酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2003年11月30日(日) NHK『楽園のつくりかた』 ABC『流転の王妃・最後の皇弟』 WOWOW『愛と資本主義』

 昨日は、9時からテレビに釘付けでした。見たいものが同じ時間帯に集中しちゃうのだもの。参っちゃった。

NHK『楽園のつくり方』
 今年6月くらいに読んで感動した笹生陽子さんの物語がNHKさんによって映像化されました。しかし驚いた。物語がはじまった途端にネタバレかーい! 唖然としてしまいました。ドラマでいきなりネタバレされるある深刻な事実は小説では最後の方まで明かされないのです。でも長野の美しい風景と主人公の男の子と天海祐希の美しさで許す(えらそうな・・・)。まぁ、あの事実を伏せて映像化するのってむずかしすぎるから、いきなり掟破りのネタバレスタートだったのかな。ただ、主人公の同級生のゲイ(?)の男の子を小説どおりに女装させなかったことはものすごくマイナスですよ。主人公が女装したかわいこちゃんを女の子と信じきってどきどきするさまが可愛いのに。NHK保守的すぎるぞー。
 この物語は、軸となる三人の人間(主人公とその母親とその義理の父)の癒しと再生の物語です。あんな綺麗な風景の中で少年時代を過ごすことになる少年自身の変化がものすごく好感を持てました。ちなみに主人の実家へ引っ越した時、天海扮する主人公の母親が主人の子供の頃使用していたものたちを眺めて泣くシーンは号泣してしまいました。あの感覚は生々しいほどわかってしまいました。いっしょに泣いていました(苦笑)。
 楽園はどこにもない。でもどこにでもつくることができる。自分さえその気になれば。

ABC『流転の王妃・最後の皇弟』
 これは、最初の1時間くらいをちらちらとしか見なかったのですが、途中からどっぷりはまって見入ってしまいました。若手俳優陣のオンパレードに脇を固める名役者さんたち。その豪華さにノックアウトされました。常盤貴子ちゃん大好きですから〜。反町くんも脇役なのに竹之内君を引き立てていい味出してた。さすがビーチボーイズ(笑)。
 しかし・・・日本は本当にとんでもないことをしでかしていたのですね。あそこまで日本の過去の恥部を浮き彫りにするとは思わなかったです。ひどいことをしたから、やりかえされた・・・。悲しいことですが、目をそむけてはいけない事実ですね。そしてラスト・エンペラーがゲイだったらしいとは知りませんでした。ふーん。そうだったのか。個人的には江角マキコのナチスっぽい服装が似合ってるな〜と(笑)。あんな江角なら私惚れます。今日、第二部があるのでちゃんと見れたらいいな〜。

WOWOW『愛と資本主義』
 昨日、録画していたビデオをさきほど見ました。この物語もたまたま今年原作を読んでいて、おもしろーいと思っていたので、とてもタイムリー。
 「お金で愛は買えるのか?」・・・まぁ、買えるわけありませんね。ホストにはまってしまう女性たちの孤独感がせつない。でも繰り返し同じ場面をフラッシュバックしすぎ。ビデオが壊れたのかと思ってしまった。
 これについては原作の方が格段おもしろかったかなと思いました。でも伊藤英明みたいなホストがいたら、そりゃーナンバー1でしょう〜。客と寝ないでナンバー1になれて、女性に貢がせるなんてただの人にはできません。やはり美しく高潔な男でないと。ホスト・クラブ行ってみたいけど幻滅しそうなのでやめときます。お金もないし〜。



2003年11月29日(土) 『鉄柱 (クロガネノミハシラ)』 朱川湊人

 雅彦は上司の愛人と関係したことで、島流しにあってしまう。その町は久々里(くぐり)町と言う、異常なほどに親切な人ばかりが住んでいる町だった。神経質な雅彦の嫁、晶子でさえ町に馴染み、しあわせそうな笑顔を見せるようになる。雅彦も満更ではないなと思った矢先、自殺した女性を発見してしまう。どうやらこの町では自殺する者が後を絶たないらしい・・・?

 うーん。この朱川さんって方は独自のホラー世界を確立されているなと思います。私の好きなホラー作家さんでは、高橋克彦さん・明野照葉さん・貴志祐介さんなどがいらっしゃいますが、やはり独自の世界を堪能させてくださいます。ホラーは、ただこわければいいと言うものでなく、後からボディブローのようにじわじわ効いてくるものも好みなのです。おそらく朱川さんはその路線のような気がします。昨日も書きましたが、せつなさや哀しさを感じさせるホラーっていいと思うなぁ。
 この物語のこわさは幸福の臨界点の見極めを考えさせるところにありました。これ以上のしあわせはないと確信した時、あなたは死にたいですか?

