2005年11月04日(金) |
煽りだけ書きまショー:『魔王更正委員会 II』 |
『魔王更正委員会II 〜セツナル願いと知るが故〜』
<プロローグ> 親子げんかって、あるじゃない? 「この、くそじじぃ!」「なんだと? 出ていけ、この馬鹿息子がぁ!」っていう、あれね。最近はあんまりないらしいけど、言うこときかない子供を押入とか物置に閉じこめてみたり、なんてことも、親子だったらあるわよね。ほとぼり冷めたら「少しは反省したか」とか言いながら出してあげて、余計に反感買ったりするあれ。 今になって思い返してみると、要するにそれなんじゃないかしら、と、思うのよ。 決定的に違うことがあるとすれば、「親」の方が圧倒的に無慈悲すぎて、子への思いやりとか愛ってものが感じられないってだけで。……閉じこめた押入から、二度と出してもらえないってだけで――。
一面壁しか見えないような馬鹿でかい建物の正面。重厚で厳つい扉の前に立って、軽くノックする。扉はゆっくりとひとりでに、音もなく開く。できればここで、ギィ、ゴゴゴゴゴゴゴーとか音立ててくれると雰囲気出るんだけど。まあ、ここでそんな雰囲気求めても仕方ないわよね。わかってるわ。私がちょっと人間かぶれしてるだけよ。 自然と閉まる扉を何とはなしに確認しながら、感覚的に言うところの薄暗くて長い廊下をひたすら真っ直ぐに歩く。 色々本当に不便でね。ここでは歩かないと奥まで行けないのよ。 猫っぽい気配ひとつ無い廊下を抜けて、いくつか扉を越えて、辿り着いた一番奥の扉をゆっくりとノックする。 途端に扉の向こうから、不機嫌なオーラが漂ってきて、私は思わず苦笑い。来るってことくらい予めわかってるくせに、それでも本当に来ると不機嫌になるのよ。おもしろいったら無いわ。 「はぁ〜い。お元気?」 わざと明るく手を振って挨拶でもしてみれば、案の定、仏頂面の上に鉄仮面かぶせたみたいな顔に出迎えられる。 「何のようだ」 怖い怖い低い声。ちびっこだったら間違いなくぶっとんで逃げるか、恐怖のあまり死んじゃうわね。……そもそもここまでこれれば、の話だけど。 「あんた、いつもそれ聞くわよね。実はわざと? 私がここに来る理由なんて、ルーの顔見る以外にあるはずないじゃない?」 当てこするように無遠慮な足音を立てて部屋の奥を目指しながら、 「それともなぁに? ビーは眠れる王を独り占めしたいタイプ?」 からかい口調でそう言って見れば、仏頂面の男はうんざりした顔で首を振って、ため息をつく。 「何のためにかと聞いているんだ」 「あら。理由もなく顔を見に来ちゃダメなわけ?」 「ダメだとかいう問題ではない。理由がなければ来ないだろう、お前は」 それもそうね。さすがに付き合い長いだけあって、色々よく分かってるわ。 改めて感心しながら、微笑んでみせる。 「大事な大事な我が王の、幸せな夢でも見てこようかと思って。せっかくだしね」 夢は所詮、夢でしかないけれど。それでも、望む夢を見られる幸せくらいは、あっても良いと思うのよ。 「……邪魔だけはするなよ」 「しないわよ」 嘆きで声がかれるほどに、強く願い焦がれた夢よ。ルーの夢は、私の夢でもあったわ。 「少しくらい、幸せを共有したっていいでしょ? あんただって、そうしてるんだから」 最後の扉に手をかける。 この先にあるものは、暗い暗い押入の奧。 ねえ、ルー。私はあなたの笑顔が見たいわ。 何ものによっても傷つけることの敵わない無慈悲な牢獄の中で、膝を抱えて、終わらない闇に絶望しているあなたではなくて。 様々な色溢れる世界で、未来ある時に、希望を抱いて笑っているあなたに会いたいわ。 ねぇ、ルー。たとえその思い出が、辛く悲しいものに変化することになっても。 私は今、あなたの笑顔が見たいのよ。 二度と、もう二度と見ることが叶わないと思っていた、あなたの笑顔を――。
……続くといいなぁ。
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