箱の日記
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2005年01月23日(日)








雨上がり 街 のはしくれ
僕は虹になる
24階建てのマンションをまたぐ
ついでにとなりの病院をまたぐ
さっき生まれたばかりの赤ん坊をまたぐ
走る自転車のきみをまたぐ
みな
虹色を浴びてちょっと呆然としている

もう片方の足をおろすところ
きのう、大勢が集まった広場
耳がつまったみたいに何も聞こえない
笑い声がきこえない
きょうはきのうじゃないからね

スナック菓子が落ちている いくつか袋からはみ出して
ひとびとのこころみたいだ
踏まれて潰れているやつは
あした
また何度も踏まれるよ
痛いとか
言えば救われるのかな

ポケットのなか、紙に包んだ花のたねを握って
ゆるんだ、架け橋のなれのはてを
追いかける

追いかけろ

雨が再び弱く始まりそうで、僕は薄くなった




2005年01月19日(水) かつ



かつ



髪を切った
切られた途端、落ちたそれは僕でなくなった
汚れた地面にまとまる
かつての僕よ(違う奴も居さる)
僕だったのに
ゴミ箱に入れられて
もう通じない
どうせならもういっかい坊主頭でもよかった
男前だよ
って
言ってやったのにさ
残された髪が軟弱な様子で
ふんわりしているから
喝!


2005年01月15日(土) 遠く、あたたかい



遠く、あたたかい



僕に向けられたのだか、そうでないのだかよくわからない気持ちで
映画を見ていた
見たことのあるような木々や鳥が現れては
消えていった
もはや
誰のためのものでもなかった
そこにあなたがいて
息を白くして
凍り付きそうな掌をあたためようとしている
あなたを愛するすこしばかりのものたちが
あたためようとする
あなたは愛するすこしばかりを
あたためようとしている
映画は途中で終わっていた
それは僕のためでもなく
映画をつくったひとのためでもなく
カタカタととぎれたフィルムの端が回り
いつまでも座って見ていた


2005年01月09日(日) 炎天下仰向け



炎天下仰向け



アフリカに正しい風が吹いたら
たった4秒で砂漠を渡り
巻き上げられた砂は
数百万の子供とすこしばかりの大人を泣かせる
シマウマもライオンもアフリカ象も
潤んだ目を閉じる
黒い傘なんかさして走っていたら
あっという間、
風にさらわれ砂漠の端まで飛ばされて
もう少しで海に落ちそう

握る手をやっとゆるめて私は
炎天下仰向け
砂漠には
太陽に焼かれた獣の死骸など
もうない


 


2005年01月06日(木) おやすみ


おやすみ



日記て楽だね
ただ書いてさえいればそれなのだから
ずっと砂嵐を見ている
こんなのは砂嵐というほどのものじゃない
ぐちゃぐちゃ
ランダム
自然が作り出したものなんだねある意味
風の強さだとか太陽のフレアだとかいいつくせないくらいの
数々
車が騒音を立てて走り去っていくのだって自然だよ
ここらに生息する生き物の営み
穴あき洗濯機の横たわる風がこないすまいは
捨て犬が子供を産むところだ
粗大ゴミの回収が有料になったおかげで
彼らは当分いられるだろうさ
その犬たちが純粋だと本当に思うの?

この砂嵐の中にはやっぱり
何か映っているみたいなんだ
連写されていくノイズ
白と黒がたたきつけられて僕の目が痛いという
心理学のテストみたいにどう
浮かんでくる?
あきれて妻は眠ってしまったよ
いつものことなのにさ
体脂肪を減らすっていう薬を飲んだら
僕も眠るよ
いったい
何と余分なものばかりなんだろう




2005年01月05日(水) 初稽古の朝




初稽古の朝



氷水のように冷たい水から
雑巾を絞り取り
道場の床を拭く
両腕にかかる力の
無駄がないようにと肩口をただ前に向け
東へ
つぎは西へと
誰がきくでもない足音を
はね返らせている
薬指の霜焼け
旧年にやった捻挫
この白い息
静かだ
誰彼の倒れた痕ですら静かだ
わたしはただ
無駄がないようにしている
幾度も繰り返している




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