 願わくは花の下にて春死なむ、そのきさらぎの望月のころ 西行法師

『白い部屋で月の歌を』より 朱川湊人



2003年11月28日(金) 『白い部屋で月の歌を』 朱川湊人

 ジュンは、霊能力者シシィのアシスタントをしている。その場から動かない(動けない)霊魂をシシィが剥がし、ジュンの内なる白い部屋へ受け入れるのだ。ジュンは有能なよりしまであり、シシィの愛人だった。ある日、ストーカー行為の挙句、刃傷沙汰に巻き込まれた少女エリカの魂を救う仕事をすることになる。やっかいなのはエリカの魂が生きながら抜け出てしまっていること。ジュンは白い部屋にエリカを迎え入れた時、はじめての感情を抱く。それはジュンの初恋だった・・・。

 第十回日本ホラー小説大賞短篇賞受賞作品です。先日、『都市伝説セピア』を読み、不思議な美しい文章に心惹かれたところでしたが、この短篇も私は非常に好みです。おどろおどろしいホラーではなく、美しい哀しいホラーなんですよね。読後感が哀しいってホラーとしては素敵なんじゃないかな。これからも読んでいきたいと思わせてくださる作家さんです。ホラーはちょっと・・・と言う方もきっと敬遠しないで読める作品だと思います。

 男と女というのは、捩れたりほどけたり、いろいろ面倒なことが多いですからね

『白い部屋で月の歌を』 2003.11.10. 朱川湊人 角川ホラー文庫



2003年11月27日(木) 『サグラダ・ファミリア [聖家族]』

 響子がピアノに熱中している時、電話が鳴った。出たくない。でも電話は鳴り止む気配が無い。仕方なく出てみるとそれは響子が狂おしいほど愛したかつての恋人、透子だった。透子は出産をしたと言う。驚く響子。透子の産んだ息子、桐人に距離を取りながらも、透子のもとへ通い始める響子。透子もまた響子を愛していたままで、生んだ息子はゲイのピアニストを無理矢理犯して妊娠したのだと言う。透子を取り戻した響子を待ち受ける厳しく激しく神聖な事件が起こる・・・。

 ゲイの恋人同士が苦しむことのひとつとして子供を作れないことにあると言います。正直、私は愛する人さえそこにいてくれれば(勿論男でも女でも)子供を欲しいなんてまったく思わないのだけど・・・。ヘンなのかなぁ。姉の娘はかわいいです。でもどうしてもなにがなんでも自分が子供を生みたいと言う願望が皆無なんですよねー。
 透子という女性は欲しい者は必ず手に入れようとする素敵な女性です。響子を傷つけはしましたが、欲しい子供をものすごい方法で手に入れ、そしてちゃっかり響子のもとへ戻っていく。こういう女性、私もかなり好きですね。
 このタイトルの聖家族の意味するところは、かなり深いところに置かれていました。家族は血のつながりがあるから家族な訳でなく、家族になっていくのではないかと。血がつながっていなくても互いが互いを思いやり、愛し合えば、家族になれるんだと思う。だって愛するもの同士がいっしょに暮らせば、やはりそれは家族なんだと素直に思う。大切なことは相手を慈しむこと。それだけじゃないかしら。

 ピアノの演奏が弾き手の人格を残酷にさらけ出してしまうように、文章というものもまた書き手の人格を浮き彫りにしてしまうものらしい。

『サグラダ・ファミリア [聖家族]』 1998.7.1. 中山可穂 朝日新聞社



2003年11月26日(水) 映画『モンスターズ・インク』

 モンスター・シティでは、人間の子供の‘悲鳴’がエネルギー供給源。モンスターズ・インクでは、選り抜きのモンスターたちが日夜人間界の子供たちを驚かせて‘悲鳴’を集めている。ナンバー1モンスターはサリー。そして相棒ぎょろ目のマイク。仕事が終った夜、マイクの代わりにレポートを提出してあげようとする優しいサリーは人間界との‘扉’が出しっぱなしなことを不審に思う。‘扉’を開けるサリー。扉を閉じた時、人間界の女の子が迷い込んでしまった! 人間の子供はモンスター・シティのおおいなる脅威。汚染されてしまうと言われていたのだが・・・。

 すっごーく暖かくてほのぼのーっとしちゃう映画でした。公開当初、迷い込んでくる女の子(ブー)の表情があまり好みではなかったため、せっかくもらっていたチケットを姪にあげてしまったことを、2年後に後悔した位です(笑)。ブーは、まだ人間になる前のシロモノ(笑)。喜怒哀楽と本能だけで生きている。そのブーがきちんといいモンスター、悪いモンスターを選別できるところがすごいなぁと思いました。心優しいモンスターのサリーとマイクがだんだんとブーに情をうつすところにはほろり、ほろり。最後に「えっ!?」と驚かしてくれる展開もあります。あのキャラもいかしてた(にこり)
 ディズニー作品はやはりあなどれないなぁと思います。これから公開される『ファインディング・ニモ』も海が大好きな私としては劇場へ足を運ぼうと思ってしまいました。おとなだけど、ノリちゃんと室井さんが好きだから日本語吹き替えでもいいかしら。わくわくわく。

『モンスターズ・インク』 2001年アメリカ



2003年11月25日(火) 『瑠璃の海』 小池真理子

 萌は高速バス事故で、夫・孝明を亡くしてしまった。孝明の突然の不在に馴れることができず、とまどうばかりの萌。ある日、被害者の会に参加し、娘を失った作家・遊作に出逢う。互いに被害者の会参加者たちのテンションについていけず、似たようなひっそりした喪失感を感じあっていた。しかし、萌はそんな遊作とすら傷を舐めあうことを避け、ひとりでどんどん暗闇に落下していく。もう会うこともないはずだった。萌が遊作の著作『瑠璃』を読まなければ。『瑠璃』の文章に世界に惹かれた萌は、ふたたび遊作と連絡を取り、ふたりは貪るように互いを求め合うのだった・・・。

