酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
DiaryINDEX|past|will


2003年07月31日(木) 『コッペリア』 加納朋子

 壊れかけた心を抱えた女がある男と出会い、稀代の人形師に生まれ変わった。彼女の作り出す人形だけを溺愛する男。人形師の捨てた人形に恋をする青年。人形役に情熱を傾ける舞台女優。人形に憑かれた人々の情念たちが複雑に絡み合い、ついに発生してしまう事件。人の心はどこに誰に向けられているのだろうか・・・。

 面白かったです。加納朋子さんのハートウォーミングな作風ではないと漏れ聞いていましたが、根底はやはり加納朋子さんらしい優しさであふれていると思いました。棘や毒はたくさんちりばめられているけれど、痛くはない。そしてそれはいい意味で痛くないと思う。加納朋子さんが描けば棘さえも毒さえもこんなふうに料理できるのだなぁとしみじみ惚れ直してしまいました。かなりオススメ。

 人間なんて変われるもんだし、実際変わるもんだよ。良くも悪くも、見違えるようにね。

『コッペリア』 2003.7.7. 加納朋子 講談社



2003年07月30日(水) 映画『MY BIG FAT WEDDING』

 ギリシャ人トゥーラは、ギリシャ史上最高主義の父親に早くギリシャ人と結婚しろとせかされている。さえない毎日。父親のギリシャ料理店‘ダンシング・ゾルゲ’でウェイトレスをしていた。ある日、お客でやってきたイアンに一目ぼれ。それを機にトゥーラの涙ぐましい努力がはじまる。勉強をし、おしゃれをし、日々自分を磨き、生き生きと輝いていくトゥーラ。そんな彼女を神様は見ていた。あのイアンが彼女に惹かれ、ふたりは激しい恋に落ちたのだ。しかし、育った環境もなにもかも違うふたり。ふたりの行く末は・・・。

 うふふーv こういうラブコメは本当に観ていて楽しいです。ほろりとさせるところもワハハと笑かす場所もふんだん。陽気でかしましくてうるさいトゥーラの家族親戚たち。これがとってもとってもいいのです。なぜならそこに限りない愛があるからv 
 大袈裟な父親と姉思いの弟が私的お気に入り。そしておおらかで心優しい母親とオバサンもいいんですよねー。まぁ、そんなこと言ってたら登場するやかましいファミリィ全員いいんですけど(苦笑)。
 あぁ、楽しかったぁ〜。気分がすっきりしちゃいました。
 



2003年07月29日(火) 『陰陽師』 夢枕獏 / 漫画『陰陽師』 岡野玲子

 平安時代。闇が闇として残っていた時代。魑魅魍魎が跋扈する摩訶不思議なその昔、阿倍晴明という鬼の上前をはねる小粋な陰陽師がいた・・・。

 映画化にテレビ化。大人気の阿倍晴明サマ。多くの友人の薦めで遅ればせながら夢枕獏さんの小説と、岡野玲子さんの漫画を一冊ずつ読みました。ううーん、いいv 夢枕獏さんの小説もいいけれど、岡野玲子さんの漫画化されたものがすごくヨカッタ。小説をより想像力高めて描かれていて、少しばかり現代風アレンジも。これは小説、漫画ともに全部読まなければ〜。
 ちなみにいろんな人が阿倍晴明サマを演じられましたが、やはり文章を読んでいて思い浮かぶは野村萬斎さま演じる阿倍晴明。あの飄々としたキャラとさらりと美しい姿かたち立ち振る舞いがぴったり。あぁ、うっとり。

『陰陽師』 1991.2.10. 夢枕獏 文藝春秋
『陰陽師』 1999.7.17. 岡野玲子 白泉社



2003年07月28日(月) 『ヒトクイマジカル 殺戮奇術の匂宮兄妹』 西尾維新

 加速するいーたんの変質者誘引体質。今回は、「死なない研究」をしていると言う木賀峰(きがみね)助教授にナンパされる(笑)。くどき文句は「あなたのように面白い人間が私の人生と何のかかわりもないなんてーそんなことは、とてもじゃないが許すことはできません。あなたには是非、私と何らかのかかわりを持って欲しいのです」と言う直球ストレート一本勝負でした(大笑)。いーたんは単に高額なアルバイト代によろめき、この妙にロボットめいた助教授とかかわることにする。アルバイト先で出会った少女は、円朽葉(まどかくちは)。不死の少女だった・・・。

 凄絶な「運命」に立ち向かういーたん。今回の西尾維新の語り口は意識してなのか、ものすごくハイテンション。面白いけれど、少し読み疲れしてしまいました。わざと‘飛ばし’たのかしら・・・(謎)。いーたんの変化の章だからかしら・・・(悩)。シリーズものというのは強弱も時には必要なのかしら、と思いますが、今までのいーたんの方が読んでいて馴染むのです(本音)。
 今回の‘からくり’は早い段階で読めました。おそらく‘からくり’自体にも重きを置いていないのではないでしょうか。たぶんいーたんのなんらかの変化。変身。そのための序章。
 まぁ、私個人としては愛してやまない哀川潤の過去にも話がつながっていきそうなので嬉しい限り。みいこさんもますます女に磨きがかかってますv ええ女ふたりや。だらだら。
 表紙の裏までサービス満点。

「みじめったらしくても悪足掻きでもいいから、とにかく何かを為し遂げろ! みっともなくても、じっとしてるよりは遥かにマシだろうが! 足掻け、もがけ、それでいいんだ! みんなそうやって、誤魔化しもって生きてるんだよっ! 自分だけが苦労しているみたいな姑息な生き方を選ぶな!」

『ヒトクイマジカル 殺戮奇術の匂宮兄妹』 2003.7.5. 西尾維新 講談社NOVELS
 



2003年07月27日(日) 『麿の酩酊事件簿 花に舞』 高田崇文

 由緒ある勧修寺(かしゅうじ)家の十七代当主、文麿。両親を亡くしている彼は祖母と執事、大原と暮らしている。文麿の目下の問題は‘結婚’である。勧修寺家では家訓があり自力で素晴らしい女性を娶らねばならない。この文麿おぼっちゃま、素敵な女性と出会っては謎や悩みを解決してさしあげ、いいところまでいくのだが、いつもいつも最後に去っていかれてしまう・・・。
 この文麿、実は酩酊探偵。ある酒量を超えるとがくりときて変身。呑めば呑むほどさえまくるのである。

