酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
DiaryINDEXpastwill


2006年07月31日(月) 『少年陰陽師』短篇集1・2 結城光流

 希代の陰陽師・安倍晴明の孫の昌浩は晴明に後継者と指名されている少年。その生まれ持った才と生まれ持った心根の暖かさゆえ人に愛され人に疎まれる。悩み、傷つき、その時々の困難に立ち向かう半人前陰陽師の成長物語・・・の番外編短編集を2冊読みました。昌浩を取り巻く様々な人間模様に妖怪模様(笑)に小さな恋の物語を垣間見る事が出来ました。昌浩と物の怪もっくんとのファースト・コンタクト(本当はもっくんはずっと昌浩を隠形して見守っていたのだケレドモ)のシーンは笑えます。昌浩の前にぽとりと降ってきた物の怪もっくん。猫か犬かという可愛い外見のクセして落ちた痛みを八つ当たりするように「見せもんじゃねぇぞ」と言うあたり、物の怪もっくんのキュートさ大爆裂! そして本編ではチラチラ登場する昌浩の優しい兄ふたり、成親と昌親が大活躍。同じ安倍晴明の孫でありながら、末の弟が秘めた才ゆえに後継者と名指されたことに僻むでなく己の分をわきまえ、己の才を伸ばす賢く優しいお兄ちゃんズ。昌浩は幸せものだなぁと思います。過酷な宿命に翻弄されても愛してくれる肉親や物の怪や(笑)友や恋人が愛して支えてくれているから。彰子と昌浩の小さな恋の物語も少しずつ少しずつ育っていくもので胸キュンに微笑ましいのであります。彰子は大貴族の姫君だと言うのにソノ宿命ゆえに貧乏陰陽師の家に半永久的に隠れることとなったのに、順応性抜群で賢く愛らしく美しい。昌浩ってばほんに果報者。どうしても物の怪もっくんにばかり目が行きがちな晴明の十二神たちも12神それぞれの個性や神格があり興味深い。登場人物が多いだけに番外短編集で語っていただけるとことのほか嬉しいのであります。こういう物語は読んでるうちに気分は知り合いですからね。そして短編の章タイトルごとに愛らしい物の怪もっくんの姿のイラストがあって無茶苦茶嬉しいです。結城さんは猫か小さな犬と表現されていますが、私のイメージでは兎の方が近いです。ちょいっとクールでスタイリッシュな兎。かわいいよー。

「だからお前なぁ、俺をただの動物扱いするのはやめんか」
「え、だって襟巻き扱いすると怒るじゃんか」
「怒らいでかっ!」
「気難しい物の怪だなぁ」
「物の怪言うなぁっ、晴明の孫っ!」
「孫言うなっ、物の怪の分際で!」


『少年陰陽師 うつつの夢に鎮めの歌を』 結城光流 角川ビーンズ文庫
『少年陰陽師 其はなよ竹の姫のごとく』 結城光流 角川ビーンズ文庫



2006年07月30日(日) 『少年陰陽師 風音編』 結城光流

 「なんたってお前は、半人前でいまいち頼りなくてまだまだ修行中だけど、一応多分きっと立派になるであろう、端くれだけど陰陽師」・・・と、まぁ(笑)いつものことながら昌浩は物の怪もっくんに慰められているようでおちょくられていた。昌浩は三つ年上の陰陽生・敏次にネチネチいじめられていた。深夜に暗躍する昌浩の事情も知らず、爺様の七光りで上層部に可愛がられているとしか見えない昌浩を妬んでいるらしい。昌浩は以前は優しくしてもらっていただけに傷ついているのだった。昌浩の加冠役(後見人)が出世頭の藤原行成であることも妬みを増幅させていた。その行成が怨霊に襲われ、瀕死となる。その背後にいたのは・・・!?(「禍つ鎖を解き放て」)
 貴船の竜神が遊びに来たため深夜に相手をする物の怪もっくん。以前、窮奇に貴船を乗っ取られていた竜神は、封印を解いてくれた昌浩を気に入ったらしい。しかし、遊びに来て眠っている昌浩に完全憑依するため、物の怪もっくんは昌浩の身体が心配で仕方ない。近々またなにか起こりそうだという不穏な言葉を残して去って行く竜神。そしてその予言どおり都に百鬼夜行が近づいてきて、またもや深夜の暗躍に励む昌浩は切々とした悲しい声を耳にする・・・(「六花に抱かれ眠れ」)
 晴明に怨みを持つらしい謎の女術師・風音は、背後に蠢く者のために黄泉に冥穴をいくつも穿っていた。皇子が生まれたため、寂しい想いを必死で我慢する幼い皇女・脩子の心を利用し、現世に瘴穴を穿つ呪法を使っているのだ。人の心を操る風音は、昌浩にとって一番信用する存在を使い卑劣な攻撃をしかけてきた・・・(「黄泉に誘う風を追え」)
 物の怪もっくんの本性・紅蓮(騰蛇)の魂は、縛魂の術にからめとられてしまった。十二神将の中で最強の通力を有する騰蛇が異形に変貌すればかつてないほど恐ろしくおぞましい化け物となってしまう。かつてその力ゆえに晴明の命を危険に晒し、他の十二神将から遠巻きにされていた騰蛇。失いたくない存在を抹殺すべきか否かを迫られ、昌浩が下した決断とは・・・!?(焔の刃を研ぎ澄ませ」)

 窮奇編のラスト(「鏡の檻をつき破れ」)で大泣きに泣かされた昌浩と物の怪もっくんと彰子たちの物語。今回は、晴明を怨みに想う謎の術師しかも超美女・風音が登場し、物の怪もっくんこと騰蛇以外の十二神将たちも続々と登場します。そして哀しみと後悔を背負った騰蛇はまたもや過ちを犯してしまい・・・と言うハラハラドキドキしかもメソメソな展開。希代の陰陽師・安倍晴明が後継者と指名した孫・昌浩は、少年ながら半人前ながら愛と勇気と美しい心で周りのもの全てを巻き込んで困難に立ち向かう凛々しさを持っています。昌浩が苦しめば苦しむほどに彼の心も力も研ぎ澄まされて行く・・・。今回、昌浩がなによりも信頼する存在・物の怪もっくんとの別れを目の前にして彼が下した決断の凄まじさは晴明を貴船の竜神をもすら驚かせてしまうほどのものでした。いやぁ、前回とは違う涙・涙にくれました。なんと言う素晴らしい物語なのでしょう。私はもうメロメロに腑抜けにされております。超オススメv

「もっくん人間と違うだろう! 一応仮にも名前だけかもしれないけど多分神様なんだから、人間ごときに遅れをとるなよなぁ!」
「その『一応仮にも名前だけかもしれないけど多分』というのに『陰陽師』とつなげてそっくりそのままお前に返す!」
「なにおぅっ!」
「文句があるか、晴明の孫っ!」
「孫言うな、物の怪の分際でっ!」
「俺は物の怪じゃなーいっ!」


『少年陰陽師 禍つ鎖を解き放て』  結城光流 角川ビーンズ文庫
『少年陰陽師 六花に抱かれて眠れ』 結城光流 角川ビーンズ文庫
『少年陰陽師 黄泉に誘う風を追え』 結城光流 角川ビーンズ文庫
『少年陰陽師 焔の刃を研ぎ澄ませ』 結城光流 角川ビーンズ文庫



2006年07月29日(土) 『ミカエルの騎士4 緑玉杯の騎士』 前田栄

 どんよりとした曇り空の下、途方にくれている神父がやってきた。アーサーは英国国教会信者で神父はカトリック。同じキリスト教の聖職者でも、宗派が違えば相容れない。しかし、そこは心優しい猫っかぶり(笑)のアーサーのこと、フィリップ・マルゴー神父に宿をかす。科学の話に花が咲き、意気投合をする二人だったが、実はフィリップは密命を帯びてアーサーのもとへやって来たのだった・・・!?

