酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2004年02月29日(日) 映画『17歳のカルテ』1999年

 1967年、スザンナは揺れ動く心をもてあましていた。作家になりたくて大学進学を選ばなかったことを周りから咎められ、ある友人の父親の助教授と関係を持ってしまう。ある日、ウォッカを1本と鎮痛剤1本を飲み自殺未遂をおこす。その結果、クレイモア精神病院に入り、病気に逃げ込むのだった。そこにはたくさんの心の病を抱えた少女達がいた。傷つき、風変わりな女たちはやがてスザンナのかけがえのない友となる。中でも脱走を繰り返すリサは女たちのボス。次第にリサに依存をしていくスザンナ。しかし、リサが退院したデイジーを言葉で追い込み、自殺させたことから、見失っていた自分を取り戻すのだった・・・。

 この原作のタイトルは『中断された少女』(スザンナ・ケイサン)です。拘束された狭い世界の中で悩み、とまどい、友情を育み裏切りがある。狂気と正気の境界線はどこにあるのだろうか。誰だって一歩踏み外せば迷い込んでしまうのが狂気の世界ではなかろうか。苦しみ、あがく姿を見ていると誰だって完璧じゃないと気付かされます。
 この原作に惚れこんだと言うウィノナ・ライダーも良かったですが、この映画でアカデミー助演女優賞を獲得したアンジェリーナ・ジョリーが素晴らしい。ほとんどスッピンなのに美しいこと。反社会的な攻撃的なリサはものすごく魅惑的でした。カリスマ性がある狂気って怖い・・・なんて思ったりしました。
 さまざまな心の病の形が出てきますが、それはきっと誰しも大なり小なり心に抱えている。それが大きく前面に出てしまうか、どうか。それだけの差・・・。

 心の病とは精神が壊れたり、暗闇を抱えることじゃない。誰にでもある一面が拡大するだけ。ウソをついてそれを楽しんだり、大人になりたくないと願ったり。

映画『17歳のカルテ』1999年



2004年02月28日(土) 『ひとごろし』 明野照葉

 泰史は、13年来行きつけの洋食屋『琥珀亭』を手伝いはじめた弓恵に惹かれる。目が合っているのに合っていないような、視点がよそに逸れているような不思議な女。『琥珀亭』のママ、美恵子の心配を潜りぬけ、ふたりは付き合うようになる。泰史の妹・萌子は異常なブラコンっぷりで、弓恵の存在を嗅ぎつけ、反対をし、邪魔をする。そして初めの印象とはだんだんと変わり、仮面を脱ぎ始める弓恵。泰史は窒息しそうな愛の押し売り、大安売りの中で精神が破綻しそうになるのだが・・・。

 ひとごろしにひとでなし、そしてろくでなし。今の世の中、境界線っていったいどこにあるのだろう。そんなことをしみじみ考えてしまいました。
 明野照葉さんは好きな作家さんのおひとりですが、今回の『ひとごろし』はかなりよかったです。途中で「あ、そう落とすの?そうなの?今回はそうじゃない方がぁぁぁ〜」と勝手にはらはらしてみたり(笑)。しかし、そこはさすがの明野照葉さんです。私の浅はかな読みなんて見事に裏切ってくださいました。うまいなぁ。
 作家さんって、同じパターンで突き進む人もいれば、いい意味で裏切ってくれる人もいる。今回は気持ちよく裏切られました。面白い!

 気配の濃い人だとくたびれちゃうのよ。

『ひとごろし』 2004.3.8. 明野照葉 角川春樹事務所



2004年02月27日(金) 『僕は天使の羽根を踏まない』 大塚英志

 伏姫麒麟、14歳。夏目エリスにそそのかされ、自殺未遂をする。そして、コインロッカーで生まれた犬彦。ふたりはまた巡り合ってしまった。幾たびも転生を繰り返し、出逢う宿命のふたり。またふたりの前世の仲間を探す旅が始まった・・・。

 うーん。途中まで面白かったのですが、最後までそれなりに面白いのですが、なんだかところどころ意味不明。
 調べてみると、これは、ゲーム、コミックス、小説で多くのファンを獲得した伝奇ファンタジー<MADARA>シリーズの完結編らしい。登場人物も設定も魅力的。もう少しこの本だけでわかりやすければよかったのに。

「うかつに何かことばにすると世界が変わってしまうから」

『僕は天使の羽根を踏まない』 2003.11.30. 大塚英志 徳間書店 



2004年02月26日(木) 『幻痛(ファントムペイン)』 牧村泉

 笙子の夫は事業に失敗し、やけになって使用していたチェーンソーで笙子の小指を落としてしまう。そして失踪。数年後、夫の失踪の意味をひきずり生きていた笙子は夫の従兄の世話(不倫)になっていた。ある日、笙子と夫が住んでいた家に篭城事件が発生。立てこもり犯人は夫と家出中の女子高生だった? 

 「邪光」で第3回ホラーサスペンス大賞を受賞した牧村泉さんの作品です。今回は失踪した夫の心と、家出した娘の心を理解したいふたりの女の葛藤が描かれています。なんだか胸に痛かった・・・。
 幻痛〜ファントムペイン〜とは、無くなった体の一部に痛みを感じるような気がすること。ふたりの女性の追い求めた相手の心こそふたりにとっての幻痛という事だったのでしょうか。うーん。つらい。

 結局、嵐が過ぎ去ってみれば、女の方がいつもしたたかで、打たれ強いとわかっただけだった。

『幻痛(ファントムペイン)』 2004.1.15. 牧村泉 新潮社



2004年02月25日(水) 映画『ゼブラーマン』

 2010年、横浜市八千代区に市川という冴えない小学教諭がいた。妻は不倫、娘は援助交際、息子はいじめにあっていた。市川は、子どもの頃すぐに打ち切りになってしまった番組「ゼブラーマン」の大ファンだった。今では自分でゼブラーマンのコスチュームをこっそり作るほど。ある日、美しい母親に連れられた転校生がやってきいた。少年・浅野は父親の自殺のトラウマから足が動かなくなっていた。浅野少年と親しくなるにつれ、彼がゼブラーマンに詳しいことを知り、「浅野さん」と呼ぶ市川。そんな時、八千代区に地球外生命の存在を突き止めた防衛庁が動き出す。市川は、ゼブラーマンとして地球を救うことができるのか?