 この酩酊っぷり・・・どこかで聞いたことがあるような(苦笑)。またひとり憎めない酔いどれ探偵の誕生です。酒で変身してすっきりしたいい男に変身って言うのは珍しいかもv 短篇だし、それぞれの謎解きも面白いです。
 なにより酩酊本処としては、この物語オススメせねばなりますまーい。ちなみにこの物語、既に漫画化されている模様。チェックしなくちゃだわ。

 誤魔化し続けるということは、やがて自分を見失ってしまうことになります。

『麿の酩酊事件簿 花に舞』 2003.7.5. 高田崇文 講談社NOVELS



2003年07月26日(土) 『ケータイ』 吉村達也

 関口葉月の携帯に山之井由佳から珍しく夜遅くに電話が入った。優等生の由佳は夜分には携帯電話の使用をしない。葉月は普段と違う由佳の行為にとまどっているうちに、由佳が殺されていく声を聞かされる羽目になる。それこそが携帯電話を使った殺人生中継事件の幕開けだった。次々と殺されていく少女達。夕刊ニッポンでは、視線恐怖症42歳独身の高沢公生が真相を知っていると豪語するのだが・・・。

 今や無くてはならない生活必需品となった携帯電話。その携帯電話から悪意が蠢き飛び出してくるとしたら・・・。携帯電話という現代機器と人間の怨念がミックスすると言う発想はわからないでもないです。怨念の大元が‘いじめ’と言う事にも頷けます。いじめの構造はいじめた側は忘れていじめられた側が忘れない点にありますね。ラストは・・・まぁそうきますね、やはりv

『ケータイ』 2001.12.10. 吉村達也 角川ホラー文庫 



2003年07月25日(金) 『飼育者』 伊東恒久

 男は会社に献身的に尽くした挙句、社長の「己の胸に聞け!」の一言でリストラ箱へ回される。骨身を削り会社に尽くし、愛する妻子が死んだ時、男は復讐の亡者となった。ターゲットは社長の愛人と専務の娘。美女二人を拉致監禁し陵辱し、調教をはじめたのだが・・・。

 うーんと、素直な感想を言えば男性の妄想の勝ったSM小説だと思います。理不尽なリストラへ追いやられた憎しみの報復が、女性への陵辱なんて。しかしやはり男性は女性を陵辱したい、調教したいと言う願望があるのかしら。描かれているように陵辱され、調教されているうちに女性がヨロコブなんてあるかしら。
 調教とか飼育とか単語に反応した私も私だけど、昨今の事件を鑑みると怖い小説なのかもしれないなぁ。後味が大変悪ぅございます。すっごくセクシャルですけどね。

『飼育者』 2002.11.10. 伊東恒久 NON NOVEL



2003年07月24日(木) 映画『Dog Star』

 盲導犬シローのご主人は元ボクサーのゴング。ちゃらんぽらんで酔いどれのゴングがある夜に交通事故で死んでしまう。訓練センターに戻ったシローの前に幽霊となったゴングが現れる。「神様のヤロウがさ、一つ善行を施せって言い出してよ。シロー、お前なんでもいいから願い事してみろ」ぶっきらぼうだが、愛犬シローの願いを叶えようとするゴング。シローが願ったのは、パピィウォカーだった家族と再会することだった。人間の姿に変えたシローが再会したのは、美しく成長したハルカだった。ハルカは、シローと別れる時に星空に輝くシリウスを「外国ではドッグスター、犬の星って呼ぶの」と教えてくれた。「シローがいなくなってもシリウスを見れば寂しくない。シローが星になっていつも見ていてくれるから」と。人間として出会ったシローにハルカは恋心を抱くのだが・・・。

 あの豊川さまが犬になられました・・・。そして犬に見えるのです。さすが豊川さまv(稲荷ではない) 豊川悦司と言う俳優さんに惚れたのは、『NightHead』という深夜番組でした。超能力を持つために迫害される麗しい兄弟。その兄を演じたのが若き日の豊川さまだったのです。基本的に私はきゃしゃな殿方は好みじゃないのですが、豊川さまは追いかけてしまうなぁ。
 この『Dog Star』は、WOWOWで録画していたものを観ました。あまり期待をしないで観たのですが、切ないファンタジィにうるうるきてしまいました。犬が人間になり、かつての飼い主の少女が乙女になり恋をする。こんなありきたりなラブストーリーをここまで惹きつけて見せるのは、俳優さんたちがいいからでしょうね。井川遥さんは、ふくよかでかわいいからはまり役でしたし、ゴング役の石橋凌やシローが勤めることになる移動動物園のオーナー役の泉谷しげるさんのおふたりが良いのですわ〜。ほぼこの4人で物語りは進んでいくし。
 殺伐とした世の中にこんな夢物語があってもいいなぁと思うのです。ほろりほわほわ。いい映画でしたv



2003年07月23日(水) 『ゴッホ殺人事件』 高橋克彦

 加納由梨子はパリで美術品修復家として働いている。東京で母親が自殺をしたと連絡が入り、急遽帰国。父の形見のミレー模写がなくなっており、貸し金庫からドイツ語で書かれたあるリストが出てきた。由梨子は母の死が自殺なのか不審に思う。オルセー美術館に勤める友人マーゴにリストを見せた時から、由梨子やマーゴの周辺があわただしくなる。リストから推察するとどうやらマーゴが立てた仮説のナチス押収品の中にゴッホ作品が存在しているらしい? そしてゴッホの拳銃自殺も殺人ではないかと思えてきた。悩める由梨子のもとへかつての恋人・塔馬双太郎がやってくる・・・。

