酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2004年09月30日(木) 『ぼくは悪党になりたい』 笹生陽子

 兎丸エイジ、17歳。自由奔放気ままな母ユリコと父親が違う弟ヒロト。エイジもヒロトも父親を知らない。青春まっさかりのはずなのに、エイジは家を平気で空けるユリコとモテモテの親友・羊谷と腕白やんちゃなヒロトに日々振り回されている。ユリコが海外出張中にヒロトが病気になり、ユリコの元恋人らしき31歳の杉尾さんに助けてもらう。そしてエイジの平凡な(?)日常が壊れ始め、エイジは悪党になりたいと思う・・・

 笹生陽子さんは少年を描かせたらホントうまいなぁと思います。エイジはとってもいい子だなぁ。気持ちがいいです。きっと心が健やかなのだろうなー。それに対する母ユリコはぶっとびかぁちゃんであります。でも彼女のおおらかさはエイジにもヒロトにもいい影響を与えていると思う。恋愛事情に関しては物申したいけれども(苦笑)・・・

今のところはそれで十分だったし、急ぐことなんてないと思った。

『ぼく僕は悪党になりたい』 2004.6.30. 笹生陽子 角川書店




2004年09月29日(水) 『つきあってはいけない』 平山夢明

 本当にあった怖い話、と言うのですが・・・結構フィクションになっている感じを受けました。都市伝説の類。妙な人間(異常に嫉妬深い男、傷付いた女が好きな電波男、逆恨みしてくる元カノなどなど)と気軽に関わったばかりにつきまとわれてしまう物語が多かったです。根っこは本当にあった話なのかもしれません。
 もしもこれが本当ならば一番怖いと思ったのは「子持ちの男」でした。だってこんな奴いそうなんですもん・・・(怖)。そして金本進さんの写真と見間違うようなイラストがむちゃくちゃ怖かった・・・(泣)

『つきあってはいけない』 2004.7.18. 平山夢明 ハルキ・ホラー文庫



2004年09月28日(火) 『裏ドラマ』 君塚良一

 「踊る大捜査線」で一世風靡した脚本家・君塚良一さんの日記(でもきっとフィクション)です。手がけた人気ドラマ(「恋人はスナイパー」「TEAM」など)の裏話を読めてとても面白いです。この裏ドラマの<わたし>=君塚さん?が、常連のショットバーで知り合った不思議な<コダマさん>。<コダマさん>と関わる事によって様々なインスピレーションを得るのだが、いったい<コダマさん>の正体とは・・・?
 君塚さんは気になる脚本家さん。あ、これ面白いなぁと思うと君塚さんってパターンがここ数年多いです。「踊る大捜査線」のパート3はあるのか?とか。踊るの枝葉の物語のことなど、美味しい情報いっぱいです。

『裏ドラマ』 2003.12.4. 君塚良一 ダイヤモンド社



 



2004年09月27日(月) 『Q.O.L.』 小路幸也

 ひょんなことから龍哉の家に同居することになった光平とくるみ。殺し屋だったという龍哉の父が死に、龍哉に遺言を託す。それは横浜にいるもと相棒に拳銃を届けて欲しいというものだった。そのロング・ドライブに光平とくるみが同行したいと言い出した。ふたりにはその拳銃を使って殺したい奴がいた・・・

 小路幸也さんの三作目は、あの昔懐かしいパルプタウンとは違った世界ということでドキドキでした。読み始めるとやはり小路さんの世界が大好きだっ!と叫びたくなりました。とても哀しいものを背負った人たちが癒され再生されていく・・・。泣けます。大好きだーっ。

 私は本が好きで、読書好きで、本を扱うことを仕事にしているいわば本とか物語のプロなのだけど、それでもやっぱり小説家と同じレベルで話ができるかというとそうでもないと思う。縁があって何人かの作家さんとお話しする機会があったけれど、やっぱりどこかズレていくのがよくわかった。

『Q.O.L.』 2004.8.30. 小路幸也 集英社




2004年09月26日(日) 舞台『一六三人の目撃者』 原作/倉知淳 脚本・演出/直塚和紀

 舞台の上演中に俳優が倒れ、ぴくりとも動かない。163人の観客がパニックを起こさず公演を終了させるべく四苦八苦する出演者たち。163人の<積極的な目撃者>の目前で起こったことは自殺なのか。他殺なのか・・・