 キリスト教に詳しくないのでありますが(大学がミッション系だったと言うのに)宗教による争いが現代でも後を絶たないことを見ると、根深いものがあるようです。「緑玉杯の騎士」では、キリスト教の聖地バチカンから密命を帯びてフィリポ(十二使徒のひとり)が登場します。ミカエルの騎士はバチカンの最高機密だった訳ですね。なのでアーサーは盟主としてバチカンから狙われる事と相成りました〜。「黄玉の盾」ではウリエルの騎士アンデレが登場。傷ついて歪みながら美しい魂を持った不思議な男。アンデレの歪ながら美しい魂は大事な友・シヒルを裏切りった後悔が創り上げていた・・・。「水面に映る白き花影」はアンデレとシヒルの物語。物語には枝葉があって、それをキチンと語っていただけるところに好感を持っています。ひとつの物語に登場する人物だけの枝になる物語がある。それを語ることが出来ずにいる物語のなんと多いことか。ミカエルの騎士シリーズは、主だった登場人物の枝の物語をメインに変えて描いてくれる形式を取っていて、そのことがますます物語りのイメージを大きく膨らます事が可能でした。その上、挿絵もものすごくイメージを刺激するので読んでいて楽しかったですね。さて、物語がついに大きく動き始めました。アーサーは天然ボケで自分がミカエルの騎士の特殊な力を持っていることに全く気付かずに生きています。モチロンそれは妹の器を借りた天使と悪友のカタチでまとわりつく悪魔のおかげなのでありまして。ついに悪魔と天使の渋々ながらの紳士協定にも関わらずアーサーの運命に変動が・・・。アーサーが、マーティンが、メアリが・・・人間と悪魔と天使が創り上げた世界はどうなっていくのかっ!? 待て、次号っ!(笑)

『ミカエルの騎士4 緑玉杯の騎士』 1998.9.10. 前田栄 新書館



2006年07月28日(金) 『ミカエルの騎士3 琥珀の夢』 前田栄

 村はずれの幽霊屋敷を買い取った男を招待すべく、アーサーは園遊会を開くことになる。新しくやって来た金持ちの隣人に村人たちは興味深々で猫っかぶりのアーサーは妹・メアリや御婦人方の言うがままなすがまま(笑)。招待するために幽霊屋敷に赴いたアーサーとメアリだったが、主人のディクスターはメアリに好奇の目を向ける始末。器はアーサーの妹だが、中身は美しい魂蒐集が趣味の大天使であるメアリはディクスターのおぞましい魂を嫌悪する。メアリを手に入れたいディクスターはアーサーから陥落しようとトンデモナイ手段に出て・・・!?

 この「琥珀の夢」では、メアリが人間の器に四苦八苦している様を読み取る事ができます。この物語では天使は身勝手な存在と言う解釈。好奇心は旺盛だが人間に対して興味はなく、変わり者エンジェルであるメアリにしても欲しいものは美しい魂のカタチであり、人間には興味がない!・・・ハズだったのだが。ウフフ。「呪われた藍玉の薔薇」では琥珀事件で体調を崩したアーサーがラベル侯爵に招かれて療養に赴いた先でのできごと。美しい未亡人と出会ったアーサーは呪われた薔薇の伝説に触れる。マーティンは暗躍しつつ、美しく薔薇を咲かせてみせましょうと言うエリックと契約をする。「あのひと」のために美しい薔薇を咲かせたくて・・・。「クリスマス・キャロル」は大掃除にミサにイベントに大騒動でマジ切れ寸前のアーサーが捨て子を見つけてしまい、ますます大騒動に。その赤ちゃんの正体とは・・・!?
 ミカエルの騎士シリーズはアーサーが主役だと思っていたのですが、すっかりわがままなサブキャラとなり果てていて(笑)悪魔のマーティンと天使のメアリが主役争いをしている感じになっちゃいました。本気で信じたことを具現化し、信仰ゆえ天使さえ呼び出す事ができる力を持つミカエルの騎士であるアーサー。その存在がやっかいゆえに付き纏う悪魔・マーティンと、その存在を守り、いつかは美しい魂を手に入れんとしている天使・メアリ。この悪魔と天使の攻防戦が物語の軸となっていてます。悪魔も天使も人間そのものには興味がないはずなのに・・・というくだりが最大のテーマなのかしら。

『ミカエルの騎士3 琥珀の夢』 1998.1.10. 前田栄 新書館



2006年07月27日(木) 『ミカエルの騎士2 精霊王の月長石』 前田栄

 アーサーが溺愛する妹・メアリが出戻ってきた。彼女の夫・ジョージが従事牧師としてインドへ旅立ってしまったのだ。アーサーへの手紙には、メアリを託す旨と一つの依頼が記されていた。ジョージの友人が、一族の中で唯一の黒髪であるという事でケルト民話にある妖精の取替えっ子ではないかと疑われているらしい。アーサーのエクソシストとしての風評を逆利用して友人を苦境から救って欲しいとあった。愛する妹・メアリのため渋々立ち上がるアーサーだったが、実はメアリは・・・!?

 これまたトッテモ面白かったですねぇ。信じたことを具現化する力を持つミカエルの騎士・アーサー(※ただし、本人の自覚なし)は、超常現象など信じないららら科学の子。まずはこの矛盾した存在のアーサーが面白いのです。美しくて優しくて悪友マーティン以外には猫かぶりで(笑)魂の美しい存在。そのあまりにも美しい魂ゆえに悪魔も天使もアーサーから離れられない。超常現象を全く信じないアーサーの側にぴったんこと悪魔と天使がはべって取り合ってる構図がいとおかし。うまい設定だなぁと思います。と、言うことで悪魔のマーティンに対抗する天使の登場。チェンジリング(妖精の取替えっ子現象)は実際にありそうな気がするのですけどネェ。
 「戦女神の星紅玉」では、メアリの夫・ジョージがあっさり殺されてしまいます。一応たてまえとして錯乱してみせるメアリでありますが、その実これでまたアーサーの側にはべれるとにんまり(笑)。そしてジョージが残したモノがまたまたアーサーを波乱に巻き込んでしまいます。
 「聖母の毒薬」では、アーサーの美しい母が友人に妬まれ、おなかの子供に危険が迫る物語、アーサーの少年時代です。母の友人の女性はアーサーの母の幸福を妬むあまり、妊娠中の彼女に危害を加えようとします。それを敏感に感じ取った近所の子供達はソノ恐ろしい女を魔女と呼び始めます。アーサーは魔女など存在しない!と友達の子供達に高らかに言い放ち、その瞬間の光が悪魔・マーティンを呼び寄せ、母のおなかの子供は・・・。
 ミカエルの騎士シリーズのメインキャラクターの3人の出会いと関わりが描かれた一冊でした。マーティンについてはこの一冊でおおまかに掴めます。メアリはもう少し先に詳しく語られます。ミカエルの騎士の血をひく不思議な力を持ったアーサーと彼を守る天使と悪魔。天使も悪魔もそれぞれに思惑がありながら、アーサーに純粋に惹かれ、依存していく流れが見てとれました。主役のアーサーよりも脇キャラのマーティンとメアリの存在感がものすごく強くて魅力的ですv

『ミカエルの騎士2 精霊王の月長石』 1997.8.10. 前田栄 新書館



2006年07月26日(水) 『ミカエルの騎士1 ヴィーナスの血星石』 前田栄

 大英帝国の片田舎にある小さな教会を守る美貌の牧師アーサー・ロイド。実はアーサーはららら科学の子。田舎牧師なら暇だから研究三昧で生活できるぞと言う父親の唆しに乗せられて牧師になったのだった。対するアーサーの悪友のマーティン・マクドナルドは医者でありながら神学マニア・・・と称して週末になるとアーサーをからかいに(?)やってくる。そんなアーサーからエクソシストの依頼が舞い込んだ。娘がヴァンパイアに狙われていると言う大英帝国屈指の貴族・ラベル子爵のために、この科学の時代に吸血鬼など存在するものか!と言う信念のアーサーは・・・!?

 美貌の牧師・アーサーは、本人に自覚はないもののミカエルの騎士なのであります。ミカエルの騎士は本気で信じていることを具現化してしまう化け物じみた奇跡を起こす存在。なのでアーサーがヴァンパイアなど存在しない!と言い切ってしまえば、その存在は消滅してしまうという訳なのであります。外面ばっかりよくってマーティンには本音で愚痴や文句ばかりのアーサー。面倒なアーサーの側にぺっとりひっついているマーティンは訳ありの存在・・・うふふ。
 サイド・ストーリーの「青玉の犠牲神」では、アーサーに撃退されてしまったヴァンパイア・レメーニの物語。こちらの方がゴシック・ホラーとしては秀逸。ヴァンパイアの悲哀がしっかりと描かれておりました。潔いほどにアーサーもマーティンも登場しません。こういう構成は物語に深みを与えてトテモ面白いと思います。一冊に収録されたいくつかのエピソードが呼応しあって理解が深まりました。使い捨てのキャラクターではないところに好感が持てますねv

『ミカエルの騎士1 ヴィーナスの血星石』 1997.4.10. 前田栄 新書館



2006年07月25日(火) 『世紀末大バザール 六月の雪』 日向旦 第15回鮎川哲也賞佳作

 1999年5月の終わりに28歳の本多巧は東京を逃げ出して大阪にやってきた。世界の滅亡と言う史上最高のイベントまでは生き延びようと、お好み焼き中毒になりかけている巧は妙な二人組みと知り合う。ちょっとした謎解きをしてあげてちゃっかり職を斡旋してもらいたがる巧は、なにが出来るのかと問われ「探偵だ」と答えてしまった。その答えを聞いた男は、家出少年の捜索を依頼。アジトは泉州地方南部、関西空港の近くにある半非合法なショッピングモールだった。さまざまな不思議人間たちと美少女風オカマと少年を探し始め・・・!?