 読んでいないと思いながら、読んでいると・・・読んでいました(苦笑)。道理で下巻に入ったあたりで全ての道筋がパァっと理解できたはずでした。
 塔馬双太郎が登場するのは下巻から。と言う事は上巻は双太郎が登場するための壮大な前フリな訳です。そこに手間隙かけたぶにだけ重厚な物語展開となっています。うますぎる・・・。ゴッホが自殺か他殺か。現実に起こった事件が自殺か他殺か。ふたつの事件が絡み合いながら解きほぐされていきます。すばらしい。

 興奮がこっちにまで伝わってきて、自分もこの目で確認したくなる。どんなに論理的で優れた論文でも、その気持ちがなければ駄目だ。

『ゴッホ殺人事件 上下』 2002.5.20. 高橋克彦 講談社



2003年07月22日(火) 『ドールズ 闇から招く声』 高橋克彦

 ※これは『闇から来た少女 ドールズ』、『闇から覗く顔 ドールズ』に続く物語です。このニ作品を未読の方は、先に是非そちらをお読みくださいませ。流れとネタバレの関係で、この酩酊本処はよまれない方がよろしいかと存じます)

 月岡真司が、娘・怜のことでこの1年半世話になった御礼にと恒一郎ほか目吉せんせーを巡る仲間たちを温泉に招待してくれた。ここで恒一郎は目吉の苦悩を知りながらも、目吉を失いたくないと強く願う。戸崎は医師の立場から老人性鬱病ではないかと案じる。
 そんな目吉を気晴らしにとある輸入物産フェアに連れて行き、恒一郎と怜(目吉)は見世物小屋に入る。グロテスクなつくりものの死体の中に目吉は本物の血のにおいを嗅ぎつける。そしてふたりの周りで連続殺人がはじまった・・・。

 今回、泉目吉は自分の転生の苦悩にぶつかっています。このまま怜と生きて怜が死んだ後、また自分は転生を繰り返すのではないか?と。思い悩む目吉の前に黒々と現れたのはサイコキラーでした。今まで目吉が相対した犯罪者たちは人間の持つ心の闇ゆえに鬼になってしまった人ばかりでした。一歩間違えると自分がそうなりえる人たち。しかし今回の相手はまったく違います。生まれながら(?!)人を切り刻み殺すことに喜びを見出し続けているモンスターですから。そのモンスターと目吉の交錯は必然だったのかもしれません。目吉せんせーの明日はどっちだっ?
 このシリーズが必ずまた続くことを心から祈って・・・。目吉せんせーカムバーックv

「生まれ変わりをし続けるってのは、反対に羨ましいような気がするけどね。人間のあらゆる根源は死ぬことにある。それから解放されたらなんにも怖くない、と思っていたが・・・・・・そういう考えもできるのか。いつまでも死ねないのは、それでまた恐ろしい」

『ドールズ 闇から招く声』 2001.9.10. 高橋克彦 角川書店 



2003年07月21日(月) 『闇から覗く顔 ドールズ』 高橋克彦

 ※この作品は高橋克彦さんの『闇から来た少女 ドールズ』に続く物語です。ネタバレを含みますので、未読の方は是非先に『闇から来た少女 ドールズ』をお読みいただくことをオススメいたします。

 少女、月岡怜に転生した江戸時代の人形師・泉目吉。今回は名探偵目吉せんせーが4つの物語で現代人の心の闇に立ち向かう。
「紙の蜻蛉」
 創作折り紙の第一人者としてマダムに人気の高い華村研は、仙台の個展で来場客の拵えた蜻蛉に愕然とする。それは江戸や明治に流行った古典的な折り方だった。華村はその折り主に執着する。そして華村の周りでは不審死が数々見え隠れしていた・・・。
「お化け蝋燭」
 盛岡市商店街の温泉旅行に参加した恒一郎・香雪・怜、そして松室。日光江戸村の観光では怜の中の目吉せんせーが目覚めて大喜び。しかし夜の宴会の最中に幹事の安西という男が殺された・・・。
「鬼火」
 目吉せんせーの影響で怜の体に異変が起こり入院することになる。怜と同室になった女性は、子供たちのボランティア活動で有名な松永久枝。菩薩か天女かと言うほどのオーラで病院中から尊敬のまなざしを向けられる患者。だが、同室の怜だけは彼女を怖がり泣きじゃくる。怜の中の目吉せんせーは、怜を守るべく・・・。
「だまし絵」
 美しい絵を描き、霊能力者として名を馳せている西条晶緒。あるイベントの控え室で晶緒は愛する兄が少女に殺される予知夢を見る。そしてその会場にいる怜を見つけ、怜を敵として見做し、排除しようとする・・・。

 母への愛・初恋の男への同性愛・主人への愛・双子の兄への愛。4つの物語の軸はすべて愛です。そしてねじれたりひねくれたり愛が形を変えてしまい、それぞれが鬼を呼び出してしまう。目吉せんせーは優しく心に染み入る言葉で犯人たちの心の闇を救います。
 江戸時代の天才人形師、泉目吉が現代に甦る。少女の魂に・・・。目吉を愛する現代の仲間たちは目吉が消えてしまうことを心配するほどになっています。ただ目吉の影響で怜の体に異変が起こるなど、心優しい目吉せんせーには悩みがつきないと言ったところ。いい男です。泉目吉。

「だれの心にも鬼がいる。特に死と隣り合わせになっている病院じゃ、鬼が出たって・・・・・・」

『闇から覗く顔 ドールズ』 高橋克彦 中公文庫 



2003年07月20日(日) 『歌の翼に ピアノ教室は謎だらけ』 菅浩江

 商店街の楽器店の二階で音楽教室のピアノ教師をしている杉原亮子。音楽大学を首席で卒業し前途洋洋のピアニストとなるはずだった彼女は、なぜかここでゆったりまったりと子供たちにピアノを教えている。生徒のひとりの少女が変質者に遭遇した事件から、亮子は意外な探偵振りを見せる。亮子の周りで起こるさまざまな事件を解決していくうちに、彼女の周りの人たちは完璧な演奏をできなくなっている亮子のトラウマに気づく。亮子に助けられ励まされた人々は亮子の苦しみを取り除いてあげたいと願うのだが・・・。