 わっはっは。アニキこと相川翔さまのコスプレ映画。クドカンさんならではの脚本でした。涙あり、笑いあり。ほのぼのするところもあり。なによりキャストにゲストが豪華です。個人的には防衛庁の及川役の渡部篤郎が最高に素敵でしたぁv
 しかしっ!本当の見どころは鈴木京香のコスプレですっ!! その名もゼブラナース! もうあの美しい肢体(特に美乳まるだし)をおしげなくさらしたコスプレ姿に女優魂を感じました。素晴らしい。
 気分が滅入ったり、ストレスためたりした日には、こういう映画が心に栄養になりますよんv

 白黒つけたぜっ!

映画『ゼブラーマン』



2004年02月24日(火) WOWOW『妄想代理人』#3、#4 今敏(こん・さとし)

#3「ダブルリップ」
 蝶野晴美は、ふたつの顔を持つ女。助教授の秘書や家庭教師のアルバイトをする晴美の顔と、ホテトル嬢として享楽的に生きるまりあの顔。助教授からのプロポーズを受け、まりあを切り離そうとする晴美だが、まりあは絶対にそれを許さない。心の中で葛藤するストーカーになってしまった。そしてふたりが争っている夜に・・・。

#4「男道」
 少年バットが逮捕された。あげたのは交番のおまわりさん蛭川。少年バットを追っていた猪狩の友達で、外面は家庭を大事にする地道な男と思われている。しかし、蛭川はヤクザに情報を流し、金と女にまみれた汚れた一面を隠し持っていた。ホテトル嬢まりあはお気に入り。蛭川は、女たちに「おとうさん」と呼ばせる屈折ぶり。調子に乗っていた蛭川はヤクザの幹部に脅され、ひったくりや押し込みを繰り返す。「誰か俺をとめてくれー」と叫んだ時、現れた少年バット・・・?

 いやー、妄想が加速しています。謎が謎を呼ぶサイコアニメ。かなり面白い。特に#3と#4は大人の女と男のどろどろした心のうちがよくわかり、かなり良かったです。人は年を重ねるとともにたくさんの泥を腹に抱え込むものなのねぇ。
 #4では、妙な数式から予言をするおじいさんが出てきません。#3までは、ヘンテコな数式と歌で少年バットに狙われるターゲットを予感させる数字や言葉を導き出していたのですが、#4ではなし。だから・・・逮捕された少年バットは、誤認逮捕か模倣犯ってことなのかな。
 次は2週間先なので待ち遠しさも加速しますー。わーん。



2004年02月23日(月) 『悪魔を憐れむ歌』 蓮見圭一

 山崎は、長男の喘息の発作がひどくなったことから、群馬の片品村へ引っ越す。子ども達は田舎生活を堪能するが、都会育ちの妻・洋子には苦痛らしい。夫婦間のギスギスした空気を緩和させようとブルドッグを購入。そしてひょんなことからブルドッグのブリーダーとなる。犬屋家業にのめりこむ山崎を置いて妻と子どもは都会へ戻ってしまう。ある日、ドッグショーで関根元という男と知り合い、口車に乗せられ、彼の手伝いをすることになる。この関根元と言う男、法螺吹きなだけでなく、おそるべき連続殺人犯だった。山崎は関根の死体処理を目の当たりにし、恐ろしさからがんじがらめにされてしまうのだが・・・。

 一時期、連続して愛犬家連続殺人事件が起こりました。その後、あの阪神淡路大震災が発生し、私の記憶から抜け落ちていました。今回、蓮見圭一さんが、共犯者となってしまった山崎の視点から描かれています。ほぼノンフィクションに近い小説のようです。犯人の関根元の異常性は、死体の処理のやり方にありました。死体さえなければつかまらないと言う発想で人間を透明にしてしまう。こんなことがフィクションでなく現実に行われていたのかと慄然とします。

 一体全体、何でこいつらは捕まらないんだ。こんなの、ありかよ。

『悪魔を憐れむ歌』 2003.12.15. 蓮見圭一 幻冬舎



2004年02月22日(日) 『黒冷水』 羽田圭介

 中2の修作は、高校生の兄・正気(まさき)の部屋を荒らし、覗き見をすることを至福としている。お年頃の兄の秘密はエロ満載で修作には一石二鳥の覗きとなる。そして決して覗きの痕跡を残さない。そのことが修作の誇りだった。しかし、正気は気付いていた。緻密な覗きと慢心している弟だが、痕跡はあちらもこちらにものこっているからだった。家庭内で静かな兄弟の火花が散る。気付かない振りで見逃していた正気だったが、学校のカウンセラーに心情を吐露して自分の内に流れる黒冷水に気付いてしまう。そして弟を監視するビデオカメラ。録画したあさましい弟の覗きシーンと見つけたエロ本を使ってそのまま自慰行為に耽る姿を両親に見せるのだが・・・。

 弱冠17歳で文藝賞を受賞した羽田圭介さんの家庭内サスペンスホラー(勝手に名づけた)です。最後の方が少し弱い気がしましたが、執拗に覗き行為を繰り返す弟の偏執的なところや、対する兄の残酷な報復には驚かされてばかり。なにより、やはりこれを17歳が書いたというところがすごい。
 物語には3人の変態的な少年が登場します。修作・正気兄弟と、伏兵の青野くん。まぁ、オチを考えると正確に3人と言っていいかどうか疑問ですが。近親憎悪というのは、ねじれてしまうと修復がきかないかもしれない。近すぎるからこそ。
 さて、この若く自信満々な羽田圭介さんは次回作にどんな物語を持ってくるのでしょう。今からとても楽しみです。

 どうやら書くという行為が、だれかに話すという行為の代わりになったらしい。

『黒冷水』 2003.11.30. 羽田圭介 河出書房新社



2004年02月21日(土) 『蹴りたい背中』と『蛇にピアス』

「蹴りたい背中」
 高校生の少女がクラスメイトに馴染めない。同じように馴染めないでいる少年が気になり、なんとなく仲良くなるが、彼はモデルオリチャンの異様なファンだった・・・。
 