 これは面白かったです。語り口の妙が素晴らしい。登場人物のアヤシサもすごいのです。ひとりの探偵(?)が来たことで、とんとんとんからりんっと大小さまざまな事件が発生し続けて、タイトル通りの在庫一掃大バザールが始まります。それがどういうふうに一掃されるか、さぁお立会いっ!って感じでした。うまいなぁ。
 なんでも鮎川哲也賞の審査でかなーり揉めに揉めたそうです(大笑)。何故ならば、これが果たして本格や否や、と言うところがネックとなったらしいです。アハハハハv なるほどねぇ。うふふ。おかしいっ。まぁ本格か否やナンテ問題はそういうのが好きな方々にお任せするとして(苦笑)、面白ければなんでもありありな私にはただひたすらに面白かったので読めてトッテモ嬉しかったです。内容の中には切ないこと痛いこともサラリと盛り込まれていましたケレドモ、逞しく生きる人間達の賢さ強かさには脱帽しました。こういうタイプの物語は好きだなぁ。読んでいてニッコリしてしまう。私的には超オススメv

 でも源さんはもういらないと言った。
「物を集めるとそれに執着してしまう。物はなくなるけど、人間はなくならない」
 ぼくはぽかんと口を開けた。何を言いたいんだろう。
「人間がなくならないのは心があるからだ」


『世紀末大バザール 六月の雪』 2006.6.30. 日向旦 東京創元社



2006年07月24日(月) 『花よりもなほ』 是枝裕和

 元禄十五年、仇討ちに賞金が出た時代。仇討ちまでの期間にも奨励金のようなものが支払われる妙な時代。侍はいても戦いの無くなった時代。宗左衛門は父の仇討ちのために江戸に出てくる。この宗左衛門、実は滅法弱くて逃げ足だけは何故か早い。ひょんな仇討ち三文芝居を見た宗左衛門は、芝居を演じた人々の住む深川の長屋に移り住む。美しい未亡人に心惹かれ、妙な長屋の住人達にたかられながら宗左衛門は仇討ちの意義を考え始める。そして父の敵を見つけた宗左衛門は。おせっかいな長屋の人々は・・・!?

 俳優としてめきめきと色気を貯えつつあるアイドル岡田准一くん主演の時代劇。監督はアノ(『誰も知らない』)是枝監督で共演の美しき未亡人に宮沢りえちゃん。岡田くんがどんなへっぽこ侍を演じるのか観たいと思いつつ観そびれてしまいました(残念)。そこで監督自らノベライズ化された小説版『花よりもなほ』を読んでみましたら、これが素晴らしい出来で人情モノにほろほろほろりでありました。巻末に配役も記されていたので配役を確認しつつ読み進めてみたならば、観ていないのに映像が頭に浮かぶのです。それくらいに文章が映像してました。これはまたすごいことだなぁとノックアウトされましたv
 仇討ちに賞金が出ると言う今では考えられない仕組みを頭を使って小賢しく悪用するタフな貧乏長屋の住民達。ただ仇討ちをしなければならないと思い込んでいた宗左衛門が彼らと生活を共にするうちに何が一番大切なのかを知るのです。滅びの美学もいいケレドモ、こういう底辺で蠢く小賢しく立ち回る逞しさもまた美しいものだなぁと思います。キィパーソンとなる長屋の貞四郎を古田新太さんが演られているようで、これは絶妙な演技だろうなぁと。ああ、映画を観たい観たい観たいですーっ!!!

「嘘を抱えて毎日暮らすってのはなかなか大変だが、それはそれで人間を大人にするよ。艶っていうのはそういうとっから出てくるんだよ。馬鹿正直ってのは面白みに欠けていけねえや。長屋のはきだめ連中みてみろ。嘘なんておつなもん抱えて生きてるやつなんかひとりもいやしねえ。野暮もいいところだ。この、色男。風呂上りっ」

『花よりもなほ』 2006.6.3. 是枝裕和 角川書店



2006年07月23日(日) 『少年陰陽師 窮奇編』 結城光流

 希代の陰陽師・安倍晴明の孫の昌浩は13歳。晴明と神将の本性を隠し持つ物の怪もっくんは昌浩の眠れる才能を見抜いていた。半人前の昌浩がナントカかんとか修行に励み、打倒!安倍晴明の精神で日夜頑張っている。そして内裏で事件が起こり、藤原道長の姫・彰子と出会う。彰子は見鬼の力を持つ少女だった・・・。(『異邦の影を探しだせ)』
 力を持つ彰子を贄にしてパワーを得ようとする異邦の妖怪・窮奇の影響が彰子の幼馴染・圭子にまで及んでしまう。貴船神社で丑の刻参りをする圭子。まだまだ半人前ながら彰子の願いを聞き入れて圭子を助けようとする昌浩ともっくん。そんなふたり(?)を冷ややかに見守る安倍晴明の配下にある十二神将のひとり清龍。清龍はもっくんの本性である紅蓮(騰蛇)を晴明が死にかけたある事件から許せずにいた・・・。(『闇の呪縛を打ち砕け』)
 彰子は自分の願いのせいで傷ついた昌浩を想い、周囲の異変を訴えられずにいた。そんな彰子に会いに来た昌浩は、貴船で見た蛍の美しさを語り、次の夏に一緒に見に行こうと約束をする。心がよりそう二人。しかし、彰子に入内の話が舞い込み、動揺した彰子は彰子を付け狙う窮奇につけこまれてしまう・・・。妖しに囚われた彰子を昌浩は助け出す事が出来るのか。ふたりのささやかな約束は叶うのか・・・!?(『鏡の檻をつき破れ』

 マイブームでライトノベルを読んでいます。その中で見つけた作家さんが前田栄さんと結城光流さんのおふたりであります。ライトノベルとあなどるなかれ。このおふたりは本当に力をお持ちだなぁと読んでいて感心してしまいます。そしてライトノベルの魅力は表紙や中身に登場するイラストですねv 文章以前に視力に訴えかけるイラストに魅力を感じないとまず手に取る事はありえません。そこにいくとこのおふたりの物語にマッチしたイラストは激しく魅力的なのであります。
 少年陰陽師は安倍晴明の孫の成長物語のようです。昌浩を影に日向に見守り助ける物の怪もっくんと爺様の安倍晴明がすごーく素敵。また昌浩ってばおちょくり甲斐があって(大笑)可愛くて〜めろめろ。こういう切り口で陰陽師を物語に創り上げている結城光流さんの才能を大絶賛なのであります。オススメv

 こそりと、緊張した硬い声が昌浩の耳に届いた。
 「ぬかるなよ、晴明の孫」
 ぶちっ。
 頭のどこかで何かが切れた音がする。反射的に昌浩は怒鳴り返した。
 「孫、言うなっ!」


『少年陰陽師 異邦の影を探しだせ』 結城光流 角川ビーンズ文庫
『少年陰陽師 闇の呪縛を打ち砕け』 結城光流 角川ビーンズ文庫
『少年陰陽師 鏡の檻をつき破れ』  結城光流 角川ビーンズ文庫



2006年07月22日(土) 『海のふた』 よしもとばなな

 西伊豆に戻って大好きなカキ氷屋を開いた私は、母の親友の娘はじめちゃんと一夏を過ごす。心に傷を負ったはじめちゃんはさらさらと過ぎて行く時間と自然と共に少しずつ少しずつ再生して行く。それを見守る私は・・・

 よしもとばななと言う作家さんは恐ろしい人だなぁと思います。人間の本当の姿が見えているのではないかしら。彼女はトテモ美しく生きているのだろうと感じます。こういう人に出会えたら関われたらどんなに心豊かに生きれるだろう。文章を通してのヒーリング。彼女はそういう作家さんなんだなぁ。

 人が人と出会うとき、ほんとうは顔なんか見ていないのだと思う。その人の芯のところを見ているのだ。雰囲気や、声や、匂いや・・・・・・そういう全部を集めたものを感じとっているのだと思う。はじめちゃんの芯のところは、全くぶれていなかった。たいていの人が何かしらあいまいなところを印象の中に持っているのに、はじめちゃんはただただすっとまっすぐで、少しかげりがあって、とても強い感じがした。

『海のふた』 2006.6.25. よしもとばなな 中公文庫



2006年07月21日(金) 『ひとがた流し』 北村薫

 アナウンサーの千波、作家の牧子、カメラマンの妻の美々、40代の三人の女性達の人生の関わりあい。独身のままきてしまった千波、離婚した牧子、再婚して幸せな美々。三人三様の人生があり、その時々に見つめ、支え、守りあってきた。家族同士も交流があり、遠くて近い大きな親戚のような人たちの中、千波に病魔が忍び寄り・・・

 なんという美しい物語なのでしょう。北村薫ここにあり、と心で喝采でありました。人が生きて行く時に離れていても信じてくれる、見守っていてくれる、そういう存在がどんなに心強いことか。入り込みすぎず、かと言って離れすぎず、絶妙なバランスを取りながら関わりあって生きて行く。そのカタチの美しさに潔さに心が洗い流されるような思いをいただきました。こういう美しい人生を送りたいものです。心の美しさが人としての心根が人生を左右する。美しく生きたい。

 人が生きていく時、力になるのは何かっていうと、 −《自分が生きていることを、切実に願う誰かが、いるかどうか》だと思うんだ。 −人間は風船みたいで、誰かのそういう願いが、やっと自分を地上に繋ぎ止めてくれる。

『ひとがた流し』 2006.7.30. 北村薫 朝日新聞社



2006年07月20日(木) 『女ともだち』 真梨幸子

 楢本野江は署名入りのライターになりたくて、強烈なトリガーを見つけ出す。それは、あるマンションで発生した2件の殺人事件。ひとりの被害者は性器がえぐられ、子宮を盗まれていた。なんの関わりもないように見えた女たちが交錯、そこにあった真相とは・・・!?