 時々考えることがあります。私が経験したような死へのカウントダウンがはじまった愛する人間と最期まで時間を共有することと、ある日いきなり愛する人間を失うこと。いったいどちらが残された者にとって生きやすいのだろうって。でも私にはゆるやかに死に向う感覚しか知らないから、わからないまま。
 今回、この物語の主人公たちは事故で突然に愛する人を失ってしまいます。その不在のおおきさは読んでいてひしひしと伝わってくる。人はいずれ死にます。だけどやはり早すぎる死を受け入れなければならない人間には過酷な試練となってしまいます。
 萌と遊作が溺れるように愛し合う感覚も痛いほどわかってしまった。萌と遊作はたまたま不幸の後にまた運命の人と出会えたことが幸せであり、不幸でした。ふたりと言う組み合わせでなければ、この結末は絶対になかったはずだから。
 萌が母親のことを考えながら、最後にこの結末を選んだことが私には許せませんでした。自分だって喪失の恐ろしいほどの孤独を感じておきながら、愛する母親に同じ思いをさせるのか、と。
 あぁ、こういう物語はあまりにも感情的になりすぎる。駄目です、私。

 それと同時に、どれほど激烈なものであっても、その悲しみはいずれ癒えるのだ。時間が解決する。現実を受け入れられずに、泣いたり、喚いたり、絶望したりしながらも、いつか必ず、その傷は塞がっていく。流した血の量が多ければ多いほど、傷のかさぶたは厚いが、ひとたびかさぶたができてしまいさえすれば、血の流れは止まるのだ。

『瑠璃の海』 2003.10.30. 小池真理子 集英社



2003年11月24日(月) 『天使の骨』 中山可穂

 王寺ミチルは自堕落な毎日を送っていた。かつては劇団を主宰し、その少年のような風貌で女たちを魅了していたミチル。なにをしたいのかどこへ行きたいのかわからずただ緩慢と生きていた。そんなミチルはボロボロの羽根をつけた天使が見えるようになってしまう。その天使はどんどんと数を増していく。ミチルは自分の激しく情熱的な過去を知る人間たちから逃げ出し、異国の地を放浪する。行く先々で出会う人々。暖かなやさしさやちょっとした絶望。新しい力をすこしずつ溜め込んだミチルが再開したことは・・・。

 ミチルと言うゲイの女性が、落ち込んだどん底から再生する物語です。中山可穂さんが描くヒロインはゲイで激しい魂を持つ魅力あふれる女性が多いです。今回のミチルも痛々しいほど傷ついているところが、また抱きしめてあげたい保護欲をそそると言うか・・・。女性が女性を愛する。私は惹かれてやまないのです。中山可穂さんの初期の作品と言うことですが、やっぱり素敵v

「気をつけて生きていきな。ころんだら起き上がれ。疲れたら休め。死ぬんじゃないよ」

『天使の骨』 1995.10.1. 中山可穂 朝日新聞社 



2003年11月23日(日) 『パラダイス・サーティー』下 乃南アサ

 栗子が一目ぼれした菜摘の店の客はとんでもない奴だった。それに気付いた菜摘は栗子を傷つけないよう密かに行動をする。そしてそれは自分の愛する女性を守ることにつながるはずだったのだが・・・。

 栗子は久しぶりの心ときめく大恋愛にのめりこみ、親友・菜摘の忠告を嫉妬だと誤解してしまうところがあります。こういうところが女のややこしいとこころで、こういうちらっとした醜さを乃南アサさんはうまく表現されるよなぁと思います。
 結局、栗子も菜摘も失恋をしてしまい、傷ついてしまいますが・・・そこはやはり友達ならではの相互協力で立ち直るところがいいデス。互いにいろんな感情を抱きあったとて、自分の間違いに気づき、相手に素直に詫びることができたら、やっぱり友達は友達でいられるものですよね。私にもそういう愛すべき憎むべき悪友が何匹かいます(笑)。
 
「最近、特にそんなことを感じるんだ。血のつながりとか、親戚だからとか、そんなことと関係なく、大切にしたいつながりがある。自分に正直に生きていれば、そういうつながりって自然に出来ていくんじゃないかと思う」

『パラダイス・サーティー』下 1997.6.25. 乃南アサ 幻冬舎文庫 



2003年11月22日(土) 『パラダイス・サーティー』上 乃南アサ

 栗子は20代崖っぷち。30歳へのカウントダウンがはじまってしまった。家は父と母が別居中、仕事場ではお局様扱い。つまらない毎日を送っている栗子は、家から飛び出し、中学時代からの友人・菜摘のもとへ転がり込む。菜摘はゲイ。男として生き、バーのマスターをしている。栗子は菜摘の家へ立ち寄ったバーの客に一目ぼれしてしまう。30歳目前にふたりの周りが動き始めるのだが・・・。

 あぁ、なつかしかったです。何年前になるかわかりませんが、私はこの作品を読んでいました。栗子の無邪気すぎる我侭さと菜摘のストイックな純粋さ。昔は確か栗子が大嫌いで、菜摘にただただ惚れていた記憶があります。
 何年か時が過ぎ、再読してみるとやっぱり栗子は我侭なお嬢様だし、菜摘は痛々しいガラスのきっさきのようです。でも時の流れってすごい。ふたりとも愛しい女性に思えましたから。
 栗子より、菜摘の方が魅力的であることは変わりありませんでした。菜摘は女性として生まれつきましたが、女性しか愛せないことに忠実に生きています。私は菜摘に出会っていたら惚れてしまうかもしれないな。