 ううう、最後の亮子への周りの人たちの愛情の深さに思わず涙してしまいましたよ。お嬢様育ちでお金の苦労もなくのほほんと優雅に生きているかのような亮子の受けた過去の傷。亮子がそのトラウマを乗りこえようとしたのは、周りの優しい人たちの愛情ゆえ。よい話でしたわぁ。

「世の中には、天使と悪魔だけじゃなくて人間もいるから」

『歌の翼に ピアノ教室は謎だらけ』 2003.5.20. 菅浩江 詳伝社



2003年07月19日(土) 『プレシャス・ライアー』 菅浩江

 詳子は、従兄の禎にいちゃんから頼まれたアルバイトでVR(バーチャルリアリティ)の世界に探し物に行く。天才肌で次世代コンピューターを開発研究している禎にいちゃんではプロ過ぎて見過ごしてしまうものを素人の詳子に探して欲しいと言うのだ。詳子が出向いた世界で、<アリス><ペッパー><ソルト>という不思議なキャラクターたちと遭遇する。<アリス>たちに阻まれながら、詳子は探し物に辿り着くことができるのか?

 にゃーん(泣き声)。面白いのですが、コンピューター等にまったく暗い私にはちょっと迷路に迷宮にぃぃぃ〜(笑)。でもおおまかな流れはちゃんとわかりましたよ(当たり前だ)v 
 こういう物語を読んでいると専門知識というのはすごいなぁ〜とただひたすらほへらーと感心してしまう。詳子も一応はそんなにコンピューターに明るくないおぜうさんと言う設定なのですけどね。
 菅浩江さんは、そんなに読み込んでいない作家さんなので、頑張って追いかけていきたいと思います。しかし考えてみると私はSFものって好きだったんだよな、と今更思い出したりしてました。

 YESかNOか。心の中のダイアログ。えいやっと選んでみてこんなにすっきりするのなら、きっと答えは正解だ。

『プレシャス・ライアー』 2003.6.25. 菅浩江 カッパノベルス



2003年07月18日(金) 『グロテスク』 桐野夏生

 怪物じみた美貌の妹を持った女(わたし)は、名門Q女子高を目指すことで自分の居場所を確保する。しかし、知能は劣っても美しいと言うだけで編入してくるユリコ。中流家庭に育ち名門高校へ入れたことを自慢に思い、張り切りすぎる和恵。さりげなく名門高校でトップを守り抜くミツル。
 女(わたし)はただのフリーターとなり、ユリコは美貌で世の中を渡り歩き、和恵は大手建設会社総合職として勤める。東大医学部に進みながら新興宗教にはまり、テロ行為に加担し犯罪者となるミツル。ユリコと和恵は娼婦へ落ちていき、同じ犯人に殺されてしまう。ユリコと和恵の殺人事件の裁判で再会する女(わたし)とミツル。性交だけが彼女たちにとっての世界を手に入れる手段だったのだろうか。

 桐野夏生と言う作家さんは‘超越’しているな、と思います。読者の読後感や思惑などまったく斟酌していない(と私は感じる)。『柔らな頬』を読んだ時に、いったい犯人は誰だったのか、物語はどこへいきつくのか、すごーく悩まされたことを思い出しました。今回は『柔らな頬』ほど放置プレイ的もどかしさは感じませんでしたが、誰の語りが本当なのだろう、と思います。読んだ今でもわからない。最初は怪物じみた美貌を持つ女ユリコとその醜い姉の物語なのかと思っていたのですが、ふたりの共通の知り合いの和恵と言う女性が真のヒロインだったようです。
 これは東電OL殺人事件を下敷きにしている。和恵は努力の人で大手建設会社の総合職にまでのぼりつめます。しかし満たされないアンバランスな心と体をもてあまし和恵は娼婦となり、昼の顔と夜の顔を持つことで自分を保ちます。ほんの数千円で立ちんぼしながら体を売る和恵。そして中国人に殺されてしまう。
 登場する人物のそれぞれの語りがあり、それぞれが食い違う。だから真相は藪の中。しかしラストにユリコを凌ぐ怪物じみた美しい少年の登場には、まさに‘グロテスク’と感じてしまいました。
 好き嫌いはありましょうが、私的にはものすごく面白かったです。桐野夏生あなどれず。

 怪物とは、何かを歪ませて成長し続けて、その歪んだものが大きくなり過ぎた人のことなのです。

『グロテスク』 2003.6.30. 桐野夏生 文藝春秋



2003年07月16日(水) 『エディプスの恋人』 筒井康隆

 火田七瀬は、ある学校の事務員として働いている。七瀬は、エスパーの持つ選民意識をひとりの生徒から感じ取る。その少年の周りでは不可思議な事件が数多く起こっていた。まるでなにかの‘意思’に選ばれ守られているかのように。いつしか七瀬は少年に恋焦がれるようになるのだが・・・。

 《エディプス》はギリシャ神話に登場する悲劇の男の名前。エディプスは父を殺し、知らずに母親を妻としてしまう。ぶっちゃけて言うと近親相姦ですね。
 今回、七瀬はエディプスの母親から、「愛と幸福な人生が、完全に約束された」
。女性にとって大切な瞬間を奪われながら。
 うーんと、七瀬は『七瀬ふたたび』で死闘の果てに倒れました。なのに過去の意識はいっさい持たずに事務員として働き、興味の対象をさぐり、恋に落ちます。自分にとって大切な仲間をある瞬間まで思い出しもしない。その意味に七瀬が気づいた時、すごくせつなくなりました。七瀬は、家にはじかれ、国に戦いを挑まれ、神に好きなように動かされます。七瀬という魅惑的な女性の物語をここで終らせるにはこういう結末しかなかったと言えるのかもしれませんね。

 しかし過去のさまざまな神話を思い出してみれば、昔から神といわれていた存在には、神が保護しようとしている者に対して害意を抱く人間への極端な荒あらしい無慈悲さがあるようで、これは神の特質かもしれません。