 劇団LEDのナオツカさんは岡山市出身。今回は故郷に錦を飾る凱旋公演となりました。私の友人だけでも東京・名古屋・鹿児島から駆けつけましたし、ナオツカさんのおかぁさまに伺ったところ、北海道から来られた方もいらしたそうです。なんだかものすごいことだなぁと思いました。
 さて、その舞台ですが素晴らしい出来栄えに満足させていただきました。話の展開も、ちょっとした見せどころも、ナオツカさんうまい! 昨日・今日と二日続けて見させていただきましたが、見る場所を変え、視点を変えたので両日楽しめました。
 そしていつもながらのはたまみさんの美しさにはメロメロ。お顔だけでなく肢体の美しさは垂涎。はたまみさんは人に見られるために生まれてきた女性だと感じました。神様に愛されてる。そして個人的にはハシケンさんが大好きなのでしたv



2004年09月22日(水) 映画『スウィングガールズ』

 ひょんなことからビッグバンドジャズをやることになった女子高校生たちとひとりの少年。猛特訓を重ね、演奏の魅力にとりつかれた矢先に御払い箱となってしまう。強がって清々した!と言って部屋を出て行くも、なんとも言えない想いに泣き出してしまう。そして彼女達と彼は本気でジャズにのめりこんでいき・・・

 うー、もう最高!にスウィングしてしまいましたぁぁぁ。さすがは矢口監督。『ウォーターボーイズ』に勝るとも劣らぬ楽しさを提供してくれました。柳の下にドジョウはまだまだいそうです(笑)。
 5人の中心的なキャラクターたちが、それぞれにいい味を出しています。人気のヨゴレ系浮気キャラの良江ちゃんは、なんと言っても顔がかわいい。あの顔だからアノ性格も許す。天然ボケの香織ちゃんは案外静かな人気を獲得しそうです。主人公の友子は、どこにでもいそうな迷惑キャラですが憎めない〜。黒一点の中村君は、ボンボンだけど、ちゃんとガールズをまとめてえらい、えらい。そして私のハートを鷲づかみしたのは直美ちゃんだっv このキャラクターはいいですわー。ハーゲンダッツのでっかいアイスをばかすか食ってるシーンがあるのですが、そこがとんでもなく衝撃的で(笑)。ボソっと妙な発言をするとこがツボ。
 音楽もいいですねー。私の前で観ている人たちの身体が揺れていてスウィングしてるーと思いました。私も足でリズムとってましたv 超オススメ映画です。うふ。




2004年09月20日(月) 『永遠の館の殺人』 黒田研二・二階堂黎人

 俺はこの旅行で、ヒカルを殺す計画を立てていた・・・和馬は別れてくれず、ストーカーのようになってしまったヒカルをスキーに誘い出し、遭難に見せかけて殺してしまおうと考えていた。計画通りに事が運んでいたかと思ったが、一匹の真っ白なウサギが現れ、追いかけるうちに二人して遭難してしまった。そして迷い込んだ山荘。その館には一世を風靡した作家が住んでいた。そこにいる人間達の行動はなにもかも妙でうさんくさい。そして‘やはり’惨劇がはじまった・・・!

 うーん、クロケンさんと二階堂さん=クィーン兄弟の合作3作目にして完結編はこうきましたかぁ。なるほどなぁ。でもスッキリしない。まだ続きそうな気がする。またいつかキラー・エックス復活! とかって狙ってるのかしら(笑)
 こういう作品にいちゃもんをつければきりがない気がします。単にのせられて楽しんだモン勝ちって言うか。私的には<永遠>の使い方がタイトルも内容も気に入ったので面白かったのです。ただ、このクィーン兄弟三部作、世間的にはあんまり評判よろしくないようで。私は単純にだまされて単純に「なるほどー」って思っちゃった。えへへ。

「あたしはなぜ理由もなく人を殺し続けるのだろう? その答えがわかるまで、繰り返し殺し続けなくちゃならないんだ」

『永遠の館の殺人』  2004.7.25. 黒田研二・二階堂黎人 カッパ・ノベルス




2004年09月19日(日) 『千年岳の殺人鬼』 黒田研二・二階堂黎人 

 ホテル<ル・ヴェール千年岳>がテレビに映った。そこに泊まっているフミコは驚いて同室のシューラに教える。この辺りでタイムスリップが多発していると専らの噂を追いかけた取材らしい。
 フミコはメルボルンの日本語学校の講師。生徒達総勢15人でスキー旅行を兼ねて千年岳へやってきた。15人は観光組とスキー組に分かれて行動するが、スキー組は遭難(?)しかけ、その雪山の山小屋で惨劇がはじまった・・・