 うーん、内容は面白いのに、文章がばらついていてさくさく読み進めることができませんでした。ラストを読んで視点のブレ(文章のばらつきの原因)の意味がやっとわかったのですケレドモ、なんとかもっとシュッと1本軸がぶっとく通っていればものすごーくものすごーくよかっただろうに。内容も展開も落ちも面白いだけに無念なのでありました。描き方次第でますます残酷にホラーにもっていけただろうになぁ。

人間って難しいですよね。自分では唯一無二の人だと思っても、実はそうじゃないことのほうが多いのかもしれませんね。なんか、ちょっと悲しいですね

『女ともだち』 2006.6.22. 真梨幸子 講談社



2006年07月19日(水) 『時の“風”に吹かれて』 梶尾真治

 梶尾真治さんの短篇集。SFだったり、ホラーだったり、不思議だったり、と幾つかはまた舞台化されるのではないかと言うくらい良い粒揃いでありました。この中で私が気に入ったものは『時の“風”に吹かれて』と『ミカ』でした。『時の“風”に吹かれて』はタイムマシンで過去や未来に飛んで時の風に追いつかれる前にやりたいことをやろうとするもの。私も過去に飛びたいケレドモ、たぶん時の風に追いつかれて消滅しちゃうんだろうなぁ。『ミカ』は化け猫もの。犬だとほのぼのものが多いと言うのに猫だと妖しい物語になってしまう。猫ウォッチングしていると猫の神秘に魅入られてしまうから、猫って絶対に妖しい! だからこそ魅力。

「どこへ消えたんだ」
「わからない。だが、過去へ飛んだ存在を時は追ってくる。それが時の“風”だ。因果を修正するために。時の“風”にとらえられると、そのときその時点であるべき姿に変えられる。たとえば四十年後に飛んで、時の“風”に追いつかれたら、よぼよぼの爺さんの姿になってしまうだろうな。その間の生活記憶は存在しないから、若い頃の記憶しかない老人というわけだ」

『時の“風”に吹かれて』 2006.6.25. 梶尾真治 光文社



2006年07月18日(火) 『少女七竈と七人の可愛そうな大人』 桜庭一樹

 25歳の川村優奈は《辻斬りのように男遊びをしたいな》と思った。ある朝とつぜんに。そして衝動の赴くままにふしだらになった。旭川という北のひんやりとした小さな街で。ほんの一月の間に七人の男と寝た川村優奈は娘を産み落とす。恐ろしいまでの美貌を持った娘・七竈を。地方都市であまりの美しさを持った七竈は呪われた存在となり、孤高を貫き生きている。そして七竈は・・・

 桜庭一樹さんは注目している作家さんなのですが、この物語で桜庭さんの根底に流れるものを読めた気がします。個人的な感想で言えば、乙一くんの流れを汲む人なのではないかしら、と思いました。ものすごく不思議なトーンなのです。不気味で異形でじっとりしていて切なくて。もしかしたら恩田陸の系譜とも言えるかもしれないなぁ。キチンと人間を描いてらっしゃるし。美しすぎる人間は小さな町では呪われた悪目立ちする異形の存在となってしまう、それって仕方の無いことなのでしょう。だから七竈の選んだ道は、おそらく正解。その選んだ道での七竈のことも知りたいですね。雑踏の中に紛れてしまうのか、綺羅星の中ですら輝きを放ってしまうのか。そういうのってホント運命の人って感じがします。望むと望まざるとに関わらず生まれ持った宿命、宿業・・・さらりと描かれていて奥がトッテモ深かったです。脱帽。

 ああ、大人になってしまうと、女は男をばかだと思うようになるのだろうか。いまの、少年を神のようにおそれる気持ちは、失われてゆくのだろうか。たがいを、あなどる。男と、女。ああ、それはちょっとばかりさみしいことであるなとわたしは考えた。

『少女七竈と七人の可愛そうな大人』 2006.6.30. 桜庭一樹 角川書店



2006年07月17日(月) 『押入れのちよ』 荻原浩

 荻原浩さんのホラー短篇集です。ちょっと切なかったり、あまりにも悪意が心に痛かったり、怖いはずなのにほのぼのしたり。するするっと読めるので寝苦しい夜に一編ずつ読んで寝るがいいかもしれません。私が一番気に入ったのは「コール」で、恐ろしいと感じたのは「介護の鬼」でした。「コール」はかつてドリカム編成だった男ふたりと女ひとりの男一人が死んじゃって墓場で再会。そこに亡くなった男の意識を感じて・・・と言う流れ。なんだかありそうでね、ほのぼのしみじみ泣いてしまいました。こういうのあっていいよね。亡くなった人だって遺した人のこと気にしてるよね、きっときっと・・・。対して「介護の鬼」はもうドロドロであります。寝たきりとなった舅を介護のふりして苛め抜く鬼嫁。鬼嫁は鬼嫁になる前に舅と姑に苛められ、怨みがあったので介護という名を借りて嬉々として復讐していると・・・・・・ラストがそらまぁ怖いデス(涙)。人間同士って言うのは仲良くウマク愛しあい尊重しあう方が難しい生き物なのですね。なにやら暗澹たる思いが残りました。あとネコが妖しに変化したらしき物語「老猫」も面白かったです。マイブームが近所の猫ウォッチングなので猫をテーマにしてる物語にはトテモ興味があって面白く読めましたv 読後感は悪臭が漂っていやんxなものであったとしても(苦笑)。なかなか優れもののホラー短篇集にございました。

 この木が桜であることを、なぜ知ったかを二人とも口にはしない。納骨の日は四月初め、桜が満開の頃だったのだ。桜は無慈悲なぐらい美しかった。人の都合に関係なく、時期が来れば咲き、時期が終れば散る。人間の生き死にと同じだ。

『押入れのちよ』 2006.5.20. 荻原浩 新潮社



2006年07月16日(日) 『春夏冬館にようこそ 散花の記憶』 前田栄

 小柄なことがコンプレックスな高校生の倭タケルは何故だか例の喫茶館でアルバイトをしている。両親を必死で説得してまでのアルバイト。なぜなんだろう。まぁ、マガタマちゃんはネコ耳コスプレを除けば超美少女で性格はいいし、賄いは美味しいし・・・しかし、オーナーの美青年・祈常(きじょう)は変な奴だし、爺には嫌われている。いったいなにがどうしてここでアルバイトなんだろう。操られるかのように春夏冬館でアルバイトをするタケルの前にまたまた美少女が現れる!

 タケルの魂は神仙武将なのですケレドモ、普段は意識になく、神仙武将が意識に表れてきた時の記憶は失ってしまうので祈常にどうして魅入られているのやら全く訳がわからないのであります。祈常(きじょう)は《キツネ》、妖狐。タケルの魂の神仙武将は祈常を見張る役目にありながら、ひょんな成り行きから一緒に闘ったりする羽目に。爺は若様がとっとと立派に変化して欲しいのに道楽に走る若様に頭を抱えているのですね。だからタケルが目障り。マガタマちゃんは祈常に助けられて飼い主との再会を待ちわびるキュートな化け猫ちゃん。この4人の前に種類の違う美少女登場なので楽しくて仕方アリマセン〜。めろめろ。この喫茶館に行って美味しいものを味わいながら妙な体験をしたいものなのです。

同じ内容でも言葉を変えれば、聞く方の気持ちは変わる。・・・・・・たぶん、君は「同じことだ」と言い捨てるんだろうが、時として、それはとても大事なことだ

『春夏冬館にようこそ 散花の記憶』 2005.12.1. 前田栄 角川ビーンズ文庫



2006年07月15日(土) 『春夏冬(あきない)喫茶館(カフェ)にようこそ』 前田栄

 倭タケルはちょっと小柄な高校生。濃霧に迷い、レトロな喫茶館に辿り着く。お小遣いを考えると高いかも・・・と二の足を踏むタケルをメイドコスプレ超美少女しかもネコ耳尻尾つき!?に引きずり込まれる。そこはゴシックな店内でパオが似合いそうな爺さまと、これまた異様に美しい青年がいた。美味しそうな食べ物&飲物を御馳走になってしまうタケルの代償は? 風変わりな人々とタケルの正体は・・・!?

