箱の日記
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あさがすずしいから泣いたよ 坂道の途中のザクロ 生活という真っ赤なしずくを ときどき ほんの時々だけ ぼとりと落とすのだね あれは
うつくしいね なまえを探すよ いずれ こわれていくもののため そこいらで生まれては消える 夢のようなもののため
僕がそうであるように 君がそうであるように 祈るほどではないにしても 願っているよ
ねえ 車が通っていったあとでは あとかたもないから 早起きしたら 急ぎ足で 坂道を降りていくよ
きのうまでの雨もあがって、かがやく日差しのなか 蝉はふたたび鳴き出した もうひとがんばり いま、彼らがはい出た、穴だらけの土に 僕は立っている 穴はどれも空っぽ
どこからかやってくる 甘いにおいは まばらに 生えている桃の木なんだろう いつもではなくて 時々、 ちょうど鼻先にたどりついたときだけ 感じるんだ これが春だったら 鼻が詰まってなにもわからない
でも今は夏 それも終わりかけの。 高架の向こう 子供たちが遊んでいて ほんとうは活気がない どっか行ってしまったんだねえ 探そうとするのだけど もう知ってる 見つからないってこと それよりむしろ 見つけなくていいんじゃないかな?
ハイウェイを流れる車たちはなぜか 周期的な群れをつくって それがタイヤの音だとはわからないように 蝉たちをせかす 焦らないで良いよ そう言って僕は坂を下り始めた なるべくゆっくりと 桃、食べたいなあ さあ家に 帰ろう
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