 「インストール」を読んだ時には、あまりどうこう思わなかったのですが、今回は主人公の《蹴りたい》気持ちがよくわかるなー、と。でもコレあんまり評判ヨロシクないみたいですね(苦笑)。なんとなくあの時代の空気を感じられて私的にはこの子うまくなったなーと感じたのですけどー。

「蛇にピアス」
 ルイは、二股の舌を持つパンク男アマに惹かれ、自分も身体改造を試みる。改造してくれるサドのシバさんと軽く浮気などしながらスプリットタンや刺青などを施していく・・・。

 うーん、この滲み出る自虐的な哀しさは何を訴えたいのでしょう。友人達の感想ほどたいしてどうこう思わなかったですけど。やはり私は子どもを持っていないからかな。
 私がこの物語を読んで興味を覚えたのは、この人の両親ってどんな人たちなんだろうってことでした。父親は結構語られていますが、なんや淡々としてるし。どうも結局は父親に読んで欲しい叫び(自虐的な)、みたいに感じて仕方なかったです。

 芥川賞を取ったふたりのうら若き乙女の作品を続けて読みました。どちらもものすごく好き好きとは思わないけれども、文章はやはりかなりうまいと思います。これからどう化けてくれるか、期待しちゃいますねv



2004年02月20日(金) 映画『陽はまた昇る』

 加賀谷は日本ビクターに勤める技術畑の人間だった。数年で定年を迎える加賀谷はカメラつきビデオ開発に精を出していた。そんな加賀谷に横浜工場ビデオ事業部へ異動の辞令が。そして求められたのは人員削減だった。
 加賀谷は、絶望の場所から夢に向って突き進む。家庭用ビデオの開発だ。本社に内密にことを進めようとする加賀谷に不安を抱くエリート部下の大久保。しかし、加賀谷の人柄と夢への情熱は徐々に周りの人々を巻き込んでいく。試作品が完成し、加賀谷は情報を各メーカーに公開。互換性を重要視した加賀谷の英断だった。既に発売されていたベータマックスが国内統一規格になるのか? 加賀谷たちの生み出したVHS=VIDEO HOME SYSTEMの未来は、日本家電業界の父・松下幸之助が握っている。加賀谷と大久保はふたりで松下に会いに大阪へ・・・。

 素晴らしい映画です。西田敏行さんと渡辺謙さんががっぷり四つを組んでいる。こういう映画を観ると日本ってすごいって素直に感動できます。今まで観た邦画の中でも最高級だと思いました。
 その昔、ビデオがベータとVHSと言う2種類あったことは知っていましたが、今のようなVHS主流になるまでにこんな素晴らしいドラマがあったのか、と驚きました。VHSの意味も今回はじめて知りました。
 高卒で技術畑ひと筋を歩いた男を西田敏行さんが見事に演じ切られていました。そしてそれを支える渡辺謙さん。地味で手堅いエリートサラリーマンが、加賀谷と言う男に感化され変化していく・・・。感動します。
 松下幸之助を演じる仲代達也さんも渋い。関西弁で加賀谷に向って「ええ仲間を育てましたな」みたいなことを語りかけるシーンは涙、涙。本当になにごとも全ては人なんだと思いました。
 是非、観て欲しい邦画です。



2004年02月19日(木) 『天国の本屋』 松久淳+田中渉

 さとしは深夜のコンビニで22年の人生の中で確実に第1位となる大きなため息をついた。やる気のない就職活動が当然うまくいくはずもない。そこへ派手なアロハシャツを着た初老の男に声をかけられた。「噂どおりの冴えない奴だな」・・・失敬な。いや、それよりコレはあぶない。さとしは知らぬぞんぜぬを決め込み逃げ出そうとするがアロハ男にスカウトされてしまう。まぁ、拉致に近い形でさとしは連れて行かれてしまうのだ、天国の本屋へ。そしてアロハ男ことヤマキの代わりに店長代理として「ヘブンズ・ブックサービス」で働くことになってしまう。そこで出会った運命の人ユイ。不思議な色のユイの目を綺麗だと誉めてしまったことから、ユイに拒絶され途方にくれるさとし。ユイの瞳の色には重大なヒミツが隠されていたのだった・・・。

 当然のごとく涙が枯れるかと思うくらい泣けました。人の命は100歳と決まっていて、それより早く死んだ人は天国で100歳までの残りの時間を過ごすなんていう設定なんですよ。それならうちのトシは74年間もあの姿のままで天国で過ごしてるってことになるじゃありませんかー。今すぐ天国へ行く!っとじたばたしてしまいました。それが駄目ならせめてヘブンズ・ブックサービスで働かせて・・・。ううう。
 この本や舞台のことはなんとなく知っていましたが、目をそらしていました。先日、映画を観にいったときに、映画化と知り、観念して読んでみたわけです。とても心に優しい物語です。愛しい人を亡くした人にはたまらないと思う。やさしくてせつなくて。生きてること。死んじゃった愛しい人のこと。せつせつと胸に染み入るような気持ちになります。泣いたけど読んで良かった。

 「きっと、君を見つけてみせる」

『天国の本屋』 2000.12.31. 松久淳+田中渉 かまくら春秋社



2004年02月18日(水) 『姫百合たちの放課後』 森奈津子

「2001年宇宙の足袋」
 優香はOL。すてきな折原係長(♀)に憧れている。先輩OLの江川さんにいびられても、江川さんにもレズビアニズムの悦びを教えてさしあげたいと思う筋金入り。そんな優香は路上にいたとき、宇宙人の侵攻に遭い、地球人の代表として囚われて(選ばれて?)しまう。優香は宇宙人たちに敬意を示すことになる。その敬意の示し方とは、「相手の目の前で同性との性行為に及ぶ」というものだった。しかも、その模様はなんと全世界のテレビに生放送される。人類を救うため(?)優香は相手に折原係長を指名し・・・。

 あぁ〜、鼻血が出そう。本当に森奈津子さまの書く恋愛もの(主にコメディゲイ路線)は最高に素敵です。好き嫌いはハッキリ分かれるでしょうが、私は大好きです〜。しかし、攻める女性ばかりでした。すごかった。装丁とのギャップについて<あとがき>で触れられていますが、装丁が百合路線まっしぐらでキュート。

 ああ、早く飲みたい。アルコールが恋しい。ビールに枝豆、焼き鳥、コップ酒! この干からびた胃袋を優しく癒してくれる愛しいものたちよ!