『エディプスの恋人』 筒井康隆 新潮社文庫



2003年07月15日(火) 『七瀬ふたたび』 筒井康隆

 『家族八景』でお手伝いさん家業から足を洗った火田七瀬。今回、七瀬はさまざまな‘力’を持つ仲間たちと邂逅する。『家族八景』で七瀬はいつも<家>からはじきだされた。その七瀬が生まれて初めて心を許せる仲間=家族を得る。しかし、その七瀬たちの前に立ちはだかるのは、超能力者を抹殺しようとする組織=国だった。七瀬の命をかけた死闘が幕をあげる・・・。

 前作『家族八景』では七瀬が、人間たちの心の闇に光をあてました。今回『七瀬ふたたび』では、七瀬たちの抱える闇に光があてられてしまいます。七瀬は人の心を読むことはできても、闘う力を持ちません。闘う‘力’を持ったほかのエスパーと組んではじめて闘える訳です。仲間たちが順番に殺られる今際の際に七瀬に伝えてくる心の叫びは涙ナシに読めません。
 『七瀬ふたたび』は文句なしにエンターテイメントだと思います。旅をする七瀬が仲間を次々獲得していく様は、里見八犬伝のよう(笑)。しかしラストで確か七瀬は・・・。

 神様。なぜ超能力者をこの世に遣わされたのですか。人類を試すためだったのでしょうか。それなら、もしそうだとしたら神様、人類はまだまだです。

『七瀬ふたたび』 筒井康隆 新潮社文庫
 



2003年07月14日(月) 『家族八景』 筒井康隆

 火田七瀬は高校を卒業し、お手伝いさんという仕事に就いている。年若く美貌に恵まれた七瀬。彼女は人の心を読み取ることができるテレパスだった。七瀬が働くことになった家庭で垣間見る家族同士の心の闇のおざましさ。七瀬は自分の身を守るため、人を破滅させることもあるのだが・・・。

 ものすごく久しぶりに読みました『家族八景』。衝撃を受けた本だったのでほぼ覚えていましたが、ところどころ忘れていたり、覚え違えしたりしていました。
 『家族八景』の七瀬は18歳から20歳まで。いくら小さな頃から人の心を読んでしまい、おとなびていたとは言え、まだまだ少女。七瀬の若さゆえの暴走が理解も出来、間違いだとも思いました。人の心を読めてしまうと言うことは人間不信になってしまいそうだわ。
 この作品はなんと1972年2月に刊行されています。今から30年以上昔の物語だったのですね。高校か大学あたりで読んだのではないかと思いますが、当時ははまりました。今、読むと面白いけれどさすがに設定がレトロかなと思ってしまいました。

 わたしがいちばん注意しなければならないのは、わたし自身なのだ、と彼女はあらためてそう思った。

『家族八景』 筒井康隆 新潮社文庫



2003年07月13日(日) 『クラミネ』 児玉真澄

 田辺和人は売れっ子ゲームクリエイター。今まで彼が手がけたゲームはヒットを飛ばし、完成間近の新作も売上新記録間違いなし。このゲームの内容は猟奇殺人犯が主人公。凄惨な猟奇殺人に目くじらを立てる人間が出てこようと、面白いゲームは売れると自信満々。この世の春を謳歌する田辺は無理やりそりの合わない上司から有給休暇をもぎ取り、美しい婚約者・純子とバリ島へ婚前旅行と洒落込む。しあわせいっぱいの田辺のもとへ上司から不吉な電話が入り、田辺の現実が変容を始める。それはまさしく田辺が創造した新作の主人公の殺人鬼が、ゲームの世界を越えて現実の世界に踊り出てきてしまったかのようだ。田辺の周りで起こる連続殺人。愛する純子まで殺されてしまう。失意の田辺はゲームをまねた「署名」を残す殺人鬼を追い詰めようとするのだが・・・。

 ううーん、面白いっv あちこちで面白いジェットコースターホラーだと噂を耳にしていたのですごく読みたかった一冊です。今日まさしく最後のページまであっと言う間に読んでしまいました。主人公が人気のゲームクリエーターで、しかも黒を基調にしたファッションに身を包む中性的な美青年! 現実とゲームの世界が入り乱れ、なんだか不思議な世界が出来上がっています。私はゲームをしないのですが、このゲームはやってみたいと思いました。はまってしまうだろうなぁ。残酷なゲームや映画や漫画などなどは少年犯罪等が起こると必ず槍玉にあげられてしまいますが、フィクションをフィクションとして楽しめない(本気にしてしまう)人はもともとどこかが壊れていて、ゲームなどのせいではない気がします。
 この物語は、登場人物たちがとてもいいキャラクターなので凄惨な事件の中にもいい味が出ています(言い回しが変かしら)。意外なようで意外でないオチかもしれませんが、最後までじゅうぶん楽しめます。オススメ^^v

 俺は、現実を変えていくのは人間にしかできない事だと思っている。それだけ人間の力は大きいと思っているのさ。だって、運命で全てが決まってしまっているのだったら、人間の意志など必要なくなってしまうじゃないか。

『クラミネ』 2003.5.31. 児玉真澄 徳間書店




2003年07月12日(土) 『影との戦い ゲド戦記�機戞.襦瓮哀�ン作 清水真砂子訳

 アースシーという多島海世界に魔法使いの資質を生まれ持つハイタカと言う少年がいた。魔法使いオジオンに見出され、その才能をどんどんと伸ばしていく。自分の高慢なうぬぼれからより高みを目指すゲドは、ありとあらゆる高度な術をものにするべくローク島へ向かう。ゲドは優れたライバルへの嫉妬から修行の身であるにもかかわらず、危険な魔法をおこなってしまい、その結果、死の影を呼び出し、後悔と反省からゲドの人間性はがらりと変わってしまう。ゲドはそののちその死の影と向かい合い追いかけ闘うことになります。ゲドが手にするのは勝利か敗北か。