「ゲイっていうのは、誰よりも孤独を知っている。誰よりも愛されたくて、誰よりも淋しい」

『パラダイス・サーティ』上 1997.6.25. 幻冬舎文庫 乃南アサ 



2003年11月21日(金) 『なくさないで』 新津きよみ

 永井純子は、平凡ながら幸せな結婚生活を送っていた。ある日、差出人不明の郵便物が届く。中には真珠のイヤリングの片割れが入れられていた。純子の脳裏に甦る苦い過去。いったい誰がどうしてこれを送ってきたのだろう。疑心暗鬼になる純子だが・・・。

 ううーっ。いやぁ〜な読後感でした。そしてそれこそが新津きよみさんの狙い目なのだろうなぁ。誰だって過去に忘れてきたもののひとつやふたつやみっつくらいは持っていて、きっとあえて思い出したくないシロモノもあるでしょう。そんな過去の亡霊が今を生きる自分に突きつけられたら、それは疑心暗鬼にもなろうってものですよー。
 純子だけでなくオムニバス形式で、過去からの贈り物を受け取る人たちはそれぞれの生活に波紋が広がり、破綻してしまう人まで出てきてしまいます。問題はこの送り主の悪意の塊です。いたずらに人の生活を脅かすものではないし、人を羨むものじゃないなー。
 ふと私にとって怯えてしまう過去からの贈り物ってなんだろう、と考えてしまいました。あれかしら。いや、あっちかしら・・・。

ー自分の気づかないところで、誰かをひどく傷つけている。何げない言葉に傷つく人間がいる。
ー人間の記憶とは、ときとしてひどく残酷なものだ。凶器にもなり得る。

『なくさないで』 2002.6.20. 新津きよみ 詳伝社文庫



2003年11月20日(木) 『タスケテ・・・』 島村洋子

 藤村しのぶは綺麗な少女だった。周りの賞賛の目や嫉妬や僻みの目にさらされ、自分の美しさの価値を知る。美しさを武器に上京したしのぶだったが、人気は出なかった。田舎に帰ろうかと言う時、人気アイドル橘リリカのスタンドイン(替え玉)をすることになる。自分より才能が劣っているリリカに人気があることに釈然としないしのぶ。ある日、しのぶは自分の中に巣食った醜い感情ゆえに大変なことをしでかしてしまう。そして、しのぶは人生まるごとリリカのスタンドインとなるのだが・・・。

 島村洋子さんの作品をアンソロジーなどで拝読し、いつかきちんとしたものを読みたいなと思っていました。岩井志麻子さんのエッセイ等に登場する島村洋子さんがなかなかに毒のある(いい意味で)感じを受けていたので、興味津々でした。しかし、期待を裏切られ、そんなに過度の毒も悪意もなく、かえってホラーにしては優しい文章だと思いました。うーん、一冊ではまだわからないと言うことか。

 自殺は犯罪である。
 残された人間をずっとずっと苦しめ続ける犯罪だ。

『タスケテ・・・』 2002.11.10. 島村洋子 角川ホラー文庫



2003年11月19日(水) 『ピリオド』 乃南アサ

 葉子はフリーのカメラマン。結婚相手の浮気を機に離婚し、独身。付き合っている相手は編集者の男で不倫関係。両親は他界し、今、兄が癌におかされ死に向っている。兄嫁はかつての同級生、志乃。歯切れが悪く物事をはっきり言わないつかみ所の無い女性だと思っている。甥は大学受験で、姪はある事件のトラウマで、東京の葉子のもとへ交替に転がり込んでくる。そして、不倫相手の自殺。兄の病死。葉子はもどかしいほどの望郷の念を心に抱きながら、甥や姪に必死でかかわりあっていくのだが・・・。

 参りました。いきなり癌で死に向う人間が登場します。人間というものは窮地でその真価が人となりがまざまざと表れてくるものだとつくづく思ってしまう。重苦しい物語なのですが、葉子という一人の孤独な女性の魂は美しいです。葉子が耐えて頑張っているからなんとか読破できました。帰りたい、帰りたい、どこかへ帰りたいと心で悲鳴をあげている葉子。
 生きていくという行為は、時代時代でひとつずつ‘ピリオド’を打ちながら、次へ進まなければならないのでしょう。その‘ピリオド’の打ち方を間違ったり、打たずに進むととんでもないことになる。私もきちんとピリオド打たなきゃなぁ・・・。はぁ。

 人間は、傷つかずに生きてはいかれない。傷は、完全に癒えることない。それでも、もしかすると醜く残った傷痕さえ自分の一部として、受け入れていかなければならない。あらゆる傷を受けてもなお、生き続けた方が良いことを、この子はいつ知ることだろう。

『ピリオド』上 2002.5.20. 乃南アサ 双葉文庫



2003年11月18日(火) 映画『サウンド・オブ・サイレンス』(2001年アメリカ)

 小児精神科医ネイサン・コンラッドは、美しい妻アギーとかわいい8歳の娘ジェシーと恵まれた幸せな生活を送っていた。ところがある日、何者かに娘ジェシーを誘拐されてしまう。誘拐犯の要求は、古巣の病院で友人に頼まれて看たばかりの少女エリザベスから6桁の数字を午後5時まで聞きだせ、というものだった。エリザベスは子ども時代の父の死を目の当たりにしたことから心を病んでしまっていた。ネイサンは数字を聞き出し、ジェシーとエリザベスを救うことができるのか。数字に隠された意味は・・・?