『姫百合たちの放課後』 2004.1.21. 森奈津子 フィールドワイ



2004年02月17日(火) 『裂けた瞳』 高田侑

 神野亮司は兄に何度も何度も殴られた。「おれ、実は電波が受信できるかもしれないんだ」と言ったことで。そのショックが亮司の人生を決めてしまった。自分をだましだまし生きることになったのだ。亮司の脳は誰かの激しい感情を拾ってしまう。そしてそれは往々にして“負”の感情ばかりだった。しかし、ある失敗をした部下をかばい、ミスの訂正を手伝ううちに深い関係を持ってしまう部下・長谷川瞳とのセックスで一変する。素晴らしい体験と感情を得たのだった。そしてその相手・瞳もまた不思議な能力を持つ女だった。しかし家庭や職場での立場を守るため、瞳から遠ざかる亮司。そんな亮司の周りで不気味な事件が繰り返しおきはじめ・・・。

 いやー、文句なくおもしろかった! ぱちぱちぱちv 電波とかアンテナと言う言葉が使われだしたのは近年のことですよね。昔ながらの言葉でいえば超能力です。人とは違った力を生まれ持った人はやはり苦労して生きています。しあわせな超能力者の物語って少ない気がします・・・可哀想。
 この『裂けた瞳』は、第4回ホラーサスペンス大賞受賞作品です。不思議な力を持った男の悲哀と、彼の周りで起こる不気味な事件がうまいことつながっていきます。ふとしたよろめきから部下と不倫関係を持ってしまい、保身に走る姿も情けないけど共感できる。その保身がとんでもない結末をひきよせてしまうのですが。また不気味な事件の犯人像がすごく怖い。生理的にゾーッとする犯人像。いろんな要素を盛り込みすぎと言う意見も目にしましたが、私はまったく問題ないと思う。全てがキチンと綺麗に纏められます。すごい人が出てきたなぁ。

 世界中から「いらない」と言われているように思えて、おれは萎えた。どん底だと思っていた場所から見える、更に深い奈落におれは、絶望するしかなかった。
 夜はまだ、明けそうにない。

『裂けた瞳』 2004.1.15. 高田侑 幻冬舎



2004年02月16日(月) 『指を切る女』 池永陽

 唯子は少女の頃から艶かしい女だった。ただ美しいだけでなく、妖しい魔力を内に秘めていた。幼馴染の直彦・吉やん・カンちゃんはみんな唯子が好きだった。だらしない男と結婚し、洋太という少年をおでんやをしながら育てている。旦那は行方不明になっていた。洋太は、あるトラウマから左手が不自由だった。小さな頃から唯子と想いあっている直彦だけは、その理由を知っていた。そして唯子がまた洋太の手を治すために、指を・・・

 うー、まとめるにはむずかしすぎる。もうすっごい女の情念の世界。私には痛いほどわかってしまいました。しかし、意外にこの本の評価は低い模様。私の感性おかしいのかしら。この唯子の物語を含めた4つの女たちの物語。どれもどきどきしながら読みました。私的にはものすごーく好きなタイプの物語です。
 重松清さんが中年の男を描かせたら絶品であるように、池永陽さんはこういう情念の女を描かせたら天下一品。「コンビに・ララバイ」にも通じると思うんだけどなぁ。
 女心の情念の世界を垣間見たい方にはオススメですv

「どんなに厳重に戸締りしても、桜の花だけはどっからか入りこんでくる。桜は綺麗やけど魔物やな」

『指を切る女』 2003.12.10. 池永陽 講談社 



2004年02月15日(日) 『黒苺館』 水木ゆうか

 俊子は娘りさ子の嫁ぎ先に向った。りさ子が看護士としてケアしていた女性が亡くなり、その後添えとして矢内原家に嫁いだのだった。古びた煉瓦塀の向こうにうっそうとした木々。威圧するような矢内原邸。りさ子が妊娠。そして忍び寄る不気味な気配。俊子はりさ子を守りきれるのだろうか・・・。

 うーん、心理的に圧迫させるホラーですね。母娘の情愛が軸になっているだけに、カタストロフィの残酷さが際立ちます。私的にはけっこう好み。こういうだらだらすすむ恐怖も悪くない。
 りさ子はプロの看護士だったのに、矢内原家の女性達にたぶらかされ、恐怖の世界へと足を踏み入れてしまいます。このりさ子の迷いやコンプレックスは母への愛情の裏返しというところがものすごくせつない。母と娘の絆というのは悲しくせつないなぁ・・・。

「正しいとか正しくないとか、そんなことからなにが生まれます? たとえ新たな不幸を呼ぶことがあっても、ね?」

『黒苺館』 2004.1.22. 水木ゆうか 講談社



2004年02月14日(土) 『十三の冥府』 内田康夫

 「旅と歴史」の編集長・藤田に泣きつかれ、古文書『都賀留三郡史』の真偽の程を取材の旅に出る浅見光彦。光彦が行く先々で遭遇するのは、殺害されたお遍路さんの足跡だった。偶然か、荒ぶる神の祟りか。光彦は冥府に迷う死者たちの怨念に導かれるかのように、お遍路さんの哀しい過去と殺害の意味に辿り着いてしまうのだった・・・。

 ピラミッド、キリストの墓、アラハバキ神の祟り。東北にはこんな魅惑的な謎が残っていたのですね。古文書より、アラハバキと言う宗教にかなり興味を持ってしまいました。さすが小説界の久米宏、私のような無知な人間にもわかりやすく表現しておいでです。面白かったなぁ。
 年増の妖艶な巫女さんなんてあぶなっかしくっていいですねぇ。ぞくぞくぞく。いつものように事実を全て明らかにすればいいと言うものではない、と言う浅見光彦の対処の仕方にめろめろなのでした。あぁきたかー。