 優れた児童文学というものには普遍性があるのだと思い知らされるものがたりでした。主人公のゲドは最初とてもいやな少年です。己に力と才能があふれんがゆえに陥る罠と言えるでしょう。そんな愚かな驕り高ぶった自分自身が己と周りに危険を呼び出してしまう。ここでゲドは悩み後悔し、成長します。自分の力を過信していた少年から思慮深い青年へと。ゲドが闘った死の影は、自分のうちなる負の部分だったのかもしれません。この影を打ち負かすか、打ち破れ吸収されてしまうのか、これがこの物語のテーマになっています。
 この物語を読んでいて身につまされてしまうのは、自分にも負の部分が存在すると認識すること。でもその負の部分から目をそむけて生きることは許されない。人間は考え悩み反省し、成長することができる生き物なのだから。今なお残る自分の中の影と対峙しよう、ふとそう思った。

 すべてをひっくるめて、自分自身の本当の姿を知る者は自分以外のどんな力にも利用されたり、支配されることはない。

『影との戦い ゲド戦記�機戞�1976.9.24. ル=グィン 岩波書店



2003年07月11日(金) 『怪人21世紀 中野ブロードウェイ探偵ユウ&AI』 渡辺浩弐

 ジャングルのような雑居ビル「中野ブロードウェイ」に事務所を構える天才ハッカー探偵・小林ユウ。助手は、電脳美少女アシスタント・AI。
 最新型のCPU、ニンテル1024が組み込まれたロボットが日本のあちこちで暴れ始めた。大阪に出張したユウは道頓堀でおなじみのカニやイカやエビにたこたちが暴走するところに遭遇。このロボットたちの暴走には、ニンテル社ビル・ウォール会長(別名歩く広告塔)が仕掛ける新ゲーム機「Nボックス」をめぐる陰謀が隠されていた・・・。

 テンポのいいライトノベルスでした。読みやすいけれど、意外な結末やオチがあって結構堪能できました。どうやらこのキャラクターたちのシリーズ化を狙っている模様。表紙のイラストAIちゃんがセクシーです(それに惹かれた)。

『怪人21世紀 中野ブロードウェイ探偵ユウ&AI』 2003.6.6. 渡辺浩弐 講談社ノベルス




2003年07月10日(木) 『ああ言えばこう食う』 壇ふみ×阿川佐和子

 壇ふみと阿川佐和子のふたりが食を通して語り合う(罵倒しあう)人生観に結婚願望(笑)。女同志ならではの辛辣なやりとりを綴った往復エッセイバトルです。
 このふたりには三つの共通点があります。父親の職業が同じ(作家)・慶応義塾大学卒・翔べそうで翔べない→結婚できない(しない?)。三つの共通点はあるもののふたりの性格は正反対。だからこそお互いがお互いをあきれながらもうまくやっていけるのかもしれない。
 一番おもしろかったのは、料理上手な阿川佐和子さんのお米の研ぎ方に驚く壇ふみさんの様子でした。これはホントおもしろいv 他のエッセイも互いを罵倒しながらも愛情が滲み出ている感じがして、私的にはかなりお気に入りv こういう女友達は一生もんだろうなぁ。気軽に読んでみてくださいな。アハハハハハって笑えること請合いますわ。

 そして私はようやく悟った。親しい友の忠告には、素直に従うべきだということを。

『ああ言えばこう食う』 1998.9.10. 壇ふみ×阿川佐和子 集英社



2003年07月09日(水) 『闇の音』 明野照葉

 吉川真昼は常人ばなれした異常な聴覚を持っている。普通では気にならない程度の日常の騒音に苦しみ、上の階の住人の起こす小さな物音まで聞こえ気になってしまう。しかし上に越してきた新しい住人は思いがけずもの静かな男だった。しかし音の無さにもほどがある。そして執拗に手を洗っている上の男。もしかすると男は殺人者ではないか?という妄想に取り付かれてしまう真昼は・・・。

 この物語は去年読んで久しぶりに再読いたしました。明野照葉さんの物語はたまに読まずにいられなくなる(照葉中毒)。この『闇の音』は超能力もの?とか、そんなにこわくなーいとか言われますが、それはきっと間違いです。この物語はものすごーく怖いですよ。なにが怖いかって、最後に真昼が辿り着く人間の心の闇のこわさたるや、唖然としちゃいます。真昼をそこへ突き落とす存在も恐ろしいけれど、キャラクターとしてはその人間が一番魅力的。明野さんの物語にはそういう人間がよく登場します。ものすごく悪魔的で身勝手に消えていく奴(苦笑)。悶々としますわ。
 また、明野照葉さんの応援サイトで明野さんの雑記帳や掲示板でご自身を垣間見ることができると、物語のあちらこちらに明野照葉さん自身が投影されていることに気づきます。ファンとしてはそこがまたたまらないのよねぇ。ちなみに最近URLが変更になりました。
新URLはこちら↓になりますv
 http://pleiades.infoseek.livedoor.com/ 

 人というのは、近づいてはいけない場所、関わりあってはいけないものに、なぜか心惹かれたような気持ちになって、自ら近づき、関わりあってしまうことがある。いわば知らず知らずのうちに、悪い因縁の糸に手繰り寄せられていくようなものだ。

『闇の音』 2002.7.18. 明野照葉 ハルキ・ホラー文庫 



2003年07月08日(火) 『ぬしさまへ』 畠中恵

 廻船問屋兼薬種問屋を営む大店の若だんな、一太郎は病弱ですぐに寝込む跡取り息子。両親から溺愛され、佐助と仁吉という、ふたりの手代にも監視されるように溺愛されている(笑)。一太郎の元には、佐助、仁吉(ふたりは実は人ならぬ妖)は勿論、屏風のぞき、鳴家などの愛すべき妖たちが集まり、いつもとてもにぎにぎしい(笑)
 裕福な家庭で、両親から溺愛され、何不自由なく育った一太郎は、思いやりあふるるナイスガイ。しかし哀しいほどに病弱に生まれついてしまった(それも訳あって)。そう彼こそが探偵の中でもかなり珍しい“病床探偵”である! さて今回も人の心に巣食う闇ゆえの事件、人ならぬものの悲哀、病床探偵一太郎はやさしいまなざしでするすると謎を解いていく。
 今回の短篇の中で一番ぐっときたものは「仁吉の思い人」でした。一太郎と仁吉の間にある優しい因縁にほろりとします。いいお話です。毒のない優しい物語というのもいいものだな。次の作品では佐助の恋も語られると嬉しいのだけど。