 タイトル惹かれ久々の大ビンゴ!です。倭タケルと言う本人に自覚はないものの謎の正体を持つ少年と、美青年・美少女・古めかしい爺や・・・そして不思議な館とくれば舞台はバッチリv 内容もすっごく面白かったですし、なにより言葉のテンポと会話のセンスが絶妙。これはオススメだなぁ。4人の正体や抱えているものがトッテモいいです。このままシリーズ化としてどんどこ読みたい物語です。アニメ化もいいかもv

 人は心に陰と陽を持つ矛盾した生き物。仙の視点から見下ろせば塵芥とも見える彼等なのに、光り輝く刹那を永遠に繰り返す、不思議な生き物。

『春夏冬喫茶館にようこそ』 2004.5.1. 前田栄 角川ビーンズ文庫



2006年07月14日(金) 『うそうそ』 畠中恵

 病弱な若旦那が湯治にオデカケ。でもトラブルを呼び寄せる若旦那のこと、行く先々で事件発生。いろんな妖かしもわんさわんさとやって来て、若旦那の病状はかえって・・・!?(笑)

 アハハ。病弱で両親からも兄やたちからも異様に過保護にされている若旦那がナント湯治に遠出!? いやぁ、そうか。この手があったのか〜。でも若旦那以外のみんなと同じく「だいじょうぶか?若旦那・・・」な不安はヤッパリ的中で若旦那はいつだって大変でいつだって病弱(大笑)! 兄やたちは相変わらず過保護まっしぐらでてんやわんや。可愛らしいキャラクターも続々と登場して安心して読めるほのぼの病弱若旦那シリーズなのでありました。笑える。けど、元気になって、若旦那!
 タイトルの《うそうそ》とは、《たずねまわるさま。きょろきょろ。うろうろ。》だそうで嘘嘘の意と思い込んでいたので少し知識が増量いたしましたv

黙れ! 言い訳がありゃあ、何をしてもいいっていうのかい

『うそうそ』 2006.5.30. 畠中恵 新潮社



2006年07月13日(木) DVD『NIGHT HEAD THE TRIAL -審判-』 ※ネタバレあります!

 直人と直也は雑踏で残留思念に遭遇する。その男は、いつか直人と直也がこの場所を通ると知っていて待ち続けていたのだ。彼の痕跡を辿り、女子校に入り込んだ直也は悪意が澱んでいることに苦しむ。直也のアンテナの先にあったプールで5人の少女の水死体が上がり、たった一人生き残った少女がいた。彼女の名前は天元早紀枝。彼女は自分の感情を人々に感染させる力を持っていた。その能力ゆえ、幼い頃から忌み嫌われ、己の感情を押し殺して生きてきた早紀枝に直人と直也は同情を禁じえなかった。そして早紀枝の力を狙うアーク・コーポレーションと全面戦争となる・・・!?

 深夜ドラマ枠のラストでアーク・コーポレーションと言う謎の超能力集団の存在が示されて終りました。そのアーク・コーポレーションが研究していたのが《NIGHT HEAD》計画、使用されていない脳の眠った部分を揺り起こそうと言うもの。そして予知能力者・奥原晶子は争いの果てに世界の頂点に立とうとしていた・・・のを直人と直也が打ち破っちゃうのですね(笑)。それが劇場版なのでありました。
 美しいイケメン兄弟のくせしてグズグズいじいじした直人と直也は(笑)、互いが互いのためになら悪魔にもなれる!と気付き、またしても強くなり、またしてもボーイズラブまっしぐら(大笑)v この物語が異様に受けたのってなにより豊川さんと武田くんの危ない禁断の愛をそこに見てしまうからだったように思います。それほどに恋人構図びったりなおふたりなのでありました。また武田くんが怯えちゃって豊川さんにしがみ付きまくるのですものー。きゃー。
 驚いたことはプロローグの男性が松尾スズキさんだったことと早紀枝の妹の超美少女が奥菜恵さんだったこと。松尾さんは今の風貌とは違うのでエンドロールで「えっ!?」っと本気で驚いてしまいました。超美少女の奥菜恵さんは登場してスグわかりましたが、あまりにも美しくて恐ろしいほどでした。あの悪魔的な美貌は罪だ。美しすぎるって怖いことなのね・・・。
 10数年と言う時を経て、アニメ化されたNIGHT HEAD。この劇場版を最後に映像化はされていません。さすがに豊川さんと武田さんで続編はもう不可能でしょう。ああ、残念すぎます。妖しく美しい異形の兄弟をまた観たいもの。アニメもいいかもしれないけれど、私は映像で観たい。彼らが行き着く岬を観たい。



2006年07月12日(水) DVD『NIGHT HEAD』vol.5

21 THE ARK −方舟−
 直人と直也は双海翔子の兄・芳紀から助けを求めるメッセージを受け取る。芳紀はアーク・コーポレーションでナイト・ヘッドに関する研究を進めていたが、疑問を感じてパラドックスを起こしてしまう。直人と直也の吸収に失敗したアーク・コーポレーションは二人を排除しようとする。危険を察知した翔子が直人たちを違う時空に運び、直人は敵を倒す。翔子はもう人間の形を保てないと二人に別れを告げ、芳紀もまた電脳世界に入り込んでしまう・・・「ミサキデマツ」と言う謎の言葉を残して。

THE OTHER SIDE
 無関係な男女が殺し合うという事件を追う刑事が、新興宗教の能力開発セミナーに辿り着く。百目鬼法一と言う会の主催者はかつて御厨と共に超能力を研究していた男だった。自分は大丈夫だと思っていた刑事だったが、だんだんと洗脳されていき・・・

 私がNIGHT HEADを見たのはリアルタイム放映時よりずっと後のことで特別編集されたものでした。欲しい欲しいと思いながらも高額で手が出なかったビデオは破格の売れ行きだったそうです。今回、久しぶりに、しかも全てを通して観ることが出来てなんだか積年の胸のつっかえが取れたような気がしています。通して全てを観ると流れがよく見える・・・。出来れば世にも奇妙な物語常識酒場トラブルカフェも入れて欲しかった。
 THE ARKはテレビ版のラストでありながら、大きな謎を積み残しました。直人と直也に迫り来るアークコーポレーションのナイトヘッド計画。それが後に映画化されましたし、そのまた後はノベライズにもなりました。なので直人と直也の物語はなんとなく行き先が見えているような気がします。また直人が姿を変えて『アナン』という素晴らしい小説になったとも思っています(勝手に)v
 THE OTHER SIDEでは、世にも奇妙な物語常識酒場トラブルカフェで直人役を演じた今井雅之さんが刑事役で登場されています。洗脳されていく狂気をトテモうまく鬼気迫る感じで演じられています。舞台を観ているような感じでしたね。
 御厨と岬老人に守られていた研究所を飛び出したふたりの超能力者・直人と直也。ふたりの彷徨い進むロードムービーは心になにかを残します。彼らの悩みも迷いも苦しみも人間だからこそ。普通でいたいのに普通でいられない彼らの姿は神々しいまでに美しいのでありました。



2006年07月11日(火) DVD『NIGHT HEAD』vol.4

16 A SAINT −聖人−
 岬老人が夢枕に立ち、直人と直也は花輪正太郎という老人と出会う。老人は強い力を持ち、病んだ人を癒すことが出来た。花輪老人の圧倒的な力に驚き、危機感を覚えるふたり。花輪老人は望めば神にも独裁者にもなれるのだ・・・

17 UTOPIA −理想郷−
 花輪老人は聖人ではない。たまたま大いなる力を持って生まれた人間だった。老人が愛しく思った少女を酷い目に遭わせた人間達を死なせて仕舞った老人は苦悩していた。そして花輪老人が選んだ未来は・・・

18 GIFTED −与えられし者−
 宇宙とチャネリングできるという少女たちと出会った直人と直也は、かつて研究所にいた曽根崎という超能力者に遭遇した。曽根崎は御厨の考え方に反発し、研究所を飛び出し、違う機関に入り込んでいた。曽根崎のどろどろした心根に直也は・・・

19 FORCE −力−
 曽根崎が所属している機関に御厨は幽閉されていた。御厨のSOSに導かれ、研究所に戻る直人と直也。研究所があった場所は大きなエネルギーの集まる場所で、岬老人の力によって結界が張られ、守られていたことに気付く。御厨を助けるためにエネルギーを味方につけ、直人の力はこれまでにないほどに増幅する・・・

20 KARMA −業−
 おおいなるエネルギーの場所に舞い戻ったことにより、直也の力もまた進化しはじめていた。翔子の残したノートを見て今の直也はそれを読めるようになっていた。そこに書かれていたのは翔子が見てきた現在・過去・未来の姿。直人は直也が翔子のように意識だけの存在になってしまうのではないかと恐れるのだが、とうとう直也が消えてしまった・・・

