屋上が好きだ。はじめての屋上の時にはメイシャがいた。小学生の時、目医者の息子のメイシャとふたり。幼いふたりの青い恋心と性の目覚め。そのメイシャが事故で死んでから、あきは外の世界を拒否するようになってしまった。メイシャが死んだのは自分のせいだから・・・。

 タイトルと装丁に惹かれて読んでみました。いい意味で裏切られた作品で、読了後に清々しい思いが残りました。とても不思議な物語だったなぁ・・・。青春の儚さや残酷さや青臭さや純粋さがキッチリと詰まっている、そんな感じでしょうか。大きな悲しみにも淡々と悲しむようなスタンスで身を切られるような痛みはなく、きっと誰もが経験したことのあるような・・・そんなほろ苦い悲しみ方。ああ、いいなって思えたことが本当に良かったです。

泣いていると、涙が膜になって別のものを見ちゃう。別のものといってもほんとに見えているから、現実の私たちを変える力があるんだよね

『月の夜に洪水が』 2006.11.15. 川口晴 幻冬舎



2007年02月08日(木) 『輪 RINKAI 廻』 明野照葉

 香苗は娘・真穂を連れて新大久保にいる母・時枝の元へ逃げ出してきた。茨城の名家に嫁いだ香苗は姑の真穂に対する虐待とも言える躾によって真穂が歪んでいく恐怖に耐えられなかったのだ。香苗と時枝は決してうまくいっていなかった母娘だったが、孫の真穂の美しさ愛らしさを目にしたら、母・時枝も相好を崩すだろうと思っていた。だが、真穂を見た途端に時枝の顔は能面のように凍りついてしまった。そして香苗が働きに行っている間に時枝と真穂のふたりは・・・!?

 第七回松本清張賞を受賞された明野照葉さんの名作です。明野さんの描かれる物語には血や因縁がテーマとなることが多いようです。この『輪 RINKAI 廻』はまさに血と因縁に絡め取られた女たちの物語です。こういう陰湿で悲しいモノは日本ならではの血脈のような気がします。だから好きなんですよね。明野照葉さんって。この物語も何度読んだかわからない。でもまたきっとふと読み返さずにいられない。好きな物語、名作と言うのはそういうものだなとしみじみと感じるのです。オススメです。

二十五時は、人それぞれちょっと違うんじゃないのかな。私にとっての二十五時は、いわば諦めの境地よ。出口のない暗いトンネルの中で、もう出口を探すのなんかやめよう、死ぬまでトンネルの中でいいじゃないか、っていうような

『輪 RINKAI 廻』 2000.6.30. 明野照葉 文藝春秋



2007年02月07日(水) 『棲家』 明野照葉

 洋香は広島から東京に出て7年経った。洋香の生まれた日之影は山の中で狭い地域。そして洋香は自分の受け継いだ血に悩み、苦しみ、東京へ逃げ出したのだった。でも東京で逃げるどころか捕まってしまった。自分の血に運命に宿命に。洋香には自分がなすべきことがあったのだ。そして友人を救おうと・・・

 とても好きな本というのは不思議なものだなぁと思います。読むたびに心情が変化しているからか、思い入れや読み方も変化してしまうのです。この『棲家』も何度読み返したことか。今回は特に洋香が気になって仕方なかったです。思うところがあるせいかしら。生きていると様々なものに翻弄されるものだなぁと思います。望むと望まざるとにかかわらず、色んな目に遭って・・・それでも生きていかねばならない。洋香は友人の危機に遭遇し、己の生きる道を確信します。かわいそうだケレドモ・・・それが洋香の行くべき道だったのでしょうね。洋香ガンバレ。そして・・・彼女達のその後を知りたいのですよねぇ。物語の終わった先にはいったい何があるのだろう。物語は終わらない。自分の心であれこれと想像して妄想して物語が続いていく。これすごくオススメですv