 その名から連想されるとおり、津軽人の怨念を象徴するような「荒ぶる神」である。

『十三の冥府』 2004.1.25. 内田康夫 実業之日本社



2004年02月13日(金) 『幻夜』 東野圭吾

 雅也の父が借金苦に自殺。通夜で叔父に借金返済を求められる。父の保険金から借金を返済する旨を約束。その明け方、未曾有の大地震に見舞われる。瓦礫にうずもれる雅也の家の工場。下敷きになり死んでいると思われた叔父が動いた。思わず叔父の息の根をとめた瞬間を、目撃されてしまう。その女性が雅也の運命の人・美冬だった。ふたりはどさくさに紛れ東京へ。のし上がっていく美冬の陰で、美冬のために献身的に尽くす雅也・・・

 うーん、面白かったです〜。かぶりつきで読んでしまったと言う感じです。野心に燃える美しい女性というのは、もしかすると東野圭吾さんの好みなのかな。映像化をものすごく意識されているような物語でした。かたや美冬のために尽くす男・雅也。これがまたいいオトコなんです。こんなオトコいないわ〜。
 『白夜行』を読んだ時も、衝撃的でした。もう4年以上前に読んだことになるのですね。あのヒロイン雪穂も美しい人だった。・・・と言うか雪穂と美冬って同一人物? この疑問を解消するために『白夜行』を再読してみないと。

「自分のできることは全部したって感じがしたの。逆にいえば、できない限界も見えてきた。今のままじゃだめ、変わらなきゃいけないと思ったわけ」

『幻夜』 2004.1.30. 東野圭吾 集英社 



2004年02月12日(木) 映画『借王 THE MOVIE 2000』

 いまだ莫大な借金を抱えるひかり銀行大阪中央支店次長・安斉満は、喫茶店を経営する義兄の自殺未遂から、システム金融に対することになる。借金に苦しむ浪花南署の水沼とクラブのママ玲子とともに悪徳システム金融元締め向井から裏金を奪う計画を立てる。向井のもとには玲子がかつてかわいがっていたホステス美由紀がいた。借金返済のため冷酷な取立てのプロとなっていた美由紀が、安斉たちの企みを見破ってしまう・・・

 アニキこと哀川翔さまが、銀行屋と裏の顔を使い分ける借王(シャッキング)シリーズ。今までの物語を見ていたり見ていなかったりなのですが、こういう邦画はいいなぁ。らくで。わかりやすい。
 あくどい金儲けをする人も知能が勝負。システム金融の成り立ちは悪賢い人間の考え出しそうなこと。借金の取立てに臓器や命をもらいうける、というのも恐ろしいほど冷徹なやりくち。でも実際にあることなんだろうなぁ。
 まっとうな人間のふりをして自分の借金返済と愛するものを守るためにずる賢く立ち回る安斉。金があるものより、知性が勝るものの方が強いかもしれないなぁ。

映画『借王 THE MOVIE 2000』



2004年02月11日(水) 『輝夜姫』23巻 清水玲子

 まゆの破綻しそうな心を救った碧は、植物状態になってしまった。碧の側から片時も離れようとしない由(ゆい)。晶たちにはなす術もない。まゆを追い詰め、傷つけ、碧を植物人間にしてしまった裏切り者の正体が明らかになる。どうして彼は柏木の配下に下ってしまったか。その理由が明らかになった時、晶たちは深い悲しみに絶望するのだった・・・。

 今回は登場人物がかなり死んでしまいます。さすがに整理整頓をはじめたのかな(笑)という感触。鍵を握る人物が多すぎると物語りは終結できないから、しかたないかな。
 晶は確かに輝くばかりに美しい女性だし、由は完璧な美と能力を持つ男。なのにそんな主役のふたりより、どうも屈折したタイプの方に興味を覚える。優等生の晶よりも、どろどろの嫉妬や劣等感を抱く美少女まゆや、刃物の様に美しいが乱暴者のミラーなんかが気に入っている。でっかくてミラーに狼藉されまくりのサットンもラブ。
 さて、まだまだ物語の展開が読めません。続きがはやく読みたいよう。

『輝夜姫』24 2004.2.10. 清水玲子 白泉社



2004年02月10日(火) WOWOW『妄想代理人』#1、#2 今敏(こん・さとし)

#1「少年バット参上」
 人気キャラクター“マロミ”のデザイナー月子は、マロミを上回る新しい作品を求められていた。締め切り目前、月子は通り魔に遭遇。足を怪我した月子に事情徴収する刑事達。そして月子の狂言とふんだハイエナのようなフリーライター。周りから、プレッシャーから逃避のための自作自演と揶揄されていたが、次はフリーライターが襲われた・・・

#2「金の靴」
 アイドルなみの人気者・“いっちー”こと優一は、月子が描いた犯人の少年に酷似していた。いっちーの人気を妬む何者かによって、少年バットだと疑われ始め、いじめの対象になってしまう。人気者から一気に奈落に突き落とされるいっちー。彼はライバル牛山が犯人だと確信するが・・・

 楽しみにしていた今敏監督が手がけるアニメ『妄想代理人』がスタート。不思議な老人が道端に計算する数字はなにか。月子の持っているマロミが動くのは何故か。謎・謎・謎。謎だらけ。しかし惹きつけられる謎ばかり。月子は仕事のプレッシャー、いっちーはいじめ。それに呼応するかのように現れた少年バット。物語はどう転がっていくのだろう・・・。ぞくぞくぞく。



2004年02月09日(月) 『ストレート・チェイサー』 西澤保彦

 あたい、ビーバー。“あそこ”っていう意味よん。むふふふふ〜。<トムズ・キャビン>ってレズビアン・バーで出逢ったフォウンちゃん(仔鹿)とパンプキンちゃんと意気投合。れろれろに盛り上がっちゃった。あんなことやこんなこともしちゃったわ。パンプキンちゃんってば、もろあたいのタ・イ・プ。でもパンプキンちゃんのしっかり娘エミリイに言わせれば「そうとは知らずにレズビアンバーなんかに入ってしまって眼を白黒させるようなねんねちゃん」(p274)ですって。ヘテロなのね。ああぁーん、ざぁ〜んねぇ〜んっ。ま、それはそれとして酔っ払ったワタシタチはトリプル交換殺人をやろうなんて話題になっちゃった。パンプキンちゃんことリンズィの殺したい相手は上司ウェイン・タナカですって。セクハラでもされてるのかしら? やだわぁ〜。男って。・・・それがね、数日後に本当に起きちゃったの。パンプキンちゃんのオフィスで殺人事件が! まっ、まさか本当に・・・。
 
