えがにき
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2002年07月29日(月) 『ピアニスト』 La Pianiste

以前、新聞でこの『ピアニスト』のレビューを読んだのですが、嫌な感じがしてみないでおこうと思っていた。しかし何の因果か観るはめになる。期待度ゼロでシートに沈み込む。ゼロと言うよりマイナスか。どうしてみたくないと思ったのかと言う理由すら忘却するくらい嫌な感じをうけていた。

映画館は人が入っていた。若い女性が多いようだった。ひとりで来ている人、女性同志、男女カップル。わたしはひとりで来て正解だったと思う。これを一緒に観てこれの感想を分かち合う人など今身近にいない。下手に言葉になどできないし、そういうことをわかる人はなかなかいないのだ。

過干渉な母親と一緒に暮らすピアノ教師。ある日才能ある若者が彼女に恋をする。…この若者がハンサムでなんだかもう白馬に乗った王子様か、少女マンガかこれ?という感じでして、わたしはしらじらしく白い目で観ていたのですが、もちろんこれはそんなやわな映画ではない。

鍵盤の上の彼女の手が年老いていることにドキリとする。彼女の母親の部屋のテレビの音の絶えずづづく乱雑さに憂鬱になる。母親と娘の離れられないどう仕様もなさにいらだつ。彼女の口紅に気持ちが動く。

まさか、こんな、そんな、の驚愕のシーンがつづく。あきれて口があき、ついて行けず固まり、なぜだか笑いたくなり、とても不愉快な気持ちを感じる。これはフランス不条理映画か、カンヌ映画祭とはどんなものか(この映画はカンヌ映画祭グランプリ受賞)『ダンサーインザダーク』といいどうなっているのだカンヌ、といった考えが頭の中をぐるーりぐるり。映画館の中の空気が確実に固まっているのを感じる。

圧倒的な映像の力。人間の姿。滑稽なひとのすがた、愚かしく、悲しく、力強く。そしてやはり哀しく。痛く。

笑い出す一歩手前の状態でずーっと観ていた。もちろん可笑しいからではない。ずっと圧倒されていた。身ぐるみ剥がされて全自動人間洗濯機で無理矢理じゃぶじゃぶ丸洗いされたような気分だ。しばらくのあいだ口がきけない。センセーショナルなことに驚いているのではない。静かに低く流れている音がある。それに耳を傾けることのできるかどうかが大切なところだと思う。






さかなみち |MAIL

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