 A SAINTUTOPIAで直人と直也は岬老人に負けないほど大きな力を持った花輪老人と出会います。直也は花輪老人の癒しの力に限りない尊敬と羨望を感じますが、直人は花輪老人の力の大きさに危機感を感じます。花輪老人ほど大きな力を持った人はもう普通に生きて行くのは不可能。そこに聖人には聖人の苦悩がありました・・・。GIFTEDFORCEで御厨の研究所に対する機関の存在が浮き上がってきます。直人と直也は幽閉された恨みを忘れられないながらも、研究所が自分達をどれだけ守ってくれていたかにやっと気付くこととなりました。御厨さんって人は基本的にいい人なんですよね。直人と直也を研究対象としてでなく、ちゃんと愛情も注いでいてくれるから。私は御厨さんって好きなキャラクターです。KARMAは21あるエピソードの中でも一番残酷なものかもしれません。その力ゆえに両親から捨てられた直人と直也が自分達とは違う世界に生きてしまっている両親に再会してしまうから。両親の中では子供達は死んでいた・・・そのひずみは直人と直也が作り上げた世界。悲しみに浸るふたりの前に現れる宿敵・曽根崎・・・ひどい奴だーx この曽根崎を六平直政さんがうまく演じておいでです。ぎらぎらしたいやらしさを演じさせたらコノ俳優さんはホントにうまいですね。



2006年07月10日(月) DVD『NIGHT HEAD』vol.3

11 DRUG −薬物−
 御厨から一時的に力を封じ込める薬が送られてきた。ただし試薬品で副作用のほどがわからない。薬に頼るのはよくないと言う直人に一度だけ試してみたいとねだる直也。直也の願いを聞き入れて二人で服用してみると確かに力が消えている。嬉しくなって街へ繰り出すふたりだったが・・・

12 THE APARTMENT
 直也が少女の助けを求める気持ちをキャッチした。少女を探して辿りついたアパートでは住人達が少女の力を食い物にしていた。少女を助けようと部屋に飛び込んでみるとそこはもう・・・

13 CONFESSION −告白−
 美人姉妹の喫茶店で不思議な現象が相次ぐ。姉に恋人ができると恋人に不幸が襲い掛かり、姉妹の周りで妙な事が次々と発生する。直也はひっそりとした妹に好感を持つのだが、彼女の潜在意識は・・・

14 SHADOW −影−
 直也が誘拐事件を目撃し、しかも犯人のひとりに刺された。直也に誘拐された女性救出を頼まれた直人は単身犯人のアジトへ乗り込む。そこで犯人達に力を放出。直也がいない直人には抑制するものがなく、破壊する悦びに浸っていた・・・
 
15 APOCALYPSE −啓示−
 直人と直也を強烈な悪意が取り巻いていた。街を歩けば、サラリーマンに主婦に子供に殺されそうになる。彼らはみんな予知能力者・神谷司の言葉を盲信して、二人を排除しようと動いていたのだった・・・

 DRUGに篠原涼子さんが出演していました。さすがにロングヘアさらさらの超美少女。スタイルもいいし。今やトップ女優の仲間入りを果した彼女の若くて妖しい表情がトテモいい。薬に頼ってちゃいけないってことあるのですよねぇ・・・。エピソードはずっと英語タイトル+日本語意訳パターンできていたところ、このTHE APARTMENTには日本語意訳なし。まぁ必要もないのですケレドモ(笑)。異形の力を貪る普通の人間達。直人がよく言う台詞なのですケレドモ「おまえたちの方がよっぽど化け物だ!」ってことでありました。CONFESSIONは後味の悪いエピソードでした。潜在意識なんてコントロールできるものじゃなくて・・・。心の深い奥底で愛する人を妬んでいるなんて悲しすぎる。強すぎる愛情は憎しみを伴う、か。痛かったです。このエピソードは。SHADOWでは直人の潜在意識が出てきます。怒りがサイコキネシスに直結し、人を傷つけてしまう。そのことを畏れるあまりに力を抑え続けてきた直人。しかし、目の前の悪人に対して情け容赦なく力を発揮できて喜びすら感じてしまう。直也がいなければ直人は破壊の王となる・・・。だから二人は二人でいなければならない。直人の力は直也に関することでのみ発揮すべきものであり、闇雲に破壊すべき力ではない。必死で直也をとめる直人の怯えたような縋りつく目は愛らしい犬のようで胸がきゅーっとします(笑)。APOCALYPSEでは己を神と勘違いしている予知能力者・神谷司アゲインでした。神谷が直人と直也を排除したいと思い、神谷の信者たちが自分の神の望むことを果そうと動き始めて・・・なんとまぁ恐ろしい状態なのだろうか。すぐにピーピー泣き喚く直也はめげそうになるケレドモ、タイムリーに翔子が現れメッセージを与えてくれる。こうして大きな流れを見ていると神は翔子かもしれないなぁ。直人と直也を贔屓する神。
 直人と直也は美しい異形の者なのだと思います。突出する存在は打たれる。狙われる。妬まれる・・・苦労の連続だ。それこそが彼らの苦悩。彼らの受難。それら全てを受け入れて乗り越えて彼らはますます美しい異形の者となる。神となる。そういうことなのかもしれないなぁ・・・と思うのでありました。



2006年07月09日(日) DVD『NIGHT HEAD』vol.2

6 MISSING −失踪−
 連続自殺をマインドコントロールしていた犯人の部屋に翔子の写真が飾られていた。翔子を探す直人と直也は翔子の友人の美紀から話を聞く。翔子は自分が時空の果てで見てきたことを美紀に語っていた。翔子が残したノートには象形文字でぎっしり何かが綴られていた。密室から消え去った翔子はいったいどこに行ったのか・・・。

7 NIGHTMARE −悪夢−
 目覚めると直人は新婚生活を送っていた。美しい妻、働き甲斐のある仕事、望んだ平凡な毎日・・・でもそこにいるはずの直也がいない。直人はこの世界を生きることを選択するのか・・・?

8 COMA −昏睡−
 直也は自分の意識に接触してきた少女と彼女の夢の中で逢瀬を繰り返す。美しい心を持つ少女に恋をする直也。しかし彼女は現実では植物状態で眠り続けていた。ある悲しい事件を心から追い出し、キレイな夢の中だけで生きているのだ。このまま少女を眠らせていてはいけないと思った直也は・・・

9 TRIGGER −触発−
 自分達の力に何か理由があるはずだと信じようとするふたりに、昔関わった意識が接触してきた。彼女はミラクルミックに出会った時に乗っていた超能力者だった。彼女はサイコメトラーとしての力が増大していた。それは一人の偏執的な男に出会い触発されたらしい。その男は見栄えのいい自分に自信を持っていて次から次へ女を手玉にとっては捨てていた。その男に彼女は狙われたのだ。どうしてこんな力をと嘆く彼女だったが、直人は自分達もそうであったように彼女もまた彼女がソノ男を引き寄せたのだと考える。ふたりと別れた彼女は男と対決し、男の精神をこなごなに破壊して、彼女もまた・・・

10 PROPHECY −予言−
 深夜、車を走らせていた二人の前に「助けて」と一人の女性が現れる。そして直也の頭にある予知が浮かび、それはふたりが死んでいる場面だった。その予知が助けを求めた女性に関係すると思った二人は彼女とかかわって行く。彼女は新薬の研究をしていて、恋人に殺されそうになっていた。彼女の恋人は彼女の新薬の研究が原因となり多くの人間が死ぬと思い込んでいた。そして彼の背後には神谷司と言う予知能力を持つ男の存在があった。自分の絶対的なカリスマ性に酔う神谷司は歴史を捻じ曲げようとしていて・・・

  MISSINGでは『NIGHT HEAD』のヒロインと言うべき少女・双海翔子について語られています。翔子は大いなる意識に同調し、現世での器を失いつつあった・・・。哀しいことに翔子は現世に全く未練も執着もなくて。直人と直也の両親は二人の力を恐れるがゆえに二人を手放したケレドモ、翔子は翔子を愛する母や友をあっさり捨ててしまう・・・そこが大いなる力に同調できる所以だったのかもしれませんね。翔子のお母さんが可哀想でした。
 NIGHTMARECOMAは物語の表と裏。直人は理想の世界を怒りをもって破壊して直也を選び、直也は理想の世界にいたいケレドモ恋した少女のために泣きながら手放す・・・ふたりの性格がハッキリくっきり浮かび上がる二つのエピソードでした。この辺りまで強そうであっても、その実トテモ繊細で弱い直人にとって直也が必要不可欠な存在であるように描かれています。
 研究所を出れば二人にマイナスの存在が引き寄せられる、御厨にそう言われていた二人はTRIGGERでマイナスはマイナスを引き寄せる事を目の当たりにする。このエピソードの暴走する超能力者の女性の顛末がかなり残酷で気の毒でした。闇雲に力を使って人を壊すと自分までも・・・。これはマンガで読んでいて映像で見たのはハジメテでした。このエロティックさが深夜枠ならではで、人間の隠されたおぞましい欲望に迫っているところも人気のひとつだった気がします。
 PROPHECYで登場する予知能力者・神谷司は自分の力に酔っていた・・・。この神谷司の邪悪さと直也の純粋さの対比がウマイと思いました。意識せずとも世の中を混乱させてしまうことになる人物を排除しようと考える神谷。彼女を生かした未来を求める直也。このエピソードあたりから直也のこれからの役割が見えてきますね。そのためにまだまだ彼らは苦しまなければならない。聖者は苦しみながら進んで行くのだなぁと思いました。
 豊川悦司さんの直人と武田真治くんの直也が異様にぴったりハマッタのは、ふたりの姿カタチゆえだったろうと思います。背の高い豊川さんに抱きかかえられる武田くん・・・そりゃぁもうヤオイに興味がない人間でも「あらら」と思っちゃうこと間違いなし。それくらいにふたりの歩く姿は恋人構図にぴったんこ。でもまぁいくら聖者で未来に必要な人物でもやたらめったらピーピー泣く直也ってお荷物っちゃあお荷物ですよねぇ。直人にいちゃんよーがんばらはられてます。エライ。エライ。がんばれ、直人!