 やぁ〜ん、ヤスヒコ・ニシザワっててクセモノよねぇ〜。優しげな風貌しておきながら。あれは詐欺よ。詐欺。物語は謎がいっぱーい。あたいの頭悪いけどあまりにも見事におさめられるピースにくらくらきちゃったわ。なんと言ってもラストのたった1行に酔いも醒めるわよ。涙で・・・。さ、もう一度酔いたいから、はじめから読み返してやるわ。勿論大好きなバーボンのストレートとチェイサーを交互に呑みながら・・・。
 ・・・なんて、あらすじ紹介と感想を登場人物のひとりビーバーちゃんふうにやってみました(笑)。魅力的な人物やとんでもなぁーくやな奴が出てきますが(西澤先生の本骨頂)、私はこのビーバーちゃんが一番好き。そんな訳でビーバーちゃんになりきってみて楽しかったです。しかし、これを400字以内におさめる作業はきつかった。西澤保彦ファンクラブ非公式版でこの本の紹介文をただいま募集中なんです。西澤保彦さん大好きっ子としては参戦せにゃなるめー、と頑張ってみましたが、タカタカ先生(高田崇史さん)の紹介文のうまさと簡潔さに打ちのめされています。闘わずしてズタボロにされている、みたいなー(涙)。当たり前ですよね。敵はプロの作家さんですものっ! でもまぁ拙いながらも自分らしい攻め方ができたんじゃないかなと思っています。えへへー。

 呼吸困難になったみたいに、しばらく喘いでいた彼女は、今度は簡易キッチンへと行ってコップに水を汲んできた。その“追い水”(チェイサー)とストレートを交互に口に含む。

『ストレート・チェイサー』 2001.3.20. 西澤保彦 光文社文庫



2004年02月08日(日) 『私小説』 岩井志麻子

 私小説、岩井志麻子さんがご自分のことを赤裸々に綴られておられます。ベトナムの青年に夢中になって、ベトナムへ通っていたことは有名ですが、その恋の行方はどうなったのだろう?(突然、ある編集さんと結婚されたので)と思っていた謎が解けました。しかし、ベトナムと韓国と日本にそれぞれ男がいたとは、恐ろしいばかり。さすがに岩井志麻子さんはぼっけぇきょうてーお人やわ(笑)。
 ‘わたしは子供の頃から痩せていた。なのにわたしは、いやらしい体付きだとよく言われた。顔立ちもだ。寂しげな、とこれも子供の頃から言われていた。なのに、いやらしい顔だと言われた’ー本文にご自分のことをそう描写されています。あぁ、なんだかわかるわかるとものすごーく納得してしまいました。男大好きオーラ(フェロモン)垂れ流してる女ってそういう感じ。岩井志麻子さんは小さい頃からそういうふうで、今尚それを貫いているのだなぁ。私は二股かけようが、三股かけようが自分が納得しているなら、自分の意思だと認めます。そういうの好きではありませんけど。
 ただ、私の馬鹿な友人にひとり岩井志麻子さんに似ていて非なる奴がおります。こいつは性質が悪い。恋人がいても誘われればほいほいついていく。挙句に騒動起こすだけ起こして(相手の家庭がもめるとか)相手が言い寄ってきたから、と自分の責任を一切感じない。あたま来ますよ。しかし、彼女も岩井志麻子さんと同じくひたすら男ズキであることは違いないなぁ。でも岩井志麻子さんには素晴らしいご友人(森奈津子さまとお友達なんて〜。うらやましい〜)が多々いらっしゃる。やはりそこが人間の器の違いなのか。

 岩井志麻子さんがベトナムの青年に恋をしてベトナムへ飛びまくっていた頃、韓国にも愛人がいて、日本にも恋人がいて。パワフルだったんだなぁと思いました。ただベトナムの青年の目的が岩井さんのお金にフォーカスしてきたことは、さらりと書いていらっしゃいますが、おつらかったろうと思います。きっと、岩井さんは夢を見たかったんだ。異国の青年との激しい恋という夢。それを壊してしまったベトナムの青年。カレは今なにをかんがえているのだろふ。

 してくれる、してくれないが全てではない。これもまた彼の体の相性がいいのと同じで、まさに理屈ではなく肌が合う、合わないというものだ。

『私小説』 2004.1.20. 岩井志麻子 講談社



2004年02月07日(土) 『鬼神伝 鬼の巻』 高田崇史

 天童純は京都の中学に転校してきて、三ヶ月。朝からなにかとついていない日の学校帰り道、純は古めかしいお寺に迷い込む。そして僧侶・源雲に平安時代に飛ばされてしまう。純の胸には赤紫の勾玉のあざがある。それは選ばれし者の印し。貴族達に鬼退治を頼まれる。しかし、どうして鬼は退治されるのだろうか? 純の心のかずかに芽生えた違和感・・・

 この講談社MYSTERY LANDシリーズは、とにかく装丁の素晴らしい。今回の高田崇史さんの『鬼神伝 鬼の巻』は、挿画や装丁を村上豊さんが担当されています。あの夢枕獏さんの陰陽師シリーズの挿画のアノカタです。鬼の物語と言う事もあり、イラストは抜群にマッチしています。この装丁だけでも価値がある。あ、勿論、内容もステキでしたが。
 鬼の正体というものに焦点をあてた壮大なミステリーです。どうして人間は鬼を忌み嫌い排除しようとするのか。それを高田崇史さんが解釈されているという訳です。なるほどなぁ〜と思います。神の巻が待ち遠しいです。

「あなたに悩む気持ち、私は分かる気がする。でもそれは、分かる気がするだけ。しょせん誰もあなたには、代わってあげられない。私だって、そばにいてあげられてもーただそれだけ。がんばって、自分で歩いて。」