 私は……私は本当に、もっと大人になりたい。凄いばかりのことは出来ずとも、せめて誰かの心の声を聞き逃さないように

『ぬしさまへ』 2003.5.20. 畠中恵 新潮社



2003年07月07日(月) 『永遠の出口』 森絵都

 紀子は〈永遠〉という響きにめっぽう弱い子供。「あんなに素敵なのに、一生、見れないんだ。永遠に−」などと言われようものなら、息苦しいほどの焦りに駆られてしまう。永遠にそれを見ることができない。それは紀子にとって人生における大きな損失に思えるのであった。
 そんな紀子の小学生からおとなになるまでの物語である。あがきながら傷つきながらおとなになっていく紀子の青春は読んでいて気持ちいいです。未来にはなにが起こるかわからないのだから、腹をくくって生きていくぜーvって元気をもらえます。

<第一章 永遠の出口>
 紀子は小学校4年生。すべてを見届け大事に記憶して生きていたいのに、世界には目の届かないものが多すぎると嘆く繊細な女の子。お友達とのお誕生日会に呼んだ呼ばれた呼ばれなかったが大事件になるお年頃。
<第二章 黒い魔法とコッペパン>
 5年生になった紀子と仲間たちは、魔女(担任)と対決をする。冬眠に入っていたトリを目覚めさせたから百人力さv
<第三章 春のあなぼこ>
 中学生になる前の女の子たちの大冒険。多くの別離を経るごとに、人はその瞬間よりもむしろ遠い未来を見据えて別れを痛むようになる、まだそれを知る由も無い女の子たちの別れの儀式。
<第四章 DREAD RED WINE>
 紀子は中学生になった。大人の欺瞞に敏感になり、繊細ゆえに壊れ始める。
<第五章 遠い瞳>
 中学二年生、紀子もみんなも少しずつ壊れていて、その欠陥をみつめることよりは騒いでごまかすことに熱心な時代。
<第六章 時の雨>
 あれた紀子も中学三年生。自分のことしか見ていなかった紀子が、家族旅行で家族にそれぞれいろんな事情があることを知る。
<第七章 放課後の巣>
 高校生になり、アルバイトをはじめる紀子。ラ・ルーシュという名前の小さなレストラン。そこの黒ワンピにフリルエプロンという制服に憧れたからだった。紀子の小さな世界が少しだけ広がりを見せはじめる。でもまだ16歳の紀子は人との距離の取り方を知らない。
<第八章 恋>
 17歳。はじめてのデート。はじめての恋。
<第九章 卒業>
 ひたむきな18歳。融通のきかないかたくなさ。懸命に自分のことを考える。考えて考えて、こうしてはいられない、と気づく瞬間。
<エピローグ>
 あれから何年も時は過ぎた。生きれば生きるだけ、なにはさておき、人は図太くなっていく。

 紀子と言う繊細で多感な少女の成長物語です。とてもとてもいいなー。私が一番好きなのは、<第二章 黒い魔法とコッペパン>です。おとなは子供をなめちゃいけないし、支配しようとしてはいけなんだなと思います。


 急に独りになった薄曇りの放課後みたいな、あの懐かしい風の匂いが鼻をかすめるたび、私は少しだけ足を止め、そしてまた歩きだす。

『永遠の出口』 2003.3.30. 森絵都 集英社



2003年07月06日(日) 『愛と資本主義』 中村うさぎ

 ホストクラブの男にはまった女とそのホスト。第一話「海にいるのは」はホスト・リョウくんにはまった女・ミカの物語。このミカという女は多重人格だった。第二話「胸に鉛の月を抱き」は、ホスト・リョウくんの物語。リョウくんはナツミと言う客に‘飛ばれて’しまう(売掛を払わず消える。そうするとホストの自腹払いになる)。リョウは自分指名客のミカやマリエに相談するのだが。第三話「月はルナ、星はステラ」は、探偵事務所をひらいているマリエの物語。今はホスト・リョウくんにはまっているが、その昔はルナというホストにぞっこんだった。マリエのもとにルナの母親だという女がルナを探して欲しいと依頼にくる。忽然と姿を消したルナにいったいなにがあったのか・・・。

 ホストクラブは「愛」も「金」もシビアで残酷、とてもわかりやすい構造。客となる女たちは自分の居場所を探して彷徨っているのかもしれない。自分の欠落を埋めたいがために自らホストにはまってしまうのかもしれない「欲しい。でも、なにが欲しいの、私は?」 、作者の中村うさぎさんは自分を探しながら居場所をさがしながらあがき続けているのかしら。
 いきなりヒロインがホストにはまった多重人格者という設定で、そういう路線好きの私は‘はまって’しまいました。そしてみっつの物語がリンクし呼応しあっています。なかなか面白かったなぁ。なにかを求め続けている感じが痛いほど伝わってきます。私的にはかなりお気に入りv

 だけど、ホストの嘘が欲しくて、群がる女たちもいる。それは確かだ。誰だって、辛い真実ばかり見ていたくない。やさしい嘘でくるんで欲しい時もある。

『愛と資本主義』 2002.11.20. 中村うさぎ 新潮社



2003年07月05日(土) 『ラヂオ・エチオピア』 蓮見圭一

 男は妻子持ちの小説家。友人の紹介で出会った女性はるかは東大卒のジャーナリスト。よく喋りアクティブなはるかのペースに巻き込まれていく男。中でもはるかから届くメールの言葉に幻惑され、どんどんとはるかにからめとられていく男。妻の知るところになり、男はどうおさめようとするのか・・・。

 タイトルで惹き付け、内容の狂おしいせつなさでノックアウトされた前作の『水曜の朝、午前三時』の蓮見圭一さんの作品です。あの物語の印象が強すぎるので今回なにを持ってこられても前作を超えることはなかっただろうと思います。しかも今回は大人の不倫。前作を超えないまでにも意外な路線設定には驚かされました。
 不倫でも恋愛は恋愛。男と女が惹かれあい、一気に燃えあがる過程はよくわかります。せつなさはないけれど、愛したい一途な思いの表現はやはりうまいなーと一気に読みきっちゃいました。
 この男の揺れ動きは女性としては物申したい部分もありますけど、ま、あくまでも物語として流すことにいたします。

