箱の日記
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2004年10月31日(日) 林檎





落ちたばかりの林檎がひとつ。
落下するところを見ていたわけではないが、
それを囓るのはわたしだ。園主はどこかへ行ってしまったのだから。
つややかな赤を肩で磨き
どうして落ちてしまったんだろう、いまごろに
と、
林檎を点検する。
まだ虫にさえ見つかっていないその果実は、本来
地を這うものの取り分だ。
わたしは磨いた部分を囓り、
そのすっぱい匂いが、この園にいきわたる
ほのかな湿気であることに気付く。
歯型を見ていたら、
地を這うように生きたいと思った。
そうして、誰にも文句を言わせないのだ。






2004年10月16日(土) 卒業




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そのマウンドのあたりで仰向けに寝ころんだ。そして、どこか遠くで起こっている
できるだけ悲惨なことを考えた。戦争だけじゃない。言葉も知らない国の失業、
交通事故、堕胎、ドラッグ、情け容赦ない電話のベル。
背中が冷たかった。グラウンドから湧いた冷たい血のせいだと思った。
おわりははじまり、おわりははじまり。呪文みたいに僕は唱えた。

どれだけ時間が経ったかわからないけれど、目覚めたら朝だった。
僕はふらついた足取りで、なんとか別荘まで戻っていった。路の脇に側溝なんてなかったんだ。
連中はひどいいびきが響きわたる淀んだ空気の中、誰も起きてはいなかった。
大学を受験しなかったTは、別のTの尻に向かって口を空けていた。
いびきがなかったら、皆死んでいるんじゃないかと思うような光景。淡い光のなか、だれも動きやしない。
きゅうに彼らが孤独にみえた。全部で7人、僕をいれて。
僕は僕だけ起きていることが馬鹿馬鹿しくなって、部屋の入り口のところに座布団を敷いて
眠ることにした。誰かがドアを開けたら真っ先に僕がこぼれ落ちてしまうのに。
でも、きっと誰も来ないさ。




 


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