 先日、WOWOWで放映されたものを録画して観ました。これは人気推理作家A・クラヴァンの『秘密の友人』の映画化。この小説を読んだ記憶があったのですが、記憶違いだったのかしら。
 心を閉ざした少女と小児精神科医のかかわりにとても注目していたのですが、そのシーンに限って言えば、マイケル・ダグラスでは役不足だった気がします。少女役のブリタニー・マーフィはよかったのだけどな。ちょっと消化不良。

映画『サウンド・オブ・サイレンス』



2003年11月16日(日) 『anego』 林真理子

 野田奈央子は33歳・独身、一流商社OL。若い派遣社員の女性が席捲する中、しっかりと働き、後輩の女性たちに絶大なる信頼を受けている。性格的に人から頼られやすいアネゴ肌な奈央子は、つい人の相談に乗ってしまう人の良さがある。旅先でかつての後輩、鈴木絵里子とその夫、沢木に出会った時から、彼女の人生は波乱と混乱と恐怖に満ち溢れていく・・・。

 これは、紛れもない怖いホラーですね。しかもかなり上質のホラーでした。どうして上質かと言うと一番最後のたった一文にホラーを感じさせたからです。これでもか、これでもか、と畳み掛けるホラーもいいけれど、普通に読みすすめていって、たった最後の1文でぞーっとさせるなんてなかなかできるもんじゃありません。
 どちらかと言うと林真理子さんは読まずギライで通してきたのですが、ここまで面白いと認識を改めないといけませんねー。
 若さを通り越した33歳の独身女性がぶつかるさまざまなことが描かれていて、きっと読みながらどこかに自分を見つけた女性も多かったのではないでしょうか。奈央子がとても好きなタイプの女性だっただけに、本当にどうして幸せになれないのだろうとものすごく同調してしまいました。そこもまたある意味ホラーでした。
 いい人と回り中から認められ、頼りにされた女性が迷い込んでしまった迷路。はたして彼女はそこから抜け出ることができるのでしょうか?

 けれどもセックスというのは菓子と同じで、すぐに食べなくても常備しておかなければ心もとない。不安になる。

『anego』 2003.11.1. 林真理子 小学館



2003年11月15日(土) 『千里眼の死角』 松岡圭祐

 嵯峨敏也は、シンポジウム参加のためイギリスに来ていた。そこで急遽英国王室シンシア妃のカウンセリングを依頼される。シンシア妃は何かに異常に怯え錯乱していた。嵯峨はシンシアの身と心を助けるが、シンシアを襲いかけた原因不明の「人体発火」による死亡事件が相次ぎ始めた。なんらかの危機を察知した嵯峨は、行動力と知力を兼ね揃えた岬美由紀に強力を要請する。美由紀が対することになったのは考えるコンピューターだった・・・?
 
 「催眠」の嵯峨敏也と「千里眼」の岬美由紀。そしてラストには彼らが関わってきたオールキャストが顔を揃えると言う豪華なエンタテイメント作品です。松岡圭祐さんの作品はこれくらい破天荒に派手にぶちかましてくれないとねーv
 今回、またもや岬美由紀は戦いぬきますが、彼女の孤独も浮き彫りにされ、才能豊か過ぎるゆえの孤独にそっと涙。でもエンディングが素敵なので安心して読んでいただきたいです。
 コンピューターが意思を持ち、進化する。絵に描いたような未来地獄絵が登場しました。ものすごく破天荒ながらも、どこかに不安や危惧を感じる。そんな娯楽作品でした。あ〜すっきりv

「すべてが闇でも、未来がまだ残されている。生きている限り、希望はある。最後まであきらめないのは当然のことさ。それを教えてくれたのは、きみじゃないか」

『千里眼の死角』 2003.11.20. 松岡圭祐 小学館



2003年11月13日(木) 『クレオパトラの夢』 恩田陸

 神原恵弥(かんばらめぐみ)は、容姿端麗で有能なオネエ言葉を操る男である。双子の妹、和見を連れ戻しに酷寒の地までやってきた。和見は不倫相手を追いかけてこの寒い街へ引っ越してしまっていたのだった。しかし、再会した途端、和見が恵弥を連れて行ったのは、彼女の不倫相手の葬式だった。どうして彼は死んだのか? 双子の間に流れる疑心暗鬼。そして恵弥の本当の目的は・・・?

 おもしろいっ! 内容的にはさまざまな意見が飛び交いそうですが、私的にはこの神原恵弥ひとりで十二分に堪能できた物語でした。『MAZE』を読んだ時、ここまで神原恵弥に惹かれたかどうか記憶にないので、また読み返してみようと思います。
 陸ちゃんの天才っぷりは健在で、最後の最後まで謎をちりばめてくれます。この‘クレオパトラ’なるものの正体や、‘冷凍みかんの話’などは背筋が凍る怖さもあります。こういうタイトルのつけ方は相変わらず心憎いと申しましょうか、内容とタイトルの関係がうまいなぁ・・・。
 恵弥と和見の男女の立場が逆転したような麗しい双子の性格が心に痛かったりしましたけど。特に和見の方が。くすん。でもまぁ恵弥みたいな双子の片割れがいればだいじょうぶかー。
 私的には読んでよかった、おもしろかった、オススメ〜でございます。