『鬼神伝 鬼の巻』 2004.1.30. 高田崇史 講談社 



2004年02月06日(金) 映画『VALENTINE』2001年

1998年ケネディ中学卒業アルバムに写る5人の少女たちに愛憎のこもった書き込みが・・・。中学でのヴァレンタイン・パーティでジェレミー(JM)は、美しい少女たち4人シェリー、リリー、ケイト、ペイジにダンスを申し込む。しかし、痩せていて変態と嫌われているJMは美しい少女達に完膚なきまでに拒絶される。壁の花となっていた太目の少女ドロシーにダンスを申し込み、やっと受け入れられる。幼いキスをかわすふたり。それをいじめっこたちに見つけられ、ドロシーはとっさに嘘をつく。JMに急に無理矢理襲われたのだ、と。
 13年後。5人の少女達は美しい女性に成長していた。かつては太めだったドロシーもダイエットをし、資産家の娘ならではの贅沢な女になっていた。そこで悪夢がはじまった。美しい医学生のシェリーに黒いキューピットのカードが送られ、惨殺される。次はリリー。捜査にのりこんできた刑事はペイジに色目を使いつつ、JMの過去を調べる。JMはドロシーを襲ったあの後、更正施設へ入れられ、少年院へ回され、医療施設へ入れられていた。そして今は行方不明。そんな中、ドロシーの大邸宅でのヴァレンタインパーティではセクシーな水着姿でペイジが殺された。ドロシーとケイトは生き残ることができるのだろうか。犯人はドロシーの金目当てで付き合っている詐欺師キャンベルか? ケイトの恋人酒乱のアダムか? それともJMが復讐に・・・

 好きなんですよ、こういう超B級青春ホラー。なんと言っても瑞々しく若い女優さんたちの美しさに釘付け! ケイトとペイジを演じたふたりの女優さんは涎もんの綺麗さです。こういう映画から、のちのスター★が生まれるんですよねー。どうやらふたりとも既に人気女優さんのようですが。
 思いっきり、ネタバレしてしまいますので、映画(ビデオかな)を観ようと思っている方は以下を読まないでください。

 この物語の根底を流れるのは「ずっと憧れていた(愛していた)」と「ずっと憎んでいた(うらんでいた)」という愛憎だと思います。美しい友人に引け目を感じていたドロシーが、ケイトに向って爆発するシーンが印象的。4人は賢く美しく、でも自分だけが贅肉の塊、「みんな、くたばればいい!」と絶叫するほどに。こういう心の中で何年も熟成された燻った思いは、唐突に爆発する。被害妄想なドロシーが哀れでした。そしてケイトに一途な想いを寄せるアダムは酒乱で酒を断てない。しかしケイトを「昔からずっと愛していた」のです・・・。
 そう。あの幼い日、誰からも相手にされなかったドロシーとJM(アダム)の屈折した感情が別々に悲劇をもたらすのでした。
 美醜というものは人の好みもありますが、美しさはもはや才能なのではないかと思います。私の周りには不思議とものすごい美しさを持った人が集まります。私はそういう恵まれた美しさを賞賛してやみません。見ているだけでしあわせなきもちになれる。だからドロシー帰っておいで、じゃなくて、ドロシーのように羨み嫉みする感覚はわからないなぁ。そういう負のエネルギーをもつなら、自分を大事にしてあげたい。結局、心の形が一番大切なのだと思います。
 みなさま、素敵なヴァレンタインをv

映画『VALENTINE』2001年



2004年02月05日(木) 『七度狐』 大倉崇裕

 前作『三人目の幽霊』で、〈季刊落語〉編集部勤務を命ず―という辞令を受けた間宮緑。落語と無縁だった緑も1年が過ぎ、天衣無縫な上司・牧のおかげで(?)落語に造詣を深めていく毎日。そんなある日、北海道へ行ってしまった(笑)牧から、「静岡に行ってくれないかな」と指令される。牧のおかげでてんやわんやの緑だが、相変わらず天性の巻き込まれがた気質ゆえ単身静岡の片田舎にある杵槌村(きねつちむら)へ出向く。今回の牧からの指令は、春華亭古秋(しゅんかていこしゅう)一門会の取材。しかも古秋の七代目を指名するという一大事さ!
 六代目、古秋の三人の息子ー古市(こいち)、古春(こはる)、古吉(こきち)
の熾烈な跡目争い勃発である。しかし何故こんな人里離れた田舎で執り行われるのか? さまざまな疑問を抱きつつ、取材をはじめる緑を待ち受けていたのは『七度狐』を見立てた連続殺人だった・・・。

 面白い! 膝をぽんっと叩いてそう唸らされる出来のよさでした。落語ものと言うのは、難しいと思います。北村薫さんの代表作がどうしても頭に残っている方が多いかと思いますので。しかし、前作の短篇集『三人目の幽霊』でも、爽快に楽しませてもらえましたし、今回のどんでん返しの連続は小気味いいですね。ラストがかなりお気に入りで、超オススメですぅ〜。はーい、おあとがよろしいようで。

『人を泣かすのは簡単だ。怒らせるのもな。だが、笑わせるのは難しい』

『七度狐』 2003.7.30. 大倉崇裕 東京創元社



2004年02月04日(水) 映画『MYSTIC RIVER』

 ボストンのダウンタウンに近いイーストバッキンガム地区に3人の少年たちがいた。ジミー、ショーン、デイブという悪戯盛りの11歳だった。ホッケーをして遊んでいたが、デイブのショットが強すぎて下水に落ちてしまう。やんちゃナンバー1のジミーはそこらの車を運転してみようと言い出すが、少しお坊ちゃんのショーンは反対する。そこでジミーは舗装したてのコンクリートに自分の名前を刻む。続いてショーン。デイブがDAと書いている時、二人組みのおとなに注意をされる。腰には手錠がぶらさがっていた。3人を注意しつつ、3人の住所をさりげなく聞きだす警官ふうの男。そこから一番遠かったデイブだけが車に乗せられ、連れ去られてしまう。デイブは誘拐監禁され、男たちにさんざん弄ばれたのだった・・・。
 25年後、悪事から足を洗ったジミーの最愛の娘ケイティが殺害される。刑事となったショーンは奇しくも事件を担当し、デイブを容疑者として調べることになる。あの忌まわしい事件から3人の少年達は、どんな時を生き、どんな結末を迎えるのだろうか・・・。