 ねえ、すべてがうまくいくということは有り得ないのかしら。考えてみて。私も真剣に考えるから。その上で、この先もなお嘘をついて生きていくしかないのなら、せめて私は誠実な嘘つきでありたい。 

『ラヂオ・エチオピア』 2003.6.30. 蓮見圭一 文藝春秋



2003年07月04日(金) 『ZOO』 乙一

 今や飛ぶ鳥を落とす勢いの乙一くんの短編集。10の物語なのですが、何篇かは既読のものでした。なつかしかったなv どの物語りも乙一くんテイスト満載ですが、個人的には『GOTH』がすごすぎたのでちょっとインパクト不足だったかも。
 この短編集で気に入ったものは「カザリとヨーコ」と「SO-far そ・ふぁー」と「ZOO」の三作品でした。

「カザリとヨーコ」
 双子のカザリとヨーコ。カザリは母親に溺愛され、ヨーコは母親に虐待されている。耐え続けたヨーコの心の均衡が破綻した時、ヨーコが選んだ結末は・・・。

「SO-far そ・ふぁー」
 ある日、ボクの父と母は互いが見えなくなってしまった。ふたりの間に挟まれてふたりの言葉を伝えていくうちに・・・。

「ZOO」
 毎日ポストに届く写真。殺された恋人が腐敗していく写真だった。

 こうして簡単に紹介しているとインパクト強いですね(苦笑)。乙一くんの描く世界は虚構なのだろうけれど、若いくせに老成していてすごく驚いてしまいます。そんなに人生経験豊富だとは思えないのだけど・・・。やはり想像力の天才なのかな。

 何かを好きになればなるほど、それが失われたとき、私の心は悲鳴をあげる。

『ZOO』 2003.6.30. 乙一 集英社
 



2003年07月03日(木) 映画『チャーリーズエンジェル フルスロットル』

 美しくて賢くてお茶目な3人のエンジェルたちが、極寒のシベリアから灼熱の海辺まで所狭しと大暴れする。今回のエンジェルたちの敵は、かつての《伝説のエンジェル》だった・・・。

 やー、いいですねー。も、最高に脳天気なお笑い悩殺アクションものです。こういうノリの映画大好きだ。3人のエンジェルたちは、美しい&抜群のスタイル。そしてお茶目。これがポイントv 仲のいい3人がことあるごとに踊りだすシーンはたまらずセクシー&エキサイティングー! 友情や絆をさりげなく盛り込まれたのでちょいとほろりとする場面も。
 今回の目玉は、《伝説のエンジェル》を演じたデミ・ムーアの怪演でしょうか。年齢的にキャメロン・ディアスの若々しい美しさには敵わないまでも、実年齢を知るとそれは嘘でしょうと言うくらいに美しいです。ちゃんと自分は悪玉だと認識して徹底して(おそらくは楽しんで)ワルをやっていてカッコよかったですよ。実生活で元亭主のブルース・ウィルス暗殺シーンはアメリカならではのジョークですね。
 なにも考えず思いっきり楽しむならチャーリーズエンジェルをどうぞv



2003年07月02日(水) コミック版『GOTH』 原作:乙一/漫画:大岩ケンヂ

 『GOTH』が上梓されて読んだ時、ブラック路線大好きな私はものすごーく「いいっ!」と叫んでしまい、そのまますぐ読み返したほどでした。その後、予想を裏切り(一部のブラック系マニアにしか受けないのでは?と思っていましたから)、各賞を総なめしてしまった乙一くん。ついにコミック化までされました。
 実はこのコミック化、本屋さんを通るたび目にはしていたのですが、買おうと思うに至ったのは昨日、乙一くんの手書きポップを見たからでした。乙一くん直筆の手書きポップにはこう書かれていました。《この本をレジに差し出していただけると家計が助かります》でした(笑)。今や飛ぶ鳥を落とす勢いの若手作家さんがなんてこと書いてるんでしょうねー。そのお茶目さにプッと吹き出し、素直にレジにお持ちしました。まんまと乙一くんにやられちゃいましたわよ。あはは。
 さて、内容は小説と微妙に違います。展開も少し違っていたり、漂うムードが乙一くんの世界よりエロいです。これは漫画だからありじゃないかな。小説の世界はもっと端正なブキミさです。個人的な好みで言うと、小説の『GOTH』を表現して超えることは不可能だよね、ってとこでしょうか。
 いずれにせよ、小説を読んだ時に映像が頭に浮かびました。映像が大好きな乙一くんらしいなぁと思いましたが、漫画もなかなかよいですよv

『GOTH』 2003.6.2. 原作:乙一 / 漫画:大岩ケンヂ 角川書店



2003年07月01日(火) 『20世紀少年 13』 浦沢直樹

 にせもののカリスマ“ともだち”暗殺。世界はどう動くのか。

 稀代のストーリーテラー浦沢直樹さんの描く近未来サスペンス。ホンモノの男ケンヂの遺志を継ぐ者たちの新たなる戦い! 
 いやー、いいですねぇ。このストーリー展開。いつもながら登場人物たちが煩雑に絡み合い、入れ替わり立ち替わりする手法。意外なあのひととケンヂとの過去のつながり。“ともだち”の正体がわかった途端の死・・・。運命の子どもカンナの立ち向かう明日はどっちだっ!?(明日のジョーふうに)
 私は、ケンヂが死んじゃったとはまだ思えないのですよねぇ・・・。さぁ、また次が出るまで耐えなきゃ。ううう。

 ニセモノだらけの世の中に本物を鳴らす・・・・・・
 今こそケンヂが・・・・・・
 今こそあいつが必要なんだ・・・・・・

『20世紀少年 13』 2003.8.1. 浦沢直樹 小学館



酔子へろり |酔陽亭 |酔客BAR
enpitu