 タイムスリップなんてどう料理するんだろう、とものすごく心配してしまった。こう落とすのかー。なるほどー。いろんなトリックがはりめぐされていて今回も騙された感じ。ただ‘倭文子’の読み方を、江戸川乱歩の作品で知っていたからちょっと残念だった。知らなかったら、まるっきりわからないままだったりして(苦笑)

 私は人を殺すのがたまらなく好きなの。ただ、それだけよ。

『千年岳の殺人鬼』 2002.12.20. 黒田研二・二階堂黎人 カッパ・ノベルス



2004年09月18日(土) 『キラー・エックス』 クィーン兄弟

 小説家・本郷大輔は、高校時代の恩師に招待され<深雪荘>へ。シゲルちゃんと慕われていた恩師は、事故のため不自由な身体になってしまったらしい。集まった6人と話すうちに招待した人物がシゲルちゃんではないことが判明する。シゲルちゃんの身体にあわせてオートメーション化された雪の山荘で惨劇がはじまった・・・?

 これはクィーン兄弟と称したふたりの作家さんの合作。この兄弟を当てるという企画もありました。『永遠の館の殺人』を読んだため、『キラー・エックス』と『千年岳の殺人鬼』も読んでみました。この『キラー・エックス』はふたりの頭脳をぎっしり詰めたという感じで、振り回されながら読みきったという感じでした。しっかりだまされましたけどねー。

「けっこう、ずるい表現ですね」

『キラー・エックス』 2001.11.25. クィーン兄弟 カッパ・ノベルス 



2004年09月17日(金) 映画『2LDK』

 豪華なマンションの2LDK。タレント事務所社長のもと愛人が暮らしていた部屋をふたりの女がシェアしている。ひとりは自称「映画女優」の先輩ラナ。ひとりは佐渡島出身のB級グラビアアイドルのノゾミ。二人は「極道の女房たち」=ごくにょう(笑)のオーデションを受け、奇しくも最終選考にふたりが残ってしまった。些細な行き違いが口論となり、殺し合いの肉弾戦に発展してしまうのだが・・・

 短い作品だからと気軽に観ていたら、むちゃくちゃホラーでしたよっ(驚愕)! ライバル関係にある女ふたりが事務所の意向でルームシェア。先輩・後輩の関係上、表面的には後輩が我慢をしつつ腹の中で毒づく様子は納得できます。また先輩も後輩をコ馬鹿にしていてありそう〜ってこれまた納得(苦笑)。それが殺し合いまで始めてしまうのだから、ジャパニーズ・ホラーですよ。しかもスプラッタ。
 堤幸彦監督らしい言葉の応酬が面白かったです。女同士は一緒に暮らすもんじゃないわ。



2004年09月16日(木) 漫画『ホムンクルス3』 山本英夫

 名越はトレパネーションによって、左目が見る人間の形に翻弄されながら、接することをやめられない。人間オタク医者のボンボンの見解は‘人々の心の深層心理に沈んだ歪み=ホムンクルス’と語る。そして名越は、気づく。化け物に見える人間と見えない人間がいることに。それは・・・

 1巻と2巻では、ヤクザの大親分=ターミネーター初代ロボが登場しました。3巻では新世代の最新ホムンクルスが登場します。それはとってもキュートな女子高校生v ボンボンに言わせれば、ターミネーター2の変幻自在新型ロボT-1000.うまいこと言うなぁ。このかわいい女子高生の心の歪みと名越はどこでリンクしているのか? 待て、次号。なのですが、いつ出るんだろう。
 噂の範囲なのですが、山本さんは大麻所持で捕まっていたらしい。そのためにこの漫画もしばらく休止したいたとか。ちゃんと最後まで書いてくれないとストレスたまっちゃうよう。