2006年07月08日(土) DVD『NIGHT HEAD』vol.1

「人間は、脳の容量の70%を使用していないと言われている。人間の持つ不思議な力はこの部分に秘められていると考えられている。使用されることのない脳の70%はこう呼ばれることがある─ NIGHT HEAD」

1 REAL PSI  −念力−   
 清楚な美少女の様子がおかしい。彼女の名は翔子。そしてふたりの男が車に乗って逃亡している。ふたりはどうやら兄弟らしい。弟が兄に我侭を言って深夜営業している店に入る。そこに集う常連達はテレビに流れる超能力者をいかさまだと馬鹿にし始める。そこへアヤシイカップルが入店。妙にざらざらとざわつく店内。常連のリーダーらしき男の母が新興宗教にはまったことを恨みに思っていて超能力に対する罵倒が激しくなる。そして兄の怒りが暴走する。兄・直人と弟・直也は超能力者だった・・・。弟・直也にはリーディング能力があり、人に触れるとその人を読んでしまう。常連のリーダー格の彼女に触れた直也はその女がその店にいる全ての男と肉体関係を結んでいる事を知り、純粋な直也はそのおぞましさに・・・

2 OBSESSION −強迫観念−
 深夜の喫茶店で居合わせたカップルの女が直也の横を通り過ぎる時、直也に触れてしまった。直也は彼女の毒々しい人殺しと快楽を読んでしまう。毒気に当てられたようにフラッシュバックに悩まされる直也に不思議な美少女・翔子が現れ、あるメッセージを伝える。直也は自分が見ている恐ろしい殺人現場が過去ではなく未来に起こることだと気付き、直人の助けを借りて殺人を食い止めようと奔走する・・・

「逃げなければ答えは見つかる」


3 FAKE      −偽物−
 直也が自分達と似た意識を感知し、深夜の送迎バスに乗る。そのバスに失踪中のミラクル・ミックが乗っていた。テレビで面白おかしく超能力を披露するミックを直人は嫌悪していた。そしてミックが乗客に気付かれ、スプーン曲げを強要されて困っている姿を見て、直人はスプーンを曲げてしまう。すると乗客の病人が病を治してくれとミックに迫り・・・・
 
4 AWAKEINGS −覚醒−
 両親はふたりの子供の持つ異様な力に気付いていた。直人が怒ると周囲の人間が怪我をする。そのため学校に行けなくなってしまっていた。直也は人と接すると何故だか泣き喚きだし自閉症となってしまっていた。直也が心を許せるのは兄の直人だけ。ある日、父に詐欺師の一家が近づいてくる。両親の顔色を窺い、力を抑えていた幼いふたりだったが、両親の危機を察知して力を解き放ってしまう。そしてふたりは両親に捨てられたのだった・・・。

5 VICTIMS   −犠牲者−
 ふたりが15年間収容されていた研究所の御厨から依頼を受け、ふたりは連続する自殺を調べることになった。仲の良いグループの少年少女たちが同じやり方で次々と自殺するのだ。この街では数年前にも老人達の連続自殺騒動が起こっていた。なにかの力が動いていることに気付いたふたりが辿りついた事件の犯人は・・・

 『世にも奇妙な物語』の一編に「常識酒場」と言うものがありました。超能力者の兄弟が酒場で人の悪意に遭遇する悲しい流れで、とても心に強く残っていました。その一編が『NIGHT HEAD』のプロローグREAL PSIです。本当に印象的なエピソードで21話の中でもかなり好きな話です。
 OBSESSIONで狂った脅迫観念に囚われた女を深浦加奈子さんが演じられています。ものすごく毒々しい狂った感じがピッタリ。深浦さんの目は妖しい魔女の目だと思っているので当にハマリ役。
 FAKEは今回はじめて見ることが出来たエピソードでした。人とは違う力を持つ人間は様々な要求をぶつけられる。怪しげな新興宗教の姿をそこに見た気がしました。なにかに縋りたくなってマガイものに縋らなければいいのだケレドモ・・・。このエピソードでは直人がハンデを持っているのは自分だけではない、と気付き直也に側にいて欲しいと言うラストシーンが秀逸。ハンデと感じながらも破壊の力を持つ直人は自分の力についてアラタメテ見つめなおすこととなるのです。
 AWAKEINGSも映像としてはハジメテ見ることができました。内容は小説で読んでいたのでハジメテと言う感じはなかったのですケレドモ。ふたりの少年が望まずに生まれ持った力のせいで親から恐れられ捨てられてしまう。親も子供も悲しいなぁ。それでも大きな愛情で包んでやって欲しかった。ふたりは互いに互いしかいない・・・それが妖しい兄弟の姿となり、妙にエロチックなムードを醸し出したようですね。
 VICTIMSも映像としてはハジメテ見ました。これはマンガ化されたものを見ていて、マンガが映像に忠実だったことに驚きました。ヒロインとなる少女を大路恵美さんが演じていてマンガの可憐な少女そっくり。意外な犯人の姿もマンガでソックリでした。すごいなぁ。犯人を抱きしめる直也の悲しみが心に響いてきて切ないです。

 深夜枠で超能力に真っ向勝負を挑んでいるので、エロさもてんこ盛り。トッテモ素敵なサイキック・ロード・ムービーになっています。リアル・タイムで見ることが叶わなかった映像を14年経った今すべてを見ることが出来て本当に嬉しく思います。しかも感応したかのようにアニメーション化されていました。アニメでの兄弟も見てみたいものです。



2006年07月07日(金) 『145gの孤独』 伊岡瞬

 倉沢はプロ野球ピッチャーとして活躍していたが、魔の一球でバッターの野球生命を奪ってしまい野球界から追いやられてしまう。流れから便利屋をはじめた倉沢は子供のサッカー観戦に「付き添う」ことを依頼される。この付き添い依頼をきっかけとして倉沢は様々な事件に巻き込まれてしまうのだが・・・!?

 これは予想以上に面白くて嬉しかったですねー。挫折したプロ野球選手モノと言うのに惹かれやすいのですケレドモ、今までの挫折プロ野球選手モノで一番良かったと思っています。バッターの野球生命を自分が投げたたった一球で奪い去ってしまったトラウマの描き方や、倉沢が壊れているサプライズには「おおう」とトッテモとってもブラボーな気分になりました。傷ついているくせにくだらないジョークで人を煙に撒こうとする倉沢の心がナイーブで痛々しくて切なかったです・・・。人を傷つけるって本当に大きな悔いを残してしまうもの・・・それってキッチリ受けるべき贖罪で何かを支払い続けないとならないのかもしれません。

「あなたは現実を見つめることができない臆病者だったってことでしょう? それを忘れずにいてよ」

『145gの孤独』 2006.5.30. 伊岡瞬 角川書店 



2006年07月06日(木) 『あめふらし』 長野まゆみ

 仲村逸郎の魂は、空蝉に寄宿してしまう性質(たち)だ。意識していないうちにふぃっと他人のカラダに移動している。この見てくれのいい男に移ったからには今までの生活圏からも移動しなくてはならず、妙な下宿先に辿り着いた。下宿の主は自分の息子になて欲しいと言う。彼はウヅマキ商會を営んでいる橘河と言う不思議な男。橘河はタマシイを捕らえる《あめふらし》だったのだ・・・

 なんともレトロで昔懐かしいセピア色した不思議な幻想的な物語でした。妖しい生き物たちがうごうごと蠢いていて素敵ステキとウキウキわくわくしながら読みました。古き良き時代では本当にいろんな生き物たちが共存できていたのではないかしら、ナンテ夢想してしまいます。今は闇がなくなってしまったから妖しい生き物たちはどこかに消えてしまったのかしらぁ。この物語における不思議な恋愛模様もナイスでした。うーん、ありそう。橘河という男が飄々としててトッテモいい味だしてました。個人的にかなり好物。

「・・・・・・いいこと教えてやろうか。たいていはな、惚れてから化けものだと気づくんだよ。だから、化けものかどうかなんて関係ないンだ」

『あめふらし』 2006.6.15. 長野まゆみ 文藝春秋



2006年07月05日(水) DVD『探偵事務所5 〜5ナンバーで呼ばれる探偵』FileB

「探偵522 〜失楽園〜」
 新人探偵591のカイン美容整形外科報告書を読んだ522は詳細を聞きに591の部屋を訪ねる。591は失踪事件は解決できたものの、カイン美容整形外科の後ろ暗い犯罪を個人的に憤り密かに追いかけていた。カイン美容整形外科の手術により植物状態となった少女の姿を写した写真を見て522は顔色を変え、怒り出す。浮気調査専門の522は特例としてカイン美容整形外科を追いかけることを許可されていた。591は522と共にカインの院長である阿部の正体を暴こうと奔走するのだが・・・!?