 アカデミー賞が発表される前にどうしても観ておきたかった映画でした。11歳の時に男にレイプされた男を演じるティム・ロビンスの演技を観たかったからです・しかし、ジミーを演じるショーン・ペンも刑事になったショーンを演じるケビン・ベーコンも最高に良かったです。中でもショーン・ペンは第二のロバート・デ・ニーロになるのではないでしょうか。それくらいうまかった。
 この原作はデニス・ルヘインのベストセラーです。原作を読んでいないので軽軽しい感想は吐けませんが、映画では殺人事件が起こり、通報の電話が入った瞬間に犯人とその動機は読めました。これしかないな、と。
 この映画は犯人探しよりも、3人とそれを取り巻く人たちの人生の物語だなぁと思いましたね。人生は厳しく辛い。思いも寄らぬ災難に遭遇した時、それをどう自分と融合させるか。それが問題だ・・・。

 それぞれの心の傷を抱えて、少年達は大人になった。
 底知れぬ悲しみの果てにある、本当の涙を知るためにー。

映画『MYSTIC RIVER』



2004年02月03日(火) ドラマ『長く孤独な誘拐』 原作:貫井徳郎

 耕一は、住宅販売会社の辣腕営業課長だったが、手抜き工事のマンションを売らされたことを上司に訴え、関連会社へ出向させられる。プライドをずたずたにされながら、妻と子どものために耐えて働く耕一。ある日、息子、耕平が誘拐された。犯人の要求は、羽村裕貴也という少年を誘拐しろというものだった。息子の命を守るため、犯人の指示に従い、誘拐を実行する耕一だったのだが・・・。

 うーむぅ、なかなかほのぼのしたラストに変更されていましたねぇ。貫井さんの原作はもっと残酷なラストでした。誘拐という犯罪は、成功しない。しかも誘拐された子どもは殺されてしまうことが多いようです。子を持つ親の必死さがなんだかせつなかったですよう(涙)。
 しかし、上川隆也さんという俳優さんはうまいもんですねぇ。以前よりふっくらされて、私的には好みが増しましたわ。そして子役のふたりがむちゃくちゃかわいかったです。ドラマは子役で生きもすれば、死にもしちゃいますねぇ。

『光と影の誘惑』より「長く孤独な誘拐」 2002.1.25. 貫井徳郎 集英社文庫



2004年02月02日(月) 映画『PERFECT BLUE』今敏監督作品

 野外イベントステージで、3人組アイドルグループ《チャム》のメンバーが歌い踊る。この日、メンバーのひとり霧越未麻(みま)が、グループから脱退する。今ひとつ伸び悩むグループから切り離し、未麻を女優として売り出そうというプロダクションの意向だった。マネージャー(元アイドル)ルミは田所社長に反対したがかなわなかった。未麻は連続ドラマに起用され、台詞がひとこと“あなた、誰なの?”だった。田所社長のセールスが功を奏し、じょじょに女優として花開いていく未麻。それと同時に、脅迫ファックスや爆発物添付のファンレターが届きだす。そして本人が知らない間に立ち上げられていたホームページ「未麻の部屋」、そこには本人の生活や心の声が克明に表記されていた。いったい誰がどうして・・・。

 これは、2年前に本で読んだ『PERFECT BLUE』のアニメ化だと思っていたら、ずいぶん内容が違っていました。いろいろ調べてみたところ、原作者の竹内義和さんは、脚色に関して、サイコ・スリラーであること、主人公はアイドル、狂信的なファンという3つの条件を提示し、それ以外はすべて、今監督と脚本の村井さだゆきさんに委ねたそうです。これがよかったのか、アニメは原作をかなり上回っていました。
 未麻が起用された連続ドラマ(劇中劇)「ダブル・バインド」は、猟奇殺人を追う物語。未麻は、猟奇殺人犯を演じ、またヌード写真集も出し、アイドルから完璧に脱皮していく。しかし現実ではドラマの脚本家やヌード撮影をした写真家が惨殺されはじめる・・・。死を招く女優と言われ、自分を見失いかける未麻。ドラマと現実の区別がつかなくなりかけた未麻の前に現れる驚愕の真実とは。
 いやぁ、アニメなのにR指定されたはず、ってくらいにハードです。未麻がドラマ上でレイプされるシーンなんてぞくぞくさせられます(嫌悪感とある種興奮で)。なにより、ラストがとてもいや(大笑)。あんなのすっごいホラーだよーっ。ラストに関して申し上げるならば、この世のものとは思えぬホラーでございました・・・。おもしろうございました。はい。

映画『PERFECT BLUE』今敏監督作品



2004年02月01日(日) 『魔女の息子』 伏見憲明

 和紀は40歳目前のフリーライター。77歳の母とふたり暮らし。和紀は特定の恋人のいないゲイ。人恋しくなるとハッテンン場に出かけ、その場限りの関係を楽しんでいる。母は今、大恋愛中である。相手は和紀に会うたびに「どちらさま?」と尋ねる痴呆のはじまった男。しかし、ふたりは周囲の目などものともせず旅行に飛び回っている。ある日、ハッテン場で何度か関係を持ち、ほのかな想いを抱いた男が、HIV感染を公けにする姿を見る。彼の啓蒙活動を冷ややかに眺めていた和紀だったが、ある日、鏡の中の自分の姿に愕然とする。ハッテン場で中年男や禿オヤジなどと選別していた自分自身が中年のオヤジになっていることに気付いたのだった・・・。

 うーん・・・。伏見さんはこの物語でなにを描きたかったのだろう。文藝賞を受賞したゲイ小説と言うことで読んでみたのですが、わからない。なにかを模索していると言うか、悶々とした感じは伝わってきたのですけど。
 和紀という男の性格がすっぱりしていないから、なんとなくすっきり終われなかったのかもしれない。ゲイである自分に悩んでいるのかな。
 面白いのは、和紀の恋愛より、和紀の母親の恋愛です。すっごいパワー。老齢と言われる人同士の恋愛は、あれくらい開き直って楽しむ方がステキ。母親はああもやりたいようにやっているのに、和紀は父親に似ちゃったのかな。

「人が死ぬのは戦争からこのかた慣れているんだけど、こういうふうに逢えなくなるっていうのはね・・・・・・」

『魔女の息子』 2003.11.30. 伏見憲明 河出書房新書



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