「そうねぇ。人間なんて、しぶとくて儚いものよね」

『クレオパトラの夢』 2003.11.5. 恩田陸 双葉社 



2003年11月12日(水) 『いじわるうさぎの日記』 俣野温子

 俣野温子さんのイラストが好きです。中でも一番好きなキャラクターは‘いじわるうさぎ’! 最初はイラストで惚れこんで、絵本になって彼女の性格が明らかになった時、ますます好きになりました。そう言えば私の好きなキャラって最近ではアランジ・アロンゾさんの‘ワルモノ’だったり、ちょっとひねくれはぐれ系が多いかもしれません。でもみんな根はとってもいい子なのv
 少しくたびれた時は、活字が追えなくて絵本を眺めます。ひさしぶりに目と文字で再会した‘いじわるうさぎ’は私にちょっぴり元気を与えてくれます。よし、明日からまた頑張ろうv

『笑顔』
 私が笑うと
 あなたも笑うから
 私はいつも笑っている・・・・・・。

『いじわるうさぎの日記』 1994.10.15. 俣野温子 ほるぷ出版 



2003年11月11日(火) 『初夜』 林真理子

「儀式」
 亜希子の夫は、娘と妻を捨てて亜希子と再婚をした。娘・佐穂に辛い思いをさせたからと夫は異様に佐穂をあまやかす。亜希子も心の中にわだかまりをおしこめながら佐穂と付き合うのだった。やがて亜希子は男の子を出産。しかし、夫はまた次の女のもとへと去ってしまう。その夫が亡くなったと言う知らせを受け、葬儀の場で亜希子は少女から娘へ成長を遂げた佐穂と再会を果たすのだが・・・。

 女VS女と言うものは、ひとりの男を介在してしまうと年齢など関係なく敵となるのだなぁと思いました。この『初夜』は、中年にさしかかった女たちの物語なのですが、心にじくじくと痛かったです。女と女の係わり合いは、シンプルな友情(男絡めず)に限ります。こわすぎ・・・。

 何よりも、娘の父親に対する天性の媚びというのは、どんな商売女も敵わないだろう。

『初夜』 2002.5.15. 林真理子 文藝春秋

 



2003年11月10日(月) 『葉桜の季節に君を想うということ』 歌野晶午

 成瀬将虎は、気ままなフリーター。好奇心旺盛でなんでもやってやろうと言う気概にあふるる男。もちろん女も大好き。そのため(?)に肉体を鍛えることも忘れない。トラが可愛がっている舎弟キヨシの思い人・愛子さんがトラブルに巻き込まれているらしい。行きがかり上、かかわるトラ。なんでも愛子さんの大金持ちのおじいさんが蓬莱倶楽部という団体にだまされた挙句、ひき逃げされたと言うのだ。調査に乗り出したトラは、地下鉄へ飛び込み自殺未遂の女性を助け、惹かれるようになるのだが・・・。

 うーん、これはやられましたな。タイトルが素晴らしく素敵だったのでずっと読みたいと思っていたのですが、ある事情からしばらく取り置きしていました。結果的に言うと、時間を置いて読ませていただいてよかったな、と言うのが本音です。(この事情に関しては、今夜、酔いどれ日記の方に書くと思いますので、気になられる方はそちらへどうぞ)
 こういうふうに最後の最後でちゃぶ台をひっくり返されると、ただただ唖然とするばかり。ある事情からネタに気付いてしまったことが本当に残念。まっさらなまま読めていたらもっと楽しめただろうなぁ。(と言う訳でまだ未読の方で読む予定の方は酔いどれ日記は読まないようになさってくださいまし)
 物語は将虎と言う精力的でタフないい男が魅力的だし、蓬莱倶楽部と言う怪しげな団体もなかなか興味をそそります。そして最後に・・・・・。あとはどうぞ読んでくださいね。

「好きなやつが死んじまうと、胸がズタズタに張り裂け、その穴は一年やそこらじゃ塞がらない。それが愛した女だとなおさらだ」

『葉桜の季節に君を想うということ』 2003.3.30. 歌野晶午 文藝春秋



2003年11月09日(日) 『紫蘭の花嫁』 乃南アサ

 最初に、花嫁が消えた・・・。「逃げなきゃ、あいつから逃げなきゃ!」三田村夏季はどこまでも追ってくる男の影から逃げ続けている。神奈川県警の小田垣は連続婦女暴行事件犯を執念で追いかけている。小田垣は法医学研究室の渋沢に目をつけていた。孤高のエリート小田垣が通うバーの美女、摩衣子。摩衣子は小田垣の趣味の蘭の花をいつもどこかにあしらっている。摩衣子は小田垣を追っているのか?

 この物語を読んでいるとまるでサスペンスドラマを見ているかのような気分になりました。もしかしたらこの原作でドラマ化されていたかもしれないですね。
 物語は、追われる者と追う者の心理が複雑に絡み合い、意外な展開へ進んでいきます。本当に追っていた者が誰で、追われていた者が誰で何故なのかが明かされたとき、読んでいた自分がいかに乃南さんに翻弄されていたかに気付くことになります。うまいなぁ・・・。逃げる女の追い詰められた閉塞感・圧迫感は圧巻でした。

「私は精神異常者のように自分を神にたとえるつもりはない。私は、確かに選ばれた人間ではあるけれど」

『紫蘭の花嫁』 1996.9.20. 乃南アサ 光文社文庫



2003年11月08日(土) 『FLY』 窪依凛

 勇斗はタレントとして成功しようと頑張っているが、認めてくれているのはファンレターを送ってくれるFLYと言う女性だけ。FLYから同封されたムーンストーンを身につけるようになり、勇斗は突然チャンスに恵まれる。CMに起用され、ドラマの主人公役まで射止めてしまった。同じ頃、滝沼未来という少女と恋におち、同棲をはじめていたが、勇斗はだんだんと未来がうとましくなってくる。そして勇斗が好意を寄せる人たちが次々と惨殺されていき・・・。