 人間の眼というのは、
 目の前の世界を映すだけのものではありません。
 目の前の世界に、
 自分を映し出すものでもあります。

『ホムンクルス3』 2004.9.1. 山本英夫 小学館




2004年09月15日(水) 漫画『ホムンクルス2』 山本英夫

 人間オタクの医者のボンボンにトレパネーションを施された名越の左目は異様なものを見るようになってしまう。ぶつかってしまった暴力団組長は、ロボットの姿。そしてそのロボットの中から現れる少年の姿? 名越が見ているものとはいったい・・・

 名越は謎と暗闇をたくさん抱えた男。その名越が左目で感知する人々の異形のカタチ。怖いです。名越の左目に私はどんなふうに映るのだろうと考えると。
 昔、ものすごく怖いと思った漫画がありました。いつどこで見たのか忘れているのだけど、妙に強烈に覚えているシーンがホムンクルスにちょっと似ている気がします。ある家の2階から見ていると、そこに入ってくる人の本当の姿が見えてしまう、というものでした。で、ある日、録画した自分の姿にぶったまげる・・・みたいな感じだったような。本当に恐ろしいのは人間の本当の姿なのかもしれないですね・・・。ひゃー。

 ここは人間(ばけもの)が多すぎる・・・・・・

『ホムンクルス2』 2004.6.1. 山本英夫 小学館




2004年09月14日(火) 漫画『ホムンクルス1』 山本英夫

 過去も身元も不明。虚言癖のある車上生活者。新宿西口の駐車場でホームレスの中へもサラリーマンの世界にも属せない屈折した心理。車の中で胎児のように眠る。ある日、妙な男から「70万で頭蓋骨に穴をあけさせろ」と言われる。最初は断るが、命の車をレッカー移動され、話に乗る事に。ホテルで打ち合わせをしようと入った高級ホテルの従業員に、その男は「名越さん」と呼ばれる。昔は常連だったらしい? そして名越はついにトレパネーションを受けるのだが・・・

 ぶったまげました! 何が驚くかと言うと帯に‘※作品中の『トレパネーション』は極めて危険な行為です。絶対に真似をしないでください。’という警告があることです。・・・こんな真似をする人がいるってこと? 理解不能。怖すぎる。
 今月号のダ・ヴィンチに紹介されていて、たまらず速攻買いに走ってしまいました。現実にこういう頭蓋骨に穴あけなど真似をしようとは思いもしませんが、脳の不思議にはものすごく興味があります。過去を抱えるらしき名越をいったいどんな明日が待っているのだろう。どきどき。大病院(脳神経外科)のまともじゃないボンボンの伊藤学もかなり危なくて素敵。

 ホームレスが集まる公園・・・・・・・と、
 常識人の集う一流ホテル・・・・・・
 ちょうどその狭間にいるってところがいいじゃないですか。






2004年09月13日(月) 『暗闇でささやく声』 ジョイ・フィールディング

 テリーは40歳独身の看護婦ひとり暮らし。家の裏のコテージをレンタルする旨、病院の掲示板で募集したら、アリソン・シムズという若く美しい女性がやってきた。無邪気で可愛らしいアリソンにどんどん惹かれていくテリー。警告のささやきを無視してコテージを貸す事に決めてしまう。アリソンがやってきてから、数々の不審な出来事が起こり始める。その場限りの言い逃れを繰り返すアリソン。テリーはだんだんと追い詰められ・・・

 まさに大どんでんがえしっ! 久しぶりにこの路線を読んだなぁ。面白かった。ふと大好きだったジョン・ソウルの哀しい女の物語を思い出しました。結局、ある程度年を重ねてしまったひとりもんの女って疑心暗鬼が生まれるし、存在が物悲しいんだよなぁ。とんでもない結末だけど、許せてしまう。哀しいから・・・

『暗闇でささやく声』 2003.5.10.ジョイ・フィールディング 文春文庫




2004年09月11日(土) 『ヴィーナス★ゴールド』 山崎洋子

 家族の借金のために逃げ回る灯子は、ホームレスにまで落ちてしまった。死のうとした夜に「ピエロさん」と呼ばれるピエロの扮装をした有名人に声をかけられ、寝る部屋を提供される。そして寿町というドヤ街で再生する努力をはじめた。ある日、取材で茉莉という美しい女性が現れる。灯子は茉莉に妖しく惹かれ、いっしょに「ピエロさん」を追うことになるのだが・・・

