箱の日記
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2004年06月27日(日) 貯水池

 



貯水池



釣りに来るたび、石を投げ込んだ。
ときには、両手でせいいっぱい、というくらいのも。
ずぼん、といったあとで
ぬるり、と底がうなる。
今まさに呑み込んだところだ。
池の鯉たちが、魚雷みたいにまっすぐ遠ざかっていく。
しんとして、また釣り始めるか、
もう終わりにするかを決める。
むかしここで、大人たちがどうぶつの骨を引き上げた話を
知っていたから、釣り上げた魚を持ってかえるのは、
いけないと思った。






 


2004年06月25日(金) たんじょうび ではないが






たんじょうび



ベランダで
何をするかといえば
たばこを吸うかわりに
じょうろを握って
さあさあと
かけてやる
ひとつひとつに
たましいが宿ることを
夢見たりもする
若くなくなる男が
そんなふうに
向かいの学生寮から
見つけられる








2004年06月20日(日) 次の日曜日



次の日曜日




茹でいもを持って、釣りに出かけた。
地図にはのってないが、
四、五キロ南へ歩けばたどりつく
ふるい貯水池。
黒っぽい鯉たちが、腹をへらし、
いくつかの深みに集まっていて
それがどこか、僕はよく知っている。
同じように、
ゆでいもが放り込まれたつぎに何が起こるか、
どの鯉もよく知っている。
どうだっていいさ。
無地の鯉を数匹釣り上げて、
ぜんぶ放すのだから。

ときどきやってくるシギが、浅瀬で
つるりと、ドジョウだかなんだかをすくい、
呑み込む。
目を細め、うっとりと
空を見上げている。
とりえのない僕の釣りをよそに
雲は流れていく。順調に。
鯉はどうだろう、
僕が持ってくる茹でいものほかに、
なんかほしいものがあるだろうか。

夕方、
釣り竿を片づけて、残ったえさをきれいさっぱり
投げ込む。池のまんなかを狙って。
さあ、これでぜんぶ。
次の日曜日まで。
ちょっと足りない気がするのだけれど、
それが何か、
僕にはまだわからないんだ。


2004年06月18日(金) はずかしながら


ささいな場所で蠢くことは、そんなに悪くない。くるりとまわった葉の裏から覗くひとすじを
もうすこし見つめながら。


2004年06月10日(木) コザ鳥




コザ鳥


このあたりの鳶は
羽がささくれ
それが
潮風に古ぼけて傷んでいるようにみえるから
河をまたぐ赤橋
その高い欄干や信号機にとまっているばかりの彼らに
コザ鳥と名付けた
鋭い飛行はとうのむかし影を潜め
誰もが忘れた
ゆるい海面から飛び出す
動きの鈍いボラ
ふらふらと倒れるように落ちるそれを
さかなと知らない
ゆらゆら
漁船が連れかえった
おこぼれのすじをつたい、拾い上げる
なんとか一日の取り分を胃に収めたく
カモメの類と競い合い
ようやく落ち着いて
川沿いの風が山側から降りてくれば
隙間だらけの羽をばさり
居眠りでもしそうな具合で
ゆるりんと飛行をはじめる
ばさり、ばっさり
下を急いで通過するトラックの行く先を
見ている
決して追わない

ボラといえば
ひとの生活でつもる
澱みの中に群れをなし
身をこすり合い
やがて忘れていたのを思い出したように
跳ね上がる
繰り返し、繰り返し河口を跳ね
渡る
その上空
コザ鳥が夕刻の陽を浴びながら
手入れでやっときれいになった羽根をひらき
ばっさり、ばさりと
風を切っている
いつまでも








2004年06月05日(土) 休業日




休業日




きょうは休業日
しんと静まりかえった工場からは誰もが
解放される
ミネソタとの試合を
ソファでだらりと横になって見ているうちに
酔っぱらって寝てしまう男がいるかもしれない

動力源のモーターは電気が来ていないから
プレス機に身を乗り出しても
大丈夫
なに
ちょっと想像するだけのことで、
じっさいやったりはしない

普段ここでは
どんな音がくり返されているだろうかと
巡回検分する
といってもこれは正式なやつじゃない
みえない作業員の
洗練された身のこなし
透明な、幾度も運ばれてくる製品/未完成の
そこへ取り付けるねじ
きまった加減で、間違いのないように
けっしてまちがえたりしないように

ニューボールを外野まで弾く
乾いたバットの音が聞こえたのなら
まぎれもなく、
休業日


 




2004年06月03日(木) アブラムシの色

チャイブに黒いアブラムシが今年も大発生。きょう、1000匹ほど抹殺。アブラムシというのはなぜか平気でたくさん殺せてしまうのだ。おかげで手が真っ黒。
チャイブは、たぶん駄目だと思う。明日、またアブラムシに覆われていたら根こそぎ切ってしまおう。


2004年06月02日(水) 今年の梅雨は長くなりそうだ


ただいま鼻炎と奮闘中。






わたしが床屋だったなら



頭より大きいはさみで
首をちょきんとやる
と転げ落ちてそれはまだしゃべる
よけいなことばかり
くるくるまわりながら
しゃべるしゃべるしゃべる
玄関を出て
道ばたでしゃべる
自転車に轢かれ
どぶ川に落っこちて
あぶくぶくぶく
川底を転がり
海へ出るいつか
無人島へたどりついて
骨になる砂浜の上
目も口もすっかりあけて
青い空を見る



 


2004年06月01日(火) 巡回の森





巡回の森



ヘルメットをかぶる
ものが落ちてこないように
じゃなくて
落ちてきても死なないように
だいたい
人間ってのはそんなに丈夫じゃない
簡単なことで潰れてしまうんだ
ぐにゃり

安全靴には鉄板が入っていて
ちょっとやそっとのことで
つま先は折れない
でも
森で木こりが斧を振りおろしたら
いったいどうなるんだろう

ぼくらの地図には
ここ危険、そこ危険と
たくさんの印が打ってある
だから
そこここの赤いばってんをよけながら
みぎへひだりへと歩きまわる
のらりくらり
遠くから見ると
まるで意気地なしの酔っぱらい

工場のなかはもうたくさん!
途中からはぐったり疲れ切って
汗ばんだゴーグルのなか
ぼくは森のことを考えた
大木にぽっかりあいた穴にむかって
クマが鉄の棒を動かしている
真っ赤な炉
ふり向いて「ここは危ないよ」
と教えてくれる
ありがとう
まわれ右をして
ぼくは家に戻る
細い山道はだんだん暗くなって
心細くなるというもの
それでもとにかく歩かないとね

終業のベルが鳴り響くと
さわやかな音楽が流れる
香りはないけど、小鳥だとかの声もして
ぼくはすっかり
ほんとうに森へ行って来たのだと
ゴーグルを外して家へむかう
ただし
ヘルメットはかぶったまま
だから
なにが落ちてきたって大丈夫
なのさ

 




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