 軸となる事件がFileAとFileBの表裏となっている構成で二つの物語がひとつの事件にリンクする。この作り方はウマイですねぇ。「キレイになりたい
」と言う女たちの願望を餌にあくどい商売を続ける美容整形。ありそうでトッテモ怖い内容でした。カイン美容整形外科の院長の阿部は日本の制度の隙間を縫い内科医なのに美容整形の病院を経営。そして狂った美貌の天才整形外科医の偏執的な美に対する執念。この二人の精神のぶれが物語をおどろおどろしいものにしあげていました。でもBGMのテンポのよさや物語の展開はスタイリッシュ。なのでものすごく不思議な独特の世界が生まれています。阿部の正体についてもサプライズがある上に最後に謎を積み残すという放置プレイ的快感。物語は終らない。そういう作り方に身悶えするほどでありました。林海象さんにロックオン!



2006年07月04日(火) DVD『探偵事務所5 〜5ナンバーで呼ばれる探偵』FileA

「探偵591 〜楽園〜」
 川崎に本部を置く《探偵事務所5》は創立60周年。宍戸会長のナンバー500を皮切りに5ではじまる3桁のナンバーをコードネームとする100人の探偵たち。彼らのファッションはオールドクラッシック探偵紳士スタイル。黒縁メガネと黒のネクタイ、黒スーツに黒の帽子・・・そんな探偵事務所にひとりの新人が入ってきた。探偵ナンバー591、かの小林少年の末裔である(笑)。依頼を待ちわびる591の部屋へ宍戸会長の孫娘・瞳が入り込んでくる。彼女の親友・美花が姿を消していることを心配し、調べて欲しいと言う。アイドル志望の美花の行方を辿るうちにカイン美容整形外科という病院に行き当たった。美花が瞳に言い残した「楽園に行く」と言う言葉。楽園はいったいどこにあるのか・・・!?

 永瀬正敏さん主演のテレビドラマ『私立探偵濱マイク』が好きだったので久しぶりにレンタルしてみようかと思い、レンタル屋さんで行き当たったこのDVD。いつもレンタル中と言う人気ぶりでやっとレンタルできて見てみたら、あらまぁ面白いこと。プロローグとして探偵事務所5の紹介を兼ねて新人探偵591が動き出します。会長の孫娘はナンバーを持っていないものの、探偵の七つ道具などを熟知していて好奇心旺盛のキュートでかわいい女子高生。彼女が今後なにかと事務所をかき回して行くこと間違いなしと想像できるやんちゃっぷり。
 この物語を観ていて思い出したのは、旦那が遺したマンガ『秘密探偵JA』でした。おそらく林海象さんもJAを読まれていて心に残ってらっしゃるのではないかしら。小道具や変装や秘密のアジト・・・わくわくする要素がぎっしり詰まっていて最後まで探偵たちと一緒に疾走してしまう。質の高い探偵(事務所)の登場に心躍る梅雨の日でありました。



2006年07月03日(月) 『配達あかずきん −成風堂書店事件メモー 』 大崎梢

 ファッションビルに入っている本屋さんで働く杏子とアルバイトの多絵ちゃん。てきぱき働き者の杏子は次々とも舞い込んでくる妙な謎に悩み、こんな時トテモ頼りになる探偵素質ばっちりな多絵ちゃんに相談する・・・。

 これはトッテモいい! 本好き、本屋好きにはたまらない魅力v 本屋に舞い込む謎にもいろいろとあるものだなぁと感心してしまいました。少し調べてみたら作者の大崎梢さんは元書店員さんでいらしたとか。きっとご自分が本をこよなく愛していて、その視線で見てきた小さな謎や不思議を物語にされたのでしょうね。表題となった『配達あかずきん』は評判どおりグーv ナイスーv でも私が気に入ったのは『標野にて 君が袖振る』でした。なぜかと言うと・・・キィパーソンとなる死んじゃった少年が恋旦那を思い起こさせたから・・・でありました。ふぅ(涙)。高校生でありながらオーラを放ついい男って本当にいるから。そしてソノ少年は少年なりに確かに悩みも苦しみもしていたから。そんなことを考えて少し涙ぐみつつ読んだのでありました。切ないケレドモ、素敵な話だった。うっとり。この杏子さんと多絵ちゃんコンビで次回作を執筆されているようなので本当に待ち遠しいです。それにしてもミステリ・フロンティアはあなどれないなぁ。面白いものがすごーく多い。タイトルも心惹かれるものばかり。やるなぁ、東京創元社!

「だろ? 自分が死んでから二十年も経って、まぁだ女を口説いておる。おかげで上田くんはまたメロメロだ。ほんとうにもう、油断もすきもあったもんじゃない」

『配達あかずきん』 2006.5.25. 大崎梢 東京創元社



2006年07月02日(日) 『Heaven? ◆ご苦楽レストラン◆』 佐々木倫子

 大学受験の時に母も一緒に上京し、母が受験票を持ったままディズニーランドへ行ってしまい受験すらできなかった過去をトラウマに持つ伊賀観。営業スマイルが苦手なくせにフランス料理店でサービス業経験3年。観は黒須仮名子という傍若無人な美女にスカウトされ新しくオープンする「Loin d'lci」(ロワン・ディシー)に勤めることになる。この店は駅から遠く墓地の中にある。その店名の意味は《この世の果て》・・・・。黙々と働く観と間抜けなスタッフたち。観が働いたソノ店は果たして楽園だったのだろうか?

 うーぬ、なんて面白いのだろう。川原泉さんのシュールさに負けないズバヌケタおちゃらかさ。佐々木倫子さんの絵柄は動きがないと言うか、好みではナイ。でもやはり微妙な言葉&会話の妙が素晴らしくって。主人公は佐々木さん御得意の地道ないつだって損する(笑)好青年。周りに配するは無茶苦茶だったり、天然ボケだったり、・・・傍迷惑なのだケレドモ憎めない。だから主人公は一手に苦労してしまう。アハハ。自分がフランス料理をしこたま食べたいがためにオーナーとなった女・黒須仮名子。最強の我侭女であるにかかわらず、時々間違って的を射たことを言って周りを感動させる、が、本人は口からでまかせのハッタリでしかない(大笑)。この黒須仮名子の法螺に振り回されたり、あえてのってみたりする周りの人間達がトテモいい。不思議と調和が取れてしまうのだものねぇ。

 なにパンがない? パンがないなら −
 ケーキもありませんよ!
 お酒を飲めばいいじゃないの!! ホーッホホホホホホ



2006年07月01日(土) 『笑う大天使(ミカエル)』 川原泉

 超お嬢様学校《聖ミカエル学園》高等部2年に毛色の変わった猫が3匹・・・ではなくて(笑)猫かぶりっこ3名がいた。母が亡くなった後に現れたお金持ちの兄を持つ司城史緒・成り上がりの父と高貴な出身で家事全般一切合財放棄した母と教育係の俊介を持つ斎木和音・「安い・早い・美味い」大衆食堂→レストラン・グルプに成長してしまった庶民ファミリーの更科柚子。三人三様で猫をかぶりつつ学園の妙な人気者である3人がそれぞれの猫はおろして本音で仲良くなり、彼女達の青春がはじまるのだった・・・

 笑うミカエルを初めて読んだのっていったいいつだったろう・・・・。思い出せない。思い出せないケレドモ、ずっと心の奥底に刻み付けられている川原作品なのであります。言葉の妙って言うものをここまでウマク表現できるマンガ家さんって他に知らないです。そう言えばこういうシュールでふざけているのに真理なマンガって川原泉さんが始まりなのかもしれないなぁ。長い時を経て映画化されることになったあたりスゴイ。久しぶりに読んでヤハリ泣きどころはおんなじでした。オペラ座の怪人で泣いてしまう・・・。ルドルフ・シュミット氏は最強のキャラです。ラストのお嬢さんがたの卒業シーン後は大好きな映画『アメリカン・グラフテイ』なとこも心を鷲づかみv 色褪せない作品の偉大さ。いいものはいつまで経ってもいい。そういうマンガの名作です。うんにゃ!



酔子へろり |酔陽亭酔客BAR
enpitu