 久しぶりに読んだ山崎洋子さんの長編はものすごく面白かった。灯子が父親の失敗のために普通のOLから逃げ惑うホームレスへと転落していく冒頭は、おそろしいほど生生しかった。ドヤ街と呼ばれる場所で懸命に生きようと人間らしさを取り戻すあたりも読み応えバッチリ。そして運命の女・茉莉と出逢い、茉莉の抱えてきた人生にまた驚かされる・・・。いろんなテーマがごった煮されてる感じもするけれど、なんだか気に入っちゃったなぁ。

 この世には、法律の決めた善悪で裁けないことがある。だったら、万が一の場合のお咎めを覚悟で、自分の決定に従うしかない。

『ヴィーナス★ゴールド』 2004.8.20. 山崎洋子 毎日新聞社





2004年09月10日(金) 怪談集『花月夜綺譚』 恩田陸ほか

 10人の女性作家さんの怪談アンソロジー。装丁がとても綺麗です。怪談として一番怖いと感じたのは、ラストを飾った山崎洋子さんの『長虫』でした。お妾さんを嫉妬からギヤマンの温室に閉じ込めた奥方の遭遇する恐怖・・・ぞぞぞぞ〜っとしますよ。うまいなぁ。あとの物語は飛びぬけて怖くはなかったです。陸ちゃんのぶにも不思議な感じだったなぁ。

怪談集『花月夜綺譚』 2004.8.31. 恩田陸ほか 集英社




2004年09月08日(水) 恋愛アンソロジー『蜜の眠り』 恩田陸ほか

「睡蓮」
 小学生の理瀬は兄たち(従兄らしい)や祖母と暮らしていた。小さいながらも家族構成がよそと違うニセモノくさいことを感じ取っていた。三人がそれぞれ理瀬に望む女の子像を理瀬は演じ分けていた・・・

 女の子は作られる。男の子やオトナの目が女の子を作る。

 陸ちゃんの‘三月シリーズ’のヒロイン理瀬の小学生時代の物語。美しく成長する理瀬の土台となる時期なんだろうな。アノ毒々しい大柄美女もちらっと登場。従兄の亘と稔がこの頃から性格がずいぶんと違う事も読み取れます。陸ちゃんの‘三月シリーズ’はあちらこちらにピースがこぼれていて気を抜くと忘れてしまう。また早く集めて本にしてくれないかしら。
 この恋愛アンソロジーは10人の女性作家さんがそれぞれの「愛」や「性」について書いていらっしゃいます。面白い!と思ったのは横森理香さんの『テイスティング』でした。なにをティスティングするかと言うと、セックスなんですね。女性の愛と欲望が赤裸々に綴られていて興味深くエロエロな物語です。もうひとつ松本侑子さんの『性遍歴』もなかなか。文字通りひとりの女性の性遍歴を淡々と描かれていて、『ティスティング』と対をなす結末なことが面白かった。いやー女の愛と性は深い深い。

恋愛アンソロジー『蜜の眠り』 2001.10.20. 恩田陸ほか 光文社文庫






2004年09月07日(火) 映画『木更津キャッツアイ 日本シリーズ』

 ぶっさんは余命半年を宣告されていた・・・が、殺しても死なないほどに元気に生きている。野球にビールにやっさいもっさい。変わらぬキャッツ(仲間達)と大騒ぎの毎日だ。木更津のヒーロー・バンド氣志團が提案するロック・フェスティバルの前座で参加する事になり、曲作りに励む。そこへ死んだはずの木更津の守り神オジーが甦る。小さな事は気にかけず、オジーの復活を喜ぶぶっさんたち。そしてぶっさんは山口先輩の新しいお店韓国パブに勤めるユッケに恋をする・・・

 宮藤官九郎という人を認知したのは、テレビ版「池袋ウェストゲートパーク」でした。まだ石田衣良なんて作家はブレイクしていないのにドラマ化だよと当時新鮮に驚いた事を覚えています。その後クドカンの脚本のおかげで石田衣良は大ブレイク。作家さんのブレイクの仕方もさまざまですよねぇ。
 今回の「木更津キャッツアイ」シリーズもドラマ・映画共に馬鹿馬鹿しいほどに面白かったです。「池袋ウェストゲートパーク」でもよく使われていた巻き戻し映像がうまいんですよねー。あのプレイバックでさまざまなことが発覚していく。
 また映画では、哀川翔が本人役で登場。さりげなく、いやおおっぴらに「ゼブラーマン」の宣伝をしています。あとお笑いのウッチャンが‘微笑みのジョージ’なんてどこかの国の俳優さんのようなキャッチフレーズで出てきて笑っちゃいます。笑わせてしみじみして日本映画も捨てたもんじゃないなーと嬉しくなるv オススメ映画です。 ひとつだけ気になった場面の南国に流されるところは無くてもいいような気がする。男性がたにはごっくん映像でありますが(笑)