 読みやすかったですけど、ローティーン向けのホラーかなと言う感じがします。未来と言う少女の豹変ぶりや、ストーキングのすざましさは背筋が寒くなりますが、どうもおどろおどろしい暗い怖さを感じられなかったので残念でした。FLYの正体と意味は納得ですv

 愛する人のもとへ今すぐ飛んでゆきます…。

『FLY』 2003.10.15. 窪依凛 文芸社



2003年11月06日(木) 映画『IDENTITY』はワンロケーション・スリラー

 昨日観た『IDENTITY』は、重要人物たちがひとところに集められます。その場所がアメリカの車社会産物の簡易宿泊施設であるモーテル(motor+hotel)でした。さもいわくありげなモーテル。それはかの『サイコ』を彷彿とさせます。そこで『そして誰もいなくなった』のようにひとり、またひとりずつと殺されていく。ふたつの名作を下地にした『IDENTITY』は下手をすれば大失敗だったことでしょうね。集められた訳ありの重要人物たちと別にこの『モーテル』が大きなキャラクターとなっています。
 たとえば6号室に喧嘩の絶えないカップルが入り、ドアをばたんっと閉めたらドアのナンバーの6がくるりっと回転して9になってしまいます。これがものすごーく印象的なシーンなのですが、やはり深い意味を持っていました。まさにこのモーテルそのものがキャラクターとして生きているようにさえ思えてしまいます。更に連続殺人が起こり、その後に不思議な現象が発生しますが、それもまたモーテルが生きているのでは?と錯覚させます。
 たくさんの伏線がはりめぐされていて、最後に全てが明らかになる時に「あぁ、あれがこうだったのかー」と唸りました。映画を何度も観に行かない私ですが、この映画は確認作業のためにもう一度観たいくらいです。
 好奇心は猫を殺しますが、私も好奇心でうろうろしてしまいそうだわ〜。早いうちから殺されちゃうタイプ?と見せかけて実は生きていた極悪人なんてのがいいな(笑)。この映画には関係ありませんけどねv



2003年11月05日(水) 映画『IDENTITY』

 ある大雨の夜、洪水で車が走れなくなった男女が怪しげなモーテルに迷い込む。訳ありの人・人・人。やがてひとり、またひとりと殺されていく。彼らはたまたまここに集まったのではない。集められたのだった。彼らの共通点、それは・・・。

 うっひゃーv おもしろかったですぅ〜。きゃぁきゃぁきゃぁ。早いテンポで進む衝撃的なシーン。同時に進む別の世界での物語。それらは全て‘あの’ラストのために用意されていたのですねぇ。そして、それでも物語りは終らない・・・。
 なにを書いてもネタバレになるので、自粛。自粛。こういう物語に精通している人なら、途中で物語のからくりは読めます。でも‘あの’ラストだけは読めないと思います。
 もと刑事で、ある事件のショックで心を痛めている女優のお抱え運転手のエド。死刑囚を護送している刑事ロード。このふたりがとても素敵ですv どちらも好きだなぁ〜。
 閉ざされたモーテルで起こる「そして誰もいなくなった」。さて最後まで残ったのはいったい誰でしょう?

「とにかくどんでん返しに驚いたんだよ。脚本を読んでいて、まさかあんなものが待ち受けているとは思ってもいなかったから。しかも真相が明かされたあとも、映画は終らず、まだ物語りは進行するんだ。これほど驚きに満ちた脚本なんて、めったにないよ」(エド役)ジョン・キューザック



2003年11月04日(火) 『枯葉色グッドバイ』 樋口有介

 羽田空港の明かりが見えるマンションの一室で親子三人が惨殺された。殺された中学生の娘は死後、陵辱されていた。悲劇の夜に外泊していたため、生き残ったたったひとりの美少女・美亜。彼女は心に悩みと迷いを抱える高校生だった。事件を担当する女刑事・吹石夕子は、たまたま災難を逃れた美亜に疑念を抱く。そして美亜のアリバイを証明した友人が代々木公園付近で乱暴されて殺された。このふたつの事件に接点はあるのだろうか? 吹石は代々木公園を調べている時に、かつて切れ者エリート刑事だった椎葉を見かける。彼はホームレスになっていた。破天荒な吹石は、ホームレスの元刑事をアルバイトに雇い、無理矢理事件を探らせる。ホームレス・ホームズの誕生。そして美少女・美亜が心を開いたたったひとりの大人だった・・・。

 これ、すごく良かったです。なにがいいかと言うと訳あって切れ者エリート刑事からホームレスに転向(?)していた椎葉の放つ言葉たち。彼はまだ人生を捨てきっていないのだと思うほど優しかったり、憎たらしかったり、ウィットに富んでいます。現実から逃げようとしても彼のもともとの人間性や才能は失われることがなかったのでしょうね。
 事件は、美亜というひとりの少女の人生を巡って大きく動きます。とんでもなく悲劇のヒロインなのですが、美亜もまた逞しく、心美しく生きていくだろうな、と思わせてくれます。事件の顛末もなかなかいいところへオチましたv
 椎葉さんがものすごく切れ者でばりばりエリートだったのに、刑事をやめ、社会からはぐれ、ホームレスになるきっかけは、とても悲しい事件でした。このあたりをあまりうじうじ表現しすぎなかった点も好感が持てます。この物語ではそれで正解だったと思いますね〜。とってもオススメです。