あなたもその血と力を受け継いだばっかりに、これから悩んだり苦しんだりすることがあると思うの。だけどね、人間どんなに努力しても、変えられないことというのは、やはりあるのよ。いくら不公平だと嘆こうとね。だって、生まれてきた時のことを考えてみてよ。何も知らず、何ら意志もなく、命を授かって、この世に生まれてきた訳じゃない? 人生なんて授かりものなのよ。何かはっきりした役割を与えられている人もあれば、はっきりとした役割が定められていない人もいる。役割がないならないでそれでいいの。それもまた自分で洗濯することを許された、人間のひとつの生き方だから。でも、もし、これが自分の定めなのだ、これが自分に与えられた役割なのだということに気づいた時は、それから目を背けてしまっては駄目。現世的な常識から見れば、自分の定めや役回りは、損なものと思えることもあるかもしれない。だけど、流れに抗えば抗うだけ、幸せじゃなくなるということもあるのよ

『棲家』 2001.8.18. 明野照葉 ハルキ・ホラー文庫



2007年02月04日(日) 『ガリレオの小部屋』 加納諒一

「無人の市」
 編集者の私は新人賞に応募された『魂ゆらぎ』という作品に出会い、興奮を覚える。これを自分が世に出すのだと思った私は、作者にコンタクトを取る。連絡してきたのは都村と言う男だった。『魂ゆらぎ』は男女ふたりの共同作品なのだが、都村は断固として女性作者に会わせようとしない。私はそこで黒い紙魚のような不安を感じたのだが・・・!?

 この短編は面白かったです! 「これぞ」と言う作品に出会えた編集者の心持が手に取るように伝わってくるのですね。なのに何かがおかしい・・・そこからの展開がウマイv これを軸にして長編にされればいいのに。ある意味ホラーにもなりますね。無気味な展開に圧倒されながら読ませていただきました。大満足。

話題になれば、また本が売れるからって

『ガリレオの小部屋』 2007.1.15. 加納諒一 実業之日本社



2007年02月02日(金) 『LOVE at Night ホストに恋した女子高生』 有也

 タイトルから女子高生が書いたものだと思い込んで読み始めました。でも途中でコレは男性の目線で描かれてるなぁ・・・と感じました。なんとなく生理的に受け付けない違和感、嫌悪感が。これを描かれたのは元ホストの男性だと知り、妙に納得しました。全てのホストを否定するつもりはありませんが、この作者を受け入れることはできないなぁと言う感じですね。ヒロインの女の子があまりにも浅くて愚か過ぎるのです。こういう女の子いるのかなぁ。いるとしたら・・・愚かにも程がありました。ナンパされた男に会いに行って数人の男たちにレイプされてしまう。そういうことがあるから危険だという認識をもってもらえるのであればヨシなのかもしれません。うーん、でもやはりダメ。エンディングも納得いかない。ダメ。ぜんぜんダメ。

『LOVE at Night ホストに恋した女子高生』 2006.9.6. 有也 大洋図書



2007年02月01日(木) 『削除ボーイズ0326』 方波見大志

 小学6年の直都は、デジカメに似ている装置KMDを使って消してしまいたい出来事を消す。そのことによって変化していく現実。削除したい出来事が多すぎて、直都は・・・!?

 「もしもあの時・・・」そんな瞬間は人生にごろごろ転がっている。選ぶのは自分。選んだのは自分。どんなにいやな出来事でも情けない現実でもそれを消し去る事はできない。だから毎日の少しずつをつみ重ねて、それこそが我が人生となっていく。だけど、もしももしもKMDを手に入れることが出来たならば削除したい瞬間を削除してしまいたいなと思う。大人になってもそんなこと思うのだから、小学生の直都がそう思うのもいたしかたないこと。そのことで変化していく状況を受け止めなければならないのも直都。彼はどんなおとなになっていくのかな。ふと大人になった彼らに会ってみたい気がした。この物語、オススメですv

記憶は消せない。忘れられないんだ

『削除ボーイズ0326』 2006.10.4. 方波見大志 ポプラ社



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