2004年09月06日(月) 『センセイの鞄』 川上弘美

 大町ツキコは37歳独身。居酒屋でご老体に声をかけられた。高校の時の国語のセンセイだった。「先生」でも「せんせい」でもなく、カタカナで「センセイ」だ。その日からツキコとセンセイの不思議な交流がはじまった。ふたりは‘間’の取りかたが似ていた。すこしずつすこしずつ距離を縮めていくふたり・・・

 やられました! もうこういう物語を読むことが出来ると神様に感謝してしまう。素敵な素敵な恋の物語でした。
 正直なところタメ年志向の私には30以上も離れた男女の恋愛なんてとんでもないと言うか、考えられない。でもこの物語のツキコさんとセンセイは本当にいい時間を共有していて、これはありだなぁと素直に感じました。ツキコさんが「センセイ、好き」って言ったり、センセイが「ツキコさんは、ほんとうに、いい子ですね」って頭をナデナデしたり、あわあわとほのぼのと心と心が寄り添っていく。
 読んでいない方は是非是非読んでみて欲しいです。表紙のタイトル文字やイラストも物語にぴったり。またひとつ人生に宝物を手に入れた気がする。嬉しい!

 居酒屋でセンセイに会って知らんぷりしあうのは、帯と本がばらばらに置かれているようで、おさまりが悪い。

『センセイの鞄』 2001.6.25. 川上弘美 平凡社




2004年09月05日(日) 『マインド・コントロール 心理分析官 加山知子の事件簿』 和田はつ子

 心理分析官・加山知子は36歳でバツ1。元カレ・警視庁の松井良和に微妙な鬱屈を抱えている。職場でも浮いている。日本でのプロファイリングはまだまだ認知されるに程遠い。ボランティアで出かけた先で御園貴史と出会い、久しぶりに心がざわめく。どきどきしているところへ変死体の知らせが入る。21歳の美しい中国女性が唇の上に翡翠・金・銀が置かれているというものだった。その事件を皮切りに・・・

 ううーん、好きなんだけどなぁ。和田はつ子。好きなのだけど、読んだ後に少しばかり不満が残ってしまう。なにが不満なのかわからない(なんじゃそら)。面白いのは面白いのだけど何かが足りないんだよなー。
 今回の事件は、最後までタイトルの‘マインド・コントロール’の意味がわかりません。最後の最後で無茶苦茶なマインド・コントロールの意味がわかります。ある意味かなり残酷なラストなのですけどね・・・。うーん、不完全燃焼だ。

「人間なら多かれ、少なかれ、みんな何かに失格しているものじゃありませんか?」

『マインド・コントロール 心理分析官 加山知子の事件簿』 2003.9.10. 和田はつ子 角川ホラー文庫



2004年09月04日(土) 『ジェシカが駆け抜けた七年について』 歌野晶午

 NMACは長距離専門の陸上競技クラブである。主催者はツトム・カナザワという日本人。クラブ運営と同時に監督やスカウトも努めている。ジェシカ・エデルはカナザワにスカウトされた。エチオピア出身のジェシカはチームメイトのアユミ・ハラダにホームシックから救って貰ったことがある。ある夜、眠れないジェシカはアユミが白装束で丑の刻参りをしている姿を目撃してしまう。アユミはアスリートとしての選手生命を潰した男を恨んでいたのだった・・・

 《過酷な女子マラソンの世界。一人のランナーが挫折して命を絶った。それから7年。なにかに導かれるようにジェシカはやって来た。恨みを残して死んだ彼女のためにしてやれることといえば、もうこれしかないのだ…。》これがこの物語の惹句です。これが非常にうまいと読了後に感じました。
 マラソンの練習に関する膨大な知識には唖然。こんなやり方があったのかと絶句したり。物語のトリックには、きちんと綺麗にアッサリ騙されました。私は単純だからなぁ。トリックがどうこうより、ジェシカの魅力に最後まで付き合ったという感じでした。すっと読めます。本人の語りでツトム・カナザワの視点や気持ちを知りたかったかな。