 宗教で救われたい人間は救われればいいし、地獄へ落ちたい人は落ちればいい。宗教の善意は否定しないけれど、宗教で人が救えると思う無神経さには腹が立つ。

『枯葉色グッドバイ』 2003.10.10. 樋口有介 文藝春秋

 



2003年11月03日(月) 『躯』 乃南アサ 

「尻」
 小出弘恵は父親の多額な寄付金のおかげで東京の有名な私立高校へ行くことになる。はじめての寮生活。お嬢様育ちで他人との共同生活初体験の弘恵は少しずつ心と身体のバランスを崩していく。他人の目と耳を意識するあまり、トイレでの排便もままならない。その結果、排便に痛みを伴うようになる。同時期、いっしょに入浴した女性の心無い一言から弘恵は・・・。

 このタイトルの『躯(からだ)』の漢字は身の横は本当は‘區’です。どうやってもこの組み合わせのカラダと言う漢字が出せなかったので、躯で代用させていただきました。すみません・・・。
 さてこの物語は、カラダの中のさまざまなパーツをテーマに据えた物語たち。「臍」「血流」「つむじ」「尻」「顎」の5つです。それぞれ意外だったり、異常だったり、せつなかったりしますが、私は一番身につまされてしまった「尻」をあげてみました。女の子は同性の心無い言葉であんなに狂ってしまう可能性があるから。ううう。かわいそうに・・・。
 つくづく思うことは、人間のコンプレックスや趣味嗜好はカラダによってもそれぞれだったりするのだろうなぁ、と。最近乃南アサさんの物語をがしがし読んでいて、ご機嫌ななめな女性をセックスで懐柔するシーンによく遭遇します。セックスってカラダのホルモンバランスに関係してくるし、大切ではあるけれど、それだけで女性がるんるんるんってなっちゃうってイメージはいやだなぁ。でも無きにしもあらずな事実だしなぁ。所詮人間なんてその程度のものなのか?

 何だか馬鹿馬鹿しくなった。自分の自由になることなど、何一つとしてないような気がした。残された自由はただ一つ、自分の肉体そのものだ。

『躯』 1999.9.30. 乃南アサ 文藝春秋



2003年11月02日(日) 『暗鬼』 乃南アサ

 法子はお見合いで出会った志藤和人に一目ぼれしてしまう。志藤家は、両親、弟妹、祖父母に曾祖母という今時珍しい大家族だった。大家族に嫁ぐ不安や憂鬱も和人の真摯なアプローチの前に砕けてしまう。まさに恋は盲目だった。そして嫁いだ法子を待ち受けていたのは意外なほどの家族からの温かい歓待だった。しかしある日、法子が里帰りをしていた時に起こった近所の心中事件に家族の関与への疑惑を抱いた法子は、どんどんと疑心の闇にはまっていく。やがて暴かれていく呪われた志藤一族のおぞましい真実とは・・・。

 これ、怖いですよー。ずいぶん前に読んでいたのですが、乃南アサさん攻略中なので再読してみました。おおまかな異様で淫靡な大家族の絆はハッキリ印象に残っていました。今回再読してぞーっとしたのは、巻末の中村うさぎさんの解説でも触れられていますが、<家族は宗教>なところです。郷に入りては郷に従えと申しますが、こんな家族に間違って嫁いでしまったら・・・人生が一変してしまいます。ネタバレになるので詳しくは書きませんが、<洗脳>の怖さ、恐ろしさを身近に感じることができますよ。すごーくリアルにありそうで怖い物語でした。

「そう、急ぐものじゃあ、ない。長い歴史を知るにはね、長い時間が必要なものだからね。法子は、少し急ぎすぎてる」

『暗鬼』 2001.11.10. 乃南アサ 文春文庫



2003年11月01日(土) 『南方署強行犯係 狼の寓話』 近藤史恵

 刑事になるのが夢だった。その夢が叶い、南方署刑事課配属が決まった會川圭司ははじめての現場で大失態をやらかしてしまう。そしてコンビを組まされた相手が黒岩と言う女性刑事だった。彼女はどうやら刑事課では少々浮いているらしい。ふたりが任された事件は夫が殺され、失踪した妻が疑われていると言うものだった。家庭内暴力が絡んでいるらしい事件の真相は・・・。

 近藤史恵さんと言う作家さんは、どんな設定の物語を展開しても必ず近藤史恵でしか描けない世界にしてしまわれますねぇ。ほぅ(ため息)。大好きなんですv 近藤史恵さんの心にイタイこの世の中の物語が。
 今回は不思議な昔話(童話らしいですが)と現実の家庭内暴力が同時に進行していき、最後に見事に交錯します。本の裏表紙に有栖川有栖さんが「近藤史恵さんの書く小説は、しばしば痛くて切ないが・・・」と言葉を寄せられていますが、本当にその通りだなぁと思います。今回ははじめて警察小説に挑まれたことが話題になっていましたが、近藤史恵ワールドにそういうジャンル分けはまったく関係ないな、と感じ入りました。登場人物がそれぞれ素敵ですが、中でも圭司を心配して連絡をたびたび入れてくる‘美紀’ちゃんなる女性が最高にキュートでした。

「つらいときは、だれだって弱音を言いたいし、泣きたいことがあったら泣くのは、本当に普通のことなのに、それがみっともないこと、なんて言われたら、いったいどうやって、感情を処理すればいいの?」

『南方署強行犯係 狼の寓話』 2003.10.31. 近藤史恵 徳間ノベルス 



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