 楽しむのが自分なら、リスクを負うのも自分。すべてが自己責任なのである。

『ジェシカが駆け抜けた七年について』 2004.2.19. 歌野晶午 原書房



2004年09月03日(金) 『クロス・ゲーム』 中野順一

 沢口航太は東京から名古屋へ転勤し、オンラインゲームで出会った恋人・優衣と遠距離恋愛を始めた。三ヶ月ほど前に航太は優衣が苦労して手に入れたアイテムを失態で失ってしまっていた。そのためふたりの間には微妙な空気が流れ、航太の転勤のために優衣はますますゲームにのめりこんでいた。
 ある日、航太は暴漢に襲われる。仕事ではささやかな不正がばれる。ついてない航太はアパートの火事に遭遇。その火事は放火の疑いが・・・

 物語では、航太の物語と沙也加という女性の物語が同時進行していきます。沙也加の物語は悪質な<090金融>にかかわるもの。ふたつの物語がクロスしたときに、このゲームの謎が解けます。
 ゲームは仮想世界のはずだったのに、こんなにも現実に食い込んできてしまっている。ある意味かなりホラーです・・・

 せっかく犯人まで辿り着くことができたのに、謎はますます深まるばかり。

『クロス・ゲーム』 2004.7.25. 中野順一 文藝春秋





2004年09月02日(木) 『物魂』 桐生祐狩

 佑里子は人形が大好きだった。「半月堂」という人形をなおす店の主人は人間の心がわかる人物。佑里子は店主と店に惹かれ、通うようになる。ある日、主人がなおそうとしていた人形の心はぼろぼろに壊れていた・・・
 某大手出版社の中尾・「昔神童、いまただの人」の四十沢・評論家の吉見・美貌の占い師リドヴィーナ玄武・引きこもりがちの遊佐緑子。呑んで食べる事を至福とする面々。彼らは「少女の鑑」シンポジウムの会議と称し、鯨飲馬食する予定だったが、四十沢が遅れ、代わりにきた男に死の予言を受けてしまう・・・

 なかなかに面白かったです。もう少し長く書き込めばよかったのにもったいないなぁと言う感じ。人形の怨念による復讐よりも、復讐される側の殺され方がグーv 殺される奴らはよく食べてよく呑んで、そこもまたグーw
 ちらりんと調べてみたところ、このトンデモない殺されるメンバーにモデルがいました。トンデモ本の唐沢俊一さんたちです。桐生さんは唐沢さんたちに出版許可依頼をされたら、唐沢さんたちはトンデモなく残酷に殺して欲しいと言われたそうな(大笑)。それを踏まえて読むと一層面白いかもしれません。ホラーだけど(笑)。

「その人たちには申し訳ないですけれど、飲ませていただいてよろしいかしら。夕方になってもアルコールが入りませんと、もうカラータイマーが点滅しそうで」

『物魂』 2004.7.18. 桐生祐狩 ハルキ・ホラー文庫


 



2004年09月01日(水) 『身も心も 伊集院大介のアドリブ』 栗本薫

 天才サックス奏者・矢代俊一。一世を風靡した『ワナビー』を絶対に演奏しようとしない。そんな矢代に脅迫状が届き始めた。名探偵・伊集院大介のもとへ大介の秘蔵っ子・竜崎晶が心配して連れてきた。犯人の演奏するなと書いてきた曲を吹いた時、殺人事件が・・・

 栗本薫の物語も金太郎飴なので読まずともいいのに読まずにはいられない(笑)。読んで相変わらずの栗本節に安心したいのかもしれませんね。今回は『キャバレー』の矢代と伊集院さんとの共演です。昔からのファンは嬉しいだろうな。
 今回の事件や背景より、栗本くんの心の叫び(怒り)が書かれていて、結構つらいのかもしれないと気の毒になりました。私も含めて読むだけの人間は、真に好き放題言うものなので。

 変われば変わったで矢代は変わった、ファンを裏切った、って叩かれ、変わらなければ変わらないで矢代は旧態依然だ。成長しない、って叩かれる。ああいう人たちは、僕が何だったら満足するんでしょうね。でもそれはもうどうでもいいです。僕は、所詮、僕なんだから。

『身も心も 伊集院大介のアドリブ』 2004.8.1. 栗本薫 講談社




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